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魔退の悪魔憑き  作者: UMA20
第三章 混成海賊奇譚 第三の手を知ってるか
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第四十六話 海賊という名の冒険家

 僕は透明化した何者かに抱き抱えられたまま、研究所の廊下をカリストと逃走した。

 訳がわからない状況のまま、話は勝手に進んでいく。


「それで! この後どうすんの! 稼げて数分よ!」


「大丈夫だ! この先に確か──」


 杖に乗り爆走するカリストの必死な形相に、透明な男は心強い声で答えた。

 そして、曲がり角を曲がった先には空間が歪んだワープゲートのようなもの。


「ここだ!! 飛び込め!」


 透明な男がそう叫ぶと、カリストは一瞬戸惑ったが、加速して突っ込んでいく。

 背後からは爆発音や何かが這いずり回る音が迫ってくる。

 そうして、


「いっっっけぇぇぇぇっ!!!」


 カリストは空中で回転。背後に向かって杖先を突き出した直後、世界は白に包まれた。

 巨大な爆音ついで爆炎が背を押すように僕ら三人を吹き飛ばし、ワープゲートの中へと連れてゆく。


 そして────、


「へぶらば!?」

「ほぼぶば!?」


「よっと」


 僕と透明の男は見事に着地に失敗して、地面とキス。

 カリストだけはフワリと宙で杖に乗って、墜落を回避した。


 痛む鼻を労って起き上がれば、真横には透明化が解けた海賊風の男。

 あまりにも見覚えのある姿に、思わず腹に力が入る。


「ば、バンジャックさん!?」


「いってて……よぉ、久方ぶりだな。色々聞きてぇことあると思うがひとまず」


 自分たちが出てきた空間には何もない。

 何もない場所にワープしてきたのだ。

 バチバチと火花が走り、今にも後続の追手がやってきそうな雰囲気で。


「この場から離れるぞ」


 バンジャックの提案にカリストも僕も頷いて、その場を後にした。





「まずはありがとうございました」


「良いってことよ。お前らの救出自体が目的だった訳じゃないんだけどな」


 外はもうすっかり夜だった。

 闇が蔓延る森の中、テントを張って野宿をするバンジャックの元で僕らは休息を取っていた。


 カプセルに漬けられていた一番目(ウーヌス)は、身体が再生しても意識が戻ることはない。

 現在はテントの安っぽいベッドでカリストが面倒を見ていた。


 僕はバンジャックに軽く話を聞いていた。

 バンジャックはある程度テントから離れると、硬い菓子のようなものを投げてよこした。


「これは……?」


「固形栄養食だ。昔どっかの国でもらったやつでな。マズイが栄養補給にはちょうど良い。食べとけ」


「ありがとうございます……」


 前歯で齧って少しだけ口にする。

 菓子というにはパンに近く感じる。

 パサパサのパンみたいな感じだった。

 確かに美味しくはない。


「もう、アイツらに関わるのはやめておけ」


「それは、どういう……」


 真剣な表情でバンジャックはタバコに火をつける。

 闇に光る小さなタバコの火は、か細く懸命に光っている。

 肺いっぱいに煙を吸って、空に向かって白煙を吐き出して、バンジャックは続けた。


「言葉そのままの意味だ。もう第二支部(セカンド)の研究所にいかず、教会にも行かず、聖魔教本部に直接帰りな」


「……! つまり、僕に逃げろと、言っているんですか」


「ああ。どんな話を聞かされたのか、知らないがあそこのシムラって野郎は頭がイカれちまってる。関わらねぇ方がいい」


 バンジャックの元に一羽の鳥が飛んでくる。

 黒い鉢巻を巻いた黒い鳥で、その嘴には小さな紙が咥えられていた。

 軽くバンジャックが礼を言うと、すぐさま空へと飛んでいく。


「情報屋さ。シムラ周りのことを調べてもらった」


「あ、あの鳥が、情報屋さんなんですか?」


「違ぇよ。アイツはペットだ。本人を見たことはない」


 小さく纏められた紙を解いて、中身を読むバンジャック。

 暫くするとその内容に顔を歪めて舌打ちした。


