番外編短編・思い出のクリスマスケーキ
「なんだ、これは……。難しすぎる……」
松宮修司はため息をつく。亡き妻が遺したレシピ帳を見ていた。ミルフィーユの作り方を見ていたが、難しそう。
そんな修司、定年退職後、妻が亡くなった後、体調を崩し、医者のすすめもあり、自炊にハマっていた。妻が遺したレシピ帳を参考に、初心者から中級レベルまではいけたと思うが、そこから先は停滞気味だ。前は妻のレシピを参考にシュークリームやマカロンにもチャレンジしたが、見事に失敗。
やはり、現役時代、亭主関白気味というか全く自炊をしてこなかったことにブーメランがさ刺さってる。見た目は元大学教授としてイケオジとかダンディと評されることもあったが……。
「ニャー」
そんな落ち込んでいる修司の元に、飼い猫がやってきた。名前はクロ子。その名前の通りの真っ黒い猫。元野良猫だったが、今はすっかり仲良く暮らしていた。友達とも家族ともいえよう。
「なんだい、クロ子。慰めてくれるんか?」
「ナー!」
「おぉ、ナーか!」
クロ子のツヤツヤな背中を撫でていたら、元気が出てきた。そうだ、クリスマスのケーキは少し難易度を下げたものを作ればいいじゃないか。最初から完璧を目指すから良くない。まずはスローステップ!
ということで妻のレシピを見返し、比較的簡単そうなクレープケーキに挑戦すると決めた。
「よし!」
まずは材料を買い出し、ホットプレートも用意。記事作りはレシピ通りで簡単だ。これは楽勝。すでに甘い匂いが漂っているが、ホットプレートが温まってきた。
生地をおとし、お玉で手早くひろげる。本当はプロのクレープ職人のように円形にしたいが、少し焦げたり、穴があく。
「おぉ」
見た目は少し歪だが、焼きたてのクレープの匂い、悪くない。
それに一枚、一枚重ねていくと、なにかぐっとくるものがある。自然と妻とのクリスマスを思い出す。
結婚前は隠れ家レストランへ行ったっけ。ちょっとシチューの味付けが濃かったのに、妻と一緒に食べたら、なぜか美味しかった。
結婚して娘が生まれたら、三人でのクリスマス。娘はクリスマスプレゼントが不満だと文句をいい、喧嘩になりかけた年もあったが、今ではいい思い出。
そして娘が独立し、妻と二人だけのクリスマス。妻が作ったミルフィーユケーキと静かなクリスマス。それも何よりの思い出。もう決して妻の料理を食べることはないから……。
そんなことを思い巡らしながら、クレープケーキが完成した。見た目は少し悪いが、ちゃんと層になっている。断面もいい感じだ。甘い匂いも最高ではないか。
「ミャー!」
クロ子がやってきた。修司の足元に擦り寄り、鳴く。まるで、このケーキを祝福するかのような声だった。




