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オセロ。

きみのおとしものが落ちている。

今日は虹色の羽根。

昨日は真珠の髪飾り。

おとといは香水のボトル瓶。

きみをあらわしているから、俺には理解る。

街の道片隅にそっと置かれた。



きみのわすれものだって街には落ちている。

今日は無感情のハンカチーフ。

昨日は、花が咲い出したいようなポストカード。

おとといは空色ライター。

きみのかつての泣き顔に似合わないものばかり。

きみが去り際想い出の旅行鞄に、詰め忘れたのだろう。



この街にはきみのいろいろなおとしもの、わすれものが落ちている。

有象無象の事象から、滲むようそれらは浮き上がる。

俺には理解る。



きみは街からもう消えてしばらく経っていた。

あのころきみは俺に静かに言った。

大切なものだけきちんと持っていきたいの、と。

溢れ出すアルバムが多過ぎるね。

俺がそう言葉にするときみは微笑んで返す。

そう、だからきっと街中にわたしがいるわ。



俺には理解る。

きみのおとしものはきみの鏡。

きみのわすれものはきみの影。

真冬きらめく電飾の光にも、春ひなた浮かぶ桜にも、初夏耳に流れる潮風にも、秋踏みしめる落葉の掠れ音にも、きみはいる。

理解っている。



俺は街の四季を歩くたび、なにか見つけるたび。

きみという空白を想い出す。

あらゆるものを掻き集めても絶対にきみにならないことを心に確かめる。

理解るというフレーズが唇のなかゆっくり温度を失っていく。

その舌触りを俺は一生嘲笑えない。

きみはなにもかもを遺して消えた。

街には今、きみの上澄みがたくさんいる。

街に張り巡らせたきみの合図はきみの不在をリフレインする。

俺はもうきみしか見えない。

そのことが幸運なのか不運なのか俺は知らない。



きみの明日のおとしもの。

臙脂色のしおり。

きみの明日のわすれもの。

金の飾りボタン。

街が夢を見ている。

きみがいる夢。

俺は目を開いて街を見る。

きみのクレーターを痛みとして感じる。

理解る。

俺は正しい。

けれどもしも世界にとって街が正しいのなら、俺は。



夕闇目の端を揺れる残像。

きみだらけの街並み、きみはいない。





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