落としたものは
主文
被告人ヨハン・ハンス・フォン・オーレンドルフを死刑に処する。
判決要旨
1.侵略戦争の謀議への参加 有罪
2.侵略戦争の計画及び実行 有罪
3.戦争犯罪 有罪
4.非人道的犯罪 有罪
被告人ヨハン・ハンス・フォン・オーレンドルフはアドルフ・ゴルトシュロース率いる国家社会主義ベルク労働者党の一員として、侵略戦争の謀議に参加し、侵略戦争の計画及び実行において主たる役割を担った。
さらに占領地の一般人民を組織的に殺害する計画及び実行に加担し、人類史上に類を見ない残虐なる大虐殺を引き起こした。
これら平和に対する罪は重く、かくも残忍な犯罪行為に対し、我々は死刑に処するほかはないと判断した。
薄暗い牢獄の中、私はじっと目を閉じている。先ほど、ライが処刑場へ連れて行かれた。次はクリューガー、そして私だ。隣にいるクリューガーはどうしているだろうか。
祖国のため、戦ったことに悔いはない。裁判では戦勝国から猛烈な非難を受けたが、奴らとて同類ではないか。私欲のために我が祖国を踏みにじり、戦争へと追い込んだ。そして、我が祖国が負ければ我が物顔で我らを裁く。奴らのどこに正義があるというのか。
正義などありはしない。あの戦いは、生存を賭けた戦いだったのだ。非人道的な行い? 笑わせてくれる。そもそも戦争とは非人道的な行いの最たるものではないか。
人道を主張するならば、我が祖国をあそこまで追い詰めなければ良かった。そうすればゴルトシュロース総統が政権を握り、戦いを挑むことはなかったのだ。
そういえば裁判では、あの不快な検察官が大虐殺について、我々を雄弁に批判していた。確かに我らは大虐殺を指導した。それが正しいことだと信じていたからだ。
だが、ならばなぜボリシェヴィキ共は裁かれないのだ? 戦争末期、我が祖国の無辜なる人民を虐げ、犯し、殺したあの蛮族はなぜ裁かれない?
沸々と怒りがわき上がってくる。そうだ。所詮、あの裁判は戦勝国が敗戦国を一方的に裁いたもの。奴らは我々のことを、国際法を無視した恥知らず、と罵ったが、奴らこそ国際法を無視して、平和に対する罪だのを法廷で作り上げたではないか。
なんたることか。我が祖国はいずれ甦るだろう。総統が国民を立ち上がらせたように、今度は国民が自らの力で立ち上がるに違いない。この戦いにおける不名誉は、我々が全てあの世へ持って行く。
だが、戦勝国の傲慢は誰が裁くのか。罪を作り上げ、恣意的に裁いたあの不遜な者共を一体誰が裁くのか。
衛兵がやってくる。隣の牢獄の扉が開いた。クリューガーの番がやって来たのだ。次は私だ。
不快なことを考えても仕方ない。死の間際まで憤怒に身を任せていては安らかに眠ることもできないだろう。
とはいえ、このような結果になったことに不満はない。私が多くの人間を死に追いやったのは事実だ。敵国民だけでなく、祖国の人民をも戦場へ駆り立て、殺した。私のような罪深い人間に死が与えられるのは当然のことだろう。
一つだけ心残りがあるとすれば、家族のことだ。
リズは泣いているだろう。彼女は涙もろかったから。ユリウスは将来に悲観していないだろうか。戦争犯罪人の息子ともなれば生き難いに違いない。リズとユリウスには苦労をかけてしまうことになった。願わくは、彼らの行く末に幸いのあらんことを。
衛兵がやってくる。遂に私の番だ。牢獄の扉が開く。
「ヨハン・ハンス・フォン・オーレンドルフ。あなたの番だ」
衛兵に促され、椅子から立ち上がる。薄暗い牢獄から出て、処刑場へと向かう。処刑場はとても簡素な作りだった。絞首台の階段を上ると、執行官が私の首に縄をかけた。
「何か言いたいことはあるか?」
執行官が私に問いかける。最期の言葉――
「祖国万歳。それだけだ」
執行官がうなずく。私は目を閉じ、その瞬間を待った。
「大佐、死刑囚十名、全員の処刑を完了しました」
「ご苦労だった軍曹。……何だね、それは」
「はっ。フォン・オーレンドルフが残した手記であります」
直立不動の姿勢で敬礼していた軍人が、目の前に座る上官に小さな手帳を差し出した。
「ふむ。これは…… 不愉快だな。いや、さすがはナチと言うべきか?」
「はぁ」
「読んでみたまえ、軍曹」
大佐が手帳を軍曹の手元に戻す。言われた通りにその手記を読み始めた軍曹だったが、ものの数分で顔をしかめ、手記を閉じてしまった。
「酷いものですね。自分たちが殺した無実の人々に対する謝罪がどこにもない。全て自分の正当性を主張する身勝手な言い分ばかりです」
“義憤”に駆られる軍曹に、大佐は満足げに笑みを浮かべながら何度も頷いた。
「私も同意見だよ、軍曹。だからこそ、あの男は死刑になったのだろうよ。まるで倫理観をどこかに落としてきたかのようではないかね」