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115 『土佐平定』と『北朝の姫』

1543年11月初旬。


土佐は本山家を除き、すべて楠予家の軍門に降った。

そして降伏した家は、例外なく大幅に所領を召し上げられた。


一条家。  7万石→5千石。(▲93%)

長宗我部家。3万石→2千石。(▲93%)

安芸家。  3万石→2千石。(▲93%)

吉良家。  2万石→1千石。(▲95%)

太平家。1万5千石→5百石。(▲97%)

津野家。1万5千石→5百石。(▲97%)


これにより土佐も、殆どが楠予家の直轄領と化した。


だが――

本山茂辰は、この“圧倒的な支配”を目の当たりにして、より最後まで抗う決意を固めた。


本山家の石高は2万石。

吉良家の例に倣えば、降伏しても千石しか残らない――ならば戦うしかない。


戦わずに頭を下げれば、倍の二千石は残されるかも知れない。だがそれでは武士の誇りが許さない。本山家は、家臣一同が声を揃えて抗う道を選んだ。


「名門本山、外様に屈するべからず」


その誇りだけが、彼らを支えていた。


本山家は楠予家の土佐攻めを見て、戦術を理解していた。

付け城、住民の懐柔、下級兵士の勧誘。

一条、津島、太平との戦いで見せた戦法である。


ゆえに本山は対策を立てた。


――分散籠城。


居城に籠れば、楠予家の思うつぼ。

ならば戦力を散らし、包囲を困難にし、地形を味方につける。

それが本山家の出した“最後の知恵”だった。


本山軍1500は、各地の城砦に散って立て籠もった。


● 居城・本山城(茂辰+精鋭300)

最後の砦。

● 吹越城(200)

北側の防衛線。

● 鏡山城(400)

山岳地帯で最も堅固。兵糧庫あり。

● 佐川方面の砦(300)

楠予家に抗う土佐の残党が合流。

● 山中の小砦・番所(300)

