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01 気づいたら転生

 1539年9月中旬


まだ朝の涼しさが残る中、僕は父に命じられて、畑の近くにある森へ薪を集めに向かった。

僕の家は村の中心から少し離れた、山のふもとにある。

山では薪がいくらでも拾える。だから、僕の家では薪を買うことはなかった。


空気は澄んでいて、小鳥たちが楽しそうに鳴く声が森に響いていた。

その時、草むらの中で小さな動きが見えた。

近づいてみると、そこにはヤマドリがいた。

羽に傷を負い、飛べずに草むらに身を潜めているようだった。


 「大丈夫、大丈夫だよ」

 僕はそっと話しかけるように言いながら、慎重に手を伸ばす。ヤマドリは恐怖で怯えているけれど、どうにかして捕まえることができた。その鳥を見ながら、僕はこれで久しぶりにお肉が食べられると喜んだ。


 薪拾いをつづけ、さらに森の奥へと進むと、畑仕事をさぼって木陰で寝ている兄を見つけた。


 (最悪だ)


二歳年上の十五になる兄・豊作は、乱暴者だ。

僕を一方的に虐める。理由なんてない。ただ、気分次第で殴る。

右肩の痣は、三日前につけられた。

(ここには、いられない)

そっと方向を変え、忍び足でその場を離れようとした――が。


バキッ。

小枝が踏み折れる音が、静かな森に響き渡った。

思わず体が硬直した。

(しまった!!)

……兄・豊作が、目を覚ますかもしれない。

恐る恐る振り返ると、木陰で寝ていたはずの兄が体を起こし、こちらをにらむように見つめていた。


「おい、次郎……俺の眠りを妨げるとは、いい度胸じゃねえか」

声には怒気がにじんでいる。

(マズい……怒ってる。間違いない)

「ごめん兄さん……薪を集めてたんだ」

兄を怒らせないよう、必死に言い訳をしながら、紐で縛ったヤマドリをそっと背に隠す。

豊作の目が鋭く光った。

僕の腕の動きに、何かを察したようだった。

「なんだ、それは。見せてみろ」

豊作が立ち上がり、こちらへ歩み寄る。

乱暴な手つきで、僕の背に向かって手を伸ばしてきた。


「これはヤマドリだよ。今晩、みんなで食べるんだ」

豊作は僕の言葉を聞くと、ニヤリと口元を歪めた。

「へぇ……ヤマドリか。いいものを見つけたじゃねえか。よこせ」

「だ、だめだよこれは……グハッ!」

豊作の拳が、突然僕の腹に食い込んだ。

息が詰まり、膝が一瞬、抜けそうになる。


「お前が俺に勝てる訳がないだろ。逆らったら痛い目に遭うといい加減覚えろ」

そう言って、僕の腕から無理やりヤマドリを引き剥がすように奪い取った。


「あ…待って…返して…」

僕は痛む腹を押さえて、必死に懇願する。

だが、豊作はまるで聞いていない。


豊作は十五歳ですでに村でも剛力で知られていて、将来は武士になることが期待されている。

僕が勝てるはずがなかった。


「はっはっは、これは俺が見つけたことにする。それでまた親父に褒めてもらうんだ!親父、俺のことが好きだからな!」

「なっ、違う!違うよ! 僕が見つけたんだ!」

僕が兄の腰に縋りつくと、豊作は「うるせぇ!」と再び僕の腹に拳を食い込ませ、僕は地面に倒れた。


(こんなの、ひどすぎる…)


見ると、遠ざかる兄の腰にはヤマドリがぶら下げられ、まるで戦利品のようだった。

悔しさで涙があふれてくる。

クソッ、クッソッ、くそー!

熱い涙が僕の頬を伝った。

―その瞬間。


僕の中に、かつて同じように悔し涙を流した記憶が蘇った。


―こ、これは……僕の前世の記憶!?


そうだった、かつて僕は――日本のブラック企業で働いていた、社畜だった。

三十歳の誕生日。上司に押し付けられた仕事のせいで終電を逃し、歩いて帰る途中――カツアゲ目的で近づいてきた若者たちに刺されたんだ。

 それで凄く痛くて、こんな生き方しかできなかったのが凄く悔しくて……。

意識が遠のく中で、もし次があるなら――二度と虐げられる人生は送らないと、誓ったんだ…。



次郎の記憶が少しずつ蘇り、時が過ぎていく。

しばらく混乱していた次郎だが、ある異変に気づいた。


それは次郎の目線の左上には体力とスタミナが表示されていた事だ。

豊作に殴られたため体力は3割くらい減っている。


「なんだ…どう言うことだ?」

次郎は右上のメニューと言う表示を見つけ、それをクリックするようなイメージをしてみる。


「おっ、開いた!」

そこにステータス表示と言う項目を見つけた次郎は、

同じようにクリックするイメージをしてみた。


【次郎】 13歳


 統率力 36

 武力  32

 政治力 36

 知力  50

 魅力  46


「えっ……俺って、能力低いの?」

数値を見つめながら、次郎はしばらく言葉を失った。

どれもこれも、思っていたよりずっと低い。

体力も減っているし、武力も頼りない。

(おいおい、こんなんじゃダメだろ。レベルアップとかないのか?)


