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最後の奇跡

リュウタの家を出て、

熱くなったハンドルを握る。


どこへ行こう…。って考える。


この恋は終わったの?

終わったよね?


リュウタの困った顔、

彼女の気配が残る居心地の悪い部屋で泣いていた自分。

今日は本当に最低な日だった。

最近どんどん冷静さを失っている。


だからもう会わない方がいい。


それに…。


どんな顔して次会えって言うの??解んない…。


ミクはとりあえず、休みがちだったバイト先に顔を出して、夏休みのシフトを入れた。

夏休みはきっと一人で過ごすから…。

それから、大樹と多香子に今日の出来事を電話で報告する。

慰められて少しホッとした。

最後にあの桜の公園で、もう花の付いていない、葉っぱだけの木々を眺めたりして帰った…。


リュウタが居なくてもやる事は沢山あるんだから…。


机に目をやると、

山積みの課題が散乱していた。

課題の提出は明日、終業式の後。

コレを出さないと追試が受けられない、

自動的に留年決定と言うわけだ…。


ミクは重い体を机に向かわせる。


(何だってこんな気分の時に限ってこんな物やらなきゃいけないんだろう??)


課題は教科書を丸写しするだけの簡単な物だった。

頭を働かさなくてもできるからちょっとありがたく感じた。

だけど、それは本当に莫大な量で…。


今までどれだけ自分が彼に振り回されていたか思い知る。

チクタク時計の音が耳に響いては消えて行った。


どうして、終わらないの?

甘く見てた…。

何もかも…。


恋も…。


ミクの頭の中を色んな気持ちが交差して、ますます気持ちは落ちて行った。


別れたってまた運命が重なれば巡り会えるって思ってたし、

彼女がいたって本気になれば想いが伝わるなんて…甘い気持ちでまた彼を好きになった。


甘かった。


私が悪かった。


もう…


彼とは…


終わったんだ…。


ミクの手は止まっていた。


やっぱり課題どころじゃない。

バイトとかも、何か違う。


やる事は沢山あるはず…。

でも、違うんだ全部。


知ってる、解ってる。


彼がいないとこの世界中も、

これから来る夏さえも、


無意味。


駄目なんだ。


私の心の中に悲しい気持ちがどんどん広がって行った。

もう彼と顔を合わせたくない。

だけど…


悲しいよ…。


課題はちっとも進まないまま時計の針だけが進んで行った。

もう夜中の1時を回ろうとしている。


もしも…今彼が私に会いに来てくれたら…。


ミクの頭はやっぱりリュウタの事でいっぱいになっていた。


神様がいるならもう一度彼と…。



…そしてその時、奇跡は起きた。



机の上、散乱する課題の山の中からオルゴールの音楽が流れたんだ。


リュウタの着信音。


もう鳴らないと思ったし、鳴らすのもやめようと思った彼の音。


出る?出ない?


(そんなの決まってる…。)


ミクは深呼吸をして携帯を手に取った。


「はい、もしもし?」


精一杯普通の声のトーンを装って、何でもないフリをする。

だけど、彼が逆に普通じゃなかった。


かすれた様な弱々しい声でいつもの明るくて威勢のいい彼の声とは明らかに違っていたんだ。


「どうしたの?何かあったの?」

私はすぐに彼の異変に気がついた。


リュウタのかすれた声が小さくつばを飲みこんだ後こう言った。


「俺、彼女と別れたから…。」


…え??


「さっき彼女と別れたんだ、もうお前とは無理だからっていったんだ。…今すぐ会いたい。」


リュウタの細い声は、まるで泣いているみたいで、

小さい動物の様にとてもか弱く今にも消えてしまいそうな程震えていた。


「どうして?昼間私が変な事言ったせい?」

「違うよ、ちゃんと考えて…。でも…」

彼の声がかすれて濁る。

「でも…何?本当にそれでいいの?大丈夫なの?」

リュウタの震える声が、ミクにも同じ様に不安を感じさせた。


どうしよう…どうしたらいいんだろう??

解らなかった。


リュウタが小さな声でつぶやいた。


「寂しい。…お願い側に来て。」


いつも強気な彼の態度はどこにもない。

ただ、ちっぽけで消えてしまいそうな光の様に、彼の存在を尊く想った。

リュウタがどんな気持ちで電話をかけて来たのか、

そして、私はこの先どうなるんだろう?


頭を過る色んな気持ち。

言葉ではうまく言えない感覚。

私は初めて感じたんだ。


(こーゆーのを愛しいって言うんだろうな。)


リュウタの辛さなんて解らない。

私、今最悪な人間になってる。

だって、彼がまた電話をくれて、彼女と別れたって言って、

私を頼って、弱くて、小さくて、そんな彼にこんなにも…。



ドキドキしている…。



こんな時人間って本当にずるい生き物だよね。

こんな気持ちになるなんて、

自分って嫌な奴だよなって本当思うよ。


「私、前言ってた課題明日までだから、終わってからしか行けないよ?」

(本当はいますぐ行って触れたいけど…。)

ミクの返事を聞いて、リュウタは催促する様に念を押した。

「いいよ、待ってるから、早く来て。」

私はそんな彼をとても愛しく想っていた。

「解った。待ってて。」


私は山積みの課題を猛スピードで片付けた。

それから、2人でやってもばれなそうな課題をカバンにほうりこんだ…。

この貴重な夜が終わってしまう前に彼の家へ行くために。


それから、部屋にあった制服を適当に着て、

原付きのエンジンをかけた。


親に見つかって止められたけど、そんなの知らんフリだった。


AM12:30。


ミクは通い慣れた道をいつもよりスピードを上げて走って行った。



リュウタの消えてしまいそうなその光で、

私は自分の未来を必死で照らしていたんだ。



通い慣れた道は驚く程遠く感じたけど、

誰も居ない真夜中の道も、

その時のミクには全然怖くなかったよ。


AM12:30


彼の家がもうすぐ見える。



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