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女子高生の賭け

4月になって、クラスが変わると、もう皆一気に受験モードに突入していた。

とは言え、エスカレーター式に大学に上がれるうちの高校の場合、勉強に励む人と、やる気のない人がパックリと奇麗に別れる。


ミクは簡単に入れる専門学校に決めていた。

なんとなく付属の大学に行っても、やっぱり勉強には着いて行けそうになかったし、昔から好きだった絵が描きたくてデザインの専門を選んだのだ。

だから全く勉強なんてする気がなかった。


そんなこんなで、成績別に別れる英語なんかのクラスもほとんど去年と同じ面子だった。

(そこにサヤがはいって来たのにはウケたけど!)でも何となく、将来に向けて勉強を頑張る子が増えて、そういう雰囲気にはやっぱり馴染めなかった。

ますます学校がつまんなくなっていったのは言うまでもない。


その頃からまた、中学の時の友達が無償に恋しくなって、3年間同じクラスだった“多香子”の家に居座る様になった。

多香子は優しいし、付き合いが長いから甘えられる。

リュウタや大樹とももちろん知り合いだから、いちいち最初から説明しなくても、事の流れをだいたい把握してくれるし、何だか楽で、私は多香子には色々と相談できた。

でもやっぱり答えは出ずに、リュウタとはずるずるお友達のままメールしたり、遊んだりしていた。


「ってゆーかさぁ、リュウタ彼女の事うざがってんならさっさと乗り換えればいいじゃんね〜。」

多香子がかったるそーにリュウタん家を見上げる。

実は私達、ちょこちょこ訳もなくリュウタん家の近くでうろついているのだ。

(悪さしないストーカーって感じ?)

「だよねー、絶対あんな女より私のが性格いいっつの!!」

「言えてる言えてる!本当ムカつくよね〜!」

…はぁ。ため息が出てくる。半ストーカー的行動に加えて、会った事もない彼女の批判をしてみたり…。その上、プリクラでチラっと見た限り、私なんかよりは結構かわいかったから本当のところ、見た目の事はあんまり否定できなかったんだけど…(死)


だけど近頃リュウタは彼女の愚痴を良くこぼす様になった。(まぁ、どうでもよくなって、彼女の事聞いたりしたから、向こうも言える様になったのかも知れないけど…。)リュウタの愚痴って言ったら、まぁ毎回似た様な感じ。


「俺の彼女さぁ、とにかく束縛激しいんだよ!メール返さなきゃ怒るし、電話なんかしょっちゅうかけてくるし、女のメモリーなんか見つかったらどんな事になるかわかったもんじゃないぜ!!」

今日はまた一段とイライラしている様子のリュウタ。私は複雑な心境で話を聞く。

「でもさぁ、そんなところが可愛い!!とか思ってんでしょ?女のメモリーないなんてあり得る?普通に不便じゃん!何だかんだ入れてるんでしょ?ならいいじゃん?」

「いや、本当にないよ。親戚の人くらいかな…」

リュウタがため息まじりに携帯を見る。

「じゃあさー、私にメールする時どうしてんの?」

「ん?そりゃ暗記でしょ、暗記!いちいちアドレス打つんだよ!!」

「え!そーなの!!大変な事してんだね!!」

と、言いながらそんなめんどくさい事までしてこのめんどくさがり屋が私にメールを打ってくれてるのかと思うとちょっと期待してしまったりする。(私バカ。)

