87 『壬生家の論功行賞』と『琉球貿易』
1542年3月初旬。
壬生屋敷・広間。
楠予家での論功行賞と宴が終わった数日後。
壬生屋敷の広間には、次郎の家臣や与力たちが呼び集められていた。
正面に座すのは、若き主・壬生次郎忠光。
その左右には、筆頭家臣の弥八、庄吉、おとよ、兄の豊作が並ぶ。
侍女のお澄とさやも後方に控え、静かに場を見守り、広間には緊張と期待が入り混じった空気が漂っていた。
やがて次郎が膝を正し、皆を見渡して口を開いた。
「皆の者、こたび御屋形様より所領千石と俸禄千石のご加増を頂いた」
「「殿、おめでとうございます」」
「うん、これも皆の支えがあってこそだ」
弥八が笑う。
「いえいえ、殿ならば勝手に楠予家に貢献しますから、我らの力など微々たるものです」
「弥八の申す通りじゃ」
次郎が手で制す。
「世辞はいいから。ともかくこれより楠予家の論功行賞をする。まずは弥八」
「はっ」
「その方の働きは甚大である。よって俸禄100石を加増する」
弥八が頭を下げる。
「ありがとうございます。殿のために命をかけます!」
「あっ、うん頼んだぞ」
(思い出した! そう言えばこいつ、口が軽いんだよ。お澄との婚約の時に、俺の為に働くのが喜びとか言って置きながら、千代義母さんと組んで、俺を騙したんだよ!)
「次に豊作だ。かつて俺が矢傷を負った時に助けてくれた事は忘れておらん。また、壬生家の軍事頭としての活躍を期待し、俸禄100石を加増する」
豊作が目を大きく開けたあと、畳に頭を付けた。
「殿! 過分の評価ありがとうごぜえます! 貰った加増以上の活躍をしてごらんに入れます!」
「うむ、頼んだぞ」
「次に庄吉とおとよ。それぞれ俸禄50石を加増する」
「「ははっ、ありがたき幸せ」」
庄吉とおとよが頭を下げる。
次郎が言葉を継ぐ。
「ついで、その方たちに紹介したい人物がいる。弥八、呼んで来てくれ」
「はっ」
弥八が広間を下がり、暫くして二人の武士を伴って戻ってきた。
一人は、堂々とした体躯に鋭い眼光を宿し、もう一人は、細身でやや気弱そうな面持ちの男だ。
二人は畳に手をつき、深々と頭を下げた。
「※高橋弾正、御屋形様の命により壬生殿の与力としてお仕えいたす。某は体を動かすのが得意ゆえ、槍働きならばお任せあれ」
「※新谷内記でござる。同じく与力として壬生殿にお仕えいたします。ちなみに私は政務に長けております」
次郎が軽く頭を下げる。
「壬生次郎でござる、どうぞよしなに。ただ、縁あって寄親となりましたが、不服があれば一年後に別の寄親に変えれますので、それまでは我慢して下さい」
弥八がにやりと笑い、二人に声をかけた。
「殿はこう仰せだが、我ら壬生家は皆、血の通った仲間です。遠慮なく力を振るってくれればよいですから!」
豊作が笑う。
「壬生家の飯を食べれば出て行こうなどとは思わなくなる、逃げるなら今のうちですぞ」
高橋弾正は豪快に笑い、胸を叩いた。
「ははっ、飯を食わせてもらえるなら、命を懸けて働くまで! 逃げる気など毛頭ござらん」
一方、新谷内記は少し顔を引きつらせながらも、慌てて頭を下げた。
「私も、精一杯役目を果たす所存にございます……」
次郎は頷き、家臣たちに向かって告げる。
「このお二人は、越智家の元重臣で経験豊かな人材だ。皆も心して迎えよ」
弥八が笑みを浮かべ、庄吉とおとよも軽くうなずく。豊作は腕を組んだまま、じっと二人を見据えていた。
広間には、新たな仲間を迎え入れる緊張と期待が入り混じった空気が漂った。
ーーーーー
数日後。
