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05 腐った上司

1539年9月下旬


次郎が家の外に出ると朝の空気は、ひんやりとしていた。

昨日までの蒸し暑さが嘘のように感じた。

(……もう九月も終わりだな、秋の気配がするな)


「行ってくるよ」

次郎が小さな声で言った。

それに対して両親は「気をつけて頑張るんだぞ」と返し。

豊作も一応「頑張れよ」と小声でつぶやいた。


(この家族ともお別れだな、以後はあまり関係を持たず、適当にやりすごそう。)


次郎が家を出てると、土の道に朝露が光っていた。

肩にかけた荷物の入った布袋の重さを確かめながら歩く。


村の人々は、すでに朝の農作業に出て働いている。

畑に向かう者、井戸端で話す者。

しばらく歩くと大きな屋敷の屋根が、朝日に照らされていた。

(あそこが、俺の新しい居場所だ)


門の前には、権蔵と源八が立っていた。

腕を組み、笑顔で次郎を見ている。

「今日から次郎も仲間だな」

「はい。よろしくお願いします」


「よし、俺がなかを案内してやろう」

権蔵がそう言うと源八が頷き、門を通してくれた。


門の奥には、広い庭が広がっていた。

朝露に濡れた苔、整えられた小池。

虫の声が、涼しげに響いている。


敷居をまたぐと、空気が変わった。

外の涼しさとは違う、ひんやりとした静けさが屋敷の中に満ちている。

土間は広く、柱は太く、天井は高い。

(……ここで俺の新しい人生が始まるのか)


権蔵は先を歩きながら、手短に説明を始めた。

「朝は掃除と水汲み。それに朝、昼、晩の村長様一家の食事の支度の手伝い。午後は使いに出ることもある。慣れれば楽だ」

次郎は黙って頷いた。


次郎は奉公人としての仕事は、すでに頭に入れてある。ただ実家にいた時よりも時間に余裕がないのが難点だと思った。

(どうにかして仕事内容を変えないとダメだな)


権蔵は説明をし終わると、奥から桶を持って戻ってきた。

「ほれ、これで井戸まで行って水を汲んでこい。二往復だ。その後は炊事場に行って責任者のウメさんに聞け」


次郎は桶を受け取り、深く頭を下げた。

「はい、ありがとうございました!」


屋敷の裏手にある井戸は、苔むした石垣に囲まれていた。

朝の空気は澄んでいて、桶に落ちる水の音がやけに大きく響く。

(これが、奉公の始まりか……)


水を汲みながら、次郎は周囲を観察する。

井戸のそばには、薪小屋。奥には土蔵。

どれも手入れが行き届いている。


(噂は伊達じゃないな、ここはただの村長の屋敷じゃない。村長の楠予くすのよ権左衛門は息子5人の活躍で地侍化が進んで150名の兵を動かせるって言うのは冗談じゃなさそうだ。村長は池田村の村長になったあと、隣にある願連寺村を謀略によって支配したあと、すぐに徳田村までをも武力制覇した。ただの農民の村長ができる事じゃない。実は村長は楠正成公の子孫で、伊予に来てから楠予くすのよ性を名乗り始めたと言うのは本当かも知れないな)


そうこう考えているうちに次郎は二往復を終えた。

(よし、次は台所仕事の手伝いだ)


台所は土間の奥にあり、火の匂いと味噌の香りが漂っていた。

中には、年配の女性たちが3人。

「お前が次郎かい? 包丁は触るな。まずは野菜を洗うんだよ」

冷ややかな目つきで一人のおばさんが言った。


「はい分かりました、これからよろしくお願いします」

「ふん、男のくせに料理番志望なんて正気じゃないよ…」


(この人が責任者のウメさんかな? 凄く感じが悪いな、炊事場は女の仕事場だと思ってそうだな。大名家とか、むしろ男の料理人がメインじゃないか? あっ、もしかして仕事を取られるとか思ってるとか?)


次郎は黙って野菜籠に向かい、井戸水で濡らした布で手を拭うと、黙々と大根を洗い始めた。

夏の暑さが残る季節には冷たい水が心地よかった。


ウメは次郎の手元をちらりと見て、鼻を鳴らした。

「下手な洗い方だね。あんた、どこかで奉公してたのかい?」

「俺は自分の家の農家の手伝いをしていただけです」

「それでよく村長様たちを満足させる菓子を作れたねえ?」

うめが怪しい人物を見るような目つきで俺を見た。


(ちっ、これは相当苦労しそうだな。まるでウメは前世のブラック企業の上司だ。こう言う人間はねちっこいんだよなぁ…)


次郎の予想通り、1週間が経っても、ウメたちの態度は冷たかった。

(まあ仕事をあまりくれない分、時間はあまったし。その時間を使って雑貨屋の店主のお春さんに薪を売りに行けたからいいか。20文も収入があったしな)


次郎は、そのお金は炊事場に関連するスキル購入に使っていた。

 

【料理:野菜洗いスキルLv1 知識L1】

価格:1文 (所持金20文)

効果:野菜を洗う速度20%アップ。

【料理:野菜洗いスキルLv2 知識L2】

価格:3文  (所持金19文)

効果:野菜を洗う速度40%アップ。

【料理:野菜洗いスキルLv3 知識L3】

価格:10文  (所持金16文)

効果:野菜を洗う速度60%アップ。


【料理:水汲みスキルLv1 知識L1】

価格:1文 (所持金6文)

効果:水を汲む速度20%アップ。

【料理:野菜洗いスキルLv2 知識L2】

価格:3文  (所持金3文)

効果:水を汲む速度40%アップ。


【料理:水運びスキルLv1 知識L1】

価格:1文 (所持金3文)

効果:水を運ぶ速度20%アップ。


(これだけスキルを取ってるんだ。ウメも少しは認めるだろ)

そう期待した次郎だが、その希望はすぐに砕かれた。


「うめさん、あの子最近、仕事が凄く早くなってないかい? 野菜洗いも上手になってるし」

「心配ないよ、あの子に料理はさせない。私たちの仕事は奪わせないよ」

「そ、そうだよね。料理をさせなければ、大丈夫だよね?」

「そう言う事だよ、ヒッヒッヒ」


(あのババアどもめ! 俺の居ない間によからぬ事を言いいやがって! ちっ、まあいい。仕事をくれない分、時間が余るしな!)


次郎は野菜を洗い終えると、そっと炊事場の隅に腰を下ろした。

ウメたちの会話は聞こえないふりをしたが、心の中でははらわたが、煮えくり返っていた。


(料理をさせない? だったら、料理以外で屋敷に必要な存在になってやる!!)


その夜、次郎はこっそり屋敷の裏手にある薪小屋へ向かった。


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