第45話:垂直の脅威と、理詰めの対空迎撃(アンチ・エア)
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灰の荒野を進む四人の頭上。
分厚い暗雲を切り裂き、鋭い鳴き声と共に『それ』は現れた。
銀色の羽毛を持ち、翼に燃え盛る灰を纏った怪鳥――『灰燼の翼』。
彼らは通常の魔物のように正面から地を這うことはない。空中を自在に旋回し、四人の位置関係を嘲笑うかのように、真上から急降下を仕掛けてくる。
「っ……! 上空からの強襲!」
ガルドが咄嗟に大盾を頭上に掲げ、急降下してきた一羽を弾き返す。
だが、敵は一羽ではない。空中に円を描いて滞空(待機)する十数羽の群れは、それぞれがバラバラのタイミングで四人を直接狙って落ちてくる。さらに、遠距離から鋭い嘴を開き、凝縮された熱光の魔力弾を雨のように降らせてきた。
上空からの物理強襲と、遠距離からの魔法狙撃。
平面の陣形を前提としていた『三律の連環』にとって、これは座標軸(Z軸)そのものを書き換えられたに等しい脅威だった。
「物理防御だけでは足りないぞ! ルカ、結界を!」
「展開している! だが、上からの波状攻撃では魔力消費が激しすぎる!」
ルカが頭上に『水膜の結界』を展開するが、絶え間ない魔法弾の雨にヒビが入り始める。
(どうする……!? 私の剣じゃ上空の敵には届かない!)
ミクは焦燥に駆られた。一瞬、ワイヤーを使って空中の敵に飛び移る無謀な策が頭を過ったが、即座にその思考を破棄する。
(空を飛ぶ敵に、剣士が空中で挑むなんて愚の骨頂よ! 敵が空中で止まって待ってくれるわけがない。絶対に躱されて、落下中に標的にされるだけだわ!)
自分が空へ行くのが不可能なら、答えは一つしかない。
敵を、自分たちのいる『地上(二次元)』へ引きずり下ろすことだ。
「ガルド! 大盾を完全に『屋根』にして後衛を護って!! 私は盾のカバーから漏れた物理攻撃の迎撃に専念する!」
「おうっ!!」
ガルドが膝をつき、巨大な黒鉄の盾を空へ向けて平らに構える。ミクはそのガルドの周囲を駆け回り、急降下してくる怪鳥の爪を双剣で弾き落とす。
前衛の二人は「敵を倒すこと」を完全に放棄し、後衛を護るための『完全な対空シェルター』と化した。
「アリア、ルカ! 敵を個別に狙い撃つ必要はないわ! 倒せなくていい! どうにかして、あいつらを地上に『落として』!!」
ミクの明確な要件定義に、後衛の二人が即座に反応した。
「了解した。……アリア、空中の敵を叩き落とす最も確実な方法は分かるな?」
「はいっ! 翼を燃やすか、空気を乱して『飛べなくする』ことですね!」
アリアは杖を天高く掲げ、自身の最大の広域魔法の詠唱を開始した。
「全魔力、面制圧に回します……!! 『熱波の嵐』!!」
アリアの杖の先から、極大の炎ではなく、凄まじい『熱風』が空へ向かって巻き起こった。
狙いを定める必要はない。上空一帯の空気を急激に熱することで、猛烈な上昇気流と乱気流を発生させたのだ。
「ピギャァァァァッ!?」
空の優位性を確信して滞空していたアッシュ・ケツァルたちは、突如として発生した異常な気流の乱れに完全に姿勢を崩した。さらに、ルカがその乱気流に向けて魔法を放つ。
「『凍てつく霰』!!」
猛烈な熱風の中に、ルカが巨大な氷の塊を無数に散弾のように撃ち込んだ。
乱気流に巻き込まれて身動きが取れない怪鳥たちの翼に、無数の霰が容赦なく叩きつけられ、羽をへし折り、凍りつかせていく。
浮力を失った鳥は、ただの重い肉の塊だ。
ドサッ! バキィッ!
翼を破壊され、飛行能力を完全にクラッシュさせられた十数羽の怪鳥たちが、次々と灰の荒野へと墜落してくる。
「――迎撃完了。ここからは私たちの土俵よ!」
ミクが双剣を構え直し、ガルドが大盾を前方に構え直した。
地上に落ちて機動力を失い、無様に這いずり回るだけの鳥など、彼らの敵ではない。
「おらァッ!!」
「シィィッ!」
ガルドの重いブーツが怪鳥の首を砕き、ミクの双剣が的確にその急所を切り裂いていく。
空という絶対的な優位を喪失した魔物たちは、陣形を立て直した前衛の二人の前に、瞬く間に処理されていった。
「……対象の全消滅を確認。対空迎撃プロトコル、成功ね」
ミクが双剣の灰を払い、安堵の息を吐く。
「後衛の広域魔法で機動力を奪い(デバフ)、地上に落ちたところを前衛が処理する。……空中からの強襲という変則的な事象も、理詰めで対応すれば何も恐れることはないな」
ルカが結界を解除し、冷静に戦果を分析する。
「あんなにたくさん落ちてくるとは思いませんでした! 私の熱風、大成功ですね!」
アリアも嬉しそうに杖を抱きしめた。
どんなに理不尽な環境や敵が現れても、己の持つ機能を正しく理解し、物理法則と論理に則って確実な解答を導き出す。
「さあ、この階層の主も、きっと空から来るはずよ。……準備はいいわね?」
正しい『対空処理』のロジックを手にした四人は、灰の荒野のさらに奥、天空を統べる支配者が待つ場所へと歩みを進めた。
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