次郎は又衛兵と家臣4人を連れ能島に渡っていた。
入り江に船が着くと、並んだ水夫たちが無言で櫂を止め、次郎たちを屋敷へと導く。
板戸をくぐった瞬間、広間の奥から豪快な声が響いた。
「よく来たな、義兄弟!」
島吉利が笑顔で立ち上がり、両腕を広げて迎えた。
「久しぶりです、吉利義兄上!」
「久しぶりだな、義兄。この前は朝鮮人参をありがとな」
「いいって事よ。それより今日は楠予家の料理を振る舞ってくれるそうだな。料理と酒で再会を祝おうじゃないか」
次郎が頷く。
「じゃあちょっと台所を使わせて貰いますね」
「おう、十兵衛。案内をしてやってくれ」
「了解しました、次郎殿こちらへどうぞ」
次郎は豊作と家臣3名に目で合図を送る。豊作は護衛として、残りの3人は次郎の護衛兼荷物運びとして壬生家から鶏肉、小麦粉、油を運ばせてきていた。
次郎は台所に通されると、家臣たちが運び込んだ鶏肉を手際よく切り分けさせ、油を火にかけた。
鍋が熱を帯び、やがて「じゅわっ」と音を立てて鶏肉が油に沈む。
香ばしい匂いが立ちのぼり、台所の外にまで漂うと、水夫たちが鼻をひくつかせてざわめいた。
「なんだこの匂いは……」
「明国の料理か?」
次郎が揚げた皿を広間に運ぶと、吉利と又衛兵が座布団に座り待っていた。
次郎が2人の前に大皿を置くと、島吉利は箸で一つつまみ、熱さに顔をしかめながらも豪快に笑う。
「うまい! これは酒が進むな! さあ次郎、席に座れ。又衛兵も食え!」
笑い声が広間に響き、盃が回る。やがて場が落ち着いたところで、次郎は真顔に戻り、静かに口を開いた――。
「吉利義兄上、実は琉球王国と交易がしたいのです。船をお出しできませんか?」
島吉利は盃を置き、しばし黙した。
やがて真顔で首を振る。
「……無理だ。俺たちは瀬戸内の海を知り尽くしてはいるが、外洋は別物だ。我らの船で琉球まで行くのは危険だ」
(え? マジで? 琉球って九州のすぐ近くじゃないの?)
又衛兵が食い下がる。
「義兄弟の頼みを突っぱねるのか」
「突っぱねるのではない。現実を言っているだけだ」
吉利は真剣な眼差しで次郎を見据えた。
「琉球に渡りたいなら、堺の商人か塩飽衆を頼れ。あいつらなら外洋に慣れている」
「塩飽衆ですか……。義兄上にご紹介をお願いできますか?」
島吉利は腕を組み、しばし考え込んだ。
塩飽衆はこの時代、村上水軍の傘下にあり、村上水軍としてならば、命じる事は可能ではあったのだが、吉利にはその権限が無かった。
「……塩飽の連中は気まぐれだ。金にも義理にも動くが、海のこととなれば誰よりも鼻が利く。俺が口を利くことはできるが、あとはお前ら次第だ……」
次郎は深く頭を下げた。
「義兄上のお力添え、感謝いたします」
吉利は盃を取り直し、豪快に笑った。
「よし、話は決まったな。だが今宵は交易の話より酒だ! 飲め、次郎!」
次の日、次郎たちは吉利の家臣、小西十兵衛に連れられて塩飽衆の本拠地、塩飽諸島(讃岐沖の小島群)へと船で向かった。能島を出港してから2日目の昼、次郎たちの前に塩飽諸島の島影が水平線に浮かび上がった。
やがて船は島々の間を縫うように進み、入り江の奥に小さな港が現れた。
岸には大小の船が並び、船大工たちが槌音を響かせ船を作っている。
漁師風の男たちが網を繕い、子どもたちが裸足で走り回る。能島の要塞的な雰囲気とは違い、ここには交易と生活の匂いが満ちていた。
十兵衛は櫂を止めさせ、振り返った。
「次郎殿、ここが塩飽衆の本拠です。少々お待ち下さい、※惣中の者と話しを付けて参ります」
