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永遠に、刹那に  作者: 塔子
本編
6/19

【6】

ミラという人間に、どれほどの価値があるのだろう。


親も故郷も失った、下働き10年目の普通の人間で、少しばかりレグルスに魔術を教えて貰っている、それだけの存在だ。


そして、今は中身は16歳でも、外見はどう見ても70過ぎの老婆だ。



「デネボラ様、私は孤児です」

「そんなの分かってるわ。でも、ミラを見てるとそれだけで癒されるのよ」

「…そうなんですか?」

「そうよ!私が拾ったミラをレグルスが10年も独り占めしてズルイわ!」

「…独り占め、ですか?」



デネボラは射るような目で、ミラは解らないという目で、レグルスに視線を向ける。



「独り占めして何が悪い。ミラは俺のだ。反論があるなら、妹でも容赦はしない」



軽い冗談のつもりでも、レグルスの本気の返しにデネボラは「拾ったのは私なのに」と不満を漏らし、ミラはただ驚くだけ。



「それより、湯浴みでもして着替えなさい。二人とも土埃をかぶったままでは、アルファルドに会わせられないわ」



ミラは「え?」と自分の姿を見る。


服をはたいて土を落とそうとするが、頭からかぶっているので、その行為に意味がない。



「行くぞ」



と、レグルスはミラを優しく抱き上げる。



「あの!レグルス様まで汚れます!」

「すでに、俺も汚れている。同じだ」



レグルスは空を歩く。そして、窓から自室に入り、そのままバスルームへと足を運ぶ。



「あれ?お湯が…!」



バスタブには、既にお湯が張られている。



「私の魔術でお湯を用意したわ。着替えは私が持って来るから、レグルスと一緒に入ってなさい」



少し命令口調でデネボラに言われれば、従うしかない。


自分の着替えぐらいは自分で出来ると宣言したいが、今も尚レグルスに抱きかかえられている状態で、降ろして貰えない。


土埃で汚れた服はレグルスによって脱がされ、お湯を掛けられ、花の香りがする石鹸で身体を洗われる。


レグルスの優しい手が気持ち良くて、すりむけた手のひらが湯でピリピリと痛んだが、少しも気にならない。


何より、くすぐったくてミラは身をよじる。


ミラはまだ老婆の姿だ。


見られたくないと、思っても今さらだ。


老いても幼くても、自分は自分だと言い聞かせる。


しかも、幼い時はこんな風にレグルスと毎晩一緒にお風呂に入って――。



「ミラ?」

「ここに来たばかりの頃を思い出しました」



広い屋敷に一人は慣れなくて怖くて、常にレグルスの傍に居た。


離れたくなくて、食事の時もレグルスが仕事を仕事をしている時もお風呂も、寝る時も。



「あの頃も、こんな風にレグルス様と一緒にお風呂に入りました」

「そうだな」

「もう16なのに、レグルス様にはご迷惑ばかり掛けていて、申し訳無くて…」

「そんな事は無い」

「あ、今は老婆ですものね。今度は介護とかお願いする事になってしまいます」

「構わない」

「でも、面倒になったら、いつ捨てて下さっても構いません」

「捨てはしない」

「…私が先に逝くのです。ちゃんと先ほどの穴に捨てて下さいね」



捨てられるのも、逝くのも、仕方の無い事だ。


人には決まった寿命があり、それに見合った生き方しか出来ない。


生まれてすぐに逝く者。寿命を全うする者。


人生とは、生き急いでも早く召される訳でもなく、のんびり気ままに生きてみても長生きできる訳でもない。


でも、あきらかに、魔人と人間では生きる時間が違いすぎる。



「何度でも言おう、お前が信じるまで」

「レグルス様?」

「俺は、ミラを愛している」

「…酷いです」

「ミラ!?」



悲しくなる。


解っている事ととは言え、自分の命の短さが空しくなる。


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