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魔退の悪魔憑き  作者: UMA20
第三章 混成海賊奇譚 第三の手を知ってるか
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第三十六話 大司教会議

「ごめーんぴっ!」


「「ごめーんぴっ!!」」


 握り拳を頭に当てて舌ぺろをする中年男性、という絵面はほぼ他人である僕らから見れば地獄絵図であり、それを真似する第二支部(セカンド)の子供達の姿も、ワテリングとは違った恐怖を僕に与えていた。

 謝罪の態度とは思えない言動は、ギャグになると思っているのか。

 謝罪をそもそも求めてはいないのだが、僕らの反応が想像と違ったのが問題だろう。


「ねぇねぇ! ウケ悪くなーい? わたし(・・・)、結構ハッチャケたのに!」


「先生大丈夫です! リオは面白かったですよ!」


「うむ。拙者も先生に落ち度があるとは思えない」


「だよねー! マジ焦ったわぁ。ふぃー」


 実際に今も、第二支部(セカンド)の三人は円陣を組んで漏れ漏れの作戦会議をしている。

 真面目な見た目に反して、物凄くおちゃらけキャラのようだ。

 それが子供達に悪影響をビンビンに与えていると思うが、そこは口を閉じておくことにする。


 僕らが相変わらず黙っていると、シムラは修道服のヨレを直しつつ、僕らと向かい合った。


「改めて、ここのブラザー“シムラ テイオー”だ。よろしく頼むよ第一支部(ファースト)の子ら。ぜひ、食事をしながら君達の話を聞かせておくれ」



 —



 その頃。

 エルバハ独立国の天魔教本部では、教皇を含めない最高聖職位による会議が行なわれていた。

 会議用の円卓を取り囲むように、六人の大司教が座っている。


 その中でも最も若い少年がいた。

 椅子に座っても顔が見えずに、被る長帽子だけがちょこちょこ動いている。

 よいしょよいしょと懸命に背伸びするが、顔は見えない。

 一人は笑い、一人は呆れ、残る三人は無関心。

 各々の反応を見せたところで、少年は椅子の上にふわりと浮かび、コホン、と咳払い。


「今回の会議を取り仕切る、モラル・ホロコーストだ。前任である大司教が殉職したため、次期大司教と呼ばれていた僕が、早めではあるがこの場に立たせてもらった。まだ正式には大司教ではないが、時間の問題だ。よろしく頼む」


 少年は身の丈に合わない、金と白が基調で十字架の刺繍が至る所に施された法衣を着用していた。

 彼が宙に浮かべば、顔の半分以外は帽子と服が割合を占め、彼の感情は目つきで判断するしかない。

 だが、そこは子供ゆえか。


 ギラリと細まる目は不快を存分に表していた。


「問題あるか?」


「意義なーし」


 少年の問いに真っ先に答えるのは大司教唯一の女性司教だ。

 ネイルのケアをしながら答える適当さではあったが、他の司教より答えるのが早かったからか、モラルの印象は悪くなかった。

 そのまま視線を滑らせると皆適当な返しをして、モラルの機嫌を悪くさせる。


 しかし彼もまた次期大司教の看板を背負う者だ。

 一回気持ちを落ち着けて深呼吸をして、整える。


「今回の議題は二つだ。両方とも魔殺しの子供達(ベナンダティ)に関するものだ。まず一つ目、現在第三支部(サード)第四支部(フォース)が合同でとり行っている、大規模な悪魔討伐戦線についてだが、あまり状況が良くない」


「と、いうと」


 一人の大司教が指摘する。

 深めのハットを被ったガンマン風の男だった。

 立派な顎髭を蓄えて、腰には銀のリボルバー。

 少年は今から言うのだ! と言わんばかりに睨み付ける。


「おお、怖」


 男は戯けるように笑うと続きをどうぞ、と手のひらを差し出した。

 その様子に満足したのか、モラルは鼻を鳴らす。


「まず確認されたのは魔人が三体。加えて魔物が約五十体だ。数はこちらが約百人。数的有利はこちらにあるが、幾分戦力さが厳しい。現状、負けないので精一杯だと言うことだ」