次郎は画面の隅に目をやりながら、何か成長の手段がないかと探し始めた。

だが次郎がどんなに探しても、レベルアップするボタンはなかった。

「……ない。いや、きっとどこかでレベルアップ出来るはずだ…あっ、これっ!」


次郎の目に「スキル取得」と「アイテム購入」という項目が映った。

さっそく「スキル取得」を開いてみると――


1石斧の作り方

2石ピッケルの作り方

「おい! ゲームの〇〇〇かよ!」


次郎は目に入ったスキル一覧は、どれも原始的すぎて笑えて来た。


石斧? 石ピッケル?

おいおい、ここは原始人の世界じゃないぞ。

いや、待てよ…この世界の技術レベルって、俺の前世よりずっと低いからな。

「石斧でも役に立つかもしれないな!」


次郎は石斧の作り方を選択してみた。

【石斧の作り方:知識Lv1】

価格:1文   (所持金20文)

効果:伐採効率+10% 一部クラフトスキル開放


「…すこし高いな」

現在、次郎の持っているお金は銅銭が20枚。つまり20文だった。

もちろん、実際に手元にあるわけではない。

豊作に奪われないよう、家の近くの木の下に埋めてある。

だが、画面には「所持金:20文」とはっきり表示されていた。


「これって、ここで使うと隠してる金も無くなるって事かな?」

次郎は少し迷ったあと、意を決して購入ボタンを押すイメージをした。

すると、頭の中に石斧の構造や作り方――石の形状、木の柄、紐の巻き方などの知識が、まるで水が染み込むように流れ込んできた。


「…すげぇ。これが“スキル購入”か!」

次郎は周囲を見渡し、使えそうな石と木の枝を探した。

すると、森の中にはちょうどいい平たい石が落ちていた。

次郎はしゃがみ込み、石を手に取った。

「……これなら、斧の刃に使えそうだ」

「よし…やってみるか」

次郎は石を削り、枝にくくりつけた。

紐は腰の縄を少し切って代用する。

不格好ではあるが、確かに“斧”らしい形になった。


「できた…! 俺、斧を作ったぞ…!」

手にした斧は軽く、だけどしっかりとした重みがある。

試しに近くの細い木に振り下ろしてみる。


ーバキンッ!

「おおっ! 切れた!」

斧の刃が木の表面を割り、少しずつ削れていく。

「これって、薪を拾うより自分で薪を作れるんじゃね! そうだ、一部クラフトスキル開放って書いてあったな!」


スキル一覧を見ると。


NEW 薪の作り方。

「見つけた…! これだ!」


【薪の作り方:知識Lv1】

価格:1文   (所持金19文)

効果: 薪が作れるようになる。一部クラフトスキル開放。


俺は迷わず「薪の作り方」を購入する。

またしても頭の中に知識が流れ込んでくる。

薪に適した木の種類、乾燥の仕方、割り方、束ね方まで、まるで職人の記憶をダウンロードしたような感覚。


「…これ、マジで便利すぎるだろ」

次郎はすぐに、さっき切った木を使って薪を作ってみた。

斧で割り、乾いた枝を選び、縄で束ねる。

まるで熟練の職人のように、次郎の手は迷いなく動いていた。


「できた…! これ、村で売れるんじゃないか?」


そして次郎は閃いた。

「そうだ! この薪の品質、分からないかな! 鑑定とか絶対あるだろ…」

次郎はスキル一覧を急いで確認した。


NEW 薪の鑑定眼

「ほら、やっぱりあった!」


【薪の鑑定眼:知識Lv3】

価格:9文   (所持金18文)

効果:薪の良し悪しが分かる。薪の作成品質+1


「うっ…かなり高い。9文って、ほぼ俺の小遣い1年分だ」


次郎は悩んだあげく「薪の鑑定眼」を購入した。

その瞬間、次郎の頭に新たな知識が流れ込んできた。

薪の色、香り、割れ方、水分量、そして火持ちの良さ――

それらを見極めるための、職人のような感覚。

「…すげぇ。薪の良し悪しが、はっきりわかる…!」

次郎が目の前の薪の束を見つめると、

その品質が、自動的に頭の中に浮かび上がった。


【薪(低)】

 品質:D

 火持ち:少し悪い

 煙:やや多め

 売却価格:2つで1文


「なるほど…これが“低”の値段か。じゃあ、もっといい薪を作れば、もしかして!」


次郎は周囲を見渡し、より乾いた木、節の少ない枝を選び直す。

斧の使い方も、しだいに正確になっていく。

薪を割り、束ねる。

そして再び鑑定。


【薪(良)】

 品質:B

 火持ち:良好

 煙:少なめ

 売却価格:2文


「よっしゃあああー!!」


次郎の喜びの声が、森の奥まで響き渡った。

それは、初めて自分の力で価値を生み出した瞬間だった。



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