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優しい(?)嘘つき

次の日リュウタの部屋はやっぱり何かが違っていた。


片付けられた机、キレイに並べられた雑誌に、何となくさっぱりしたベット周り。

それからTVの上に何故かハート形のプレゼントの箱??が飾られて…。


あきらかに彼女の空気が漂ってる…。

私のパンダのぬいぐるみもいつのまにかクローゼットに戻っちゃってるし。


(なーんか嫌な気分!!!)


もちろん文句は言えない。

彼女が家に来て掃除したからって何にも問題ないし普通だし。

でも何となくベットには目がいってしまった…。


2人はこのベットで昨日、どんな風に何をしてたんだろう…。


気になる!!!!


リュウタの唇の感触や、華奢な体を何となくだけどずっと覚えてた私は、

何となくリアルな妄想が頭に広がってしまった。

もちろん口出しできる立場ではないんだけど、やっぱり彼女の存在は妬ましい。


私にそんな権利はもちろんないんだけどね。


そして、人の気なんて知ってか知らずか、(たぶん知らない。)

リュウタもまた今日は一段とおしゃべりだ。

「彼女が来てもする事なんて特にないしさぁ、掃除とか始めたら何か全部やりたくなっちゃて。」

私はいかにも興味なさげに「ふーん。」と答えた。

「ほら!」

彼はTVの台に足をかけると、身軽にエアコンに手をかけて、

「こんな所までね。」

ピカピカのフィルターを見せていつもの笑顔を浮かべていた。

「本当だ。」

確かに彼女の仕業ではなさそうだ。

でも何かそんな会話をしている自分達がちょっと間抜けに思えた。


何かイライラする…。この状況…。


なぜかってやっぱり、ハートのプレゼント箱や、おやすみのメールがなかった事や、それからそんな

細かい事が気になる自分や、文句を言えないこの立場や…。


うん、色々ある。


それにやっぱり彼女が久々に来て、そんな状況なはずがないと思っていたからかな。

別にいいんだよ。

だって私はそんな事承知で今日も来ているんだもん。


だけど、「掃除してて…」なんてずっと話してる彼の態度も何だか腹が立つ。


もちろん「昨日エッチしてたらさぁ」なんて普通に話されたら気分悪いし、

自分もそんな事聞きたくないんだけど…。


でもこんな会話って(なめてんの?)なんて思っちゃう時もある。

もちろん口には出さなかったけど。


それから、彼はしばらく“昨日は大してやる事なかった話”を続けた。

やましい事があった言い訳か、気を使ってくれたのかもしれない。

そんな感じで、せっかく彼が色々話してくれたけど、私は全部興味なさげに、

どーでもよく「ふーん。」と返していた。


鈍感な彼も、さすがに今日のミクは機嫌が悪いらしいと思ったのか、

「ちょとトイレ…」なんて、部屋を出て行った。


私は一人ベットに転がって、

ため息まじりに彼の部屋を見渡してみる。


あの頃…彼の家が新しくできたのは、確か中学一年の終わりくらいで、

もちろんこの部屋に初めて入った女の子は私だったはず。

家具の配置も、心地よい木の温もりも、暖かい日射しや香りも、

何も変わらないのに、この部屋はもう全然居心地のいい部屋じゃない。


窓辺をすり抜ける風邪が風鈴のいい音色を運んでいるけど、

その風鈴をあげたのが私だって事も彼は絶対覚えていないだろうな。


この部屋を埋め尽くしてるのは、違う女の子と彼との時間なんだ。


私の居た時間は、もう昔話でしかないんだなって思うと、

まだ会った事もない彼女の存在に対して、

“嫉妬”や敵対心を感じずにいられないので、また悲しさが増した。


彼を手放した事、いっぱい反省するから、彼を私に返してちょーだい…!


そんな事口にしたら、千理にぶんなぐられるだろーなぁ。なんて…。

ぼんやり天井を見つめながらそんな事を考えていると、

聞き慣れたメロディが耳元でまた鳴ったんだ。


確かコレはミスチルの「抱きしめたい。」かな?

