黒きリリスは氷の貴公子と白い結婚をする
帝国社交界に激震が走った。
それは一組の男女が婚約もなく結婚したというのだ。
婚約期間のない結婚は珍しいがなくはない。問題はその男女がある人物たちということ。
夫となるは、オルバンス公爵家の若き当主であり、帝国騎士団の副団長 ケルビン・オルバンス。
雪のような銀髪とアメシストを想わせる紫の瞳。整った顔立ちと引き締まった肢体。
彼は当然として婦女子たちの注目の的で声をかけられることも多かったが常に淡々とした態度で一切振り向かない姿勢は一部で『氷の貴公子』と呼ばれ。
女性達の間では近づかず観賞用として楽しむのが暗黙の了解となっているほど。
そんな男の妻となったのはこれまた有名人。
『黒きリリス』の異名をもつ、ルルシアナ・ナタニエル伯爵令嬢。
リリスとは神話で悪魔の母とされる存在で魔性的な美しさを持つ女性をさしていた。
ルルシアナはまさにそのような美しさを持つ女性だった。
夜を切り取ったような黒髪に海が閉じ込められた深い青の瞳。雪のように白い肌、豊満な胸元、人形のような顔立ち。
その姿は一度夜会で見れば男女問わず目が離せない。そんな存在だった。
多くの男が口説くがさらりとかわし、そのくせ家に届けられた高価な贈り物は恥ずかしげもなく受け取る。
お茶会に誘われても断られる。
黒いドレスに身を包み、夜会でのみ男を誘惑する。それが彼女の異名の由来だった。
美しさ以外ある意味対局にいるこの二人の結婚。
夜会で話している姿を見たものはいない。
結婚式は高位貴族の結婚なのに少人数で披露宴すらなかったそうだ。
氷の貴公子もリリスには勝てなかったのか?
それともリリスが公爵家の財に目をくらませたのか?
様々な憶測が飛ぶが誰も真実を知る由はなかった。
結婚式の夜、私は初夜用にと用意された薄い生地の夜着をまとい寝室にて夫を待った。
けれど夜が明けてもドアが開かれることはなく。
訪れたのは朝の支度をするための侍女だった。
「君には白い結婚をしてもらう」
一人での朝食後、旦那様の執務室へと呼ばれた。
側仕えを全員部屋から出して、初夜でなく初めての二人っきり。
旦那様と向かい合わせに挟んだテーブルの上に書類が置かれた。
「確認して、サインしてくれ」
私に断るという選択肢はないようだ。
以下の甲をケルビン・オルバンス 乙をルルシアナ・オルバンス(旧姓 ナタニエル)と記す
・乙は甲と白い結婚をし、恋愛的・性的な感情を甲に向けない。
・乙はオルバンス家の家政に関わらず、使用人に対しての権限を持たない。
・乙は甲から貰った妻としての予算を超える散財はしてはいけない。
・乙は他の男性と子を成してはならない。(遊ぶことは制限しない)
・乙は甲と接触をさけ、名を呼んではならない。
・乙はこの契約書について口外してはならない。
・乙が以上の事を破った場合は乙有責で離縁とする。
・教会に白い結婚を申し立て認められ次第、乙に一定の資産譲渡のうえ離縁する。
「ご質問よろしいでしょうか?」
「・・・なんだ?」
「私は女主人としての一切をせず、いただいた予算で好きに過ごしていれば良いと言うことでしょうか?」
「あぁ、余計な事はしなくていい」
「承知いたしました。社交はどういたしますか?夫婦で招待された場合はエスコートがあるので接触は避けられませんが」
「確かに・・・ではその時のみ最低限の接触を許可しよう。君、個人の社交は好きにして貰って良い。まぁ婚姻期間中は我が家の名を貶めないぐらいは慎みを持って頂きたいが」
「承知しました。あともう一つよろしいでしょうか?」
「なんだ・・・」
―――――――――――――――――――――
「ふぅ」
私は一息ついた。
普段はこんな気の抜いた姿は見せないが執務室には一人だし問題ないだろう。
「しかしあの女があんな事をいうとはな」
机の上の先程サインを貰ったばかりの契約書に目を向ける。
結果としてはこちらの要望は全て受け入れられ私達の間に白い結婚は成立した。
正直結婚後の騙し討ちに近いこちらの要望に文句や拒否を唱えられるのは覚悟していた。
