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あれから

あまりにあっけないリュウタとの出来事から数年が過ぎようとしていた。


結局現実なんてはかない物で、

ドラマや少女漫画みたいに、簡単に再会したり復縁するなんてできず、

もちろんリュウタとも本当にそれ以降出会う事はなかった。



あの後のミクにしても、

ドラマとかならきっと、立派に立ち直って、

彼に再会するなり、自立してキャリアウーマンになるなり何なりしているはず。



だけどね…。

実際のミクはあの後すっかり変わってしまったよ。



ミクは自信をなくして、恋にものめり込めなくなったし、

バンドもバイトも結局しなくなって、友達関係にしたって、

何だか深い関係になって、サヨナラするのが嫌だとしか考えられなくなった。



何より、そんな風にしか思えない自分の事は大嫌いで、

これでも色々と努力したんだ。

でもそれも何だか間違った方向に行ってしまって…。

特に、ミクがあの後一番後悔した事と言えば、



リュウタとちゃんと一回もエッチしてない事…。



恥ずかしかった。

彼女に問いつめられても「してないよ」って答えた。

女として、とても情けなくて、みじめだった。



リュウタとの事が過ぎ、季節が秋の終わりを告げる頃、

バイト仲間のみいちゃんに頼んで、適当に男の子を紹介してもらった。

リュウタと別れた後、ご飯も食べれなかったし、すごく不安定になってて、

やっと1か月、2か月立った…そのくらいの時期だ。


とりあえずミクはその男友達に会って、

「まぁ、行く所ないし家行こうよ。」と簡単に声をかける。

彼も彼で、ためらいもせず、私を部屋に入れた。



「前、電話で引きずってる女の子がいるって言ってなかったっけ?」

彼は笑いながら見知らぬ女の子のプリクラをゴミ箱に捨ててみせる。

「何の事だっけ??忘れたよ。今はミク一筋だから!」

そう言って、ミクの体に手をかけた。



(嘘ばっかり…。)


そう思いながら、ミクも彼に手をかけて、



まぁ、いっか…。



そうしてミクは処女を捨てた。

ちなみに“初めては本当に好きな人じゃなきゃ後悔する”なんてよく聞くけど。

ミクはヤレヤレって感じであっさりそれを済ませてしまった。

むしろ、コレでやっと千理と同じ“女”になれたなんて考えていたし。



私はまだリュウタを忘れられなかったんだ…。



そんな事をしても、

もうリュウタとは体が触れ合う事も、会話をする事さえないと解っているのに…。

彼は軽い口調で言う。

「ミクって本当に初めてなの?そうは見えないけど。緊張したりしないんだ。」

「うん。別に普通だった。」

私もサラリと答えた。

リュウタとは2年もつき合ったのに、ドキドキして全然できなかったし、

再会してからも、緊張して最後までできなかったって言うのに、

なんて簡単な事なんだろう…。



もっと早くこんな経験をしていれば、

最後の夜もきっと失敗しなかったに違いない。

私は、初めて会ったばかりの人と簡単にしてしまう事より、

リュウタとしなかった事への後悔を募らせた。



そしてそんな感じで結局彼とつき合って、

月日を重ねるうちに愛着も湧いて来て…。



だけど結局煮え切らないミクの態度にしびれをきらし、

彼は元彼女と浮気して…

大して悲しいとも思えずにその恋も半年で終わった。

それでも(よく持ったなぁ…)なんて考えていた。

もうあんなに傷付いたりはしなかった。



免疫ができているのか、恋ではなかったのか…。

そんな恋愛が、高校を出ても、専門に入ってからも、ずっと続いた。


合コンとかして、誰かと出会って、恋をして、

電話や、メールで簡単に「好き」とか「嫌い」とか、

リュウタには言えなかった…でも、

自分でも解らないくらい簡単に、いくつかの恋が通り過ぎて行った。



自分の中で言い聞かせていたんだ。

(リュウタはあの日死んじゃったんだ)なんて…。

だってそうでしょう?

夫がもしも行方不明になったら、妻はきっといつまでも家で待つに違いない。

だけど、未亡人だとしたら、

夫の想い出を胸に、違う人と再婚とかして、それなりに幸せに生涯を終えるんだ。

きっとそういうもの…。

だからリュウタもあの日、去っていったんじゃない。



死んじゃったんだ…。



ミクは何年もの間、こうしてリュウタへの気持ちを断ち切って来た。

他の彼女を選んだ彼を、待っていられる程強くなかったし、

人並みの幸せが、私には必要なんだって思っていた。



だけど、現実は残酷な物で、

何度も何度も夢の中でリュウタと会っては悲しい気持ちになったし、

実際にも、コンビにやら、近所の道で、彼を見かけてはため息が出る。

地元の同級生だから、顔を合わせる事は何度かあった。

(そりゃそうか…)