ゲリラ戦を想定した散兵拠点。


こうして本山家は、本山領の山々に“点”として散り、楠予家の大軍を“面”で受け止める構えを取った。


本山は思っていた。

これが唯一の勝機であると。


こうして楠予家の熾烈な処分と――名門の意地が、戦いを選ばせた。


一方、楠予家は土佐最後の戦いにおける総指揮官に正重の三男・楠予兵馬を送り込んだ。

大保木佐介ばかりが功績を重ねれば、家中の均衡が崩れる恐れがある。

それを首脳部は良しとしなかったのだ。


楠予軍八千は、本山家の狙いどおり、本山軍が籠る城砦の近くの手薄な砦を落とし、付け城の代わりにした。

だが――問題は、本拠の本山城に楠予軍六千五百が押し寄せて来たことである。


眼下を埋め尽くす敵の大軍を見て、本山茂辰は己の失策に気づいた。


――楠予家は、力攻めを選んだのだ、と。


分散籠城は、楠予家が統治を開始するのを阻むためのもの。長期戦を前提とした策だった。


だが、楠予家は分散籠城するならば、拠点を一気に叩き潰し、本山の抵抗を短期で終わらせると言う手段に出たのだ。


こうなっては各地に散った軍勢を呼び集める手段はない。

城を抜け出すことも、もはや不可能。

茂辰は知らぬが、各地に立て籠もる兵もまた監視されており、援軍要請が届いたとしても、誰一人として駆けつけられない状況だった。


本山家の“最後の知恵”は、楠予家の圧倒的な兵力の前に、静かに崩れ始めていた。



ーーーー

楠予軍本陣。


楠予兵馬・准将は明日の城攻めを前に、本山茂辰に最後の降伏勧告を行ったが、答えは否であった。


大野虎道は軍机を叩いた。

「愚か者め! いたずらに将兵の命を捨てるとは将にあるまじき男だ!」


黒岩兵衛が首を振る。

「大佐。誇りのため最後まで戦うのは武士の鏡ではありませぬか。むしろ、これまでの敵が大人し過ぎたのです」

「黒岩少佐、それは違うだろ! 籠城しても飢えれば最後には降伏する。死にたければ当主だけが死ねばよいのだ!」


兵馬が止めに入る。

「良いではないか大野大佐。誇りのために死ぬ事の出来る武士、俺は嫌いではない」


兵馬は一呼吸置いて二人を見る。

「二人の意見はどちらも正しいのだ。本山は誇り高き武人、明日は楠予軍最強の赤備えでトドメを刺してやろうぞ」


黒岩が片手を上げる。

「兵馬准将、少しよろしいか?」

「少佐、何か?」

「最後にもう一度敵兵の降伏、もしくは逃亡をお許し下さい。逃走路を開け、死ぬ気のない兵を逃がしてやるのです。無駄な虐殺は楠予の方針に反します」


兵馬が笑って頷く。

「よかろう。城内に矢文を撃ち込むがよい」

「ははっ!」



ーーーー

本山城。


重臣・安藤主膳が広間に駆け込む。


「茂辰様! 楠予軍が矢文で、城兵に逃亡を促しゆうがです!」


茂辰は動じずに堂々と応える。


「逃げたい者は逃げるが良い。決して追ってはならん」

「茂辰様……」

「ああ、そうじゃ。城の金蔵を開けて、逃げる兵に持たせてやれ。今までよう尽くしてくれたと、そう伝えい」


傍に控えちょった家老・本山茂定が眉を寄せる。

「茂辰様、いくらなんでも、それはやりすぎぜよ」


茂辰は静かに首を振った。

「叔父上、分からんか。城に金を残しちょっても楠予の物になるだけじゃ。

ならばせめて、これまで仕えてくれた者らに持たせてやるべきじゃろう」


茂定は悔しそうな顔をした。

「……惜しいのう。そなたが、もうちっと早う生まれちょったら、土佐は本山家のもんになっちゅうたかもしれんに……」


茂辰は苦笑する。

「叔父上、それは言い過ぎにござる。わしの器量でどうにかなる話ではないわ」


茂定は甥の顔を見ながら、ふと思いついたように声を上げた。

「おお、そうじゃ! いっそ、わしらも夜陰に紛れて城を捨て、他の城砦の者らと合流しようや! まだ勝機は残っちゅうぞ!」


茂辰は静かに首を振った。

「悪あがきは無用でござる。この茂辰、後の世に汚名を残す気はない。他の城砦の者らには、降伏するよう遺書を残すつもりじゃ」


茂定はしばし黙り、やがて覚悟を決めたように息を吐いた。

「……あい分かった。ならば、わしも腹ぁ決めるほかないわ」


その夜、本山城から逃走した兵士は僅か20人だった。

翌日、楠予軍は朝から本山城を激しく攻め立て、本山茂辰たちと死闘を繰り広げた。

茂辰は夕方まで戦い抜いたがついに力尽き、討死した。


ーーーー

本山城合戦。


楠予軍 死者180名。

    負傷者265名。

本山軍 死者280名――全員死亡。

ーーーー


その後、各地の城砦に立て籠もった本山家の将たちは、楠予軍から本山茂辰の遺書を受け取った。だが遺書の言葉に反して彼らの半分は徹底抗戦を貫き、討死した。

唯一の救いは、徹底抗戦に入る前に、城兵の多くが逃がされ、あるいは逃亡できたことだろう。

楠予家に対する最後の抵抗者は、こうして土佐の山々に散っていった。





※※※※※※

1543年11月初旬。


楠予家の首脳部は伊予と土佐を平定した事で、次の戦略について話をしていた。


源太郎が広間の中央に置かれた九州の地図を指し示した。

「次なる敵は大友家。これをどう攻略するかだ」


次郎が頷く。

「大友は又衛兵様の仇。必ず滅ぼさねばなりません」


玄馬が頷く。

「次郎の申す通りだ。だが我らは土佐を手に入れたばかりだ。兵力の増強と統治を考えれば、大友との合戦は一年後くらいが良いと思う」


正重が静かに言う。

「それがよかろう。だが戦は我らだけで決める事は出来ぬ。軍部の意見も聞かねばならぬ」

「はっ」

「次に小倉宮家の問題について論じる」


次郎は眉を寄せる。


(南朝の小倉宮の当主・雅良様には出家して頂き、真律宗の高僧になってもらっているが、何か問題でも起きたのか?)