その場合の対策だって考えてあったが彼女はとくに反論することなく、なんなら協力的なほど受け入れていた。
彼女が最後に提案してきたのは私に対しても一部同じ条件を誓約すること。
もちろん我が家に関することは当主である私の領分だ。
彼女が求めたのは1、5、7項目のみ。
要は私から彼女に対しても好意を持たないと言うこととそれを破れば破った側の有責で離縁するといいうだけ。
あとはこの契約は両者の合意なく破棄できないと付け加えた。
ある理由から私が彼女を好きになるなんてあり得ない。
だから何の問題もなかったが、何故かと一応彼女に尋ねれば。
「先の内容ですと教会から公爵様が妻を虐げる者と捉えられかねません。両者が納得の上の契約とするほうが後に有利かと」
思っていたより頭がいいのかもしれない。
この女の思惑は分からないが提案を承諾した。
そうして契約が済むとそそくさと部屋を退室していった。
私は計画がつつがなく済んだことに安堵して一息ついたのだ。
コンコン
「入れ」
「失礼いたします」
「ロバーツか」
入ってきたのは執事であり側近のロバーツ。
「それで、奥様はどうだった?」
扉を閉めると言葉遣いが軽くなる。普通なら主人に対して無礼と取られかねないがこいつは私の乳母の息子で幼なじみということもあり、このほうが気楽でいい。
もちろん他人がいるときは弁えているので問題ない。
また唯一、この白い結婚を知っている。
「すぐに受け入れた。しかもこちらに有効な提案もした上で」
私は契約書を見せた。
「なるほど、ケルビン様には何の不利もないな」
「ああ、これでとりあえずは納得してくれるだろう」
結婚を急いだ理由は両親だ。
既に私に家督を譲り領地で隠居している為ほとんど顔は合わせないがここ最近結婚どころか恋人など浮ついた噂のない息子に気をもみ、いらぬ世話をしてこようと画策していた。
貴族、しかも当主となれば政略結婚も世継ぎをもうける事も当然の責務だ。
けれど私はそれをしたくなかった。
ただの我儘だがどうしても耐えれなかった。
そんな時一つの策を考えた。
一時的に結婚し、白い結婚を理由に離縁するというものだ。
未婚のままでは両親も親族もうるさい。けれど一度離縁した男なら見合いの申し込みも減る上にその頃には年のあう適齢期の女性も減っているはず。
後継者は親族から養子をたてればいい。
ただ唯一の懸念はその結婚の相手に誰を選ぶかというものだ。
家格が低すぎればそもそも身内が認めないだろう。逆に高すぎればこちらの要望を聞き入れる利などない。下手したら弱みをつけ込んでこられかねない。
家格は伯爵程度で金銭的に困窮し、かつ私に関わらずいてくれるならなお良い。
そんな都合の良い婚約者のいない相手はやはりなかなか見つからなかった。
私自身あまり夜会に参加しないためそういった付き合いが少ないのも関係していた。
しかし悠長にしていれば領地から両親が押し寄せて来かねない。
「黒きリリス」その名を知ったのはそんな時だった。
目論見の為に行きたくもない夜会で情報を集めていたとき伯爵家の男が忌々しげに口にしていた。
ナタニエル伯爵家の長女 ルルシアナ嬢。
男は彼女の容姿に一目惚れし、接触を図ったが夜会で雑談する程度で約束を取り付けようとものらりくらりと躱され、いっそのことと婚約を申し入れたが断られる。
その一方で贈り物は喜んで受け取る。
あの美しい顔からお礼を言われると無駄と分かっても貢ぎ物をしてしまう。
「あの女は悪魔だ」
それでもその男は彼の令嬢を見つめていた。愛おしげに。
調べてみれば同じような男が何人もいた。
しかも揃いも揃って先の男と同じように魅了されていた。
ナタニエル伯爵家はそれなりの歴史ある家だが当代は随分と金の扱いが悪いようだ。
目に見える金に飛びつき、騙されている。なのに学ばない。
しかし彼には金策があった。それがルルシアナ嬢への贈り物。
美しさを餌に貢がせて、それを売り飛ばす。
そうしてなんとか家を持たせていたのだろう。
だがそれも彼女の年齢が上がれば上がるほど困難になるだろう。
それは私にとっては都合のいい話だ。
