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第4話 討伐と過去

悪魔

それは太古よりはるか昔から異次元に存在し、人のおおよそ理解出来ぬ物質で形作られ、人と似て非なる精神構造を持ち異次元の邪悪な魔術を操る化け物達だ。

異次元の神々に仕える彼らは度々、我々の世界に現れる。

目的はただ一つ、人類を堕落させ自らの神々に服従させる事だ。


悪魔による堕落への誘いと神々を信仰する事によって得られる恩寵の数々は人にとって余りに甘美な物である。

財力を欲する者には巨万の富が、権力を欲する者には強大な力が、魅力を欲する者には永遠の美しさが、それらが手に入ると知ってなお悪魔の誘いを蹴る者は少ない。

人は己が欲望に余りにも弱いのだ。


悪魔が際限なく活動を続ければこの世界は、歴史も文化もなくなり、全ての人間が欲望の為の闘争を繰り返す地獄の様な暗黒世界へと変貌してしまうだろう。


故に我々異端審問官は悪魔を狩る。

どの様な犠牲を払っても、どの様な手段を用いても、我々は奴らを滅ぼさなければならない。



〔完全な不意打ちを躱すとはお見事!さぞや名のある審問官と御見受けする〕


私の目の前に居る悪魔が何か喋っているが、そんな事はどうでもいい。

雰囲気からして奴は少なくとも中級悪魔、放置すれば都市が壊滅する存在だ。

どうするべきか、時間を稼いでエレナの到着を待つか?

