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唇に触れない約束

第一話をお読みいただき、ありがとうございます。


触れなかったこと、

呼ばなかったこと、

それ自体が約束になってしまう関係を書きました。


この先、

彼女がどんな問いを口にするのか、

見届けていただけたら嬉しいです。

彼女には、初恋の人がいる。

 それはもう恋と呼んでいいのか分からないほど、長く、静かな想いだった。


 彼は彼女よりも大人びていて、言葉の選び方も、沈黙の使い方も巧みだった。

 うかがどれほど甘い言葉を並べても、彼は笑ってかわす。


「僕を口説き落とすには、君はまだ若いよ」


 その言葉を、彼女はもう何度聞いただろう。

 一度や二度ではない。五年分の時間が、その一言に折り重なっている。


 うかは何度も告白した。

 好きだと伝え、想っていると繰り返した。

 けれど彼は決して否定もしなければ、肯定もしなかった。


 手は取られない。

 唇に触れることもない。

 彼の名前を、甘い声で呼ぶことすら許されなかった。


 それでも彼は、彼女を遠ざけなかった。

 会えば穏やかに話し、別れ際には必ず時間を惜しむような間を置いた。


 その曖昧さが、うかをここまで連れてきたのだと、分かっている。

 分かっていて、やめられなかった。


 彼に想い人がいるのではないか。

 そう考えては胸が痛み、聞く勇気は持てないまま、また今日も言葉を飲み込む。


 この恋は、いつか実るのだろうか。

 それとも、実らせてはいけないものなのだろうか。


 答えは、いつも彼の沈黙の向こうにあった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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