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魔退の悪魔憑き  作者: UMA20
第二章 三人旅鋼鉄壁村編 死怨霊ワテリング
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第二十七話 戦いの終わり 宴の始まり

「今日は姉さんからの奢りだ! 遠慮すんなー!!! 騒げー! 踊れー!!」


「「「村長万歳!!!」」」


 倒壊した村の真ん中で、家の木材をかき集め、作り上げられたキャンプファイアー。

 その真ん中で音頭を取るのは、巨大な肉を突き刺した鉄棒を片手に酒を呑むマキラだった。

 周りの男女達も一緒になって生き残ったことを喜び、騒いでいる。


 元々山賊や罪を犯した者、いわゆる日影者が多いエンドラインの村民達。

 彼らは死者を慈しむより、今生きることを大切にしているかもしれない。

 そんな感慨を思いつつ、カリストは暗闇でゴォと燃え上がるキャンプファイアーを見つめて、分け与えられた肉を少しずつ口にしていた。


「なんだよ、全然食ってねぇじゃないか」


 そんなカリストを心配してか、盛り上げ役のマキラが横に座ってきた。

 体重差でシーソーのようにカリストが飛んだ。

 仕方なくカリストは土の椅子を魔術で作り、木の椅子から退いた。


「あんたが食い過ぎなのよ。何よその肉」


 これ見よがしに巨大な肉にかぶりつくマキラ。

 豪快な食べっぷりは見てる側すらお腹いっぱいになる。

 その鉄串に刺さった肉を振って、マキラは嬉しそうに答えた。


「これか? 猪肉だ。良いだろ。滅多にこの大きさは食えねぇ」


「羨ましくはないわ……見てるだけで胃もたれしそう……」


「アッハッハ! お前はもっと食った方がいいな!!」


 マキラが手のひらで思い切りカリストの背を叩こうとして、華麗に避けて見せる。

 カリストの背とマキラの手のひらは同じぐらいの面積だ。

 それに加えてメロンがそのまま乗っかっていそうな筋肉の力で、ぶっ叩かれては目ん玉が飛び出てしまう。


「そういえば一番目(ウーヌス)は?」


「あぁ。あの綺麗な嬢ちゃんか。あの子ならパイドラの婆っちゃんと森に入っていったぞ。あ、姉ちゃんと」


「あんたにまで強制してんの……」


 てっきり余所者だからと思っていたが、身内にも言わせていたらしい。

 パイドラは余程歳にコンプレックスがあるのだろう。


「ま、そんなの私にはわかんないか」


 まだ十五だし。と、呟く。

 思えば魔殺しの子供達(ベナンダティ)の中では随分と生きてしまった。

 シスター戦こそ、死に場所だったのかもしれない。

 とはいえ、


「ケンを残して死ねるはずもない、か」


 “|Die with honor《死は誇り》”。ケンら教会の信徒が神に捧げる祝詞(のりと)の三節目の文言だ。

 死こそ誉である。悪魔と共に死んだのならばそれは恥ではない。

 悪魔を殺せなかったことこそ恥なのだ。


 そういう教えである。


 だからこそ、それを思うのなら相打ちにさえ持っていけなかった自分は恥なのだろう。


「ケン……」


 ケンはシスターを倒した。

 未熟ながら、悪魔憑きの力によって。

 その力はカリストの首筋にも立てられたものだ。

 あの夜を思い出して、カリストは首筋を触った。

 もう傷もない、艶かしいあの感触。

 もしまた、迫られた時はどうしたら良いのだろうか。


 そんな時だ。


「おい、大変だ!! 嬢ちゃん!」


 宴で呑んだくれていた一人の男が焦った様子で駆け寄ってくる。

 その様子にマキラがすぐに立ち上がり、


「どうした。何があった?」


「いや、その、そっちの嬢ちゃんの連れがよぉ」


「連れ? ピンク髪の女か?」


「ち、ちげぇよ! 男の方だ!」


「「?」」


 男が言う対象など一人しか存在しない。

 マキラとカリストは目を合わせ、すぐに走り出した。



 —


 自然は人を癒す薬にもなれば、人を不安にさせる毒にもなりうる。

 深夜の森はまさに人に牙剥く闇の世界だ。


 光源がなければ足元は見えず、どこに息を潜めた魔物や猛獣が潜んでいるか熟練者でなければ判断もつかない。

 だからこそ、闇に支配された森の中で一人立つ一番目(ウーヌス)もまた、闇に呑まれたか弱い子羊と変わりがなかった。


「今でこそ三大術系統、なんて言われてるがね。その術らの司る物を考えればそれが繋がりある物ではないことくらいは、想像がつくもんさね」


 闇のどこかから声が聞こえる。

 右から、或いは左から。

 そこらじゅうにいるようで、どこにもいない。

 そんな錯覚を思わせるほどに、居場所が掴めない。


「魔術は生命を。気術は魂を。祈祷は思いを。そう、そもそも昔は祈祷術なんてありやしなかったのさ。元々は二大術系統。魔術と気術こそが至高。アンタも──面白いことしてるみたいじゃないか」


