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英雄王と絶対悪  作者: せらふ
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第1話

ふたりの王によって成された取引に両国の大臣達は多いに悩むこととなる。しかし、王は……


王国では提供する食糧について話された。


「陛下、食糧は何を提供するおつもりで?」


「まずは小麦粉を渡していこうと思っている」


「小麦粉…ですか?」


「そうだ、帝国は現在我ら同様主食となるパンその原料となる小麦粉が貴族階級に影響が出るほどの不足状態になっている。それにひきかえ我が国はここ数年の豊作により備蓄がかなり溜まっている状態にある。そうであろう?」


「仰る通りにございます。下手に民に配ってしまうと小麦の価値が下がってしまいますので備蓄していたのですがこうも豊作が続くとそろそろ飽和状態になるかと」


「ひとまずはその余剰分から帝国に渡していけばいい、持て余していた物で薬と魔法具が手に入るのなら安いものだ」


帝国の薬の効果は王国に比べて群を抜いていた。長い年月の研究成果もさることながら非人道的な実験も重ねた結果、人体にとって何が有益で何が有毒かを熟知し様々な流行病や疫病に効く薬を作り上げる事ができるようになったのである。魔法具も同じで王国の物より数段上の性能持つ物が多い。これを手に入れ研究する事が出来れば王国の魔法具作りは飛躍的に上がる事が容易に想像できる。


「しかし、こちらの王家の者を嫁がせるという条件いかがいたしますか?妹君(姫様)の中からかの王にお渡しになるのですか?」


「いや、()()に行ってもらう」


1枚の紙をトントンと叩いて渡す


「この者ですとあの強欲な王の怒りを買うことになるのでは……」


「条件は『王家の血』をひく者だ。約束を違えてなどいない。それでも難癖を付けてくるなら『絶対悪』殿もその程度の器だったという事だ」


「なるほど厄介な()()を一度に処分できかつ利益を得られる。良きお考えかと」


大臣達はその考えに感心し新国王《英雄王》を褒め称える


同じ頃。帝国でも議論されていた


皇帝陛下(ボ〜ス〜)不可侵(コレ)本気で結んじゃうんすか?」


「んだよ、てめぇ不服なのかよ」


皇帝に対して同年代ぐらいの男がテーブルに顔をつけた状態で意見している


「だってこんなん出来たら暴れられないじゃないっすか」


「おめぇは結局そこかよ」


「コラ、陛下の御膳ですよ。あなた近衛首領でしょう?シャキッとしなさい」


隣に座っていた男性が注意する


「こいつに礼節なんて期待してねぇよ。むしろ礼儀正しい方が気持ち悪いぜ」


「それ酷いっす皇帝(ボス)


集まった者達が笑い出している


「不可侵は置いといて取引の食糧はバカのやらかしで面倒な事になってたからな、とりあえずはこれを充てることができる」


「やらかし?」


テーブルに顔をつけていた男が疑問符をあげている


「この前、()()()()お亡くなりになった前皇帝の嫡男の事ですよ」


「知ってんのおっちゃん?」


「誰がおっちゃんですか、会議の場ぐらい宰相と呼んでください」


前皇帝の嫡男すなわち太子がやらかしたのは帝国最大の穀倉地帯に視察に行った時の事である。作業に従事していた若い娘を捕まえ自分の相手をさせようとしたのだが娘は激しく抵抗さらにすでに結婚していたらしくその夫も仲裁に入りやめてもらうよう懇願した。これに激怒した太子は夫婦を不敬として極刑にする様に指示。それでも怒りの収まらない太子はあろう事か穀倉地に向けて火魔法を放ったのだ。燃える様子に慌てふためく民を見て満足したのかそのままその場を去っていった。穀倉地帯にあった小麦は刈り入れ前という事もあり乾燥していて火はどんどん燃え広がった。最終的に穀倉地帯の3分の2程を焼く被害となった。


「あれのせいで小麦粉は全体的に不足している。備蓄を出してもこの冬を越せず餓死する奴が出てくるだろう」


「しかし、代わりに我が国の薬学や錬金学を教えるのは…」


そんな声が集まった者から出される


「それについては問題ない、薬の製法に関して提示されたのは向こうの国では流行病や疫病と言われていてもこの国では最早風邪と変わらんレベルの物だ。魔法具も別に最新の物を出す必要は無い。型落ちでも向こうより技術はこちらが上だ」


