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永遠に、刹那に  作者: 塔子
その後
14/19

【5】

目覚めは悪くはなかった。


何か不思議な夢を見ていたような感覚に支配され、思考が上手く働かない。


ミラは見慣れた自室の天井を見詰め、夢の内容を思い出そうと試みる。


――初めての王宮。デネボラ様の下、大臣や貴族の名前と顔を覚え、デネボラ様と昼食を共にして、それから…。



「それから、フォーマルハウト様が入らして、そのご息女アルヘナ様が…――っ!!」



ミラは勢い良く飛び起きた。


あれは、夢ではない。


あのヤモリのような幻獣はアルヘナ様が喚び出したモノ。


この国の王族は、魔導師としての血を引くと言う。


召喚の術を巧みに操り、その魔力の強さで王位継承の順位が決まる。



「――という事は、フォーマルハウト様もアルヘナ様も王族の方…!!」

「その通りだ、ミラ」

「!!」



声の主を確認するまでもない。


ミラは声の方を向く事無く「レグルス様…」と俯いたまま、それ以上、何も言えないで居る。



「ミラ、今回の事、俺は――」

「レグルス様、私一人が勝手な事を――お叱りは受けます。だから、デネボラ様達は何も悪くは無いのです」

「………」

「陛下がレグルス様に出仕をして欲しいと願われて、私がデネボラ様にご相談したのです」

「ミラ、王宮へは、もう――」

「いいえ!王宮へは、これからも行きます!レグルス様がこの先も出仕されなくても、私がレグルス様の代わりには――なりませんが、お手伝いが少しでも出来れば!」



ミラは、自分の気持ちを全て言い切った高揚感から、一気に表情は青ざめていく。


レグルス相手に、あまりにも言い過ぎた。



「レグルス様…、私――…」

「――解った。しかし、次からは俺と一緒に王宮内は移動する事」

「え?――あ、はい」



ミラが「はい」と返事をしたのを合図に、部屋のドアがぶち抜けそうなほどの勢いで開く。


その勢いに任せて、廊下からどどっと雪崩れ込むかのように数人の人物が入って来た。



「これで、ようやく、レグルスが出仕すれば、仕事を回せて楽になるというものだ!」


「王妃業だけでも鬱陶しいのに!面倒な書類の運び屋なんてしなくて済むわ!」


「代理の仕事も魔術師としても引退出来ます!早速、老後の計画をしなくては!」


「だから、全てわたくしの作戦が功を奏したのよ!伯父様、ご褒美下さいますよね!」



各々が、自分の心の欲求を口にする。


レグルスは眉間に皺を寄せ、不機嫌な顔をする。


ミラは呆気に取られる。この展開に付いて行けない。


でも、解るのは、一連の出来事はこの目の前に居る4人のものだという事。



「伯父様!わたくしの望みは次期王位です!わたくしだって、あれほどの幻獣を召喚出来るのです!いい加減、お父様と一緒に引退なさって下さい!」



アルヘナは、嬉々としてアルファルドに詰め寄り、退位をするように求めている。


そして、フォーマルハウトもアルヘナと同じ気持ちのようで。



「それは、いいですね。兄上、一緒に隠居生活しませんか?」

「馬鹿な事を言うな。私はまだ引退などする気は無いよ」

「残念ですね。私の老後の介護をお願いしようかと思っていたのですが」

「よく言う。死神を召喚するお前にとって死など無縁なくせに」

「確かに。兄上を置いて死者の国へ行くなど考えただけで恐ろしい」

「フォーマルハウト、お前な…」



ミラはこの二人の会話を聞いて、一つ疑問を持つ。



「陛下とフォーマルハウト様はご兄弟ですよね。陛下が弟君なのでしょう?」



和やかな空気が一変して、緊張感が走る。


何か言ってはいけない事を言ってしまったのだろうか?


訳が解らず、ミラの表情は血の気を失う。



「もしかして、ミラは魔人について知らないと言うの?」



アルヘナの質問にミラは“何を?”と思う。


レグルスとは10年共に過ごして来た。


10年分の事は全て知っている。でも、それ以前の事は何一つ知り得ない。


アルヘナは、そんな事も知らないのという感じでさらりとミラの疑問に答えた。



「魔人の血肉を喰らえば、永遠に近い肉体と生命が得られるのよ」












今、何て?


魔人の、血肉?


喰らう?



「喰らうって…」

「そのままの意味よ。伯父様は魔人の血肉をその身に取り入れ、今もなお若き姿を――」



ミラは、不躾にアルファルドに視線を向けた。



「…ミラ、そんなに見詰められたら――照れるから」



アルファルドは、この場の空気など構う事無く、少し顔を紅くし、嬉しそうに微笑む。



「アルファルドだけ狡いわ!ミラ!見るなら私を見なさい!!」



アルファルドとデネボラ二人に、そんな事を言われたら…。


ミラは慌てて視線を外す。外した先は――。



「深青色の瞳にこの身を映して下さるとは、何んとも…」



フォーマルハウトはアルファルドと同じ反応で、頬を軽く染め、嬉しくて仕方ないと微笑む。



「イヤだわ、良い歳したオジさんが若い()に、ちょっと見詰められただけでニヤニヤして――」



呆れかえるアルヘナは、伯父と父相手に軽蔑に満ちた目で見る。



「アルヘナ、フォーマルハウトと同じにしないでくれ。私は、ニヤニヤなどしてないよ」

「私とて、ニヤニヤなどは。蒼海の女神に、そのような気持ちなど畏れ多いというもの」



和やかな空気が漂う中、一人この遣り取りと冷徹な瞳で見ている人物が声を出した。



「ふざけるのも、ここまでにして貰おう」


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