たぶん千理が設定した、彼女専用の着信音。

今最も聞きたくない、超耳障りと言っていい音楽。


「も〜〜@@¥☆!!」私は重い体を引きずる様に、携帯に手を延ばして、

枕の下に投げ込んでくれるリュウタはまだ戻って来てなかったから、

うるさいし、とっとと音を消そうと携帯を開いた…。


たった数秒が待てないくらいイラついていた。(早く消えろ!!)


でも、こんな時って悪い偶然(むしろ必然なのかも。)が重なる物で、

適当なボタンで音は鳴りやんだけど、うっかり彼女のメールを開いてしまったんだ。

(またやっちゃった…。)


そして、そのメールは、私を最低最悪な気分に突き落とす事になる。


それは、例えば、鈍器で殴られた様な、頭がカチ割れる様な、頭痛が走る朝の様な、

要するに、平気じゃいられない、怒り?嫉妬?何?


解んないけど、嫌な感じ。


彼女のメール。


最初はまぁ、昨日はたのしかったよ〜とか普通のメールで、

悪かったのは最後の一文。

それさえ見なければ、私の人生は変わってたのかもしれない。

大げさかもしれないけど、それくらい私には刺激の強い文だったんだ。


【まぁ、昨日はお風呂ですごい気持ち良くしてもらったし、許してあげる。またしよーね。】

なんて感じ…。


ブチン…!!!いや、カチン!!かな…。


私の頭で、何かが確実にキレル音がした。


いいよ、別に、恋人同士何しようが関係ないよ?

勝手にやればいいよ…。

自分に言い聞かせるけど、コントロールがスデに効かない状態だった。


何で…


どうして…


私をコレ以上悲しませて何になるって言うの…?


辛い、痛い、どーしようもない。


その時すでにミクの目から、自然と涙が出て来ていた。

私は弱気な上に涙もろかったから、

今日までこらえて来れた事自体すごいくらいだったんだけど…。


そしてその後は次から次へと涙が出る一方だった。


部屋に戻ったリュウタはそんな私を見てもちろん驚いた。

「何?どーしたん?」

リュウタは慌てて辺りを見渡す。

転がってる自分の携帯を見つけると、

怒るのも忘れて“しまった!”って顔をした。


「見たの?コレ…えっとぉ…ごめんね。」


ワケガワカリマセンが?


必死になだめてくれる彼の事が何だかとっても滑稽に思えた。


別に悪い事もしていない癖に謝る彼に余計腹が立った。


「何で掃除とか言うの?本当の事言えばいいじゃん!バカ!!」

それから私は彼と再会してから、初めて声をあげて泣きだした。


最も昔はこうやってバカみたいによく泣いた気がする…。

あの子と仲良くしたから、適当に返事したから、後輩にラブレターもらったから…。

色んな時、色んな事でよく怒った。


でも…


今はそんな風に泣ける立場じゃないって知っている。

だから泣けなかった…けど泣いた。


リュウタは「落ち着けって」と困った顔をした。


「私の事どうおもってるの?何とも思ってないならつまらない嘘付かないでよ!」

「別に嘘じゃないよ。ただ、言うのも変でしょーが。」


(確かにその通りだ…。)


「私を好きって一体何?わけが解んないよ。」


(全くその通り。)


