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永遠に、刹那に  作者: 塔子
その後
12/19

【3】

ミラの消えた先を見詰めてレグルスは、ふっと口の片端を上げて不敵に笑う。


ミラは行儀見習いと言ったが、一体何をさせる気なんだ。


否、デネボラは何もミラにはさせないだろう。


ただ、傍に置きたいが為に、アンクレットに時間指定の魔法を掛けミラに渡していたとは。


行き先は王宮だ。


面倒だがミラとデネボラ。そして、アルファルド。


彼らにミラは誰のものか、今後このようなふざけた事の無いよう、釘を差す必要がある。


レグルスは机上にある書類をまとめ、通信用の魔導具を手にした。












初めての転移魔法での移動に瞳を閉じていたミラはゆっくりと目蓋を上げる。


目の前には、豊満な――。



「ミラ!良かったわ!時間通りね!待ち遠しかったわ!!」

「んっ!!くっ!!」



話したくても言葉が出ない。ミラはデネボラの胸に強く抱き締められ、呼吸もままならない。



「デ、デネ、――ボラ、――さ、さまっ!!」

「あら、やだ!ごめんなさい!ミラ!大丈夫?ゆっくり、息をして」



よくやく、デネボラの柔らかな胸から解放されたミラは、息を大きく吸い込み、ゆっくり吐く。


呼吸を整えたミラは「デネボラ様、酷いです…」と小さな声で抗議する。


そのミラの上目遣いが、またデネボラには何んとも言えない。



「か、可愛いわ!!ミラ!!」



ミラは王宮に着いた早々、赤くなったり青くなったり大変な目に遭う。


二度目の抱擁は、控えていたデネボラ付きの侍女達に助けられ、そのまま別室に連れて行かれ着替えをさせられる。



「あ、あの、着替えなければならないのは、分かりますが、私も侍女服で…」

「何をおっしゃいますか!魔導師長様の未来の奥方――ミラ様には、こちらをお召しになって頂くようにと伺っております」



青いドレスは、フリルとレースがたっぷりの清楚な感じで、ミラを愛らしい人形の如く仕上がっていく。



「で、でも!行儀見習いとして王宮に…。それに“様”付けは…」

「いいえ、本日よりミラ様にはデネボラ様の下、王宮内の仕来たりやマナーなど覚えて頂く事はたくさんございますよ」

「は、はい!頑張ります!!」

「では、今日一日、王妃様とご一緒してご公務の方、お願い致します」



――え?…ご、ご公務!?



ミラは、てっきり王宮内を掃除したり給仕したり、デネボラの為に身の回りのお世話をしたりするものだと思っていたのに。



「ミラ、支度は出来て?まぁ、私の見立てたドレスに狂いは無かったわね!よく似合っているわ」

「デ、デネボラ様!私!無理です!!ご公務なんて、何も出来ないですし、何も知らないのですよ!!」

「そうよ。だから、私の傍に居るだけでいいのよ。今日は、私と会う人間の顔と名前を覚えればいいわ」

「………」



まさか、こんな事になるとは思いもしなかったミラは身体の震えが止まらない。


そもそも、レグルスを王宮へ出仕させたいが為の行儀見習いのはずだ。


なのに、仕事はデネボラに傍に居るだけで、これから会う人の顔と名前を覚えるだけなんて。



「さあ、のんびりも出来ないの!まず、あの煩い宰相がやって来て、お小言よ。うんざりだわ!」



気が重いとデネボラは愚痴を零すけど、少しもデネボラの纏う空気はどこも重くない。


逆に、これから戦いに向かう美しい闘神ようで、覇気で漲っている。


むしろ、気が重いのはミラの方だ。デネボラに強引に腕を取られる。



「デ、デネボラ様っ!!」

「何も取って喰おうなんていうヤツは居ないわ。そんなヤツが居れば、私が容赦無く滅してあげる」

「い、いえ!そこまではっ!!」

「私の傍に居て、この王宮で誰が自分にとって、見方か敵か、見極めなさい」

「っ!!」



ミラはぐっとお腹に力を入れて、背筋を伸ばす。


着替えの時に侍女達は自分の事を何と呼んでいたか。


“魔導師長様の未来の奥方”


ミラは、王宮内を掃除し片付け、レグルスやデネボラの世話をしてさえすれば良いのだと思っていた。


でも、違う。


本当の意味で、レグルスの妻になるには、王宮内のしがらみや権力争いに勝たねばならない。



「デネボラ様。今日一日、宜しくお願いします」



デネボラは「こちらこそ、宜しくね」と柔らかな微笑みをミラに見せ、侍女達を連れ謁見室へと向かった。











その日、王妃デネボラの公務は、国王陛下の代理としてこの国の大臣から持ち込まれる陳情を聞き采配を振るう。


この国にとって、必要なもの、不必要なもの。


デネボラは的確に迷い無く振り分けていく。


そして、謁見を許された者は必ず最後にミラに視線を送り「こちらに愛らしい方は、どちらのご令嬢ですか?」と尋ねてくる。


デネボラの返答は相手によって違う。


「答える時間も惜しい、下がりなさい」


「私のお気に入りの人形よ」


「ミラは、兄上の婚約者よ」


デネボラは、にべも無い態度を取る相手、興味を示さない相手。


そうかと思えば、友好的に受け入れる相手、敬う相手。


時には、嘘と真実を織り交ぜ、相手をかわしていく。


ミラは相手の顔と名前を覚える、デネボラの言動一つ一つを組み合わせながら。



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