「つまり?」


「がぁーっ! だ・か・ら、今から言おうとしてるだろ!? 黙ってお前は聞けないのか!!」


 茶々を入れてくる男に早めの大噴火。

 モラルの怒りにヘラヘラと返す。


「話がよぉ、長ぇのよ次期大司教さんよ? 俺らも暇ってぇわけじゃねぇのさ。ほら、見なさいな。“正義処刑人(ダーク・ライト)”はさっさと帰っちまったぞ?」


「なに!?」


 男の指差す先には確かに、もう一人の大司教が座っていたはずだが、影も形もない。

 モラルの顔は真っ赤に色付き、目は血走り始める。


「まだ会議は始まったばかりだと言うのに……!!」


「まぁまぁ、とりあえずよ。結論から話してくれや。俺らを呼んだわけ、があるんだろ? ならそこを話さねぇとな」


「わかっている!! ここの戦線を維持出来なければ、その背後にあるエヌーク共和国の街が一つ焼け野原になってしまう。進軍を許せば、幾つの町や村が犠牲になるかは予測も出来ない!」


「だから結論から話せっての……」


 やれやれ、と言ったように頭を振る男。

 彼の言葉は、もうモラルには届いていないようだった。

 話を続けるモラルは勢いのままに円卓を叩く。


「つまりキミたちの中の誰かに戦線に赴いてもらいたい!!! 皆それぞれが戦闘力はピカイチだ。少なくともこと悪魔に関して、遅れをとる者はいないと考えている。我こそはというものはいるか!」


「あ、もう一人いなくなったぜ?」


「なに!!?」


 そう男が指差せば、男の両隣がガラ空きだった。

 既に二人が退席した事実にモラルは目を回した。


「一体どうなっている……大司教だろ? 己の責務を理解しているのか」


「奴らには奴らの責務があるのさ。ほら、“隣人の囁き(ミラクル・ボイス)”だってよ、天魔の通信網担当としての責務があるわけさ。アイツが五分席を外すだけで、天魔の連絡は一時間遅れるんだぜ? まぁ部下は優秀だから数十分くらいなら何とかなるだろうがなぁ。時短だよ時短。何でも効率的にやらないと」


