ルール。
初恋の彼が忘れられなくて、2年もかかってやっとメルアドをゲットした。
彼にはもう新しい恋人がいるし、絶対期待しない!!なんて言ったけど…。
駄目でした…私今めちゃめちゃ彼の事で頭がいっぱいなんです!!
…キンコンカンコーン♪
昼休みのチャイムが鳴った。
「ミク!起きてってばあ〜〜!!パンが売り切れる〜〜!!」甲高い菜穂の声で目が覚める。
もともと勉強なんてする気全く無いんだけど、さすがに午前中いっぱい寝てたのには自分でもどうかと思った…。
「やだやだ、ミクったら最近誰かさんの事で頭がいっぱいだもんね。ホントたるみすぎ!」
「まあね。もういいの!開き直ったんだから!!」
「そう来なくっちゃ!きゃはは!」菜穂がうれしそうに階段をかけおりる。
まだ冬だって言うのに、思わずウトウトと眠たくなる暖かな日差しが射し込む午後。
たいくつな授業や、どうでもいい学校生活、稼いだってすぐに消えちゃうお金…。
胸の中にたくさん積もってた不満ややるせなさ、そういう物で景色なんて感じられなかったのに最近は前とはちょっとだけ違っている。
(恋ってすごい。でも怖い…。)
私の毎日は今、リュウタ一色で出来ていた。
リュウタとの少ないメールのやり取りと、いつ来るか解んない電話とか誘いを待って、待って…。
何の連絡もない日が続くのは当たり前。それからリュウタとの間には忘れちゃいけないいくつかのルールだってある。
1、ミクからメールを送っちゃ駄目。
2、ミクから電話しちゃ駄目。
3、つき合ってって言っちゃ駄目。
勿論リュウタが言ったわけじゃない(さすがにそんなひどい男じゃないです。)私自身が心得ている
事で、このタブーをおかせば、リュウタが自分からまた離れていってしまう事くらいちゃんと解っているのだ。
それにその事をちゃんと守っていればいつかチャンスは訪れるとも思っていたし、待つのはちょっと寂しかったけど、メールが来た時のうれしさの方が何倍も勝っていたから…。
でも、彼からのメールはたわいもない物ばかりだったし、数もとっても少ない。
それでも、その少ないメールを全部保護して、読み返していれば、ちょっとだけ暖かい気持ちになれるのだった。
【今からスキーに行ってくるよ♪でも、バスの中超暇だー!ミク何してるの?】
【何って学校に決まってんじゃん!そっちの学校いいね〜スキーなんて行くんだ!こっちは退屈で朝からずっと寝てるだけ!】
【お前余計バカになるぞ。まあ俺を超える事はできないだろうけどな。帰ったらバイク買うんだ〜。今度見せてやる。】
【うん♪楽しみだね♪】
彼女と一緒なの?って打とうとしてやめた。ウザイだけだから。普通の友達っぽいメール。
お互いに昔の話とかは一切しなかったし、私も友達っぽく振舞った。
そして何より彼自身“友達”としての一線を超えない様に心掛けていたのかもしれない。
所詮は男と女、元恋人同士。いつでも関係を持てる距離がそこにはあった。
彼がソレをしないのは、彼女に言い訳できるからだったのか、想い出をけがさない為なのか、はたまたただ何も考えてないだけなのか、解らないけど、少なくとも私は、一秒でも長く彼との関係が切れない様にしたかった。友達でも何でも良かった。
最も中学時代はまだお互い携帯なんて持ってなかったから、メールのやり取りがあるだけでも、とても新鮮だったんだけどね。
そして、スキーに行った彼からは当然の様に2、3日連絡がなかった(彼女が同じ高校じゃ当たり前か。)
4日目の夜、彼から久しぶりの連絡が入る。
【ただいま〜♪楽しかったよ^^明日から学校だけどテスト週間入るから午前中で終わりだよ!】
【こっちも学校午前中だよ。どうせ勉強しないけどね。】
【俺と一緒やん!明日は孝介と浅田が来るよ〜お前んち近かったら誘ってやったけどね!電車ないもんなー。】
ドキっとした…。
中学時代私とリュウタは同じ学区だったけど、家が10キロ近く離れている上に、交通手段もほとんどなかったから、根性で自転車で家まで行った物だが、今それをやってしまうと、あまりにも会いたいって感じなので、私はまだ彼とちゃんと再会していない。(そんな田舎が嫌で、お互いちょっと町の高校に通っているのだ。)
別に、私としては、自転車だって容易い事だけど、引かれたくなくて精一杯気持ちを隠した。
【あたし暇で、暇で勉強なんか絶対する気ないから、一緒に遊んでよ!言ってなかったけど、あたし原付き買ったからリュウタん家行けるし☆】
送ってすぐやっぱりやめとけば良かったかなって思う私は小心者だ。
でもリュウタはそんなの全然意識してないって感じでメールはすぐに返ってくる。
【マジ?じゃあ明日2時頃俺んちまで来てくれる?乗せてって!!】
(やった!!!)
胸が高鳴った。
【うん、じゃあ学校終わったら行くね。】
【待ってるわ〜〜。】
やっぱりその夜も眠れなかった。
約2年ぶりの彼との再会。
パックして、マッサージして、制服にアイロンかけて、一応下着選んで(?)
(早く寝なきゃ!余計肌が荒れるよ!!)
久しぶりのときめきに、私の胸はもうパンク寸前だった。
そして、ついに私は彼と再会する事になる…。
見なれた景色、でもどこか懐かしいその景色は、彼の家に着くまでの15分間、一つも変わらず、家も、学校も、草も、木も、私とリュウタが一緒に通学してたあの頃のままだった。
原付きを飛ばしながら、私は考える。
(あの頃にタイムスリップして、リュウタとやり直したい。リュウタが私を好きだと言ってくれたあの日に帰りたい。)
もう一度あの頃に戻れる様な気がした。
暖かな午後はいけない夢を見せるのです。