十兵衛が会所に入っていくと、しばしの沈黙が流れた。
やがて板戸が開き、十兵衛が戻ってきて、笑みを浮かべながら告げる。
「惣中の者たちがお会いくださるそうです。中へどうぞ」
会所の中では、帳簿や航路図を広げた男たちが待っており、商人らしい打算の匂いが漂う。
壮年の男が口元に笑みを浮かべ、手を広げる。
「ようこそ塩飽へ。さて、どのような商いをお望みかな? ただ我らはわずかな利益では動かぬと承知の上で参られたのであろうな?」
次郎が頷く。
「もちろんです。どれほどの利益を提供すればよろしいのでしょうか?」
年配の男が口を開く。
「軽々に答えられることではない。惣中で評議せねばならぬ。だが、まずはお主の考える我らの『利』を聞かせてもらおう」
次郎が真っすぐ応える。
「物事には相場と言うものがございます。できるならば相場より少し高いくらいでお願いしたい」
年配の男が目を細め、帳簿を指で叩いた。
「ほう、相場より高く、とな。だがその“相場”とやらを、お主はどれほど知っているのか」
次郎は正直に応える。
「まったく知りません。なれど池田の里の商品を積み、琉球で売りさばき、サトウキビを買って広江港まで運んでいただければそれなりの船賃と、望遠鏡を提供したいと思います。島殿から15倍の大きさで先を見通せる道具の話は聞いておりませんでしょうか?」
年配の男が首を振った。
「知らんな、島殿の書状にはそのような話は書かれておらん」
惣中の一人が腕を組みながら、あたりを見回した。
「いや、待て。俺は聞いた事があるぞ。村上水軍では遠くを見る事の出来る道具を使っているとな。ホラ話だと思って聞き流したが本当に実在するのか……?」
(そうか、村上水軍は楠予家の望遠鏡を全部自身で抱え込んで、市場には流していなかったんだな。吉利義兄さんが高値で買ってくれるから全く気にして無かった)
別の男が身を乗り出し、目を輝かせる。
「もしそれが真なら、海戦でも交易でも我らの目は十里先まで届くことになる。村上殿に遅れを取るわけにはいかぬ。見せてもらえぬか?」
次郎が豊作から望遠鏡を受け取り、両手で丁寧に差し出した。
惣中の男は半信半疑の表情でそれを受け取り、会所の窓辺に立つ。
沖合には小舟が一艘、白い帆を張ってゆるやかに進んでいる。
男が筒を目に当てた瞬間、息を呑む声が漏れた。
「……帆布の縫い目まで見えるぞ。まるで目の前にあるようだ!」
会所の中がざわめきに包まれる。
「馬鹿な、そんなはずは……」
「いや、確かに見える。あの小舟の櫂の動きまで分かる!」
惣中の者たちは次々と望遠鏡を手に取り、窓から沖を覗き込んだ。
そのたびに驚きの声が上がり、会所の空気は一変した。
次郎が言う。
「もし楠予家と取引していただけるなら、この望遠鏡と同じ物を年に12個進呈致しましょう」
惣中の一人が低く言った。
「十二個……それは大きな利だな。だが、我らは惣中。評議の上で決めねばならぬ。次郎殿、その約束、果たして成し遂げられる保証はあるのか」
次郎が笑う。
「楠予家は先日12万石の大名になりました。私は俸禄1500石、所領1500石を頂く、楠予家の筆頭家老です。保証はそれで十分では?」
年配の男が口元に笑みを浮かべる。
「十二万石では我らの前では少々不安が残る石高じゃ。だが――島殿の紹介状もあるし、それで十分としよう」
惣中の代表が言う
「確かに大きな利は提示して頂いた、されど琉球までとなると危険が伴う。我ら惣中は、仲間との評議の上で返答を決める事となっておる。しばし外で待たれよ」