それとも・・・


〔どうです?審問官など止めて我が神ケールを信仰してみては?今以上の富と力を得る事が出来るはず・・・おや?失礼、貴方の身体は既に神々の祝福を・・・〕


殺す。

今すぐに殺す。

最優先で殺す。


〔っ!〕


私はナイフを投擲し、奴が武器で防御した所を一気に接近した。

奴の膝に蹴りを放ち、追い打ちでハンマーを持っている手を切断する。


〔同門かと思いましたが、斬りかかって来るとは〕


悪魔は武器を捨てて後ろに飛び、切断された腕にもう片方の手をかざす。


〔もしや別の神の信者でしたか?・・・まあ我が神は戦いの神、そちらがその気なら存分にやりましょうぞ!〕


奴は切断された腕に魔法陣を出現させると、瞬く間に新たな腕と真っ赤な両手剣を創り出し、上段に構えた。

対する私も銃と剣を構える。


〔ではっ!〕


「殺す」


両者が同時に地を蹴り、剣と剣がぶつかり合う。


〔さあっ!さあっ!この連撃を捌けますかな〕


悪魔は両手剣を振り上げ、素早く連続で叩き込む。

剣の一撃一撃が重く、防御するだけでもかなりの体力を持っていかれる。

片手剣で何とか連撃を防御仕切ると悪魔は剣を再び上段に構えた。


〔我が一撃、食らって頂く〕


構えられた剣は魔力を発しながら炎を纏い、その攻撃が必殺の一撃であることは誰の目にも明らかであり、私の反撃のチャンスでもある。

私は悪魔が必殺の剣を振り下ろす直前の無防備な体を狙い左手に持っていた銃の引き金を引く。


〔ぐっ・・・!〕


対悪魔用に特別に制作された銃弾は悪魔の剣が私に触れるよりも早く相手の胸に命中し、私は体勢を崩した悪魔の腹に剣を突き立てた。

だが悪魔は尚も私に剣を振り下ろそうとする。


「エレナ!」


「させるか!」


声を上げると物陰に隠れていたエレナが現れ、二丁の拳銃で悪魔の腕と背中に大量の銃弾を浴びせかけた。

私はその隙に剣を悪魔の腹から引き抜き、エレナと合流する。


先程から物陰に潜んでいるのは分かっていた。

恐らく、悪魔が隙を晒らすのを待っていたのだろう。


「一気に畳みかけます!」


「オッケー!」


幾つもの傷を負い未だに体勢の整わない悪魔に止めを刺す為、私はエレナと共に両脇から攻撃を仕掛けた。

だが悪魔は狼狽える事無く再び魔法陣を生み出し叫ぶ。


〔数が増えましたか・・・ならば我が灼熱の魔術を見るがいい!!〕


その言葉と共に地面に無数の魔法陣が出現、各々が灼熱の炎を生み出し周囲を地獄の様な雰囲気に変貌させた。

次に炎は鞭の様になり、次々と私達に襲い掛かって来る。

鞭に巻き込まれた周辺の構造物は一瞬で溶解し、この悪魔の力を物語った。


「如何に強力な魔術だろうと」


私達は悪魔の展開する炎の鞭を全て躱し、悪魔との距離を縮めていく。


「熱いなもう!髪と服が焼けるでしょうが!」


エレナは軽口を叩きながら鞭を避け、手に持った二丁の拳銃で悪魔を銃撃する。


〔小賢しい・・・!〕


悪魔は炎の出力を更に上げ私達を接近させまいとするがもう遅い。

私はエレナに援護されながら悪魔に接近し剣で首を狙う。

悪魔は咄嗟に自分の首を守ろうとするが、エレナの銃撃によって阻止される。


「滅べ」


私は神々に対する憎悪を込め、悪魔の首を剣で切断した。


悪魔の絶命により、頭から切り離された身体は灰となって消滅する。

周囲に展開されていた魔法陣も消滅・・・しなかった。


「っ!」


魔法陣から放出される炎は悪魔の頭が落ちた場所に集まり、一気に地面を融解させる。

一瞬の内に地面の一部に一人分の穴を穿った炎は程なくして消滅したが、悪魔の頭部は穴を通り地下へと逃れた。


「追います!」


私達はそれを追いかけて、穴の中を降りていく。

穴を数秒程で通り抜けると私達の眼前に巨大な地下空間と十数メートルはある石像が現れる。

地面には血で描かれた魔法陣があり、石像と共に禍々しい魔力を放っていた。


周辺を見渡すと逃げた悪魔の首と異端者達が陣の中心で何かを叫び祈っているのが目に入る。


〔偉大なる上級悪魔よ来たれ!既に十分な贄と血は捧ましたぞ!今こそこの帝都に厄災を!〕


「不味い」


奴は上級悪魔を召喚する気だ。

上級悪魔と言えば小国を滅ぶほどの脅威。

今の私達では被害を抑えきれない。


「私が悪魔を殺します、エレナは陣の破壊を」


「分かった、急いで」


私は悪魔に銃を向け引き金を引く。

しかし周辺の異端者が盾になり、肝心の悪魔に弾丸が届かない。


「くそっ」


そうこうしているうちに陣は赤く輝き始め、強大な悪魔を召喚し始める。

銃弾が尽き、弾丸を装填する時間を惜しんだ私は剣を持ち突貫した。


「召喚の時間を稼げ!」


「神の敵に死を!」


変異した異端者達が道を阻んでくるが、私はそれらを次々と切り捨て陣の中心に近ずく。

既に上級悪魔は体の一部が召喚され、時間は刻一刻と無くなっていく。


〔来たれ!来たれ!!偉大なるっ・・・!〕


私は邪魔をする異端者達の隙を突き、儀式を続ける悪魔の頭にナイフを投げる。

ナイフは正確に悪魔の頭を貫き、忌々しい悪魔は滅んだ。

だが、召喚は止まることなく未だ続く。


「仕方ない・・・」


私は付近の異端者を一掃すると、懐から小型の無線機を取り出し通信を送る。


「リヒター審問官だ、至急廃工場地区152 ‐ 267に地中貫通弾の砲撃を叩き込め」


『了解』


「エレナ!離脱します!」


「えっ!召喚陣はどうするの!」


「私達では陣の破壊が間に合いません、ですから悪魔が完全に召喚される前に砲撃で全て吹き飛ばします」


周辺が更地になるが致し方ない。

私は破壊作業をしていたエレナと共にここへ来る時に発見していた階段を駆け上がる。


「何で毎回こうなるの!」


「悪魔が召喚されるよりはましです」


階段を上がりきり、工場の出口へ急ぐ。


「敵がいたぞ!」


「殺せ!」


出口へ向かう途中で複数の異端者が攻撃してくるが、私達はそれらを全て無視して建物から脱出する。


廃工場から出た直後、風切り音と共に砲弾が飛来し、工場の中にいた異端者達と召喚途中の悪魔を凄まじい轟音と共に吹き飛ばした。

着弾によって多量の土煙が発生し視界を完全に閉ざす。


暫くして土煙が晴れると、元々廃墟の様な状態だった廃工場は一切の原型を留めておらず、建物の中央部には地中貫通弾によって穿たれ白日の下に晒された地下空間があり、石像は壊れ、魔法陣も完全に崩壊し上級悪魔の召喚を防ぐ事にも成功した。


