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砂塵の鉄機兵  作者: 寿甘
ベイガン
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植物との出会い

 岩石の合間を進んでいくと、あちこちに緑色が見えてきた。それは黄色や灰色のゴツゴツとした壁に絵を描くように、不規則な軌道を彩っている。


『原生植物です。近づくと攻撃してきますよ』


 フレスヴェルグが警戒を促す。その手に光が生まれ、いつかサソリに使った対植物用の銃が出現した。完全に戦闘態勢だ。しかしロキに乗るジャンは笑う。


「つまりこいつらが犯人なんだろ? ちょうどいいからそこの葉っぱを分析して敵の正体を調べようぜ」


 彼等は敵の正体を掴むためにここに来たのだ。戦って倒すのは相手の能力や総数等が分かってからだ。そんなことは分かっていたはずなのに、目の前に古代から続く因縁の敵が姿を現した途端に戦うことしか考えられなくなっていた。


 ジャンの言葉で冷静さを取り戻したフレスヴェルグは、自分の中に乗っている主のことを思い出す。今の自分の存在意義そのものであるリベルタのことすら、意識から外してしまっていたのだ。自己嫌悪の感情が湧いてくる。


 そんなフレスヴェルグの感情変化も、リベルタの頭に伝わってくる。機械がこんなにも感情豊かであることが不思議だったが、自分のことを大切に思ってくれているのが嬉しく感じた。


「うーん、成分的には農業プラントで作られている野菜と変わらないんだな」


 早くも岩壁に貼り付いている蔓から飛び出た葉の一枚を千切ってロキが成分分析をした結果を見ながら、ジャンが唸り声を上げる。そこに岩壁から無数の蔓が伸びてきて、ロキの機体に巻き付いてきた。


『危ない!』


 フレスヴェルグがとっさに銃を蔓に向け、発射する。リベルタの操作ではない。フレスヴェルグが行動の主導権を奪って自発的に攻撃を行ったのだ。これまでの状況からそうすることもリベルタは受け入れていたので、フレスヴェルグの感情としても無理のない判断だった。


 銃から発射された赤い液体は当たった部分の蔓をまず焼き切り、そこから浸食するように蔓を溶かし、また枯らせていく。一撃で蔓の全てを切断することはできなかったが、すぐにジャンがロキを操って機体を回転させながら蔓を引き千切り、機体に貼り付いた部分も丁寧に剥がしていった。


 今度はフレスヴェルグの意思を理解したリベルタが、彼女自身の意思で岩壁を覆う蔓植物に銃を向けて引き金を引く。


『こいつは私のデータにもない新種の植物のようです。原生植物が目的に合わせて進化したものでしょう。おそらく、オベリスクの機能を停止させるために』


 岩壁ごと植物の蔓を溶かしていくフレスヴェルグの銃を、敵は危険と判断したらしい。海の波が引くように岩壁から緑が減っていく。フレスヴェルグの説明にリベルタもジャンもそういうものか、とどこかピンと来ない様子だ。


「あいつらが逃げていった先に本体がいるってことだな」


 よく分からない植物の解説よりも、見えている現状に対処すべきだと判断したジャンはやる気に満ちた口調でフレスヴェルグに指向性通信を飛ばし、ロキの足を動かした。


『あの植物……もしや』


 そのロキはジャンの思う通りに動きながらも何やら思案する様子を見せている。なんだか器用なことをしているな、と思いつつリベルタもフレスヴェルグを動かして後に続いた。


 しばらくは岩壁に囲まれた道を進む。迷路のような道が長く続くことにリベルタが疑問を持つ間もなくフレスヴェルグが『オベリスクは所在地をなるべくわかりにくくするために、設置後周囲の地形を迷路のような形状に変化させる機能も持っているんですよ』と教えてくれた。


 そして、岩壁の迷路は突然終わりを迎える。急に目の前に現れた広場に開放感を覚える(いとま)もなく、ジャン達はそこに佇む巨大な建造物と、それを取り巻く緑の群れに圧倒された。


「なんだありゃあ!」


 思わずジャンの口から発せられる驚愕の言葉。本当に疑問に思っているわけではない。そこにあるのは『オベリスク』とその活動を妨害する原生植物だ。そんなことはフレスヴェルグに説明されなくてもひと目でわかる。それでも驚愕の声を上げずにはいられなかった。


『あれは……植物がオベリスクと融合している?』


 大きなアルマ数体が走り回っても大丈夫なほどの広場、その中心に佇むのは飾り気のない黒の立方体だ。それを取り囲むように生えた三本の直立する大木、その幹から直接伸びた無数の蔓がオベリスクに巻き付き、黒い構造体の中に入り込んでいる。


 だが、それ以上に異常な光景があった。三本の大木には地上3メートルほどの高さに巨大な眼球のようなものが埋め込まれ、瞼のように見える樹皮から覗くそれは、こちらを睨みつけているようだ。そして大木同士が互いに蔓を巻きつけ合い、オベリスクの周りに他者を寄せ付けない三角形の空間を作り出している。


 三つの目がこちらを睨みつけながら、蔓を伸ばしてきている。だがゆっくりと近づいてくるそれらは、攻撃しようというより、自分達を守るためにこちらを牽制しているように見える。一触即発の緊張感が高まる中、ずっと思案していたロキが言葉を発した。


『この植物……呼び名がないと不便ですね。何か相応しい名前をつけてやりましょう』


「へ?」


 大真面目な口調でこの状況にそぐわない発言をするロキに、何を言っているのか理解できない様子でリベルタが口をポカンと開いた。フレスヴェルグからも困惑の感情が伝わってくる。これから戦おうとしている敵に名前を付ける意味があるのか、真剣に考えているようだ。


「なに言ってんだよ、ロキ。こんなもん草でいいだろ、どうせ全部焼き尽くすんだ」


 ジャンがロキに向けて言うと、こちらに伸びてきていた蔓が一瞬ピクリと震えた。声が聞こえているのだろうか、とリベルタが気にしているとロキがまた喋り出した。


『大事なことですよ。我々はこの戦いの記録を残し、各国に報告もし、再発防止策を取ってもらわねばなりません。その時にこいつの生態や能力なんかをデータとしてまとめておく必要がありますから、識別名がないと他の植物と区別がつけられないでしょう?』


『……なるほど。確かに再発防止のためにこいつらの情報を共有する必要があります。ですが、名前を付けるのはこいつの能力がわかってからの方がいいでしょう。寄生樹アンゼリカのように、能力を名前に反映させるべきです』


 フレスヴェルグが理解を示しつつ今はその時ではないと語るとロキは『一理ありますね』と答えてファイティングポーズを取った。どうやら話はまとまったらしい、と理解したリベルタもフレスヴェルグを操り対植物用の銃を構える。二機の動きに呼応するように、大木から更なる蔓の群れが伸びてきた。


 無数の蔓はロキとフレスヴェルグの間合いに入る少し前で動きを止め、攻撃の隙をうかがっているようだ。ついに本格的な戦闘が始まる気配を感じたリベルタが、生唾を飲み込んだ。

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