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ピアニッシモ。

水をうったような静けさのしずくが、わたしのこころの湖にことんと降り落ちた。

存在が鳴った。

刻一刻と変わるものどものなか、そのひとのまなざしだけ周囲からあぶくみたく浮きあがる。

浮きあがるあぶくをわたしは目で受けとる。

ああそうか、変わらないのだと思った。

本当に大切なことは何一つ。

深く安堵する。




わたしは心の湖底の柔らかな色彩の花園へ、静けさのしずくを次々と雨降らせた。

その存在をひっそりと手抱え護るため。

あれから幾年も時が過ぎた。

変わりゆくかたちは当たり前。

変わらなかった時代というものも無い。




それでもそのまなざしにかつて見てしまった静謐をわたしは好ましいと感じる。

存在の合図はどうしてこんなにも優しく心内、音色を響かせるのだろう。




遠いようで身近な温もりというものはなにかを愚直に信じる経験のあるものだけにしかわからないかもしれない。

御守りの中身がなんであるかをわざわざ調べ暴き知ろうとしなくてもそこに自分自身の安寧が在るのだと単純に信じることができる心の動きに近い。

わたしはわたしの湖底の花園に沈むそのひとの静かなまなざしをいまだ素直に信じているから、また見つけられ出会えた。




部屋のなか喧騒の氾濫をものともせずそのひとは静けさ帯びるまなざしをたずさえたまま、その背中はまた遠くひかりの暦へ去っていく。

わたしと、刻一刻と変わるものどもがこの場所に厳然と置いていかれた。

足もとの現実感がよみがえる。




わたしはそのことを哀しい寂しいとは思わなかった。

そのひとはわたしにとってずっとそういうひとだったから。

ゆらぐ背中と静けさ含むまなざしを見せて何も残さずその場から、ふらり飛び立つ。




わたしの湖の底には楽園がある。

楽園の花園、雨のしずくが降る。

そのひとにまた出会えたから。

雨があがればそよ風に花吹雪舞う花園に虹がかかる。

まるで虹を呼ぶ鳥だ。

わたしは微笑む。

変わるそのひとと変わらない、そのひと。

どちらであっても。







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