「お姉さん程じゃないわ。私はただ、魔術と気術を組み合わせて身体の再生を限界まで早めてるだけよぉ? 中途半端ってわけ」


「ほう。なら、アタシの攻撃だって読めるはずさね──」


 視界不良から繰り出される拳の一撃は一番目(ウーヌス)の頬に直撃した。

 瞳を必死に動かして敵の姿を探すが一方的に殴られ続けるサンドバッグと化していた。


「ハハハッ! そらそらどうした!! 暗闇で気配まで消したアタシを、普通に探そうとしたって上手くいくわけないだろう!」


 一番目(ウーヌス)は言われて、感覚的な物ではなく、更にその奥深くを見つめることにした。

 魂の力を使い、生きようとする力をそのまま再生力上昇にしていた自身の記述の一端を、この一瞬のみ生きる(・・・)ために瞳に移す。


 右後方。揺めき光る何か。

 それが自分自身の魂に攻撃の色を示した瞬間、その場に手を置くように差し出して、


「やるじゃないか」


 パイドラの攻撃を止めた。

 嬉しそうにパイドラは笑い、服の埃を叩く。


「中途半端って言ってたがね。アンタ気術の才能があるよ」


「私に? でも……」


 一番目(ウーヌス)は自分自身が生き残るために、様々な努力をしてきた。

 その結果が三大術系統の全てを組み合わせることで、不死を実現すること。

 どれだけ傷つこうが、腕が取れようが足が吹き飛ぼうが死ななければ負けはない。

 そんな発想から辿り着いた死なない身体。


 その過程では勿論、自分に合った術はないか模索したこともあったが、全て不毛な努力に終わっていた。


「はん。おおかた、師匠が居ないで独学といったところか」


「…………」


「悪いがね、魔術はセンスだが、気術は教えだ。師匠が居なけりゃ、羽ばたくもんも羽ばたけない。鳥は元から飛べるが、人は飛び方を教わらないと一生飛べないだろ? そういうことさね。ま、アンタは今のである程度掴めたんじゃないか」


 パイドラは嬉しそうに微笑んで背を向けた。


「魂の本質を」


 そのまま今日の修行は終わりと言わんばかりに、村の方にスタスタと歩いていく。

 葉の間から僅かに見える、空へと立ち上る宴の煙。

 彼らのどんちゃん騒ぎは離れた森の中でも充分にその賑わいを伝えていた。


「何か事情があって、本来の力が出せないことは分かるが、新しい武器を持っておくのは悪いことじゃあないか?」


「そう、ね……悪くないわ」


「は。可愛くない娘だよ」


 なんて軽口を叩いて二人は村へと帰る。

 帰途は無言ではあったが、二人の雰囲気は決して悪い物ではなかった。


 だが、村へと帰るその途中で、


一番目(ウーヌス)!!!! どこー!!!」


 上空を飛び回るカリストを二人は見つけた。

 見合わせて、何かあったのだと悟ると、一番目(ウーヌス)は木の上に飛び移った。


「ここよ。どうかしたの?」


「あ! よかった……ケンがね! 大変らしいの!!」


 カリストの焦りようは尋常ではなかった。

 ケンの身に何かあったのは間違いない。

 一番目(ウーヌス)はカリストに連れられて、森の中を駆けて行く。


 ケンはシスターと一騎討ちをした。

 シスターの呪いは戦いの最中、カリストの治療を完治させず、苦しみを与え続けている強力な物であった。

 それを考慮すれば、直接本人とやり合っていたケンだけが、何か呪いを貰っていても不思議ではない。


 嫌な汗が出る。

 折角、皆無事でこの場を乗り切ったのに。

 この最後の最後で、また仲間を失うのか。


 それは────あまりに。


 と、カリストに連れられてやってきたのはかろうじてシスターの災害から逃れることができた、借宿だ。

 療養が必要なケンは、借宿の中のベッドで寝かしていたのだ。


「ケン!!」

「ケンちゃん!!」


 勢いよく扉を開け放つ。

 一番目(ウーヌス)は最悪の状況を想像して、


「あぇ……?」


 その状況に絶句した。

 カリストも唖然として、思わず手の力が抜けて杖を落とす。


 借宿の一室。ベッドの上にいたのは、着ていた服がヨレヨレになり、身体を大きく縮めた白髪の少年──というより男の子。


「お姉……ちゃん?」


 幼児化したケンがそこにいた。


こちらで二章終わりとなります!

ここまでお付き合いいただいた読者の方々、誠にありがとうございます!!

良ければぜひ、感想等していただけると作者のモチベーション向上となりますのでよろしくお願いします!!

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