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魔退の悪魔憑き  作者: UMA20
第三章 混成海賊奇譚 第三の手を知ってるか
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第五十三話 戦闘開始

「シャカー?」


 人差し指と小指を立てて、中指薬指を仕舞い込み、バンジャックは小気味よく反動をつけて、


「ブラー!!」


 思い切り腕を掲げた。

 瞬間、船体は衝撃に震えた。

 まるで何かに突っ込んだような、慣性で前に吹き飛ばされるそんな衝撃に、僕ら見事に吹っ飛んだ。


「と思ったら飛んだのは僕だけか」


「当たり前でしょ、私は自分で浮けるんだから」


 ふわりと甲板の上で腕を組むカリスト。

 しかし、するとひとつ疑問が生まれる。


「それなら最初から船酔いもしなかったんじゃあ……」


「うっさい」


「いだい!!」


 木の杖で小突かれる。

 結構痛いんだからな、それ。


「あはは。これからカチコミかけようって言う時に無駄な魔力使えないわよねぇ。魔術使いは特に」


「そういう一番目(ウーヌス)さんは平気なんですか? 癒術をずっとカリストにかけてましたけど」


 ずっと、と言っても数分か。

 その程度ならば一番目(ウーヌス)なら支障はないのかもしれない。


「私は魔力自体も回復してるからぁ」


「ふーん、それならカリストもそれをすれば……」


「いや、普通は出来ないから」


 どうやら癒術に特化した彼女だから出来るらしい。

 なんなら他の魔術が使えない故の特化なんだとか。

 便利なようでいて、不便な話だ。


「さぁ、お前ら本陣のお出まし……っと、おいおい、どこだよ(・・・・)ここは」


 バンジャックの言葉に、僕ら三人は辺りを見回せば、そこは薄暗い洞窟だ。

 船が通ってきた道は空間が割れたようにグレイスウェールズの街が見えている。

 徐々に修復され、そこはまたただの壁に変わってしまった。


「どうやら空間を歪める魔術なようね。本来あそこを通ろうとすれば擦り抜ける。けどこうやって結界を壊せば、別の場所に通じるようになっている。面白いわ」


「それより研究所の入り口、しっかりあるわね」


 一番目(ウーヌス)が指差す先、そこは船が止められそうな波止場(はとば)になっていた。

 バンジャックは(いかり)を下ろし、船をつける。

 船を降りても、研究所の入り口がポカンとあるだけだった。


「拍子抜けね。てっきり待ち伏せとかされてると思ったんだけど」


「別に守ってるわけじゃあないからじゃないかしらぁ? 彼らとしてはきてくれた方が、嬉しいわけだし」


「それもそうか。そしたらケン、あんたはおじさんと行くのやめて、雑魚を蹴散らす方に回った方がいんじゃない?」


「な、なんだと!? それは許さないぞ!」


 カリストの妥当な提案にぷんぷん怒り出すバンジャック。

 彼の認識では僕が最も強いことになっているから、身の安全が保障されないのは困るのだろう。

 それをカリストは鼻で笑う。


「じゃあどうするのよ。ケンがもし血を取られたらそこでおしまいよ? 勇者の遺骨の実験は始まるし、女の子はどうなるかわからない。それでも良いの?」


「ぐ……そういうのは先に話しておくべきでなぁ」


「何を心配してるか知らないけど、私達ケンより強いんだから」


「なに!」


 カリストの言葉に顔色を変えるバンジャック。

 事実か確かめるようにこちらを見てきたので、小さく頷くと安心するように微笑んだ。


「なんだよ! それを先に言ってくれぇ。よし、そしたら嬢ちゃん俺と来い」


「なんで私なのよ。ここから第二支部(セカンド)のキメラ達出てくるんでしょ? 私が食い止めないで誰が食い止めるのよ」


「な、ならピンクの嬢ちゃんは!」


「私は用事があるから無理ねぇ」


「じゃ、じゃあ俺と誰が来てくれるんだよ!」


「「「・・・」」」


 バンジャックの悲痛な叫びに僕らは顔を見合わせる。

 答えは決まっているようだ。


「「「一人?」」」


「それは嫌だー!」


 バンジャックは子供のように駄々をこねる。

 彼自身戦闘に自信はないとのことだから仕方ないが、あまりに大人気ない。

 こんな大人にはなりたくないものだと────そう考えて、



「───────────随分と余裕そうじゃない」



 静かな怒りが含んだ言葉が洞窟に響く。

 研究所の入り口からカツカツと靴音を立ててやってくるのは、癖毛の赤髪を腰まで伸ばすアッコロだ。

 気怠そうな瞳からは若干の苛立ち。


「敵の本拠地で作戦会議とか。準備悪すぎ?」


「俺でもしない馬鹿どもであ」


 その横から現れるのは二メートルの体躯を持つベアだ。

 二人ともやる気充分と言った具合に、白の騎士装束に身を包んでいる。

 リオも最初から着ていたが、あれが第二支部(セカンド)の正装なのだろうか────ん?





「この服ぱつぱつで着にくいのよねぇ」


「俺は好きであ!」


「あんたは何着てても変わんないでしょうに」


「そ、そんなことないであ! サイズは6Lじゃないと着れないであ」


「それはあんただけだっての」


 ベアの気楽さにふるふると首を振り、アッコロは呆れて顔を手で覆った。


「あーめんどくさ。そこそこな仕事で終わると思ったんだけどなぁ、とりあえずさぁ──あんたら帰ってくれない? ケンくん以外は要らないんだよね、あたし達」


「なんですって?」


「わかるでしょ? 必要なのは悪魔憑きの血。それ以外はお呼びじゃないのよ──」


 その瞬間、二人の眼に闘志が宿る。

 意を決したようにアッコロとベアは告げた。



「「混成変化(キメラ・トランス)」」



 アッコロは(たこ)との混成(キメラ)に。

 ベアは熊との混成(キメラ)にその姿を変える。


 戦闘準備万端の彼らに、カリストもまたバッジを取り出して魔女の姿に変わる。


「さぁ、一番目(ウーヌス)、ケン! 行くわよ!」


「あのー嬢ちゃん」


「なによ、おじさん」


「その二人はもういないぜ」


「はぁっ!?」


 カリストはその言葉でようやく気づく。

 ケンと一番目(ウーヌス)の姿がないことに。


「な!? どこいったのよ!!」


「ピンク髪の嬢ちゃんは二人の間をすり抜けて先に。ケンは気付いたらいなかったぜ」


「う、嘘でしょ!! 作戦会議とか合ってないようなもんじゃないの!!」


 カリストが怒りに吠える中、バンジャックもまた「じゃっ、そういうことで」と言って、透明化の魔術で姿を消した。


「嘘でしょ、あたし達二人で足止めする予定が、あんた一人だけ? 先生に怒られるじゃん……」


「俺怒られるの嫌であ……」


 二人で任務の失態に頭を抱えるアッコロとベア。

 しかしそれ以上に震えているカリストはもはやその二人は眼中になく。


「じゃ、ないわよ……」


「は? なんて? ──ひ」


 黒髪のツインテールが怒りに浮かぶ。

 顔は般若のように豹変し、今にも人一人くらい殺ってしまいそうな狂気を覗かせていた。


「絶対許さないんだから」


読んでいただきありがとうございます。

少しでも“面白そう”と“続きが気になる”と感じましていただけましたら、『ブックマーク』と『評価』の方していただけますと幸いです。

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