私は金でナタニエル伯爵から彼女を買ったのだ。
いくら美貌で馳せたといえど公爵家のしかも当主から望まれるとは思っていなかったのか伯爵は、大層喜んでいた。
伯爵家には持参金もいらず、逆に莫大な融資を行った。
かわりに求めたのは伯爵家と彼女が今後接触しないこと。
一瞬ごねたが金貨を一袋足せば、快諾された。
その場にいたのに彼女は何も口を挟まず、静かに控えていた。
あれだけの男を籠絡してきた女の眼鏡に私は叶ったのだろうか。
遠い領地までにはさすがに彼女の噂も届いておらず、ついに私が結婚を決めたと喜んでいた。私が婚約期間を設けない身内のみの結婚をすると伝えたときはさすがに戸惑っていたが既に貴族としては遅い結婚の為、万が一にでも私の気が変わっては不味いと受け入れた。
結婚さえしてしまえば彼女の噂を知ってもどうしようもないからな。
そうしてつつがなく私達は結婚したのだ。
「お前ら使用人に対してはどうだ?私が見ていないところで本性を出しているんじゃないのか?」
結婚から一ヶ月が経った。
契約通り私に関わってくることもない。
噂と違い大分大人しくしているようだ。
しかし私には上手く隠しているが見ていない所では何をしているか分からないからな。
「それがなぁ」
ロバーツは少し困ったように頬をかいた。やはりな。
「言ってみろ」
「・・・だよ」
「は?」
「・・・・んだよ」
「聞こえないぞ」
「噂と違いすぎるんだよ!」
「は?」
ロバーツからの報告は予想外だった。
「朝、夜明けとともに起床、シンプルで地味なデザインのワンピースに自分で着替え身支度」
「ちょっと待て、自分で着替えているのか?」
仮にも公爵家の女主人だ。侍女は複数人付けている。
まさか我が家の使用人が彼女を冷遇しているのか?
「ええ、しかも本人の希望らしく夜明けに起きるから無理に付き合わせたくないそうで。侍女もさすがに食い下がったようですが本人から強く希望されたらしいです」
私の頭の中はさらに混乱した。
「その後、朝の祈りを行って、部屋に朝食の準備がされるまで読書。
朝食後は、再び読書。
ケルビン様が登城後、部屋から出て温室や庭を散歩。土いじりもしているらしいです。昼食を取った後は、書庫で本を選び部屋に戻られます。
戻った後は夕食まで刺繍や編み物など物作りをされて、夕食後はケルビン様が帰られる前に就寝の準備を済ませて侍女を下げています」
「買い物や外部との接触はどうだ」
「買い物は侍女に頼んで刺繍用の糸だけで外部との接触に関しては一切ありません」
「使用人に対しては?」
「お優しいと評判が高いです。朝の事もですがご本人が家事含め大体の事が出来るそうです。さすがに私どもを手伝うのは逆に迷惑と分かっておられるのかされませんが手荒れした使用人達へ奥様の予算から保湿クリームを配られたり、新人がミスして奥様の目の前で転けて花瓶を割ってしまったそうなんですが怪我がないか心配したあと、花瓶を割った事でなく怪我をしないように注意したそうです。しかも余った予算は複数の孤児院に公爵家の名で寄付して欲しいと頼まれました」
私は頭を抱えた。
リリスやら悪魔やらと呼ばれた女性がしている生活はそれとは真反対だ。
私が出した条件は完全に守られている。
問題はないはずが何故か胸騒ぎがする。
「どういたしますか?」
「どうとは?」
「ケルビン様白い結婚を強要しても罪悪感の湧かない女性を選んだと仰っておりましたが、とてもそうとは・・・」
「・・・関係ない。今は大人しくしているが間違いなく彼女は夜会で男達を誑かしていた。それに私が本当の妻としたいのはただ一人だけだ」
「・・・承知いたしました。けれどそれが誰かすら分からないのでしょう?どうされるおつもりですか?」
「私が怪我を負った村を中心に捜索の範囲は広げ続けている。金髪は平民には珍しいからいずれ見つかるはずだ。見つかりさえすれば・・・・」
私は引き出しにしまっていた小箱を取り出す。
そこには青いコスモスが刺繍されたハンカチが一枚。
そっと触れる。これが彼女の唯一の手がかり。
