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落ち着かない日/2

 昼休み、啓介は食事もとらずに自分の席に座ったまま考え込んでいた。

 朝は結局、瓜生を見つけることはできなかった。

 電話をかけても電源が入っていない状態だし、メールを送っても何も反応が無い。

 それどころか生徒指導の教師たちに呼び出され、昨日の出来事を根掘り葉掘り聞かれたのだ。

 本当に瓜生一人でやったのかだの、お前は手を出してないのかだの、何でお前まであそこにいたのかと聞いてくる。

 それはこっちの方が聞きたいと声を上げたかったが、啓介はありのままの事を話した。

 どうやらあそこにいた不良十五人が全員打ちのめされた噂は本当らしかった。

 瓜生は朝からその事が噂になっているのを知り、暴行の事情を問われるのを嫌って下校したのではないかと言うのが教師たちの見解だった。

 一方、啓介の方は大人しいこいつが、瓜生と一緒になって暴行したとは考えにくいだろうと早々にクラスに返されたのだった。

「啓介、飯食べないのか」

 心配そうに岩崎が寄って来た。

「ん、ああ……」

「どうしたんだよ。朝からその調子じゃないか。先生たちに呼び出し喰らったのがそんなにショックなのかよ」

 別に呼び出されるのは何ともない。別に自分悪さをした訳じゃないのだ。

 啓介は早く瓜生に会って確認したいのだ。本当に昨日別れた後、あの連中に暴行を働いたのかを。

「ああ、そういやあもっちゃん、今日休みみたいだなあ」

「え?」

「坂本だよ。あの噂好きのもっちゃんが見えないんだぜ? アイツの好きそうなニュースなのに、もったいない」

「そういえば……じゃあこの噂ってどこから?」

「知るかよ。朝来たらあちこちで噂になってたぜ。お前と瓜生が公園に連れてかれるの見たって人がいたらしいって。まあ放課後だから別におかしくもないけどさ」

 啓介は噂の出所が妙に気になった。

 噂好きの坂本がいないのがなぜか引っかかったのだ。

「そういやあ坂本君も昔不良連中に囲まれたんだったね。彼の気持ちが分かったよ。僕も生きた心地したかったもんね」

 以前、坂本がその口の軽さと噂好きが災いして不良に囲まれた話を思い出した。

「殴られるとあんなに痛いんだねぇ」

 笑いながら腹をさする。

 と、岩崎の表情が曇っている。

「ん? どうした、岩崎」

「もっちゃんのあれなあ、まだ続きが……」

 その時啓介のポケットが震えた。携帯電話のバイブモードだ。

(瓜生君か!)

 慌ててポケットから電話を取り出し、画面を確認する。

 メールが一件。

 開くと瓜生からではなかった。が、啓介の胸は高鳴った。

 それは沙耶からだった。

 話の途中だった岩崎は啓介の表情が明るくなったのを見逃さない。

「女だな」

 啓介はニヤリとしたが、多くは語らない。

 メールを開くと―――


 今日の九時、学校で会わない?


 啓介の鼓動は早くなっている。

(またデートの誘いだ。でもなんでわざわざ学校なんだ?)

 疑問にも感じたが、それ以上にまた沙耶と二人きりになれるうれしさの方が上回った。

 昨日キスまでしてしまった仲なのだ、無理もない。

(沙耶はどんな顔してこんなメールしてるんだろう)

 不思議なもので今朝はあんなにも沙耶と顔を合わせるのが照れくさかったのに今は沙耶の顔を無性に見たくなっている。

 まだ話の途中だった岩崎を尻目に啓介はすたこら教室を出ていった。

 廊下の冷水器で喉の渇きを潤すと、A組を恐る恐る覗いてみた。

 教室は昼休みの賑わいをみせている。

 隅々まで目を凝らすが沙耶の姿は無い。

(どこかに行ってんのかな)

 校内のどこかに沙耶はいるのだろうか、そう思い入り口の傍で会話している女生徒に思い切って話しかけた。

「あの……お、大久保さ…ん、は?」

 啓介は滅多に女子に話しかける事がないからどこかぎこちない。

 声を掛けられた女生徒もどこか怪訝な顔をして啓介を見た。

「ああ、大久保さん? 今日は来てないんじゃないかなあ。そういえば朝から見てないわ」

「え?」

(沙耶も休み?)

 啓介は妙な胸騒ぎがした。

(どうしたんだろう。休んでる日の夜にわざわざ会おうだなんて……)

 朝からいなくなった瓜生、学校を休んでいる坂本と沙耶。

 これは偶然なのだろうか。

 廊下に出てふと窓に目をやると生物教師の竹本がいた。

 自然と啓介は竹本の動きを目で追っていた。

 追っていると竹本はバッグ片手に校門の外へと出て行く。

(どこ行くんだ、竹本の奴)

 これも偶然なのだろうか、そう啓介は頭の中で繰り返していた。










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