砂時計は止まったまま。
冷たい季節、確か2月の初めくらい。
私は17歳。
高校2年生だった。
電車で一時間程かけて地元よりちょっとだけ,町の高校に通っている。
授業は何となく寝てて、放課後は趣味のバンド活動かバイト。
自由気ままに好きな事は何でもやってるし親も適当で、そこそこの毎日。
でも、どこかでいつも何かが足りないと感じていた。
心にぽっかり穴があいて、そこだけ何かが足りない感じ…。
その理由は自分が一番よく良く知っていた。
【彼にあいたい…。】
私の頭をもうずっと前から過っている言葉だった。
2年も前に別れてしまった恋人“リュウタ”。
あの頃の私にとって、それはあまりにも昔の事だったが、何故か忘れられないまま2年が過ぎていた。
「何か良いことないかな〜。」
毎日毎日口癖の様につぶやいている。
彼に別れを告げたのは自分のはずだったのに、今も記憶の中で確かにリュウタは存在していた。
リュウタと別れて、新しい町で沢山の出会いや楽しい事が待っているはずだった。
なのに、リュウタのいない毎日は、まるで排気ガスでも吸ってるみたいに息苦しく、私の心はいつも寂しかった。
(もう限界。頭がおかしくなりそう…。)
その頃の私はとても勇気がなくて、普通の女の子なら、すぐに彼に会いにいくだろうに、それさえできなかった。でも自分でも気付いている。
(このままじゃダメ…)
私は携帯を取り出す。ゆっくりとその想いを打ち込んでいった…。
【私、今でもリュウタの事が好きなんだ。他の誰と付き合ってもダメだったよ。今更って言われるかもしれない。でも一回会ってみたいんだ。付き合ってとか言わないから。友達としてでいいから…】文字にしてみると、何だかとてもあっけなく思えた。
本当はもっと言いたい事が沢山あるはずなのに、うまく言葉にならなかった。
私はそのメールを、私とリュウタの数少ない共通の男友達でもある“大樹”に送ることにした。
大樹は、同中の同級生で、今でもご飯を食べにいったり、お互いに恋愛相談をする仲だ。
性格としては、少々自分の事で、精一杯という感じもあったので、あまり期待はしていなかったけど…。
大樹からの変更が来たのはそれから三日後。
【解ったよ。今度リュウタに言ってみるよ。でもアイツ今彼女いるから、あんまり期待するなよ。】
…今彼女がいる。
その事は私も噂で聞いていたので知っている。
私と別れた後、電話をくれたリュウタは、
「お前が忘れられない。やりなおしたい。」
と言ってくれた。
それを断ったのは私。
その直後できた彼女とはもうすぐ二年になるという。
その噂を聞いた時、一度は(良かった…。彼女できたんだ。)と安心した事もあったけど、心のどこかでは、(ずっと私を好きでいてほしい…。忘れないでほしい…。)と強く思ったのも本音だった。
リュウタと彼女が今までどんな時を重ね、どんな言葉を交して来たのか…。
私の時は止まってしまったけど、今も二人の時は動き続けている。
あの時いじをはらずにやりなおせたら、私とリュウタは今も隣にいれたのかもしれない…。
私は大樹にメールを返す。
【うん。期待はしない。ただ、会って友達みたいに話せたらいいと思ってるだけ。迷惑かけないし嫌って言われたら、あきらめるから。】
嘘でも言い訳でもない本音だった。
【そっか…。あんまりハマると辛いからな。】
解ってる…。
傷つきたくない。
失いたくない…。
ゼッタイキタイシナイ
今更戻れないし嫌われるのは絶対に嫌だったから。