プロローグ
地球と同じ周期で時が進む星、地球ではファンタジー物語のような世界。これはそんな世界の最大の大陸での物語。
数多の国々が存在する大陸にあってこれらは大きく二つに分けられる。
ひとつは正義と秩序、統率にて築く白光の大国。博愛と勇気を兼ね備えた勇敢なる王《英雄王》が治めるサンシャイン王国とその属国達。
ひとつは暴力と金、恐怖にて支配する黒闇の強国。欲望と獰猛さを携えた強欲王《絶対悪》が支配するダークネス帝国とその従属国。
相反するふたつはこれまで何年も何年も代を重ねながら長い月日を争ってきた。
そう《英雄王》と《絶対悪》と呼ばれる王が現れるまでは……
それは英雄王がまだ王太子だった頃に遡る
隣国にて魔獣よる被害が勃発、人的被害が拡大してきた為 当時から武力と部隊の統率力に秀でており厄介な魔獣や盗賊等の鎮圧に出来うる限り助力していた。この時も救援要請に応える形で王太子とその親衛隊に幾ばくかの兵士が同行し魔獣の討伐に向かう。
だがこの時悲劇が起こる。戦闘に強い王太子と戦い慣れた親衛隊が王城を離れ警備が薄くなった隙に王弟による叛乱が発生するのである。これにより賢王と評されていた国王は殺害され国政を担っていた大臣達の多くが殺された。
王弟による支配が始まるかに思われた…しかしそうはならなかった。
魔獣討伐を終えた王太子は現地で叛乱の報を聞くとすぐさま王城に急行、叛乱軍を制圧し王弟を捕らえるのみだったが追い詰められた王弟は自ら自刃する。王弟が死んだ事により叛乱はいっきに治まりをみせる。王と主要な大臣が皆殺された為、国内は大いに混乱すると予想された。しかし王太子による統率とそのカリスマ性により団結した者達により最速で混乱は鎮まって行った。この時に見せたリーダーシップ、そしてこれまでに築いた数々の武勇伝により正式に王に即位した時には周囲からこう言われていた
《英雄王》と……
この王国史に残る大事件はもうひとつの強国にも影響を与える。
叛乱の報告を聞いた皇帝は王国の混乱に乗じてその属国に侵略戦争を画作する。速やかに軍備は整えられる。武名名高い王太子とその部隊が王城のある王都から離れており未だ帰還してない事から侵略を開始しても宗主国である王国は援軍を出すどころではないと帝国は確信していた。そのため皇帝、継承権1位であり総指揮をとる嫡男、副官として行く継承権2位の次男、部隊の指揮を担う将軍達などが集まり戦勝祝いさながらの食事会をしている。話はすでに支配した後の金品の分配に拉致った若い女の処遇の話題へとなっている。連れ去られて来た女達は全員奴隷落ちとなり生殺与奪は全て所有者の権利となる。つまり何をしても誰にも咎められないのである。しかし欲にまみえたこの場所は惨劇へと変貌する。その場で食事していた者たちが一斉に血を吐き出しながら悶え苦しみ出したのだ。もがき苦しんだ後、皇帝を始め嫡男や次男の他 侵略戦争関わる者達が絶命していた…ただ一人を除いて
その者は継承権が低いながらも皇子の1人だった。皇帝の子の中でも随一の魔法の才能を有していてその能力は帝国史において比類なきほどである。当然疑いの目はこの皇子へと向かう。この時、皇子は食事会の後に軍議があるとの理由で酒を飲んでいなかった。そのため用意されたワインに毒が仕込まれていたと結論付け徹底的に捜査された。しかしどんなに細かく検査しても全く毒は検出されなかった。それどころか食事会に出された物全てに一切の有毒な物が発見されなかったのである。それ故にまだ疑いはあるものの皇子は軟禁状態を解かれる事になる。このような事もあり侵略戦争は始まる前から中止となった。
だがこの後も帝国内で不可解な事件が頻発する。証拠なしとはいえ生き残った皇子の犯行とし糾弾しようとした者たちが次々と変死を遂げていくのである。皇子の犯行である事は濃厚だが証拠が一切出てこなかった。そのうち皇子に対して叛意をもてば殺される。という風潮が立ち刃向かう者は居なくなった。皇子はそのまま帝位を継承し皇帝となる。そして地位を磐石のものにした時に皇帝はこう呟いたのである「意外と簡単だったな」と……
これを聞いていた者達から皇帝の呟きは帝国内はもとより属国にも拡がり一連の事件はやはり皇帝へと登り詰めた皇子の犯行だったと確信させると共に証拠を残さず相手を殺す手法に恐怖を抱かさせる。いつしか残忍にして強欲な王はこう囁かれるようになる。
《絶対悪》と……
ふたつの大国がほぼ同時に代替わりする事となった。そのためどちらも今後の事を考え地盤を固める必要が有り内政に注視したい思いがあった。そこで《英雄王》は周りが驚く様な大胆な行動に出る。それは長年敵対していた帝国に対して不可侵条約を持ちかけたのである。
政を担う両国の大臣達は当然反対の声をあげた。いろいろな意見が出たが両国で1番上がったのは相手の国が信じられないという声であった。そこでふたつの国の王が意見を交えた結果ある取引が成された。
帝国からは流行り病や疫病に効く薬の製法、汎用性のある魔道具の定価での輸入
王国からは食糧の提供、そして妃も婚約者も居ない皇帝へ王家の血をひく娘を嫁がせるというものであった。