表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
思い出レシピ帳〜お父さんの初めての自炊〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/40

第22話 一人で楽しむお弁当

 朝食、洗濯、掃除、ゴミステーションの当番が終わり、ホッと一息ついているところだった。コーヒーを淹れ、激安スーパーで買ったクッキーを齧りつつ、ぼーっとしていた。


 ぼーっとするのも悪くない。テレビもネットもやらないが、贅沢に時間を過ごすのも最高だった。


 先日、あの朝子からお礼の言葉をもらった。先日はハンバーグをお裾分けして持っていったら優斗にもかなり喜ばれてしまった。ハンバーグが嫌いな子供などいないようだった。母子が喜んだ顔を思い出すと、修司の顔もニコニコしてくる。


「やっぱり、人参はお花型だよな」


 あのハンバーグの付け合わせの野菜は、じゃがいも、人参、ブロッコリーの温野菜にしたが、人参はお花型にくり抜いた。あのお花型人参は受けが良かった。妻が娘のお弁当の彩りをよくする為に使っていた型だったが、思わぬ所で大活躍だ。


 そんな見た目が派手な弁当も作りたい欲求がある。さすがにキャラ弁は難しいと思うが、ちょっと派手な弁当も悪くない。


 そういえば日本以外の国の弁当は簡素なものが多いらしい。どっちが正しいわけではないが、せっかく日本人に生まれたのなら、派手派手な弁当にも興味がある。


 しかし、弁当を持っていくチャンスがない。今は定年退職後だし、仕事をしていない。運動公園に行ってもいいが、せっかく運動するのだから、弁当が目的になってはいけない。


「うーむ」


 悩んでいると、家の電話がなった。リビングに一応固定電話をおいていた。あまり使う機会もないので、そろそろ撤去しようと考えていたが、珍しい。


「もしもし」

「お父さん! 助けて!」


 女の声だった。一瞬咲子の声かと思ったが、ずいぶんと高く幼い声だった。間違い電話かと思ったが、お金を振り込むように言ってきたし、どう考えても振り込め詐欺だった。


「あの、咲子か?」


 一応聞く。


「ええ。咲子よ」

「なら咲子、母さんが残したレシピの第三弾はどこにあるかい? そろそろ持ってきてくれないか?」


 適当な作り話だったが、相手は焦り始め、電話を切ってきた。


 やはり、どう考えて振り込め詐欺。一応警察の通報しておいたが、気分はよくない。こういう犯罪がある事よりも、自分がターゲットになってしまった事賀ショックだった。


 そうか、自分もそんな年代になってしまったか。いつまでも若い気分でいたが、客観的にが振り込め詐欺のターゲットだと思うと、何とも美微妙な気分だ。


 このまま忘れようかとも思ったが、また電話が来るかもしれないと思うと気が気でない。


 どこかに出かけよう。


 運動公園、というのはちょっと気分ではないが、近所の市民公園にでも行こう。


 さっそくお昼の準備をしよう。今日のお昼は肉団子を作る予定だったが、それをそのまま弁当に詰めよう。


 肉団子は、人参のみじん切りが余っているから作ろうと思っていた。お花の型抜き人参を作っていたため、中途半端に余った人参はみじん切りしてタッパーに保存していた。


 まず、手を洗い、エプロンをつける。


「よし、肉団子から作ろう」


 ボウルにひき肉、片栗粉、酒、塩胡椒、そして人参のみじん切りをあえて、混ぜる。小判形にすると、フライパンで焼いて完成。


 弁当箱を出す。子供用で咲子が使っていたものだが、まあ、いいや。ご飯をつめ、肉団子も詰める。その上に蜂蜜と味噌、醤油で作ったタレをかける。昨日、余ったお花型の人参も詰めれば、ちょっと派手な弁当が出来てしなった。キャラ弁は難しいが、ちょっと派手な弁当は、そう失敗もする事なく成功し、満足した。


「あ、梅干しも入れないと!」


 すっかり忘れていたが、ご飯の上に胡麻をふりかけ、甘い梅干しを入れたら本当に完成だ。梅干し一個だけでさらに派手になり、修司の顔はに自然とにやけていた。


 弁当箱の蓋を閉め、保冷バックに詰めると、全部完成だ。あとは身支度を整え、市民公園に歩いて向かった。


 家から市民公園までは、歩いて二十分ぐらいだ。運動公園までの道のりを考えれば楽勝だ。住宅街を抜けると、真っ直ぐに県道沿いの道を歩いて到着。


 市民公園といっても、さほど大きくは無い公園だった。周りは普通の商業施設や住宅地だった。木々もさほど大きくはない。中央に大きな噴水はあるが、水は出ていない。コロナの影響で…と看板が出ていた。


