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魔退の悪魔憑き  作者: UMA20
第三章 混成海賊奇譚 第三の手を知ってるか
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第五十六話 これもまた混成


「リオ!!!!」


 シムラは僕の言葉に返答することなく、怒りの感情を持ってリオを呼びつける。

 その言葉に反応するようにリオはシムラの横に付いて、戦闘態勢をとった。

 だが。


「その必要はないぜ、先生。この程度、俺一人でどうとでもなる」


 壁に寄りかかっていたダイルが妙に上機嫌な様子でこちらに歩み寄ってくる。

 その身体は少しずつ隆起して、バキバキと骨がなる音を奏でる。

 鰐人へと変化を果たしたダイルは、気が緩んだ様子で言った。


「コイツ俺とやる時、手も足も出なかったんだ。リオが出る幕はねぇよ」


「まて、ダイル。君こそ下がれ。前とは様子が」


「うるせぇんだよ! 一番最初にキメラになった程度でリーダーづらしやがって!!」


 制止するリオをダイルは、人の上半身くらいなら余裕で飲み込めそうな大顎をいっぱいに開けて怒号する。

 その表情は先ほどまでの余裕そうなものからは程遠く、怒気に満ちたものだった。


「俺は他のやつと違って、詠唱破棄でキメラ化出来る! 誰よりも固い! リオ、楓に勝てねぇくせに、リーダー面をするお前が気に食わねぇ!」


「ダイル……」


 リオはただ無表情にダイルの怒りを受け止める。

 裏腹にダイルは気の緩んだ表情から一変、苛つきまじりに僕の肩を叩いた。


「さぁ、さっさとお前は血をよこしな。そうすれば先生の夢は叶────」


(ショック)


 彼の腹に拳を乗せる。


 調子はいい。

 カリストの血を吸ったからだろう。

 僕の身体を走る脈動が、早く戦えと囁いている。


(アウト)


 直後、拳に込められた魔力がダイルの身体の内部へと衝撃を直撃させる。

 外部と内部、両方に受ける衝撃にダイルは堪らず吹き飛んで、呆けた表情の後。


「い、いでぇぇぇぇぇっっ!!? な、なんで!! あ、あぐぁっ!?」


 問題ない。

 僕はまだ狼化もしていない。

 それなのに第二支部(セカンド)の戦闘員一人を昏倒させるだけの力を持っている。


 手を握って開く。

 確かに感じる力に僕の決意は固まった。


「なんだ今のは。リオわかるかい」


「いえ。分かるのは硬い鱗や鎧で防げる類の技ではないと言うことでしょう」


「そうか。なら、やれるね?」


「無論」


 リオもまた拳を握り込み、調子を確かめると一歩ずつ前に出ていく。

 僕も同様に前に進んでいく。


「君らにはまだ、私の混成変化(キメラ・トランス)は見せていませんでしたね。理由は単純です」


 黄金の気がリオから立ち上る。


「私のキメラは少々荒い」


 瞳は瞬時に闘志を帯びて、僕を射抜いた。


混成変化(キメラ・トランス)──虎」


 拳と脚はは金と黒の毛が生え、巨大化。

 髪の毛からは猫耳が生え、腰からもまた金と黒の尾が生え出る。

 その瞳孔は縦に割れ、僕への視線はより鋭さを増す。


「そういえば、僕のこれ、名前がなかったんだ」


 その視線に応えるように、僕もまた魔力を高めていく。

 僕の悪魔の力の根源。その真価。その姿。

 思えば、魔術は言葉が大事と教わったのに、名前をつけていなかった────


混成変化(キメラ・トランス)


 瞬間──僕の意識は荒々しい波に飲まれていった。


 —


 リオ・ティグリスの戦闘法は、主に気術を用いた徒手空拳であり、キメラ化によって異次元の力と動物のバネを手に入れた力は計り知れない。

 最東に故郷を持つ(かえで)による特訓を受けたリオは、気を見ることが出来た。

 気には質と量の概念があり、量は分かりやすく身体を纏う気の量。

 質は色で判別できた。


 リオは見据える。

 眼前の敵を。

 第一支部(ファースト)の雑用。

 戦闘要員ではないただの雑用が放てる闘気ではない。


 立ち上る気は銀と蒼、少し薄暗い。

 黄金の闘気を纏うリオからすれば邪悪に位置する気だった。

 悪魔憑き。それも純正のそれを考慮すれば、なんら不思議ではない気の色ではあったが、それにしても。


 ──本当に雑用の気、なのか?


 眼前の光景に疑問を覚え、足に力を入れる。

 太腿は肥大化し、充分な力を蓄えたのちに──その身体を射出した。


虎牙王拳(こがおうけん)!!」


 動物の力とバネを用いた気の正拳突きだ。

 リオの最も得意とする技であり、最も多くの敵を屠ってきたリオの必殺技だ。

 敵を試すのはこの技であり、同時に敵を倒すのはこの技なのだ。


 故の、黄金の軌道。

 その軌道から放たれる破壊力は正に、人一人など容易く木っ端微塵にできる爆弾が如し。


 ──だが、それを。


狼魂(ソウルブ)


 ケンも向かい打つ形で構えていた。


激震(ショック・アウト)!!」


 放たれる正拳突き。

 ぶつかり合う黄金の正拳突きと蒼銀の正拳突き。

 拮抗し合う力と力は、研究所の机やら紙やらを吹き飛ばし、部屋を衝撃波だけでひびわらせた。


「ぬ!?」


 そして、相殺。

 リオはその身を(ひるがえ)し、猫のように四肢で着地した。


(なんだ……魔術ですか。気術を用いているわけではない、だが、この感触は)


「驚いたか?」


 まるでリオの心の動揺を読み取るように、眼前の敵は不敵に笑った。

 髪の間からは狼の耳が、腕は狼に、腰からはフサフサの尾──。

 戯言の類と聞き流した混成変化(キメラ・トランス)のその言葉の体現者。

 狼化したケンがそこにいた。


読んでいただきありがとうございます。

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