「気に入らねぇ。一定数、支持する奴がいそうなのが気に入らねぇ」


 バンジャックはそのままタバコの火を紙に当てて、燃やしてしまう。

 情報屋との契約なのかもしれない。

 そしてふと、


「クソガキ、第二支部(セカンド)の奴ら、何歳に見えた」


 そんなことを聞かれた。


 僕は一瞬考えた。


「同い年くらいに見えたので十五歳、くらいでしょうか」


 リオや(かえで)の落ち着いた雰囲気、ベアやアッコロ、ダイルは少し幼いような気もするが、十代ならば皆あの程度、精神年齢のバラつきと考えれば普通だろう。


 だが僕は忘れていた。

 魔殺しの子供達(ベナンダティ)の、平均年齢は十二歳。

 雑用係の僕を含めなければ、数字持ち以外は皆年齢が低くそれは他の支部であっても顕著なはずで。



「八歳だ」



 バンジャックの言葉に思わず目を開いた。


「は……っさい?」


「そうだ。数時間とはいえ共にしてたお前が、そんな反応をするんだ。俺も同じ気持ちだが、お前の方が重い」


 バンジャックの言葉に嘘はない。

 少なくとも彼は本気でそう言っている。

 だが、ベアら三人は兎も角。

 リオや(かえで)が八歳とはとても信じ難い。


「理由は単純だ。シムラが実験したんだ。セカンド(・・・・)の子供達で。勇者を創るなんていう馬鹿げた理想のために」


「嘘……だ。そんな、そんなこと」


「変に思わなかったか? 第二支部(セカンド)の子供達が、たった五人しかいないことを」


 それは暗に、他の子供達が犠牲になったことを意味していて。


「カリストって言ったか。嬢ちゃんを助けた後にな。見ちまったんだよ、実験の失敗作ってやつをな」


 僕の中の熱がどんどん冷えていくのを感じていた。


「動物と人間のハイブリッド……キメラって言ったか? 人の尊厳も、何もかもを無視した馬鹿げた実験だ。反吐が出る」


 バンジャックはタバコをそのまま握り潰した。

 火の熱など、感じていないかのように、皮膚が焼ける音が夜の静寂に響く。

 そこまでの怒りを感じて、僕の心にはある疑問が浮上する。


「どうして……そこまでバンジャックさんは、シムラ先生を気にしているんですか。貴方には、僕らのことは関係ないでしょう」


 思わず口から出たその言葉。

 理解が出来なかった。バンジャックは教会関係者ではない。

 その男が偶々荷物を運んだ先が、マッドサイエンティストの実験場だったというだけで、ここまで気にかけるのか。

 命を危険に晒してまで、僕らを救ってくれた。


 その意図が正義感、と呼ぶにはバンジャックは正義に生きていないことを知っている。

 何せ海賊だ。

 人の生活を荒らす、海の荒くれ者。


 バンジャックは僕の質問に少しだけ、逡巡しゅんじゅんした様子を見せ、口を開いた。


「俺には娘がいるんだ。海賊をしている時、一緒に航海していた」


 それは一見、何の関係のない話に思えた。

 だが彼の語る表情が、あまりにも真剣だったから。

 僕は黙って彼の話に耳を傾けた。


「今から十年前のことだ。俺は海賊の中でもかなり名を馳せていたんだ」


「そんなに大海賊だったんですね、でも確かなり損ねたって……?」


「おう。臆病者、或いは冒険家。そういった意味合いで、俺は有名だった」


「なんていうか、不名誉ですね……」


「そんなことねぇ。人の命を奪わなかったことが俺の誇りではある。強奪はしたけどな」


「……」


 命をとっていないだけマシ、なのだろうか。

 僕の視線の冷ややかさに気付いたのか、バンジャックは視線を逸らして話を続けた。


「ともあれ、だ。俺は娘と二人で海賊をしていた。仲間はいなかったが、知り合いは多かった。珍しい海賊だったからな。そんなある時、俺たちは入っちゃいけねぇ海域に入っちまった。名を──“深淵の海域(デルタ・ラヴクラフト)”と言った」


読んでいただきありがとうございます。

少しでも“面白そう”と“続きが気になる”と感じましていただけましたら、『ブックマーク』と『評価』の方していただけますと幸いです。

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