 まだ夏休みは始まっていないおかげか、子供の姿は少ない。代わりに修司のような老人が多く散歩しているようだ。どこかの町内会か老人会か不明だが、集団でウォーキングしている老人グループもいた。他には和菓子やトモロコシなどの屋台も出店していて、そこそこの賑わいを見せていた。普段、市民公園など来る機会はば少ないが、一人で来ているものは、あまり多くなさそうだった。


 一人で来ている修司のようなタイプは珍しいのか。そう思うと、少し恥みたいなものも感じてしまうが、気にしない。公園に一人で来て何が悪い。開き直りにも似た事を思いながら、空いているベンチに座る。


 ちょうど、木陰で気分良いところにあるベンチだった。背後にある木々からは鳥の鳴き声も聞こえてくる。あまり自然が多くない公園のようだが、少しは残っているようだ。


 ぴちぴち、ぴーぴっ。


 小鳥の元気の良い鳴き声を聞いていると、一人で公園に来たってどうでも良い気になってくる。鳥だってソロ活動中だろう。自分も鳥のように自由だ。


 そう思いながら、保冷バックから弁当を取り出す。ランチクロスを膝の上にのせ、さっそく弁当を食べ始めた。


 外で食べるちょっと派手な弁当。人参のみじん切りの消費の為に作った肉団子だったが、甘じょっぱいタレと絡み、美味しい。ホロホロと口の中で肉がほどける。ほとんど噛まなくても良いぐらい柔らかい。人参の味のおかげで、脂っこくないのも食べやすい。


「うまいな」


 思わず呟いてしまう。


 梅干しを食べ、ご飯も一粒も残さず食べる。今は暑い季節という事もあり、梅の酸っぱさもこ心地いい。派手にする目的だけで入れた梅干しだが、案外美味しいものだ。


「ご馳走さま!」


 すっかり食べ終えて弁当箱の蓋を閉じる。美味しくて満足感もあったが、今一つ物足りない。噴水のそばに出店中の屋台に行き、かき氷を注文した。かき氷のシロップなんて全部同じ味である事は知っている。香料と着色料で違うようにも見えているだけだ。それでも梅シロップ味が気になり、それを注文する。


 ふわふわの氷に綺麗なグリーンのシロップがかけられていた。


「まいど」

「ありがとう」


 屋台の店員からかき氷を受け取り、食べ歩きしながら帰る事にした。


 確かに一人で公園に来るなんて、人によっては寂しい行為に見えるかもしれない。それなのに不思議と、心は自由だった。帰りにかき氷なんて食べちゃう。


 かき氷は見事に砂糖の味しか感じなかったが、まあ、いいだろう。これは、梅シロップだ。梅シロップ。念じながら食べると、そんな気もしてきた。


 冷たい氷が口の中で溶けていく。この日差しで最後の方は溶けかけてしまっていたが、悪い買い物ではなかった。振り込め詐欺のえ電話がかかってきた不快感は、もうすっかり忘れていた。


 少し浮かれた気分になりつつ、家のそばにゴミステーションの前につく。そこでは美加子と瑠美、それに町内会長が井戸端会議を繰り広げていた。三人は熱っぽく会話をしていて、単なる井戸端会議ではなさそうだった。


 ちょっと気になって聞いてみると、町内会長は振り込め詐欺の被害に遭い、警察を待っているところだという。


 まさか、町内会長が……。


 お気の毒だと思うが、面倒ごとになりそうで、スルーしたい。


「ちょっと、修司さん! 待ちなさい!」


 しかし、美加子に捕まり、スルーできなかった。三人からは、何故か振り込め詐欺の被害から逃れた修司の方が責められ、文句も言われてしなう。


 あぁ、やっぱり今は一人がいい……。理不尽だ……。


 公園では一人でいる事が恥のように思っていた修司だったが、口煩そうな三人に囲まれると、さっきまでの時間は幸せだったと思う知ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