そして私は自分が昔彼に宛てて書いた手紙を思い出していた。


〈リュウタは本当に私を好きでいてくれているの?私ばっかりがこんなに好きで、一生懸命なのはどーして?〉


まさにその心境だった。


リュウタは元々女の子の扱いには慣れている方じゃなかった。

あの頃も、そこそこモテていたけど、女の子に優しくする方じゃないし、気の効く方じゃなくて、

こんな時どーしていいか解らないんだろう。


そーゆう不器用な彼が好きだった。


…でも、さすがにもうしんどいなぁと思った。


リュウタはとりあえずTVを付けた。

私はめったに怒らないけど、一度怒ると、何も喋れなくなる人だったし、

リュウタも都合が悪いとだんまりで、お互い言葉が見つからないから、

この部屋にTVがあって本当に良かったと思う。


勿論2人ともTVの内容なんて耳に入っていなかった。

無意味な雑音でしかなかったけど、とりあえず重い沈黙をTVが埋めてくれて、安心した。


ひとしきり泣くと、私は少し落ち着きを取り戻していたけど、

やっぱり空しさは消えなかった。


「大丈夫?落ち着いた?」

リュウタがきまずそうに顔色を伺って来る。

「うん、ごめん。」

「いいよ。」


それから私はまた聞いた。

何かどーでもいい気分だった…。


「ねぇ、私を好きって言ったのはなんだったの?友達としてって意味?浮気相手としても見てくれないの?」


リュウタは予想どおり困った顔をして、


「解んない…」

と言葉を濁らせた。


でも彼はとても不器用だった。

別に本当にだまそうとかそんなつもりじゃないんだろう。

ただ、本当に言葉が見つからないといった感じだった。


それから再びリュウタがTVに目をやろうとする。

(何で私を見てくれないの?)

リモコンを取り上げてTVを切ってやった。

だけどまた、恐ろしい程の沈黙に包まれて、私まで途方にくれてしまう。

でも何か喋らないとと必死だった。


それからミクは、ゆっくりと自分の話をし始めた。


「あのね…。」

「うん。」

「私、まだ処女なんだよね。」

「はぁ?マジで!?」


リュウタはビックリして目を見開いている。


「嘘…とっくにかと…」と言ってまた黙り込む。


確かに嘘じゃない。

ミクは処女だった。


中学生の時点で、リュウタとも途中までしていたし、

高校に入ってからだって何人か彼と呼べる人はいた。


だけど皆“途中止まり”なぜかってやっぱり痛そうで怖かったのと、

そこまでその行為に興味が湧かなかったのが原因。


もっと人として深く繋がっていられる様な彼が欲しかったし、

ソレをしてしまうと、先にはもう心のつながりはなくなってしまう気がして魅力を感じなかった。

で、気付いたらもう18にもなってしまったのだ。


要するに、すごく幼い女の子だった…。


「引く?こーゆう子は好きになれない?」

私が悲しそうな目を向けると、リュウタは慌てて、

「なんでそんな事言うの?別にそんなのいいじゃん。」

そう言ったけど、

何だか私はリュウタの彼女よりもずっと自分が子供で、

女として劣っていると感じてしまったんだ。


そーなるともう自分がみじめで価値さえない気がしてしまう。


悪い癖。


それから、

「浅田くんとかとして来たらどーする?」

冗談ぽく聞くと、リュウタは少し怒った様に、

「やだよ!」と言った。


一瞬嬉しかった。

けど、

それはお気に入りのおもちゃを他の子供に貸したくないとか、

欲しかった服を友達に先に買われた…みたいなそーゆう「嫌」っていう程度しかないんじゃないかって私は思った…。


好きと言う一つの言葉の中で並んでいても、私達は対象じゃない。

ふ揃いでガタガタ…左右比対称。

だからこそ、こんなに好きになれて、美しいと思っちゃうんだろうか?

私の気持ちだけがどんどんはみ出して形を崩してしまうのが解る。


リュウタはきっとこんな私を好きになってくれない。


あ〜自信持てるわけない。


「あの頃拒まずやってれば良かった。」

「何言ってんの!」

リュウタの表情は、ますます気まずそうに困った笑顔で強張っていった。


あの頃も、

そして今も変わらず、


キスも、


もちろんエッチもなしに、


ただ隣に並んでいた私達。


キレイだったよね。


汚い物は見なくて良かったし、そーゆうの純粋っぽくて…。


でも女と男だから、やっぱりそれじゃ一つになれない。

こんな私を彼女より好きになってくれるわけないじゃん。


「今日はもう帰るね。そんで浅田くんとか誰かに処女でもささげてくるか〜。」

「何言ってんの、お前アホだなぁ。」

「アホだよ。アホだしバカだよ。別にあんたの彼女でも何でもないもん、関係ないじゃん!!」


リュウタはまたおしだまってしまった。


「じゃーね。」

軽く肩を叩いて部屋を出る。

自分でも飽きれるくらい嫌な奴になってる、

でも他にどんな態度をしたらいいか思い付かないし…。

「バイバイ。」

「…うん。」


私はその時

この恋はもう絶対に動かせない。

もう駄目だって思ったよ。


もう彼に期待する事も、自信を持つ事も、

我慢も限界だったんだもん。


もう終わったってその時は本気で思ってたんだ。

















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