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告白。

ゆっくりと、確実にミクとリュウタの関係は変わって来ていた。


季節はもう、暑さも本番にさしかかる7月の初旬の事…。


私は留年するかもしれない程勉強してなかった。する気もない。

リュウタからの短い【おやすみ】と、少ない誘いだけが、心の支えそのものだ。


ある日、担任の小森先生から呼び出される…。


小森はとても熱血な教師だ。

リュウタの話をした事…ミクは後悔した…。


「ミク、お前本当にやる気ないなぁ…次のテスト頼むよ。絶対60点以上取ってね。」

小森は頭を抱えてミクを困った顔で見る…。

「解ってますよ、ちゃんと卒業するから今は放っといて下さいよー。」

いつもの様に聞き流す。

「お前さぁ、もしかしてまだあの元彼と関わってんのか?やめた方がいいいぞー。恋なんてさぁ、一瞬の事じゃん?お前も解ってんだろ?どうしてそう見返りのない恋に走るのかなぁー。」


いつもの説教が始まった…。


去年までの小森はこんな事言う人じゃなかったのにな。

先生も応援してる!なんてはしゃいでたくせに、担任ともなると、その子の進路や態度が自分への評価へと繋がるから…。

大人も大変らしい。


「先生には解んないよ…。今私達の目の前にある大切な物が何かなんて…。」


私はそれだけ言うとさっさと荷物をまとめて教室を出る。

だって今日もリュウタと遊ぶ約束をしてるんだもん…。


その頃の私にはそれが全てだった。

数少ないリュウタからの誘いを断るのは絶対、絶対できなかった…。


でも最近のリュウタの態度、今までの“友達だから”ってゆうのとはまた少し違う気もするんだ。

だって、めんどくさがりのリュウタが興味ない女の子に毎日メールを入れたりするわけないもん。

少しづつだけど、リュウタも私を意識し始めている気がする…。


とにかく今は誰にも邪魔されたくない、口出ししてほしくなかった。


外を見ると、小雨がパラついていた。

でもリュウタと会える…私は気にせず駅に向かった。


駅に着くと、友達の傘に入れてもらいながら、私を待つリュウタが見えた。

私が声をかけると、小走りに近付いてくる。


「今日俺が運転手してやるよ!」


無邪気に笑う彼が今日も愛しい。


「やだ!あんた絶対運転荒いもん!怖い!」

そんな事を言いながら、いつもの様に平然を装うんだ。

「バーカ。俺中免取ってんだぞ?お前より上だろーが、ほらどけ!お前は後ろだ!」

私は無理矢理後ろに乗せられて、あーでもないこーでもないってしばらくもめたりして…。


本当はね、こんな時間がめちゃくちゃ好きだったりする。


そんなやり取りを見ていたリュウタの友達に「それ、彼女?」なんて聞かれると、

「違うよ。」って2人揃って返事をするけど、何となくにやけてしまう自分を隠すんだ。


夏とは言え、パラパラと小雨が体に当たるとても寒い日だった。

リュウタの運転はやっぱり荒くて乗り心地は最悪。

それでもリュウタの背中は大きくて、暖かいから、その日も私のドキドキは止まらなかった。

こんな時決まって考えるのは一つ。

もう死んでもいいかな…なんて。


家に着くと、さっそくリュウタはお目当てのパソコンで作業を始めた。

たいくつそうに覗き込んでいると、

「もうちょっと!」なんて甘えて言って来る。

私はこの笑顔にもわがままなところにもすっごくすっごく弱かった。

(かわいいなぁ…)

「ねぇ、今日この後用事あるの?ないならゆっくりしてってよ。どーせ誰もいないから。」

「うん、別に用ないし俺も暇だからいいよ。」

それからリュウタの用が済むと私の部屋で、またたわいもない話をした。

最近の学校の事とかどーでもいいTVの話とか、


いつもの様に、お互いに無意識に距離を取って…。

でも私はそんな時間さえも幸せだと思っていた。


完全に彼に依存し始めていた。


もっと近くに、せめて手が触れられるくらい近くに行きたい…。

ミクの欲求はどんどん膨らんでいた。


これ以上気持ちを口に出さずにいられなかったんだ…。


「ねぇ、彼女とはどうなってるの?何かいつも電話とか出ないけどうまくいってないの?」

リュウタの顔が少しこわばった…。

雨で薄暗いせいか…部屋の空気が一瞬で凍り付いた気がした。

リュウタは言葉を選ぶ様にぼそぼそと答える。


「別に…。付き合い長いと近くにいるのが当たり前って感じになるじゃん?嫌いってわけじゃないけど、恋愛感情があるのかって聞かれたらちょっと解んなくなってるって気もするけど…。どーだろう。」