次郎は深く一礼した。
「承知いたしました。では、よろしくお願いします」
豊作と共に会所を辞し、外に出ると、潮風が頬を撫でた。
港には船が並び、櫂の音や水夫たちの掛け声が遠くから響いてくる。
外で潮風に吹かれながら待っていると、次郎のもとへ、やがて若い水夫が駆けてきた。
「御客人、会議所の中にお入りくださいとのことです」
次郎が会所に戻ると、惣中の代表が静かに告げた。
「評議の結果、取引を受けることと相成った。望遠鏡十二個、そして楠予家の品の販売とサトウキビの交易――その契約、確かに承ろう」
年配の男が口元に笑みを浮かべ、指を折った。
「琉球までの費用は――
中型船は一隻につき銀二十五貫。
大型船は一隻につき銀四十五貫。
これに加え、嵐や海賊に備えるための臨時費用は別途とさせていただく」
(銀か……。同じ1貫でも銀は(重さ)の事で、銅銭は(お金の額面)と意味が違う。
つまり頭に銀が付けば、銀何キロとか重量の事を言っていて、銅銭なら普通にお金の額の話だ
単位は
銅銭1貫文=銅銭1000文
銀1貫=1000匁
だったな。
それで今の相場が
銀1匁=80文くらいだ
だから銀1貫文(重さ)を(お金)の値段に直すには、
銀1貫(重さ)×銀相場=(お金)にする。
――つまり銀1匁の相場を1000倍すれば銀1貫のお金の値段になる。
1000×80=80万
銅銭は1000文で1貫文だから
80÷1000で80貫文。
――今の相場だと。
銀1貫は80貫文だな。
中型の船代が銀25貫だから25×80=2000貫文
大型の船代が銀45貫だから45×80=3600貫文
マジかよ、御屋形様から貰った予算は3000貫文だから、中型1隻しか借りれねえじゃねえか!! )
次郎が恐る恐る、質問する。
「あの……中型船には、どのくらいのサトウキビが積めそうですかね?」
年配の男は指を折りながら答えた。
「そうだな、中型船は米なら五十石から八十石ほど積める。
もっとも、サトウキビは嵩張るゆえ、米を積むより余裕を見ねばならぬがな」
次郎は頭の中で算盤をはじいた。
(1石が150㎏だから中型は米なら10トン。
嵩張る分を差し引いても、サトウキビなら六、七トンくらいか? でも一応5トンと計算して……黒砂糖なら0.6トンくらい作れるな)
次郎が習得した黒砂糖の製法では、サトウキビ重量のおよそ10〜13%にあたる黒砂糖を得られる計算であった。
彼の経営戦略では、その9割を富裕層向けの黒砂糖とし、残り1割を超富裕層や献上用の白砂糖に充てるつもりでいた。白砂糖は黒砂糖の3〜5倍の価格で取引され、製造の手間も2倍程度に過ぎないため、十分に見合うものと考えられた。
しかし、黒砂糖を白砂糖に精製する過程で3割ほど目方が減り、さらに白砂糖だけ作れば価格は暴落する。ゆえに次郎は、まずは黒砂糖を広く流通させ、人々に砂糖を嗜む習慣を根付かせることを優先すべきだと考えた。
(それで黒砂糖の現在価値が1斤(約0.6kg)=銀60匁らしいから……0.6トンなら600㎏だから千倍で銀6万匁。銀1000匁が銀1貫文だから60倍の銀だから……)
次郎がニヤリと笑う。
(やったぞ『銀60貫』の売上だ! つまり銅銭に直すと4800貫文だ!!)
「あっ、サトウキビを買って中型船に積み込んだ場合、費用はいくらぐらい必要になりそうですか?」
年配の男は顎髭を撫でる。
「そうだな、およそ銀40貫。積み賃とか損耗など全部含め、銀50貫ってとこだろうな」
(マジかよ! 塩飽衆への報酬払ったら赤字じゃねえか!
