始まり
今俺の目の前には現想世界がある。
15年前までVRMMOは夢物語だった。
神経への安全な干渉は以前に従来の電子コンピューターでは要求される計算能力には全く届かず更にプログラム作成も数世代に渡って作成しなければならないからだ。
しかし量子コンピューターが発明された。
VRは量子コンピューターの電子コンピューターを遥かに超える性能により実現したが、VRMMOのプログラム作成の問題は消えず、実現しなかった。
後に有機コンピューターが発明された。
完全に決められた事以外は処理できない量子式や電子式と違いある程度曖昧でも作動するという特性故にプログラム作成を可能な範囲に短縮した。
更に後に量子式と有機式のハイブリッドが開発されてVRMMOはようやく困難ではあるが実現可能な物になった
VR自体は元々軍事と医療を主目的として開発され、後に民間からの強い求めにより娯楽に用いられるようになったという歴史を持つ。
初めは視覚と手袋越しのような触覚だけのオフラインゲームだったが、少しずつ規制も緩和されてとうとう五感が解禁され、今までとは一線を画する、【六感】が実装されたオンラインゲーム、【現想世界】が日本のゲーム会社オプタティオから発売された。
現想世界の開発元曰わく、六感の内五つは普通の五感で、五感と違い感覚器に依らずに、または複数にまたがって働く感覚を第六感と表現したとの事。
簡単に言えば弓を射る時脳による普段の経験、視覚による距離感、触覚による弓の強さと風、聴覚による自分の傾き具合(一応平衡感覚は耳で感じるので)それらを総合して当たると感じたり、後で正解だったと分かったがその時は何も無いのに何故か怖いから避けて通る等を再現する。
当然疑惑の声が上がったが、開発元曰わく
「あくまで干渉するのは運動神経と感覚神経と脳の予測演算を行う部分のみであり、一時的にであっても思考や感情等の自我そのものを司る部分に何らかの干渉を行うものではない。」との事。
安全テストもクリアしてはいるが、一部とは言え神経だけでなく脳にまで干渉するので発売が許可された国は日本内のみ。(議論中の国もある)
現想世界がプレイ可能なのは日本内のみなのでネットでは
マジで未来に生きてやがる
移民するぜ!!今ほど日系である事に感謝した事はないね
規制されなかったのってやっぱりゲーム人口が飛び抜けて高いからだろ
等と海外からの反応がある。
確かに30年近く過去の2000年代からすでにサブカルチャーが群を抜いて発達していたらしいし。
その現想世界が今、俺の目の前にある。
現想世界は正に最先端の科学技術の結晶だがハードは約十五万円、アカウント一つ一万円丁度と高級品だがバイトで充分稼げる範囲。
その代わり運営が個人のプレイデータを動画に編集して発売しても良いという事になっている。
もちろんどこそこをカットして欲しいとか個人を特定できないようにして欲しいとかある程度要求できるし、売り上げの一部はプレイヤーがゲームアイテムかリアルマネーか選んで貰える。(生活できるような金額は可能だがトップクラスを維持し続けなければならないので現実的ではなさそう。)
アカウント一つで一つのキャラを作成でき、一つのセッションに参加できる。
セッション毎に毎日五時から六時や土曜日九時から十二時と日曜日八時から十二時等決まった時間にあり、一つのセッションは一週間に七時間になっているという話しだ。
現想世界の一日は現実世界の一時間に当たるとも聞く。
VR内の時間が現実と少しゆっくりだったり早かったりというは聞いたことがあるが一時間と一日では24倍だ。
どんな技術なら可能なのだろう。
セッション毎に現想世界は別に動いていて、廃人だろうが社会人だろうがプレイ時間に大差は無い。
そしてプレイ時間もプレイヤーの初期能力も平等なのだから一つのセッションで一人しか習得できないアビリティやスキルがあってもまったく不平等ではないという説明と共にユニークアビリティ(固有能力)やエッセンススキル(秘伝技術)の存在を公開したとも聞いた。
いや、とにかく現想世界がどんなゲームか?