「でもでもでもー!私もやっぱりアドレス入れてほ〜し〜い〜!!!!」

「お前アホかぁ!そんな事したら殺されてしまうわ!」

リュウタの顔は本気だ。どうやらマジで結構彼女は強いらしい…。

「でも、まぁ、確かにいちいち入力すんのめんどいしね、こうしよう!」

リュウタがカチカチ軽快な音を立てて携帯に何か打ち込んでいる。

「ほらね♪」

と画面を見せられると、そこには〈店長〉の文字が…。

そしてそこには私のメモリーがインプットされていた。

「う…これは名案なのかなぁ…どうなの?大丈夫なわけ?」

リュウタはにっこり笑って

「大丈夫、大丈夫!あははは。」

とか得意そうに言っている。でも私は本当にこの笑顔にすんんご〜〜〜く弱かったから、

「解んないけど、いいんじゃない。あんたがいいんなら。」

もう呆れて物も言えなかった。

でもそんなとこもちょっと、いや、かなり可愛いなぁ〜とか思ってしまう自分だった…。


そんなこんなで私とリュウタの関係は全然進展していなかった…。

大樹も多香子もちょっとあきれた様子だった…。


私はその時やっぱり一番成績悪いクラスで、サヤや、見なれた面子と机を並べながら、窓の外をぼんやり眺めながら、自分の進路や、リュウタとの事を考えていた。

隣の教室からはカリカリとノートを取る音しか聞こえないって言うのに、このクラスはまるでお祭り騒ぎだ…。

「ミクーなんかしょぼいよ〜、みかん食べよ〜〜。」

「あのさぁ、なぜ授業中にみかんが…。」

「いいなぁーサヤにもちょーだい♪」

おやつに化粧品に漫画…この教室はそーゆー物が飛び交っていた。

でも、サヤは元々頭がいいし、菜穂や亜子達もちゃっかり上ランクのクラスだった。

その頃の私に取って、本当は何が一番ヤバかったかって言うと、実は…。


「留年!!!!」

「そう、留年、今度夏前のテストで60点は取らないとその時点で結構ヤバいから。」

先生からはしっかり念を押されていたんだ…。

最近の私はバンドに、バイトに、恋愛に…。

どれも大切で、一生懸命だったけど、実際は絵に書いた様な遊びっぷりで、これじゃ進路が決まってても、卒業できなくなっちゃう。

その頃の私はすごくイライラしていた。


やりたい事と、やらなきゃいけない事…。

あまりにも食い違っていた。


その中で、私はバンドはもう組めないなぁと思った。

新しいバンドを立ち上げる事は大変な事だったし、精神的にも今は新しい仲間を作る余裕はないと思った…。

それから、ずっと続けて来たバイトも、とりあえず受験を言い訳にしばらく休む事にした…。

バイトの仲間は本当に家族みたいで心地良かったけど、今はそれも気が乗らなかった…。

大切な物は一つでいいと思った。


リュウタを取るしかない。リュウタしかいらない…。


学校は何とか頑張って卒業したい!

だから、やりたい事諦める。でもリュウタだけは譲れない!!

本来ミクは、男の為に、何かを犠牲にしたり、他の物を大切にできない女は好きじゃ無かった…。

男に依存して、裏切られたその後に、何も残らないのも解っていたから…。

ましてやリュウタの気まぐれな誘いを待つ為に、私はずっと大切にして来た事を手放そうとしてる…。

こんなんでいいのかなぁ…って何度も自分に問いかけるけど、やっぱり私の意志は堅かった。


どんな事があっても今一番大切な物を必ず手にいれるんだ!!!


リュウタのくしゃくしゃのあの笑顔を自分だけの物にしたかったんだ…。


それから私は来る日も来る日も補習とリュウタからの連絡を待つ日々だった。

リュウタはだいたい“彼女も友達も暇じゃない時”に私を呼んでるんだけど、

「バイトもやめたし暇になった。」と言うと、その誘いは少しづつ増えて行った。


【暇だ〜〜!!】って入って来て、

【じゃあ行っていい?】ってなぜかあたしが誘う形にさせるのは、狙ってるのかどうなのか、本当ズルイって思うけど、そんな短いメールさえうれしくて、私は何日も待ってしまうのだった。

最初は、浅田や孝介が一緒の事も多かったけど、だんだん2人で会う日も増えて行った…。


【今日うち来ていいよ。】

その日もまた短いメールで原付きを走らせてしまうミク。

彼の家の近くの駅に原付きをおいて、なんとなく家族と顔を合わせない様に静かに二階に上がる。

リュウタの家は中学の時に出来たばっかりのキレイな家で、木の香りや日射しの射し込む気持ちのいい家、階段には2匹のネコがいて、2階に上がってすぐの扉がリュウタの部屋…。

ずっと前から変わらない、家の中の空気、リュウタの部屋…。私がまだ彼女だった、あの頃のまま。

扉を空けると、リュウタはだいたいベットの上で煙草を吸っている。

「来たよ。」って声をかけると、

「よぉ。」って短い挨拶をして振り返る彼の笑顔は、大人びても見えるし、子供みたいにも見える。

細く日に透けた茶色の髪をなでられたらいいのにと思いながら、私もベットに座るんだ。


幼い頃、わけも解らずこのベットの上で、何度も唇を重ねた事、

彼の白くて、細くて、筋肉質な腕に抱きしめられた事…今だって忘れられない。

でも今は、リュウタには彼女がいるし、私はただの友達で、その関係が壊れてしまったら、彼はきっと私を迷惑に思うし、こんな風に2人で会ったりしてくれない…。


だから私はいつもリュウタの体が触れない距離に座る。

リュウタも私を近くへ呼ぶ事はないし、どんなに2人でいても、キスをする事も、体を重ねる事もしなかった…。

皆はチャンスだ!って言うけど、私はそんな風に関係を終わらせてしまいたくなかった。

私なりに、この恋を大切に大切に守る手段だった。


時々リュウタは携帯が鳴っても出なくなった。

彼女からだ…。

「あいつ、一回かけてくると長いから。」とか、

「別に好きかどうか解んない、喋ると喧嘩になるから出たくない。」なんて言ってたけど、本当は私に気を使ってくれてるんじゃないかなんて、都合のいい期待もしたけど、

時々リュウタは、「3人でつき合うってゆーのどーよ?仲良くなったらあいつだってそんなに怖いわけじゃないんだし☆」なんて冗談を言ったりした。

「名案!なんて言うわけ無いじゃん!本当バカだね〜」

「やっぱ駄目?冗談冗談☆」なんて、無神経なのか、本当にバカなのか…。

でもこんな冗談だって、笑い合って言える事に価値を感じていたんだ…。

とにかく今は待って、我慢して、最後に笑えればいい。


全てが賭けだった…。


そんな私を菜穂が呼び出したのは、5月の良く晴れた朝だった…。

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