「ボクに説教垂れるな!! 中年風情が!! ボクは時期大司教だぞ!!!」


「俺は現大司教なんだがなぁ」


 先達として適切なアドバイスをしたと頷いていた男だが、激昂するモラルにたじろぐ。

 その様子を傍観していた女大司教は突然手を上げた。


「お! やってくれるのか!」


「あたしはパース」


「なんだと!???」


 そういって女大司教は席から立つと憤慨するモラルのことなど気にかけずにさっさと円卓の間から出ていこうとして、さすがに見かねた男が溜息混じりに止めた。


「さすがにもう少し話を聞こうぜぇ、“愛の偶像劇(ラブ・マーダー)”ぁ。お前さんが調教してる豚さんたちだってもう少し待てが出来るだろう」


「そんなことないよー。あの子達はねぇ意外と我慢出来ないの。だからライブにだけは遅れないようにしてるの! だから今回はごめんねー」


「はぁ、マジかよ」


 男は頭を抱えた。

 大司教が次々と抜けていく現実に。

 と言うよりも、この場に残ったモラルのお守りをさせられる現実に絶望していた。

 そんな中、まだ座る最後の大司教に望みを託し、目配せする。


「“世の裁定者(アービトレーター)”、アンタはいかねぇよな?」


「……行かぬ」


「さっすが最古参の大司教様だぜ!! 話がわかるやつがいねぇと始まらねぇからな!!」


 白い帯状の眼帯に、巨大な金の秤を背負う男、“世の調停者(アービトレーター)”。

 彼はコクリと頷いて、静かに答えた。

 そんな彼の隣に座り、バンバン背中を叩く男は何とか難を逃れたと上機嫌だった。


「して、次期大司教よ。我から提案である」


「おお!! シャマシュ! 最終決定はボクだが、良さげなら採用してやらないこともないぞ」


「なんちゅう厚顔な。まぁある意味、大司教の器かもな」


 男は一人で納得した。

世の調停者(アービトレーター)”こと、シャマシュは頷いて、提案した。


「“無軌道の凶弾アウトサイド・イレギュラー”は戦線に行かせた方が良い」


「なして俺!!? てか、シャマ氏真似しないでよ! 二つ名呼びかけ!」


 隣でまさしく仰天と言わんばかりに驚いて、真後ろにぶっ倒れる男。

 恥ずかしそうにツッコミをする男にシャマシュは冷静に答えた。


シェリフ(・・・・)。汝が楽しそうに呼んでいるからであろう。どのような心持ちだ」


「はは。ノリだよ、ノリ。つい、な。カッコいいだろ? だーれも使わないしよ」


 大した理由はなかった。

 ガンマン風の男──にとって、理由とは後からやってくるものであり、先に行動に起こすことこそ肝要と考える。


 彼のポリシーはさておき、モラルは目を輝かせてシャマシュに詰め寄った。


「それでそれで! なぜシェリフに行かせるのだ」


「我が天秤にて、戦線に我が行くべきかシェリフが行くべきかを測ったところ、天秤はシェリフを推薦した。それも完全なる、ゼロ対一◯◯の傾きである」


「うそーん!!」


 勘弁してくれよぉ、と再び頭を抱えるシェリフ。

 シャマシュという、実質教皇の次に偉い大司教からの推薦があっては断るものも断れない。

 更に言えば、


「その天秤は確か、問に対してどちらの方が最善かを判断する秤、だったか?」


「その通りだモラル。基本的には、どちらの方が生き死にが少ないか、が絶対基準となっている。それ以降は我にも分からぬが、基本この秤通りにして間違いがあったことはない」


 シャマシュが持つ金の秤は、魂と魂の重さを比べ、どちらの方がより価値があるかを測るものであった。

 それをシャマシュの力により、未来予知とまでは行かずとも、ある程度当たる占いに昇華させた。

 シャマシュの手腕あってこその力だった。


「しゃーねぇ。そこまで言われちゃあ俺が行くしかねぇか。はーやだやだ貧乏くじだよ」


「どうだろうな。我はここに滞在せねばならない。少しは身体の運動でも、と考えていたのだがな」


「シャマ氏は充分ムキムキのくせに、一体どこを鍛えるってんだか」


 なんて言い捨てて、シェリフは席を立つ。

 黒いコートが(ひるがえ)り、コートが不可思議な風で(なび)く。


「ほいじゃ、いってくらぁな」


「待て」


「どあたーっ!? なんでだよ! 行かせろよ!」


 カッコよく去ろうとしたシェリフの襟をむんずと掴むモラル。

 割と大股で行こうとしたため、またしても後ろに倒れる勢いでズッこけるが何とか、それは阻止した。

 ぷりぷり怒るシェリフに対して、モラルは冷静に告げた。


「まだ話が終わっていないだろう」


「あ、そういえば二つって言ってたか。今度は手短に言えよ。戦線ヤバいんだろ?」


 そう。実際現状膠着状態とはいうものの、危険な状態なのは変わりない。

 数で何とか押し留めているが、いつ彼らの力が尽き、戦線が崩壊するとも限らないのだ。

 教会専用の快速バイコーン、ユニコーンを使用したところで教会からでは一日はかかる。

 身体の頑丈さを上げることができる人間にしか使用できない、超速度の馬だ。

 振り落とされないための準備も必要である。


 だからさっさと行きたかったシェリフだったが、

 次のモラルの言葉は彼の興味を引く内容だった。


第二支部(セカンド)で、何か企みが動いていると、情報が入った。悪どい悪どい企みが、な」


読んでいただきありがとうございます。

少しでも“面白そう”と“続きが気になる”と感じましていただけましたら、『ブックマーク』と『評価』の方していただけますと幸いです。

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