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永遠に、刹那に  作者: 塔子
その後
17/19

【8】

少し遅い朝食を他愛ない話をしながを摂る。


朝食後、二人は王宮へと出仕する準備を始める。


自室でミラはシンプルだが、上質の水色のワンピースに袖を通す。



「ミラ、準備は――」



ノックも無しにドアが開き、レグルスが入ってくる。



「きゃ!レグルス、様っ!!」



ノックが無かった事に、ミラは何も思わない。


ただ、今は着替え中なのだ。


背中のボタンを留めるのに、必死になっている時に、タイミングというものが…。



「後ろを向け」



ミラはレグルスに背を向け、情けないやら恥ずかしいやらで、顔が赤くなるのを感じる。


レグルスは、ワンピースの背中側のボタンを留め始めようとした時。



「あっ!?」



ミラの右足にあるアンクレットが光り、足元に魔法陣が現れる。


外すのを、忘れてました。



デネボラ様、さすがです!今日も、時間通りです!



行き着く先は王宮。デネボラの自室。



「ミラ!待っていた…わ…――。何をしているの、レグルス!」



デネボラから見れば、レグルスがミラを後ろから襲っているようにしか見えない。



「デ、デネボラ様!レグルス様は背中のボタンを!」

「ふ~ん、その割には、何だか手付きがイヤらしいわね」



デネボラはミラをレグルスから引き剥がし、ミラを腕の中に納める。



「レグルス、フォーマルハウトが待っているわ。早く行かないと仕事だけで、ミラとの時間が無くなるわよ」



ミラのワンピースのボタンを留めながらデネボラは少し意地悪く微笑む。



「何と言っても、10年振りの出仕ですものね」













あの後、フォーマルハウトがデネボラの私室に現れ、レグルスを引き摺るように連れ去った。


ミラは、昨日同様、デネボラと公務をするのだと思っていたが、結局、ワンピースから薄黄色のドレスに多くの侍女達によって着替えさせられ、庭園をゆっくり見て回っている。


少し離れた場所にテーブルを設け、木陰の下、デネボラはお茶を楽しんでいる。


そんなミラの足元に影が伸びる。



「ご機嫌よう、ミラ様」

「――アルヘナ様」

「昨日は驚かせてしまって…。お身体は良くて?」

「はい」

「なら、ウェズンが作った焼き菓子は如何かしら」



ミラはアルヘナから視線を外し、デネボラへと青い瞳を向ける。


そこには、一人の青年侍従がティーポットを持ってお茶をカップに注いでいた。



「ありがとうございます、頂きます」












それほど大きくないテーブルに、王妃殿下、国王の姪、魔導師長の婚約者。


出来立ての焼き菓子をデネボラが口にすれば、アルヘナはハーブティーの爽やかな香りを楽しむ。


ミラの視線は金塊を思わせる形の焼き菓子へ、貝殻の形をした焼き菓子へ、そして、この甘い焼き菓子の匂い以上に甘い笑顔で給仕している青年に移る。


そして、果物がたっぷり入ったパウンドケーキを切り分けるのを「手伝います」と言って、ミラはナイフを手にする。



「とても美味しそう」

「そうよ、ミラ様。わたくしのウェズンに出来ない事は無くてよ」



アルヘナが白薔薇の如く、清楚な微笑みを浮かべれば、ウェズンは褒められたのが嬉しいと言わんばかりに頬をほんのり赤らめる。



「ウェズンは幻獣よ。ミラ」



デネボラは、ウェズンに掛けてある全ての魔力を無効にしてしまう。



「何をなさるのです!デネボラ様!!」

「何って、ミラがウェズンばかり見るのがイヤなの!!」

「だからと言って、魔力無効は酷過ぎですわ!!」

「昨日の謝罪したいと言うから、同席を許可したのに…」

「行き過ぎた嫉妬は醜いですわよ」

「!」

「限度を超えた独占欲というのも、如何なものかしら?」

「!!」



心当たりがあるのか、アルヘナの言葉一つ一つに対して、デネボラの米神がひくっと引き攣る。



「悪かったわ、アルヘナ。ミラは優しいから何も言わないけど、誰かと同レベルどと思われたくないわ」



デネボラの言う誰かとは、言わずもがな、レグルスの事である。



「全く、ヤモリの何処が良いのよ」

「失礼ですわ!ウェズンは優秀です!」



ミラは二人の美女のやり取りなど、気にも止める事無く、パウンドケーキをカットし続けていた。


でも、会話の所々は耳に届いていて、デネボラの「ヤモリ」という言葉で、手の動きを止め、アルヘナの腕の中に居る体長50㎝とあろう大きなヤモリに目を留めた。



「え!?――っ!!」



10㎝から15㎝を想像していたミラにとって、そのヤモリは大き過ぎた。


ミラは驚き、その弾みで、ナイフの刃が指先に当たってしまった。



「っ!!」



小さな切り傷から、血が滲み、痛みが広がる。



「ミラっ!?大丈夫!!」



咄嗟に切った指の手をデネボラに取られるが、ミラにとって、既に経験済みの出来事だ。


ミラは心配させまいと、にこっと微笑む。



「デネボラ様、問題ありません。傷はもう消え始めてます」



ミラの言葉通り、血は滲んでいるものの、傷口は塞がっていると言うより消えてつつある。


そして、怪我など初めから無かったように、デネボラとアルヘナの目の前で綺麗に消えてしまった。


小さな切り傷とは言え、これほど瞬時に傷跡すら残さず消えてしまうなど…。


デネボラもアルヘナも覗き込むように見ていたミラの指先から、視線を上げ、先に言葉を発したのはアルヘナの方だった。



「デネボラ様、これは、その、つまり――そういう事、ですよね…」

「………」



デネボラはアルヘナの「ですよね…」に答えず、ただ身体を震わせ、そして――。



「あの、堪え性無しーー!!!」



ありったけの魔力を爆発させた。



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