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魔退の悪魔憑き  作者: UMA20
第三章 混成海賊奇譚 第三の手を知ってるか
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第五十八話 原始巨岩機甲

 

 カリストが数字持ちとして認定されて以降、対峙しなければならない課題は変わらなかった。

 それはシスターワテリング戦にて如実に、弱点として現れていた。


 言うまでもなく

 ──圧倒的な近接戦闘の弱さ、である。


 カリストを数字持ちたらしめたのは、その魔術の圧倒的なセンスと超火力で広範囲を薙ぎ払う殲滅能力だ。

 しかしそれが一対一の、近接先頭を挟んだ瞬間、数字持ちではない子供との対決ですら敗北を喫する。

 その事実に長い間カリストは悩んでいたが、ある種、楽観視している面もあった。


 良くも悪くも魔殺しの子供達(ベナンダティ)はチーム戦だ。

 自身の欠点は他で補えばいい。

 そういった考えがカリストの中に少なからずあった。


 ──だが、シスターワテリング戦で彼女は思い知る。


 この先、誰かに頼る思考では生きていけないのだと。


「……五重、もう倍は必要かしら」


 カリストは自身の杖に更に魔力を込めた文字を連ね、魔法陣を描いていく。

 空間への書き込む速度は速い。

 既に書く言葉を決めているかのようだ。


 実際、魔法陣は繊細なもので幾たびもの実験の末に誕生する、言葉を用いない文字のみ(・・・・)の魔術の行使方法だ。

 時間がかかる分、強力な魔術を扱うことができる。基本国の城などに大型の魔法陣が設置され、最終の攻撃手段として用意されている。


 それ以外での用途は巻物(スクロール)に描かれ市販で販売されている便利な魔術や、魔術学校の生徒らが肩身離さず持つ緊急脱出魔術などが一般的だ。

 では、その魔法陣を攻撃に、しかも戦闘の際にながらで用意する者は、恐らく。


「であー!!!」


 カリストだけだろう。


 六重目の魔法陣の作成に取り掛かる。

 それを見逃すほど、第二支部(セカンド)は甘くない。

 咆哮と共に迫り来るベアの巨体は、筋肉と脂肪により肉の砲弾と化している。

 熊は最大時速60kmにも達すると言われ、その速度で飛来するベアの攻撃は体当たりをするだけで鉄の壁くらいなら余裕で破壊する。


 更に今回は固定砲台付きである。


魔術炎式(エンマジック)装填(セット)蛸六砲門(オクト・ロック)


 二本の腕でベアにしがみつき、残る六本の触手の先に灯る炎。

 魔力の上昇と共に膨れ上がる炎はそのまま弾となり射出し、カリストの逃げ場を限定していく。


 カリストが避けようとすれば、その先に着弾。

 爆発による瓦礫の破片と爆炎は、逃げ場を敵による誘導に任せてしまう。

 カリストは業腹ながら、魔法陣の作成をしながら短く詠唱。


岩巨人精製(ゴーレムポイント)


 紡ぐは土の魔術。

 大地を味方とし、そのエネルギーを思うがままに操って再構築する──


双掌(リジェクト)!」


 カリストの両脇の大地が隆起する。

 瞬く間に巨人の腕に作り替えられ、迫り来るベアを推し返さんと手のひらを広げるが、


「こんなのぉぉぉぉぉっっ!!」


「う、うそ」


 衝突。

 しかし、岩の腕は即座にひび割れ、崩壊する。

 ベアの突進は衰えず、勢いを利用した熊手が振り上げられ──


「結界魔術──全開!!」


 カリストは事態の深刻さに、顔を歪めた。

 眼前に迫る凶悪な熊の手は帯びた魔力量より、遥かに強大な破壊と衝撃を齎し、カリストを易々と洞窟内の壁へと吹き飛ばした。


「か……はっ」


 正面からの攻撃を全て防ぐのに力を費やしたせいで、背後まで気は回らない。

 岩壁に直撃した背の鈍痛に顔を歪める。


 力無く視線を落とし、動かなくなったカリストを見て、ベアは既に勝ちを確信していた。

 悠然と歩を進めるベアには慢心が見て取れた。

 しかし背に乗るアッコロの表情は硬い。


(あのカリストがたった一撃で……? そんな実力者が数字持ちに選ばれるとはとても)


