言葉にならない。
ミクは考えていた。
あの細くて甲高い、でも強く震えるあの声。
考えはまとまらない。
いくつも数える彼との記憶。
出会って、恋をした。
好きになってつき合った。
キスをした。
別れを告げた…。
でも、彼を忘れる事はなかった。
自分勝手にまた巡り会った。
数少ないメールと、何でもない会話。
一晩だけのキス。
でも、彼の心は、
最初から最後まで解らなかった。
彼女からの電話。
手が震えて、言葉が見つからないのは、
彼女の怒りが、自分のずるさが、彼の気持ちが…。
とにかく、二人をめちゃくちゃにしようとした自分が…。
間違っている…と、
知っている…から?
本当はね、始めから解っていたんだよ。
コレはいけない事だってね。
自分でも苦しかったんだよ。
もしも彼女が自分だったら、彼を許せないし、
彼ともう一度つき合ったって、
彼女と同じ様に、彼の心の中に誰がいるのか心配になるだけ。
彼はそういう男。
でも、ソレがたまらなく魅力的で、
たまらなく好きだった。
彼の言う彼女の行動はどれも理解できなかった。
彼を束縛して、自分の側にずっと置いていたくて、
彼のプライベートを探って…ただ、自分の物にするために…。
いつも反発した。
あんな女と一緒にしないで。
あんな女には絶対ならないから。
あなたをもっと自由にしてあげる、
だから…
私は何をしようとしていたの??
だから、私の側にいて。
私から離れず、ただそこにいて。
私を置いて行かないで…。
本当は気付いているの。
私はあの子と同じ。
自分勝手にただ、わがままに、
あなたを離したくなくて、
ただ、それだけの為に、
彼女を無視して近付いたし、
あなたにいくつもの嘘をきっとつかせた。
あの子と同じ。
あなたをとても深く愛していて、
そしてあなたをとても苦しめてしまう存在だったに違いない…。
ぶっきらぼうで、適当で曖昧なあなただけど、
本当は不器用で優しい男の子だった…と思う。
優柔不断だし、バカばかりして、
だけど、私達を決して傷つけなかった彼。
嘘も、いいかげんな約束も、
どれもうれしかったし、
つなわたりみたいな関係に、
勝手に夢中になったのはこっち…。
私達はあなたをとても愛してしまった。
あなたのいいかげんな言葉は、
未来を信じる気持ちに拍車をかけて、
側にいる時も居ない時も、
そのキスは、その先の出来事を想像させた。
いつも会いたくてたまらなかった。
私は彼女にきっと見透かされているんだ。
私が二人にしている事は、
どんなにずるい事だったのか、
私も彼女も知っている。
怖い…。
逃げていた。
彼女から…。
彼に突き放されるのも…。
だから、理解があるフリをして、
あの子とは違うって言って、彼に近付いて、
でも本当は同じ事だったんだ。
きっと彼だって解ってた…。
怖いよ。
本当は彼を好きになる資格なんて私は持っていなかった。
あの、灰色の空気がまた肺を埋め尽くして、
海底にいる魚みたいに、
あなたとはもう二度と会えない所に行かなきゃいけないのは…。
本当にたまらなく悲しいよ。
怖いんだ…。
あの大好きな沢山の思い出達は、
私の中ではきっと、もう二度と手に入らない宝石の様な記憶なのに、
残らず捨ててしまうのも、
あの子にあげてしまうのも嫌だよ…。
言わないで…。
解っているの。
ずるくて、幼くて、いいかげんで、
無理もない。
こんな私が彼を彼女から取る事なんてできない。
最初から知っていた。
なのに何で?
いつの間にこんなに彼に依存してしまったの?
どうして見返りのないこの恋にこんなに夢中になったの?
優しい彼のあいまいな言葉達。
私達二人を好きだと言って夢中にさせた。
とても罪深い彼。
だけど嫌いになれないの。
なんで??
なんで?
…なんで?
どうしたらいいの?