私は数年前魔物討伐で大怪我を負った。怪我は治癒士にすぐ治療して貰ったので大事はなかったが、魔物の体液が目にかかった為高熱と一時的な視覚障害になってしまった。
さらに討伐はまだ終わっていなかったため他の騎士が任務が終わるまで負傷者は近隣の村で待機することに。
重傷者は教会で休ませてもらった。
その際に看病してくれた女性。高熱でうなされる私をこのハンカチで汗を拭い、手を握り落ち着かせてくれた。
おぼろげな記憶にあったのは金髪が光に照らされていたこと。
体調が落ち着き視界が戻ったときには彼女は教会から消えていた。
彼女の事を知る者はいなかった。
おそらくボランティアでたまたま来ていただけだったようだ。
教会の者たちに尋ねたが私を含めた怪我人や討伐隊への支援でバタついていたため誰も身元を確認していなかった。
一人で訪れていたから貴族ではないと思う。
まぁ、貴族だったらあんな事をわざわざしたりしなかっただろう。
しかし村にも彼女を知る者はいなかった。
まるで最初からいなかった。けれどこのハンカチが彼女がいたと証明してくれる。
これが私が白い結婚をした理由だ。
顔も知らない想い人。滑稽だと自分でも想う。
けれど彼女に恋したんだ。
公爵家や騎士という肩書きや顔ばかりに夢中で勝手にギラついた目を向けてくる女たちに辟易していた私はあの苦しみの中、寄り添ってくれたあの人に。
部屋で本を読んで、侍女が淹れた紅茶を嗜む。
白い結婚をして数年が経った。あれから私の生活は平穏そのもの。
かつて私は黒きリリスなんて呼ばれていた。
色んな方が私に誘惑されたと言っていた。けれどそんな事をした事なんて一度もない。
目立つ容姿に両親から与えられた胸元が大きく開いたドレス。
ただ挨拶しただけで誘惑していると言われ、初対面なのに二人きりになろうとする男性達を躱しただけ。
望んでもない贈り物は両親が換金して私の元には何も届かなかった。
男性達にはお礼をすることしかできなかった。送らないでと彼らに言えば言うほど「遠慮しているの?」だの「僕が送りたいから送っているんだ」と結局私の話なんて聞いてくれなかった。
それなのに最後は騙されたと被害者面するの。
婚約に関してもそうよ。令嬢に婚約の決定権なんてあるはずない。
私への贈り物が金になると分かった両親はなるべくその状況を長引かせる為にどんな申し込みも了承しなかった。
私の幸せも将来も何も考えてくれなかった両親。
そんな彼らが私の売り先に選んだのが公爵様だった。
夜会にはあまり参加されないようで関わった事もなければ名前以外はほとんど知らない。
私の外出は基本的に両親が許した夜会しかない。
まぁ、贈り物のための釣り餌としてだけど。体調が悪かろうが参加を強制された。
だから情報に疎かったがこんな噂がたっているうえにあちらにとって何の利もない女を望まれるなんてきっと何かあるのでしょう。
それでも私に選択権なんてないのです。
始まった結婚生活は予想外だった。
『白い結婚』
まさかそんな契約を結ぶことになるとは。
しかも公爵家の女主人としての仕事も人付き合いもせず、好きなだけ読書して美味しいご飯を食べれるなんて。
「幸せすぎて申し訳ないですわ」
本を抱きしめ天を仰ぐ。侍女を困惑させてしまったわ。ごめんなさい。
でもそう漏らすほど幸せなの。
かつて私は思い詰めていた。
苦手と言っても両親に無理に夜会に出されはじめて。
私を値踏みするような目線に恐怖と嫌悪を抱いた。
表情にでなかったのは幼い頃からそう躾けられていただけ。心の中では逃げ出したかった。
けれど見目だけが取り柄と言われた私に何が出来るのだろうか。
いっそ教会に身を寄せれないかとある日郊外にある教会へと足を運んだ。
当然両親が許すはずもないので母が捨てていた金髪のカツラで変装してこっそりと抜け出した。今思えば思い切った事をしたものだ。
しかし教会を訪れた日事件は起きた。
魔物が大量発生したのだ。すぐに騎士達の討伐隊が派遣されたそうだが村の外は危険な為、王都への馬車が出せなくなった。
それは仕方ないことだが何日もここに足止めされてしまっては両親に抜け出したことがバレてしまう。どうしようと途方に暮れていた。