「これで依頼完了かな・・・」


「はい、エレナには感謝しています、もう少し発見が遅ければ甚大な被害が出ていたでしょう」


エレナが居なければ上級悪魔が召喚され、帝都の一部が火に包まれる所だった。

やはり報酬の加算だけでなく、何か別のお礼もすべきだろう。


「今回の報酬は二倍に加算しておきます、それと私に出来る範囲で何か出来る事が有れば言って下さい、個人的にもお礼がしたいので」


「・・・なら前は断られたけど今度こそ一緒にご飯食べたり、買い物したりしない?」


「・・・私とそんな事をしてもエレナが気分を害すだけですし何か別の物を・・・」


「いや、私はラウラと行きたいの、今回のお礼をしてくれるんでしょ?」


エレナは渋る私の肩に手を置き、承諾を迫って来る。

彼女の方が少し背が高いため私は下から見上げる形だ。


「・・・分かりました、エレナがそこまで言うなら、そうしましょう・・・でも食事だけは駄目です、理由は言えませんが兎に角駄目です、それ以外なら構いません」


「よし!じゃあ今度の休日にショッピングしよう!・・・一応言っておくけど審問官の服で来ちゃ駄目だからね!」


「分かってますよ」


結局、承諾する事になってしまった・・・

まあ食事をしなくなっただけでも良しとしよう。

彼女が何故、私と行くことに固執しているかは分からないが。





報酬をもらって嬉しそうにしているエレナと別れ、私は一応自分の部屋がある審問庁の宿舎に向かっていた。


既に街には日が昇っていて、街路には職場へ向かう労働者や下級官吏、巡回を行う兵士や警察官などが溢れ帝都の繁栄と人口を物語る。


「サンドイッチセットはいらんか、仕事中に食べれるよ」


「バキア製の煙草が入荷したよ!そこの兵隊さん任務のお供に一箱どうだい」


「衛星省、新開発の錠剤!今なら半額だよ!仕事の疲れが吹っ飛ぶよ!」


更に食べ物や嗜好品を売る商人達も加わり、帝都の盛況さは更に増す。

彼らの中には異端者も少数いるかもしれないが、それを取り締まるのは私の仕事ではなく、内務省や粛清局の仕事だ。


「焼きたてのパンはいかが!朝食に持って来いだよ!」


ふと視界の端にパン屋が映る。

少し太ましい女性が店頭に立ち、紹介しているパンはどれも見事な焼き上がりで通行人達も次々とパンを買って行き、直ぐに完売しそうだ。


「・・・」


朝食を食べておらず、更に悪魔を滅ぼした後で私はかなりの空腹感を感じている。

あのパンは固形物だが実に美味しそうだ。


"あの時"から随分と時間が経ったし大丈夫かもしれない。


「・・・一つ下さい」


「はいよ!あら可愛いお嬢さんだこと、おばさんがサービスでもう一個あげちゃう」


「いや別に一個で・・・」


「若い子は沢山食べなきゃ駄目よ、見た所身体も結構細いし、イチゴジャムも付けてあげるからちゃんと食べなさい」


私は商品の詰まった紙袋をもらい料金を払ってパン屋を後にする。

パンを一つだけ買うつもりが、色々とサービスされてしまった・・・



暫くして私は宿舎にある自分の部屋に辿り着き、扉を開けた。

部屋の中には与えられて以降、殆ど使っていない家具が幾つかある。

ここが我が家と言う意識はあまりない、理由はこの部屋に帰る事が少ないためだ。

数日間連続で悪魔を追う事や地方に遠征するもあり、私にとってこの部屋は寝る事の出来る場所に過ぎない。


明かりを付けてテーブルに紙袋を降ろし、帽子掛けにコートと帽子を掛ける。

紙袋からパンとジャムを取り出し、台所からコップに入った水を用意した。

この部屋にまともな食器は無いので、懐に隠してあったナイフを使いパンを切りジャムを塗っていく。


ジャムを塗り終わったパンを恐る恐る口元に運ぶ。


大丈夫、もうあれから随分経った。

これくらいなら大丈夫なはずだ。


パンを一切れ口に含む。

口の中にパンのふっくらとした食感とジャムの甘さが広がるが、私はコップの水を使いパンを一気に飲み干す。


「・・・っ」


固形物が喉に達したその瞬間、私は凄まじい嫌悪感と吐き気を感じた。

私は直ぐに洗面所へ駆け込み、腹の内にある物を吐き出す。


食べた物を全て吐き出した後も胃と喉の嫌悪感は消えず、私は数分に渡って嘔吐を続けた。


「くそ・・・」


やがて胃液すら出なくなった頃ようやく私の吐き気は収まる。

顔を前に向ければ鏡に忌々しい自分の顔が映り込む。


一瞬その顔を殴りかけたが、鏡が壊れるだけだと考え思いとどまる。


「はぁ・・・」


自分は何をしているのだろうか?

時間が少し経っただけで"あの時"を忘れる事など出来るはずがない。

友人が出来た事で思い上がりでもしたか。


凄まじい自己嫌悪に陥る。


「寝よう」


これ以上考えても仕方がない、取り敢えず睡眠不足を解消しょう。

私に今出来る事は最低限の健康を維持して悪魔と異端者を狩る事だけだ。

曇らせっていいよね

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