「その位でしたら機密レベルとは言いませんね。しかし陛下、王国から王族を嫁がせるというのは本気ですか?」


「必要なのは王族の血だ。俺とその女の間にガキが出来れば王位継承権に介入できる。王位につけずともかき乱すぐらいはできるだろう」


「そういう事ですか、ならこちら側に不利益な要素は少なそうですね」


損得を考えた時に特に問題ないと結論づけられる。さらに帝国内にはまだ反抗的な者たちがいるためそちらに専念したい事もあり王国と帝国双方の利害の一致により不可侵条約を結ぶ運びとなったがひとつ問題が起きた。調印を行う上でどちらかの王が相手の王城に行く事になるのだが最初は《英雄王》が申し出た側として自分が出向くと言っていたのだが国王の側近達の猛反対を受ける事となる。

それを聞いた《絶対悪》こと皇帝は


「そりゃそうだ、俺でも行かねぇ」


と、笑いながら言ったという。これにより皇帝が王国の王城に行く事となる。日程を決め王城を訪れた皇帝


「ようこそ皇帝陛下、サンシャイン王国国王ノルヴァスタ・トパーズ・サンシャインです。此度の申し出を受けていただき感謝します」


王城入口にて黒色に装飾が施され帝国の紋章が付いた馬車が到着すると《英雄王》と側近、近衛騎士達に出迎えられる。


「歓迎痛み入るノルヴァスタ王、ダークネス帝国皇帝ノーザンクロス・オニキス・ダークネスだ」


明るい白を基調とした服の《英雄王》と黒と赤黒い刺繍が特徴の《絶対悪》。正反対なふたりが王になって初めての顔合わせである。


「聞いてはいましたがお付きの者はそちらのおふたりだけでしょうか?」


皇帝の近くには馬車の御者をしていた護衛の男と補佐と思わしき女性。計三人だけしか姿がない


「あぁうちはまだ俺に反感を持つモンの粛清中でな信用のおける者を城に置いとく必要がある。それにこいつらがいれば問題ない」


そう言ってふたりの肩を叩く。


「そうですか、では馬車の方はこちらでお預かり致します」


「必要ない」


皇帝が指を鳴らした瞬間、馬車が消える。その光景に大臣達が驚き騒いでいる


「ノーザンクロス王、今のは?」


「今のは収納魔法だ」


《英雄王》の問いに《絶対悪》が答える


「重いもんを持ち歩くと移動速度が遅くなるから創った」


さらに周りが驚く


「創った?!新たな魔法を創造したという事か!」

「新魔法だと!?」

「そんなバカな」


そんな驚く様を見ながら『絶対悪』は手に取り出した物を『英雄王』に投げ渡す


急な事に近衛騎士達が警戒態勢に入るが《英雄王》が手で制す


「...これは?」


《英雄王》が受け取ったのは手の平サイズ腰掛けポーチ


「今の収納魔法を付与した魔法具だ」


あまりの事にざわめきたつ。魔法が付与された物とはそれだけ希少なのだ。ただそばにいた大臣がもの申す


「皇帝陛下!どのような物だろうと他国の王に物を投げ渡すなど無礼ではないですか!」


「オッサン細かい事気にしてるとハゲが拡がるぞ?」


「なっ!?私はこの国の宰相ですぞ!」


あまりの礼を失している態度に他の者も怪訝な顔をする


「そいつはお近づきの印にってやつだ。大型の荷馬車ぐらいの質量が入る、俺が使ったのと一緒で生き物は入らねぇから注意しろよ」


「おっお待ちを!皇帝陛下は先程馬車を引く馬を入れていませんでしたか?」


《絶対悪》の説明に異を唱える


「ありゃ馬型のゴーレムだ、厳密には生き物じゃない」


精巧な作り過ぎて言われるまで全く分からなかった王国側大臣達は自国との技術力の差に唖然とする


「そうだ宰相殿、我が国でとてもよく効く育毛剤なんて要らんか?」


「な、なんじゃと!?そのような物、私には必要など…」


言葉とは裏腹に興味ありそうだ。それは周りの大臣達も同様


「どうやら彼らには育毛剤がいいらしい、その様に手配を。まぁ礼を失した詫びだこちらから贈り物として差し上げよう気に入ったなら次からは安く取引させてもらいますよ」


補佐の女性は頷くと紙に書き留めていく


「...贈り物というのであれば、まぁ」


大臣達はタダなら損は無いという感じだ


「ノーザンクロス王もお疲れでしょう?部屋を用意してありますので調印式まで御寛ぎ下さい。式の前にはささやかながら催しも用意しております」


「ではお言葉に甘えよう」


こうして歴史上初めて帝国の王が王国の王城に来城した瞬間であった

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