いや、それに村上水軍への通行料とか、製糖作業の経費とかもあるし……あわわわ)
……次郎は静かに首を垂れた。
(た、高いよ……。でも砂糖は絶対に欲しい……でも赤字はだめだ……なんでサトウキビってそんなに高いんだよ!)
次郎は当初は池田の里でサトウキビを育てる計画だった。だが戦国の頃の四国は気温が低く、熱帯の作物であるサトウキビには向かない。
砂糖を得る手立てとしては、寒冷地で育つてん菜もある。だがこちらは逆に四国は温暖すぎて育たない。
結局、この地ではどちらの作物も望めぬ――次郎はそう結論づけ、交易によってサトウキビを買い、砂糖を製糖する事にしたのだ。
次郎は心中で再度算盤をはじく。
(この時代の黒砂糖の製糖技術はレベルは低い、俺の作る黒砂糖の質の方が圧倒的に上だ。ならばもっとは高値で売れる筈。それに白砂糖はこの時代じゃヨーロッパでも容易に作れないから、少量でも超貴重だ。だから使い道はある筈……いや、あると信じたい)
(だからっ……赤字……でもいい……かな? いいよね? 御屋形様は甘い物好きな顔してるし、きっと喜んでくれる……?)
いや待て――そうだ! 砂糖の需要を徹底的に高めてやればいいんだ。俺の砂糖を使った料理で需要を上げて、砂糖の値段を5倍くらいに引き上げたら絶対に儲けるじゃないか。うんうん、5倍ならウハウハだよね。
次郎はもはや心理的に負けてる状態でパチンコに金をつぎ込むダメ男になっていた。
次郎は取り引きをすると決意し、深く一礼する。
次郎は一礼の後、静かに言葉を添えた。
「ただし、船は大型ではなく、中型船1隻の契約でお願いします」
年配の庄屋格の男がうなずき、
「まあ大型は高うつく。初めての契約には中型が丁度よかろう。身の丈に合うところから始めるのが肝心じゃ」
(船代が高すぎんだよ! 今まで薬とかでぼろ儲けした金があるから、楠予家には7000貫文以上の貯蓄がある。俺が稼いだようなものだから一応『3000貫文までなら使っていいよ』っ御屋形様の許可はでてるけど、それだと中型の船1隻しか借りれないんだよ!)
惣中の者たちは互いに顔を見合わせ、やがて年長の一人が口を開いた。
「――では、中型一隻で契約成立といたそう」
別の者も頷き、
「うむ、まずはここから始めるのが肝要じゃ」
場の空気がまとまり、惣中全体が次郎の決断を受け入れた。
次郎は心の中で小躍りする。
(やったぞ! これで砂糖が作れる!!)
次郎の赤字になろうとサトウキビを輸入し、砂糖にして販売すると言う無謀な決断が、後に楠予家に莫大な利益を齎す事になる。
やがて広江港を訪れる塩飽衆の船はしだいに数を増し、博多、堺に並ぶ貿易港へと発展していく。
池田の里は薬と砂糖の一大拠点として名を馳せ、また多くの商人と船乗りが、里の高級料理に金を落とす、美食の里としても有名になっていく。
酒の相棒の唐揚げや焼き鳥など。楠予家の商業奉行が直接経営する、飲食店でしか味わえない料理がそこにあったのだ。
問題は黒砂糖を使った料理。プリン、カステラ、羊羹、饅頭、すき焼、甘辛いタレを使用した照り焼きや蒲焼きなどの人気により、黒砂糖の価値は跳ね上がり――次郎の予見通り、次郎の製糖法による質の高い黒砂糖は5倍以上の値が付くようになった。
その結果、次郎の製糖業は大成功を収める。
だが、甘美な果実は人を酔わせる。やがて琉球王国もその利に目をつけ、サトウキビを次第に高値で売りつけるようになり、楠予家との間に新たな火種が生まれるのだが――それは、ずっと先の話である。
※弾正や内記は役職なので名前に変えるべきですが、そのままにしてます。
※惣中の者とは、惣と呼ばれる自治的な共同体に属し、村や島の寄合に参加して意思決定を担った人々のことです。