車校でリュウタを見つけた時も、悲しい事にドキドキして、

すぐにあの気持ちが蘇った。

勇気を出して話しかけると、

彼は何でもない笑顔で、「久しぶり」と笑った。

私はもうあの事は口に出せずに、久しぶりにあったただの知り合いって感じで、

毎日彼の登校時間にあいさつをし、タマにジュースをおごってもらったり、

そんな風にしてるうちに、私は免許を取って、

卒業後は電車にものらなくなる…また一つ彼との会う機会を失って、



全然楽しいと思えなかった。

悲しくていつもいつも、あの頃の想い出が胸を締め付けて、汚染されていた。



成人式が近付いていたあの頃も、

本当に毎日が鬱で仕方なかった。

リュウタは来るだろうか…話ができるだろうか…。

緊張しながらも、期待、それから、これを過ぎたら今度こそ最後。

この気持ちにピリオドを打たなければと、プレッシャーを感じていた。



そしてその日、友人や昔の担任との再会が嬉しくて、私は気分が良かった。

リュウタももちろん来ていてホッとした。

少し髪を短くして、スーツを着た彼はとても落ち着いて見えて、

また私はドキドキしていた…。



彼の性格はもう何となく解る…。

話しかけてくるわけ絶対ない。でも…

こっちが笑顔で話しかければ、何事もない態度で会話してくれる。

ミクはカメラを持ってリュウタに近付いて「撮って。」と言った。

「え?別にいいよ。」

嬉しいとも迷惑とも取れない強張った笑顔でリュウタは私の横に並ぶ。

過去につき合っていた二人のぎこちない写真は、

ミクの宝物になった…。



その後の飲み会でリュウタと会った時、

二人きりにもなれたけど、

怖くて何も言えなかった…。



「彼氏できた?」

何気ない彼の質問に、

勝手に期待して、顔が赤くなった。



でも…


もう…今更…


気持ちは伝えられずに、

どうでもいい仕事の話とかして、

飲んで、リュウタが帰る頃には、



もう、どうしようって


ミクの中にはいつもいつもどうしてこいつがいるんだろうって。




だけど言えなかった…。




そんな事を繰り返したまま、

もうあの18の夏から四年目の夏を迎えようとしていた。

ミクの元に届いた1通の手紙。

岡山に済んでいる透子からだった。



“ミク、元気にしてるかな?

サロンやめたんだって?ビックリした。

透子はこっちで赤ちゃんを生んだよ。驚いた?

赤ちゃんの写真送ります。ミクにもいつかそんな日が来たら写真送ってね。”



ミクは赤ん坊の写真を見て微笑んだ。

四月に専門学校を出て、ミクはエステティシャンになった。

研修の為一時的に大阪で暮らす事になり、透子はその時一緒に暮らしたルームメイトだ。

今でも時々連絡を取ってはたわいもない近況を報告しあう。



大阪ではすごく仕事が辛かった反面、都会で、刺激があって、

友達もまた、皆県外で、言葉もバラバラだし、

そんな環境の中で、皆深い仲になれたし、地元の友達には言えない様な話もいっぱいできた。



透子はその時、6年になる彼がいると言っていた。

奇麗で、いくらでもモテそうなのに、ついにその彼と結婚したと言う。

「途中で他の人好きになったりもしたよ。彼と別れるわけでもなかったのに、すごくはまっちゃってね。結局我慢できなくて1年後に告白した。何したいんだお前的に言われてさぁ、そりゃ返事する方だって困るよね。でもすっきりできて迷いもなくなったけどね。」

そう言って透子は缶ビールを片手に笑っていた。



懐かしいなぁ…大阪。



私は窓をあけて夏の気怠い空気を感じていた。

新大阪のマンションにいた頃、9階のベランダは夜になると夜景が奇麗だった。

普段は飲まない私も、透子とよく乾杯したもんだよ。

そんなに昔の話じゃないのに、透子はもう知らない町でお母さんか…。



はぁ…。

ため息が出た。



多香子もいつの間にか、昔引きずっていた彼を忘れ、

今は職場の先輩と一途につき合っている。

亜子や菜穂もそれぞれ進学して、目標を持っているみたいだ。

大樹も仕事に燃えていて、


皆、皆、変わって行った。



きっと、

リュウタもあたしの知らない所で知らない大人になっているんだろう。



私だって変わらないわけじゃない。

実は私にも、つき合ってもうすぐ3年になる彼がいた。

今までの恋愛に比べたら、穏やかで、とても落ち着いた関係にある。

ただ、心の中で、リュウタを忘れていない自分に罪悪感を感じていないわけじゃない。

だけど、今の彼とは、

あの頃とは違ったもっと穏やかな恋愛以上の事をきっと得られる。



だから3年持った…。



だけど今でもやっぱり解らない。

自分が誰とこの先恋をしたり結婚したり…子供を産んだりとか…???

同級生達はどんどん結婚して家庭を築いて、

きっとリュウタだってそのうちそんな日を迎えて…。



私はその時どう感じるんだろう?

私はどうなるんだろう?



幸せな毎日を過ごしながら、

今でも切なく思うんだ。

それはもう2度と戻らないあの夏の日の話。




短い恋の物語。


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