井戸端会議
その日は突然やってきた。
今日はもうすぐ卒業する先輩達のお別れ会である。
お別れ会と言っても、大きなホールを借りて行われる行事で、各部活がお世話になった先輩達の為に色々と出し物を披露する。
演劇やブラスバンド、チア部の発表会みたいなもんで、ろくに部活もやっていない生徒にとっては、その後の飲み会だけが目当てで出席するような会である。
私も例外なくクラスでもやる気のない女子グループに属していたので、もうすっかり井戸端会議の会場と化していた。
グループの中でも男好きでアイドルタイプの“菜穂”は〈いい男探し〉に夢中になっている。
「ねえ!!あの先輩超イケ面じゃん!!菜穂声かけちゃおっかなぁ☆」
「あんなのがいいなんてあんた最近飢えてるでしょ。あっちの先輩のが素敵〜〜!!」すかさず“未織”も男の群れを品定めしている。
「アンタ達イケ面なんて死語だよ!!」そんな事を言いながら、クールな“亜子”まで乗り出していた。
「ねぇ、ミクはどの人がタイプ?今日は出会い満載の予感だよぉ!」菜穂が瞳を輝かせて背中に
のしかかって来た。
「…え!?ご、ごめん、聞いてなかった。」
「どうしたの?ミク、今日テンション低いじゃん?てゆーか最近ずっとじゃん!」
「い、いや、そんな事ないよ!!」あわてて声が裏返る。
それもそのはず。最近の私と言えば、リュウタの事ですっかり頭がいっぱいなのだ。
大樹からのメールはアレ以来来ていない。
期待なんかしていないつもりだったし、誰かに話してすっきりしたかっただけだし…。
そう自分に言い聞かせていたけど、やっぱり心のどっかで本当は期待している自分がいる。私の心は大きく揺れていた。
「おっかしーなぁ、ミク。いつもならキャーキャー言うはずなのに!!絶対おかしい!!」菜穂がにやついている。
「分かった!好きな人できたんでしょう!!」
「ち!違うよ!そんなんじゃないから!!」
菜穂の言葉に思わず大きな声がでてしまった。(ヤバい!)
「あー!!やっぱりそうなんだ!!誰々!!」
「いや…なんてゆうか、片思いっていうのも違うし…」
言おうか言うまいか一瞬悩んだ。
(でも一人で抱え込める程私は強くなかった…。)
「実は…。」
はなしちゃった…。
3人共いつになく真剣に私の話を聞いている。
…。
亜子が優しく言葉を選んで話し出す。
「そっかぁ、そんな人がいたのかぁ…。でも期待してるからメール頼んだんでしょう?」
「…。違う、本当に期待してないし、忘れたいんだけど…。」
「忘れる必要なんてないじゃん!好きな気持ちを伝えて何が悪いの?あんた臆病すぎるよ!」菜穂が体を乗り出す。そして何かひらめいた様に大きな瞳を輝かせた。
「よし!悩んでても仕方ないし賭けしよっか!!」
「賭け??」菜穂がうれしそうに微笑んだ。
「ウジウジ悩んでずっと待ってても仕方ないしさぁ、もしも、今から三十分以内にメールが来なかったら、その時はもう本当に期待しないで彼を忘れる!そんで〜今日のお別れ会が終わるまでにカッコイイ先輩見つけて声かけて携帯聞いてくるってのどお!?」
「はぁ〜〜」脱力する三人をよそに菜穂はもういい男探しを再会しようとやる気まんまん。
「でもそれもいいかもなぁ…。」
「ミク、本気?菜穂にのせられちゃ駄目だっつの!」
「未織ったらひっどーい!!いいじゃん、チャンスは逃すなだよぉ!この後の飲み会でいい先輩捕まえなきゃ!ゆくゆくは大学生の車もちになるんだから!」
その時だった…。
「な!何!?何かガタガタいうよ〜〜!」菜穂がおしりの下から何かを見つけた。
「やっだー!!誰かの携帯ふんずけてたぁ!」
「いいからちょっと貸しなさい!」亜子が携帯を奪い取る。
「あ!!!」四人は顔を見合わせた。
【リュウタがね、最近彼女とマンネリしてるみたいで、お前の事話したら、会いたいって言ってたよ。アドレス教えたからな!】大樹からのメール。
私は心臓が止まりそうだった。
(まさかこんなメールが来るなんて全然思ってなかった…。どうしよう…。)
顔をあげると、三人はにやにや笑っている…。
「ミク今日の飲み会はお留守番だねー♪」菜穂が何だかうれしそうだ。
「べ、別に、彼女いるし、そんな意味じゃないよ!!」
「そんなの分かんないジャン。そーゆう事はアタックしてから言ってよね!」
「だって…。」うつむく私に菜穂は笑顔で言った。
「さっき言い忘れたけどー、もしも三十分以内にメールが来た場合は、絶対その彼ゲットしなきゃ駄目だからね。弱音吐かないの☆分かった??」
「う…。」
私は菜穂のそういうとこがとてもうらやましいとか思った。
かわいくて、明るくて、自称ブリッコなんていっちゃうのに全然嫌みに聞こえない。
好きな人を見つけたら、周りなんて気にしない、自分の気持ちをまっすぐにぶつけられる。
(むろん、嫌いになったらようしゃないけど…。)
そんな菜穂を見ているうちに少しは見習って頑張ってみようかなんて思ってしまった。
ゼッタイキタイしない…。
あれほど堅く誓ったのに、たった一つのメールに振り回される。
…それはもう完全に恋の始まり。