第三十七話 セカンドの子供達
「このローストチキンめちゃくちゃに美味いなぁ!!! さすがお前達が丹精込めて育てただけのことはあるぞ!!」
チキンの身を千切り、ガツガツ食らうシムラ。
その細身からは想像出来ないほど大食漢であり、凄い勢いでテーブル上の料理を平らげている。
「ふふ、そうでしょう! 何せその子は私が愛を込めて、手入れをし、餌をやり、寝るときさえ共にした最愛の鶏! 名をチキン」
「ぶふーっ! リオぉ! 食べる鳥の名前をチキンにしてたのか!」
何かの劇でも見せられているかのように、踊るように言ってのけたリオに、口のものを噴き出すシムラ。
因みに正面にいた僕が全部かかった。
隣にいたカリストは器用に結界で防いでいる。
「最高のジョークだ! リオ! アーハッハッハッハ!!」
「でしょぉ!! イーッツ」
「「ジョーク!!」」
なんて言って二人で両手を拳銃の形にして戯けている。
向こう側の席に座る第二支部の子達はみんな爆笑している。
仮面女子なんて、何に感動したのか拍手をしている。
何だこの地獄絵図は……。
正直言って、不謹慎極まりない冗談だし、部外者の僕らはとても笑えない。
「にしても、第一支部に……そんなことがあったんだね」
「いや、急だし温度差何よ」
「あ、ほら。たまには真面目な話もしないとね」
食事をしながら、僕らは第一支部で起きたことを事細かに話していた。
後から聞くドゥルキュラという魔人の恐ろしさ。
聞けば聞くほど、なぜ僕が彼に勝てたのかはさっぱりだ。
一応、魔人を倒したのはカリストの功績ということになっている。
悪魔憑きであることをバラすリスクの方が高いと判断したからだ。
確かに、あのシスターを見た後では悪魔憑きに対する見方も少し変わってくる。
世間一般で、シスターの姿を皆が想像しているのならば、このことは伏せておいた方が良いと思った。
「安心してくれたまへ。本部からの伝令は、相変わらず来やしないが問題ない。わたしたちが君らを雇うさ! 任務の報酬はもちろん渡すよ。シスターのところはどうしていたのかは知らないが、ここでは五割を貰うことにしている。それで良いかな?」
「五割だけ!? 良いの? そんなに」
「え、あぁ。食材は自分で育ててるのが大半だし、うちの子達は狩が得意だからね。いざとなったら山や川に行って取ってくるのさ」
確かにこれだけ自然が豊かならば、敢えて食材を買わなくても本部からの仕送りと狩だけで賄えそうだ。
第一支部の周りは魔物だらけで、生物は小さなリスやウサギ程度しかいなかった。
イノシシや鹿、熊なんかは魔物を恐れてどこか遠くに行ってしまうから、ある意味ウサギ達に取っては楽園に近しい環境なのかもしれない。
「そうだ。ごめんなさい、先生。実はまだ私とダイルしか自己紹介をしていないんです」
と、思い出したようにリオがシムラに謝った。
それを聞いてシムラは、
「な、なに! それは一大事じゃないか」
勢いよく立ち上がって、コホン、と咳払いした。
「では折角だし。僭越ながら、わたしの
第二支部の精鋭をご紹介しよう」
そう言って、まず初めに鶏のトサカのような髪型をした人相の悪い男の子。ダイルの肩に手を置いた。
「ダイル・ギュースくんだ。態度は悪いが心根は優しい。それに呼応するように祈祷術も防御系中心だ」
「うっス」
続いて、真っ赤に染まった長い癖っ毛を持つ女の子。
腰辺りまで伸びた長い髪を、指先で弄っている。
これは完全に個人の感想なんだが、なんだかカリストに似ている気がする。
「彼女はアッコロ・スキュラ。主に治療役だ。祈祷によるバフも得意としている」
「よろしく。ま、そこそこに」
続いて二メートルは余裕でありそうな巨漢だ。
とても同年代とは思えない風格だった。
大人と言われても全然疑わないだろう。
椅子に座って、なお背が並ぶ彼の背を叩くシムラ。
「こいつはベア・ジャンだ。肉体強化の祈祷を使う。力自慢でな、コイツに取っ組み合いで勝てる奴はそういない」
「お、おう! オレ力だけはあるぞ!」
見た目通りというか、期待を裏切らない舌足らずな雰囲気のベア。
腕の太さだけで僕の胴体くらいはありそうだった。
「次は鷲見楓。実はわたしと同郷でな。遠い東の国が出身なんだ。他のみんなと違って、主に気術を使って戦うぞ」
続いて紹介されるのはずっとリオのそばに居た仮面の女性だ。
静かな佇まいと惚れ惚れするほどの綺麗な姿勢は、国由来なのだろうか。
「よろしく頼む。そこもとら、拙者は戦うのが好きだ。時間が合えば一つ、手合わせをしよう」
クスッと笑う。
そんな彼女の仕草に凛々しさというか、強さを感じて思わずドキっとしてしまう。
というかこの人、こんなに凛然としてるのにイッツジョークとか言ってたのか。
環境の害、受けすぎで辛い。
そして最後にやってくるのが、もちろん。
「改めて、リオ・ティグリスだ。この第二支部のリーダーを務めてくれている。基本的には楓と共に前衛を担当し、気術と祈祷術の両方を扱う。攻撃のみなら楓に軍配が上がるが、総合力ならわたしはリオの方が高いと思っているよ」
「褒めすぎですよ。私にそんな力……」
「今まで引っ張ってくれただろ! 謙遜するなって」
二人は笑い合っていた。
その関係性を見るだけで今後の第二支部に良い未来を見ることができる。
ほら、楽しそうで良いじゃないか。
と、自慢げに視線で語った。
だが、
「…………」
(カリスト……?)
カリストは暗い表情のままだった。
そんなに第二支部のことが気になるのだろうか。
何を、どうしてそこまで……。
と、そう思っていた時だ。
教会に設置されている、天井近辺に設置された鳥用の扉を潜り抜けて一羽の鳥が侵入するやいなや、紙を一枚シムラの元へと落とした。
封を外し中を確認するシムラ。
「任務だ」
「「「「「!!」」」」」
シムラの声に反応して、第二支部の子供達は一瞬で起立する。
ザン! と音が鳴り、その迫力が空気の振動から伝わってくる。
全員の行動が揃う様は国の軍隊のようで──本当は僕もそうあるべきなんだろうけど──かっこいいと思ってしまった。
「折角だ。わたしたち第二支部の戦闘を、第一支部にお見せしようじゃないか」
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