そんなとき討伐隊の怪我人が教会へと運ばれた。
大きな怪我は治癒士に治してもらったが魔物の体液を浴びたため高熱にうなされているそうだ。
他にも怪我人は多く人手が足りてない事は明らかで、気付いたときには手伝いを申し込んでいた。
一介の令嬢に出来ることなど限られているが目の前の人達を放置なんてできなかった。
指示を貰いながら運ばれた方の身体に付いてしまった血や魔物の体液の汚れを濡らした布巾で拭いていく。こうすればこれ以上の悪化はしないそうだ。
慌ただしさが落ち着いた頃、外は真っ暗になっていた。
「もう気付かれているよね・・・」
落ち着けば再び家の事を思い出す。帰ったら何をされるのだろうか。
いっそこのまま教会にと思ったときだった。
騎士の一人が再びうなされ始めた。
意識はないようだが夢の中で今だ魔物と戦っているようで、顔が汗でびっしょりと濡れていたので手持ちのハンカチで拭った。
その手をハンカチごと掴まれた。意識を取り戻したのかと思ったがそうではなかった。
魔物から守るから安心しなさいと何度も繰り返していた。
頭を殴られた気分だった。
両親から言われるまま何も考えず、さらには教会に逃げようとして。
なんて弱いのだろうか。
いま、目の前にいる騎士は怪我を負い、意識朦朧としながらも民を守る本分を全うしようとしている。
それに比べて私は言い訳ばかりで貴族として何をしてきたのだろうか。
両親の言いなりにしかなれない、何をしても無駄。
やってもいないことばかりを並べて。
「帰ろう」
それから間もなく討伐は終わり、家に帰ることが出来た。騎士の回復は間に合わなかったが私は私のやるべきことの為に帰らなければならなかった。
「痛いな」
お腹をさする。案の定帰った私を待っていたのは激怒した両親だった。
教会のことは言わなかった。
気分転換に村へ行ったら魔物のせいで帰れなかったと説明した。
男と遊んでいたんじゃないかと殴られた。顔に傷を作らないためにお腹に。
私の生活は変わらなかった。
夜会に行き、贈り物を貰う。唯一変わったのは贈り物の中に本が増えたこと。
喋るときそれとなく読書が趣味と伝えた。
金にならない物に両親は怒って投げ捨てていたが私はそれを拾って勉強した。
それと同時に身支度を自分でするようになった。
両親の散財から我が家の財政は悪く、使用人の数はどんどん減っていた為特に文句は言われなかった。
彼らは自身の生活に関係なければそれでいいらしい。
何をすればいいのかなんて分からなかった。
とにかく学ばなければと思ったのだ。
そしてこの結婚だ。
私は今も勉強をしている。今は公爵家の豊富な書庫も公共図書館へ行くことも出来る。
公爵様のおかげで実家との縁も切れた。
家のためだろうが結果として私は離縁後の不安がなくなった。
離縁後は貴族籍を抜いて学校へ行こうと考えていた。
もし両親とつながっていたら再び私を餌にしていただろう。
若くもないし次に結婚を望まれる相手なんてどんな人か分かったもんじゃない。
学校で看護の勉強をして己の力で人の役に立ちたい。
貴族として享受したものをこれで還元出来るかは分からなかったが、それが今の願いだった。
かつて汚れを拭うことしか出来なかった自分を思って。
どうやら公爵様は想い人がいるらしい。
側近のロバーツさんと話しているのをたまたま耳に入れてしまった。
勝手に聞いてしまったのは申し訳ないが顔を見せない為に隠れたので許して欲しい。
おそらく身分差がある方なのだろう。
普通なら認められないため私との白い結婚は時間稼ぎかしら。
そのために白い結婚をするほどの想いなら家族にも認めてもらえるかもしれない。
将来を考えれる環境も自由もすべて公爵様のおかげだ。
こんな事で恩返しになるとは思ってないが彼が想い人と一緒になるためなら何でも受け入れよう。
まさかその想い人がルルシアナだとは誰も気付いていなかった。
後に気付いたケルビンから愛を乞われるが彼らがどうなるかはまだ先のお話。
「求めた物は最初から手にしているのかもしれません」




