邪魔者は誰だ。
亜子のスプーンがすくう、
キレイな緑色、
それからミクの前には鮮やかすぎる程のピンク。
「亜子って何か渋いよね…。」
私の言葉に亜子はすかさず反論する。
「何言ってんの!!あんたこそ何そのド派手なかき氷。意味解らん。」
亜子のスプーンがミクの氷をすった。
「ハイビスカスだよ。かわいいじゃん。うまいでしょ?」
「うーん、まぁまぁ。でもおいしいって言う割に全然食べてない。」
そう言ってまた宇治金時を食べ始める彼女。
それを見ている私。
何かとても蒸し暑くて頭が回らない午後だ…。
でも、どこかで変な汗がずっと出てる気もしてて…。
あー尋常じゃないってこーゆう事…???
机にはピンクの染みが広がって行く。
「食べないの?溶けてんだけど…。」
「あー、うん。」
はっきり言って上の空だった。
亜子がひじをついてため息をつく。
「やっぱりもう帰ろっか。こんな事してる場合じゃないっしょ。」
「え!!」
亜子は私の事を呆れた顔で見ていた。
「もう…少しだけ…お願い!!」
彼女は首を横に振る。
「だって、リュウタくんに家電かけてって言ったし、いつまでも携帯OFFはまずいよ。
あの女今頃怒って電話かけまくってるだろーし。」
二人は電源の切れたままの携帯を見つめていた。
「やっぱ…電話出るしかないですかねぇ…。」
「まぁ、そうなんじゃない?」
亜子のあきれ顔は私を不安にさせた。
解ってるんだ。
ずるいのは私だって…。
だけど…なんか。
さっそうと帰り支度をする彼女を横目に、
私もしぶしぶ席を立った。
(彼女が怖い。自分のして来た事、それを認めるのが、怖い…。)
「避けては通れないんだよ。覚悟してたんでしょ?」
「そう…(なんんだろうか?)」
「大丈夫、リュウタくん彼女と別れたって言ったんだもん。あんたを選んだんだよ。」
亜子の弱い口調は頼りなく聞こえた。
お互いそれ以上言葉もなく私達は店を出た。
外はやっぱり蒸し暑くて、
町は夏の始まりにざわめいている。
だけど、私の体は冷たく冷や汗は止まらなかった。
リュウタは確かに彼女と別れたって言った。
けど…。
でも、私とつき合うなんて一言も言ってないんだもん。
よく考えたら、信じる信じない以前に、
カンジンな彼の気持ち…はっきり解んないままだったんだ。
彼を信じられるわけない。
でも私達は口に出せなかった。
駅へ向かう足取りは二人共重い。
「大丈夫だから、どー考えたってあんな女誰も選びませんから!!」
背中を押されて電車に乗って、
手を振る彼女が小さく消えた…。
それから私は電車に乗って、
流れる景色をいつもより早く感じながら、考えていた。
(亜子は“あんな女”って言ってくれたけど、
本当は彼女はやっぱただの被害者なんだよね…。
リュウタも中々ズルいけど、
でもやっぱ私が一番最悪かな…。
もうどっか遠くの町に逃げてしまいたいよ…)
なんて。
電車の壁にもたれかかって、静かにその場にうずくまる。
良くない考えばかりが頭をかすめて胸がいっぱいになる。
本当の“邪魔者”が誰なのか…。
たぶんもう全員が解ってる…。
リュウタにも…そう…
思われてる…??
辛い事だ…。
(それでも私を選んでくれたらいいのに…。)
頭の中はそれだけだった。
家に電話を入れると、
7時近いのにやっぱり彼からのやっぱり電話はないと言われた。
でも手に汗がにじんで、やっぱり携帯をONにできない。
コレじゃ駄目…もう逃げられないのに!!!!
とりあえず私は、重い体を引きずる様に、多香子の家に駆け込む事にした。
一連の事情を多香子に話して、
携帯の電源を入れなくちゃ。
ミクは駅に着くと、
すぐさま原付きにまたがった。
「もしもし?多香子?今から行っていい?」
「どうしたの?何かあった?」
「うん…リュウタの事で話があるから、すぐ行く。」
多香子はだいたい察していたんだろう。
返事はイエスだった。
それからすぐに彼女の家へと急ぐ。
リュウタの家から近いその道のりは、
いつもと違ってとても暗く感じた。
部屋に入ると、多香子は心配そうに私を見た。
「で、何があった?」
私はまるでダムが決壊したみたいに多香子に全部話した。
不安に思って来た事、昨日の夜の彼の態度、
彼女からの着信や、彼になりすました彼女からのメール。
怖い気持ち…
きっと多香子もどおしていいかなんて解んなかったと思う…。
迷惑かけてごめん。
心の中でそう思いながらも止められなかったんだ…。
多香子はうんうんと静かに話を聞いてくれた。
不思議な物で、心が落ち着いて行くのが解る。
(あー私って駄目だなぁ…。)
多香子が静かに口を開く。
「そうか、それは辛いね。彼女マジうざいね。」
「ね。」
本当はそんな事言えた立場じゃないんだけどね。
それからやっと携帯の電源を入れる事にした。
「いつから切ってんの?携帯。」
「昼からずっと。何回か女から電話あったから。」
「って、事は…またくるよ?あんた大丈夫?」
「うん…(う〜ん…)」
もう後戻りはできない。
「行くしかないでしょ。」
「うん、他に道はない!」
電源を入れる。
予想通りすぐに着信がなった。
“リュウタの携帯”
もちろんその相手が彼じゃない事はすぐに予想がつく。
でも…
「出るしかない…よね。」
「うん、頑張れ。」
体中から冷や汗がまたあふれだして、手が震える。
電話を取って、静かに耳に当てて、
…聞こえてくる。
さっきと同じあの声だ。
私の知らないリュウタを独占してる女の…
甲高くて、耳障りで、
一生きっと忘れない。
その声の持ち主は、
やっぱり…
千理、リュウタの彼女。