肝心のストーリーは、現想世界では人類は魔物との生存競争に敗れ、巨大な城塞を築いて大陸の隅に引き籠もっている。
プレイヤー達はそれを打開するために人類が生み出した新種族【クリスタリア】として時には魔物に戦いを挑み、時には素材の限界に挑み、はたまた世界地図やら絶景やらモフモフやらを夢見て危険な地を駆け巡る。
レートとしては、現想世界はリアリティを求めた結果、18禁かつ20歳以上推奨の硬派ファンタジーだ。
18禁と言うけどそういう事は出来ない。
まずその感覚自体有料だし、同意なしに本番は不可能、触ることはシステム的には可能だがゲーム内の社会で犯罪者になりキャラメイクし直してもアカウントを捨てない限り追われ続ける。
ではなぜ18禁なのかと言えばVRMMOとしては強い痛み、作者が殺人を経験しているとしか考えられないような手応え、飛び出る生物の中身、魔法で火達磨にある敵や時には自分自身、そういった部分が理由だ。
運営は「報酬も出すんだし痛覚も現実よりは鈍くしてんだからこのくらいしたっていいだろ。ぶっちゃけ儲け出すのは動画の方だし」と発言したそうだ。
もちろん規制されたのは未成年者の脳への影響を心配されてでもある。
現想世界の設定では、クリスタリアは【マザークリスタル】から生まれる【カケラ】が本体で周りに人類を模した肉体を纏っている。
その纏う肉体を決めるのがキャラメイクであり、カケラさえ無事ならマザークリスタルの元で再び肉体を纏うのがリスポーンだ。
カケラが破壊された場合デスペナルティを受けてマザークリスタルからリスポーン、カケラが回収されてマザークリスタルまで運ばれればデスペナルティ無しでリスポーンする。
マザークリスタルの中にある情報を元にして肉体を構成しているので、同じように引き籠もっている人類を見つけ、マザークリスタルに登録すればその種族が解放されるシステムだ。
カケラの能力値とスキル、肉体の能力値とアビリティでキャラの能力が決まる。
カケラの能力値には
知識容量 スキル容量が高いとより多くのスキルを習得できる。上級スキルは必要容量が増す。
肉体容量 複数種族のハイブリッド等に出来る。ただハーフにするより、基本は獣人で毛皮の代わりに竜人の鱗を持つなど細かく有効な設定するほど容量を必要とする。アビリティの習得にも必要。
があり、レベルが上がると一定量のポイントを行動に応じて割り振り、ボーナスポイントを好きなように割り振って成長させられる。
スキルは様々な行動に補正が掛かり、アーツを発動できるようになる。
例えば槍で敵を突いた時、槍スキルが無いと槍の重さ、鋭度、硬度、速度からダメージが計算される。
スキルが有ると槍の重さ、切れ味、強度、速度、槍スキルのダメージ補正により計算される。
要するにスキルが無いと障害物や設置物の槍のような物として扱われるがスキルが有ると槍カテゴリーの武装として扱われるということらしい。
アーツは体感的に発動できるとの事だがよく分からない。
すでにプレイした人の感想によると実際にやれば分かるらしいが。
肉体の能力値はそのままキャラメイクで作った肉体と直結し、アビリティは肉体の特定部位や特定の行動した場合に補正が掛かったり、新たな行動が出来るようになる。
鱗が無いのに鱗のアビリティを取れば鱗を生やす為にポイント消費が増える。
当然、尻尾やブレスのようなアビリティがあっても練習しなければテンプレートな動作しかでき無い。
デスペナルティでは知識容量と肉体容量が減少して時には容量内に収めるためにスキルやアビリティを捨てる羽目になる。
リスポーンではなく新しく別の肉体を作り直す場合はアイテムが必要になり、肉体の強化が始めからになる。
キャラを変える事は無制限だが、当然育て上げた全てを失う。
む、復習をしていたらそろそろ八時か。
俺は毎日八時から九時のE20セッションに登録している。
キャラメイクがどんな具合か分からないし待機する事になっても早めにログインしよう。