「そっか…。」


予想度通りのあいまいな答え、リュウタは気持ちを隠すのが上手かった。

あんなに詮索しないって決めていたのに、やっぱり人間なんてわがままで、我慢や思いやりなんて所詮奇麗ごとのままごとだ。

私もそんな女の一人…リュウタの気持ちが欲しかった、愛されたかった。


「でも彼女と別れようとかは思わないんでしょう?」


「…。」


リュウタの視線が私をすり抜けた。

やっぱりまだ聞いてはいけない事なのかな…。


雨の音がいっそう強くなる。


それでも私の心臓の音は一層大きくなっているに違いない。


リュウタが好きなんだよ。

解って…。


「あんた、あたしが彼女の事全然気にしてないとでも思ったのー?好きなんだから気になっちゃうに決まってんじゃん!でも別に責めたんじゃないよ?聞いただけだよー!怒んないでよー!!」


聞会話の流れが何だか変になる。

彼の顔がまっすぐ見れなくなってきた…。


リュウタは少し驚いた様な顔で

「マジで…?」とつぶやく。


その表情は少し照れた様にも取れるし、困った様にも見えた。

彼の心がどんどん知りたくなる。

やっぱり自分が想う様に想われたい。

もうひとりぼっちは嫌だったんだ…。


「あたしが好きって言ってるの冗談だとでも思ってたわけ?」

冗談っぽく聞いてみた。

リュウタは私の悲しそうな顔を覗き込んで、機嫌をとる様に言った。


「まさか…そんな事ねーよ。」


リュウタもぎこちない笑顔を浮かべる。

でもどことなく私の顔色を伺ってるみたいだった。


雨の音が一層強くなる。


リュウタの表情がまじめに見える。

もちろん私はそれを見逃さない。


いつになく真剣な表情の彼。


私もつられてマジになる…。


さっきまでおちゃらけていた2人。

ベットの上で、少しだけリュウタに近付くと、


2人の視線がぶつかった…。


好き…。


ドキドキして、熱くなった…。


彼から視線がそらせなくなった。


リュウタもきっと気付いてる。

私はもう彼の事しか考えられなくなっていた。


早く気が付いて…。


リュウタは頭を抱えながらはぐらかすみたいに笑って言った。

「こう見えても俺だってねー、結構悩んだりしてるんだからー。」

そう言って目をそらすと、一瞬困った様な顔をする。

でもおちゃらけた感じじゃない。


「ミク…。」

リュウタが小さくつぶやく様に名前を呼んだ。

リュウタの口元がゆっくり動く…。


“彼女が好きだ”とか“ごめん”なんて言葉だったらどうすればいい?

私は必死に笑顔を作る。


泣き出しそうだった。


「ちょっと困った?そんなマジな顔しないでよ、冗談だよ!リュウタが彼女好きだって事もちゃーんと解ってるし、リュウタが私を好きじゃなくてもいいの、ちゃんと解ってるんだから!」


めいいっぱいおどけて見せる。


だって困らせたいわけじゃないんだもん…。


ただ、彼を好きなだけなんだ。


別に彼と彼女をめちゃくちゃにしたいわけでもないんだよ。

本当に本当に、ただ、一秒でも長く一緒にいて、一ミリでも距離を縮めたいだけ。


でも、時々ミクはこんな自分をはがゆく思う。

奇麗事ばかり並べてる。

2人を壊すのは悪い事、でも自分も好かれたいなんて、自分でもあきれる程、偽善者でずるい生き物だ。

自己嫌悪を感じる…。


でもそんな風にしか彼を好きでいられなかった。


彼には彼女がいる。

じゃあ、私は何だろう?


彼の口からどんな言葉が出るか予想もできなかった。

急に怖くなる。

彼の口から改めて“友達”とは聞きたくないと思った。

ミクはベットから立ち上がろうとした。


…と、その時…。


グイっ!!!!


「うぁ!!」


強い力でベットに戻される。

リュウタの大きな手が、私の腕をしっかりと掴んだ。


…何?


私は思った。

リュウタの中の答えなのかな?


縁を切りたい?


それとも、このまま良き友達で?


リュウタは彼女と別れる気ないし、私を好きなはずじゃない。

ミクは心の奥で小さな決心をした。


〈友達って言われたらもう少し頑張ろう…。縁を切るって言うならちゃんと…アキラメナクチャ。〉


リュウタがミクに少し近付いて、2人の視線が重ると、

治まった熱が、また体中に広がってきて緊張した…。


ミクの心臓はドキドキして、爆発寸前だ。

腕を掴まれただけでも興奮する。

もう冷静でいられない。


いつもより少しまじめなリュウタの顔がそこにある。

いつも距離を取っていたリュウタの腕が、ミクの腕をしっかり掴んでいる。


お願い…縁を切るなんて言わないで。


緊張が走る。


リュウタが小さな声でつぶやいた。




「…そんな事ねぇよ、好きだし。」



「え…。」



一瞬の事だった…。



「嘘だ…。」


「嘘じゃないよ。」


信じられなかった。

頭が真っ白になる。


モウシンデモイイ…。

またそう

思った。



私は思った。


この恋が終わってしまっても、いつか他の誰かと恋をしても、おばーちゃんになったって、

今日の事一生忘れないだろうなって。















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