正重が静かに言った。

「次郎は知らぬだろうが、雅良様には亡くなったわしの妹の初が嫁いでおったのだ。

初が産んだ息子は一人しかおらぬ。急ぎ縁組を組み、男児を作って貰わねば万一があっては困る」

「では雅良様に側室を設けるのですか?」


玄馬が首を振った。

「次郎、違うぞ。雅良様の息子――俺の従弟は、もう十九歳だ。次郎も知っておろう。お前の弟子の楠予光継様だ」


(え、嘘だろ……。光継は南朝の皇族だったのか!

あっ、そういえば初めて会った時、“弟子だからってぞんざいに扱うな”って言われた気がするな……)


正重はそこで本題を切り出した。

「わしは光継に北朝の姫を娶らせようと思う」


広間の空気が一瞬で張り詰めた。


次郎は眉間に皺を寄せる。

「御屋形様。伊予と土佐を平定したとはいえ、流石に帝の娘を伊予に降嫁させるのは無理だと思います」

「次郎、そこはそなたの知恵で何とかせよ」


(おい、無茶言うなよ! 俺は知識チートはあるけど知恵者じゃないから!)


「……では天皇の娘が公家に降嫁して産んだ姫などはどうでしょう? 天皇は子だくさんでしょうから、数十人はいると思いますよ」


正重が満足げに頷いた。

「うむ。皇女が降嫁して産んだ公家の娘ならば、皇女と変わらぬ血筋と言えよう。光継の妻として、これ以上の相手はおるまい」


玄馬も深く頷く。

「南朝の血に北朝の血が加われば、小倉宮家の“正統”は確かなものになります」


正重は続けた。

「では友之丞を急ぎ京へ遣わし、皇女の産んだしかるべき公家の姫との縁組を願い出る」


次郎は内心で冷や汗を流した。

「御屋形様。ですが子の少ない帝もいると思うので確実にいるとは……」

「その時は北朝の帝の血を引く姫であれば問題ない。それぐらいは腐るほどおるであろう」

「まあ、それならいるかと……」


玄馬が正重を見る。

「御屋形様。ところで公家に渡す縁組の礼金はいかほどをお考えですか?」


正重は迷いなく答えた。

「金に糸目はつけぬ。玄馬、いかほどならば出せる」


玄馬は少し考え、静かに言った。

「……二万貫ではいかがでしょう?」


(二万貫って、いくら何でも出し過ぎだろ! それだけあれば南蛮船が4隻作れるぞ。先に南蛮船を作らせろよ!)


正重は満足げに頷いた。

「うむ。それだけあれば十分じゃ。公家どもも断る理由はあるまい」


源太郎が真面目な顔で続けた。

「二万貫あれば、どの公家も断れますまい。むしろ争って姫を差し出すやもしれませぬ」


(いや、公家ってそんな露骨に金で動くのか……? いや、動くか……動くなぁ……なんてたって二万貫だからな。

そう言えば、奴らの年収は200貫程度って友之丞様が言ってたな……)


正重はさらに言葉を重ねた。

「光継は南朝の血筋。そこに北朝の血が加われば、怖いものはない。金で買えるなら安いものよ!」


(安くねぇよ!!

南蛮船! 南蛮船を作れって!! 長距離交易でもっと金を稼いでからでも遅くないって!)


次郎の心の叫びは、誰にも届かない。広間には次郎を除く三人の笑い声が飛び交った。

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