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永遠に、刹那に  作者: 塔子
本編
5/19

【5】

昼下がり。


ミラは庭の掃除を終え、大きなスコップを持って庭の隅にやって来た。


堅い土にスコップの先を差し込み、土を掘り返す。


掘り起こされた土は小さな山を作り、穴は大きく深くなっていく。


スコップを握る手は痺れて感覚を失い始めている。

曲がった腰には痛みが走り続けている。


それでもミラは、穴を掘る事を止めようとはしない。











レグルスは妹の気配を感じ、紙面から顔を上げる事無く言葉を発する。



「デネボラ、来る時はいつも前もって――」



レグルスもミラと同じ事を言う。


訪問する時は連絡を入れるように、と。


デネボラにとって、レグルスの屋敷は実家と言っても過言ではない。


ミラと一緒に居ると、不思議と安らぐ。


こんな我が儘で自分勝手な兄でも、この世界では唯一の肉親だ。


いつもとデネボラの様子が違うと気付いたレグルスは「何か、あったか?」と、兄にしては珍しく妹を気遣っているではないか。



「ミラに、会って来たわ」



レグルスは「そうか」と一言だけ言って、未だに顔を上げようともしない。


その紅い瞳は、文字を追っている。



「スコップを持って、庭の方へ行ったわ」



デネボラの話に、耳だけ反応する。



「穴を掘るって」

「穴?」



庭に穴など掘って、一体何を始めようと言うのだ。


顔を上げたレグルスの目は、そう語る。



「自分が死んだら、亡骸は穴に捨てて欲しいと言われたわ」



デネボラの視線は窓の外の庭の隅を見つめている。


美しく整えられた庭園の奥の人目に付かない隅に、小さな人影が動いている。


レグルスは席を立ち、デネボラの横に並び、窓の外に瞳を向ける。


窓を開け、ふわりと自分の身体を浮かせ、空中を歩くかのように窓の外に出る。


その身は風に任せて舞う花びらのよう。


行き先は小さな影の下。



「何をしている、ミラ」

「きゃっ!?」



まさか、頭上から声が掛かるなんて思ってもみなかったミラは、驚きを隠せない。


身体を震わせ悲鳴を上げる。



「レ、レグル、ス、様!?」

「ここで、何をしているのかと尋ねている」

「…あ、穴を、掘っています」

「用途は?」

「は、墓穴(はかあな)、です」



レグルスは小さく溜め息を吐き、地上に降り立つ。


その様子を見逃さなかったミラは、慌てて考えていた理由を一気に話す事にする。



「レグルス様の庭隅に穴を掘る事をお許し下さい。いずれ、近い内に埋め直す事になります。墓石もお花も何も要りません」

「――誰の墓だ?」

「…わ、私の、です」

「俺が、そんな事を許すと思うか」

「ひっ!!」



ミラは腰の曲がった老婆の姿を、さらに腰を曲げ、身体を小さくし項垂れ「申し訳ありません」と謝る事しか出来ない。


ミラとて、レグルスを怒らせたくて言っている訳ではない。


今までにレグルスを叱られた事はあっても――。


でも、ここまで本気で怒らせてしまったのは初めてだ。


紅い瞳が血よりも紅く見える。



「す、すぐに、う、埋め直します」



手のひらはすっかり赤くなり、皮は剥け、少し血が滲んでいる。


そんな手でミラは、再びスコップを持ち、盛った土を穴に戻そうとする。



「必要無い」



レグルスは、ミラの持つスコップを取り上げる。



「穴が小さ過ぎる」

「え?で、でも、私一人なら、この大きさで――」

「俺も死んだら、ここで土に還ろう」

「っ!?レ、レグルス様っ!?」



レグルスは片方の手のひらに魔力を集め、地面に手を付く。


グラグラと揺れ、魔術が発動する。


地面に小さなひび割れが幾つも走り、ドンっとその部分だけ地盤沈下が起きる。


ミラが掘った穴は、あっという間に二倍の大きさになる。



「これで、二人ぐらい余裕で入れるだろう」



「レグルス!一体、何を!」と、デネボラが突然の魔術の解放に慌てて二人の下にやって来た。


デネボラはさらに大きくなっている穴を見て、眉根を寄せる。



「デネボラ、俺とミラが死んだらこの穴に一緒に埋めてくれ」

「…は?」



デネボラの唖然とした顔をしている。その反応は、極自然なものだ。


ミラは、事の成行きを否定し修正する。



「デネボラ様!レグルス様は私なんかと一緒にしないで下さい!!」

「ミラ!今の台詞!“私なんか”とは、一体どういう意味かしら?」



修正のはずが、有らぬ方へと話は進んでいく。



「例えミラでも、自分の事を“私なんか”と卑下するのは聞き捨てならないわ!」

「デネボラ様…!?」


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