 数字持ち。

 それはシスターワテリングが作った第一支部(ファースト)のみのシステムだ。

 より高みを目指させるための、競争システム。

 高みに行けば行くほど、その待遇はより上質なものとなり、悪魔討伐のモチベーション向上に繋がる。


 と、そのために実装したシステムが十年の間に、実力を知らしめる一つの名称として作用していたのだ。


 その効力は絶大であり、第一支部(ファースト)の数字持ちである、というだけでその意味を知る者であれば、何かと融通が効いてしまうほどには意味がある称号であった。


 故の、警戒。

 アッコロの警戒は至極当然のものであり、ベアの慢心こそ本来異常なのだ。

 だが、ベアの心持ちもアッコロは理解できた。


 カリストは地面に埋まり、微動だにしない。

 息はあるのかもしれないがベアの突進をまともに食らったのであれば、全身の骨は砕け立つことすらままならない。

 癒術により現在進行形で体勢を立て直しているのだとしても劣勢。

 巨体でありながら俊敏なベアに、六本の腕から射出する魔術で柔軟に対応するアッコロ。


 もし本当に、カリストが満身創痍ならばもう──勝ち目はないはず。


「さぁ、立って。命までは奪わないわよ。先生の研究を邪魔しないでくれれば、それで──」


 と、そこまで言ってアッコロは違和感に気づく。

 息遣いが、ない。


「ベア!」

「でぁっ!!」


 アッコロとベアの阿吽の呼吸。

 アッコロの指示が出る前にベアは腕を振り上げ、壁に埋まるカリストへと振り下ろされる。


 壁を粉砕し、土埃が舞う。

 アッコロは徐々に強まる嫌な予感から壁を凝視するが、当たってほしくない予想は彼女の願いに反して的中する。


 壁に埋まっていたはずのカリストの姿はブレて、霧散する。


「同じ手に引っかかるのは、悪いことじゃあないわ」


「!?」


 背後からの声に、振り返る。

 そこには間違いなくベアの攻撃を受けたであろう、傷だらけのカリストがなんとか杖で立っていた。


「単純に、両者の力量差が如実に現れただけよ」


「は……はは、ははは! ず、随分と強がってるみたいだけど、満身創痍じゃない。そんなボロボロで戦えるわけ!?」


「当たり前じゃない」


 笑い飛ばすアッコロに、凛然と言い返すカリスト。

 その言葉に嘘偽りがないことくらい、言われなくてもわかる。

 それくらいの自信と覇気がカリストから放出されている。


第一支部(ファースト)の──八番目(オクトー)。あんたなんかより、よっぽど八が似合う女よ」


 その手に持つ杖を、己の前に突き出す。

 杖の周りには既に、十紋の魔法陣が完成していた。


「──岩巨人精製(ゴーレムポイント)複雑化(アッセンブル)


 今、現代に現れるのは神代の奇跡の一端だ。

 魔術の天才と呼ばれる、彼女の二つ名の大元──“魔女”ですら、実現出来ない魔術が組み立てられる。


「な、何よこれ……」

「で、でけぇ……」


 その姿は従来の岩巨人(ゴーレム)とは一線を画す。

 大地から盛り上がった素材が次々と形を変えて、カリストに装着されていく。

 身体の部位一つ一つに術式が展開され、脚が腕が胴が頭が、独立して稼働する。

 自らが中に入り操縦する新世代の岩巨人(ゴーレム)


 その名を、


「────原始巨岩機甲アーマード・アダムコア


 岩巨人(ゴーレム)の核となり、操縦者となったカリストが告げる。

 岩巨人(ゴーレム)の大きさ、凡そ五メートル。

 三メートルの巨体であるベアを軽々と見下す、破壊の化身の拳が今、振り上げられた。


読んでいただきありがとうございます。

少しでも“面白そう”と“続きが気になる”と感じましていただけましたら、『ブックマーク』と『評価』の方していただけますと幸いです。

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