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第18話 何でもチャーハン

 風邪はすっかり完治し、修司は毎日ご機嫌だった。風邪は良いものではなかったが、カプレーゼが美味しい事に気づいたし、バジルの素晴らしさも知った。全てがマイナスな出来事とは言い難かった。


 あの後、バジル入りのガパオライスを作った。失敗するかとヒヤヒヤしたが、スパイシーで香ばしいガパオライスが完成して満足だ。ただ、多く作りすぎてしまい、冷蔵庫のタッパーの中にはあまり物があった。


 何日もガパオライスというのも飽きる。かと言ってこのまま腐らせるのも勿体ない。さて、どうするか。


 冷蔵庫を閉じて、余った食材を頭に巡らせる。料理はただ作っておいておきだけのものでがない。食材の管理も料理の一部だった。余った食材、作りすぎた料理の処理は頭を使う。特に作りすぎた料理は、一人暮らしの今は大変だ。一度近所に住む美加子や瑠美にお裾分けした事もあったが、向こうは主婦歴が長いプロだ。作りすぎた料理はアレンジして工夫する事を勧められた。


 そんな事を考えていると、テレビの方かた野口隼人という名前が聞こえた。野口隼人は料理番組を持っている若手俳優で修司も密かにファンだった。彼のレシピブックも予約していたりしていた。


「え? 隼人くん、炎上してるのか?」


 テレビでは野口隼人の炎上騒ぎが取り上げられていた。YouTubeの動画で「障害者なんて生きる価値はない。●んだ方がマシ」と発言し、炎上。隼人の仕事も次々とキャンセルになり、料理番組も別の俳優が代理に立つ事になっていた。


 信じられなかった。修司の勝手な印象ではあるが、真面目な好青年という印象だった。テレビでは、隼人のプライベートなども取材され、いかに態度が悪いか、女遊びも繰り返しいるか報道されていた。修司が予約していたレシピブックも発売が未定になり、今後出ない可能性もあるという。


「全く今時の若者は!」


 修司はブツブツ文句を言いながら、テレビを消す。裏切られた気分でいっぱいだったが、他に当たる場所もない。試しに隼人のSNSをのぞいてみると、確かに炎上としか言いようがない状況だった。誹謗中傷のコメントも溢れ、文句を言う気も失せる。確かに隼人の発言も問題だが、ネット上の誹謗中傷も正しい行為なのかわからない。


 たぶん、こんな事を書き込んでいるには、自分が正しいと思い込んでいるのだろう。人間なんてそんな正しい存在でもないのに……。


 修司は隼人のSNSを見るだけでで気分が悪くなってしまった。いくら隼人が悪きても、一方的に悪く言って良いのか疑問だ。もちろん悪政をする政治家などにはデモ活動など抗議した方がいいが、ネット上でコソコソ悪口を書いても未来に発展しない。


 修司の若い頃はネットなどなく、こう言った問題とは無縁だった。そう思うと、隼人も一方的に責められない。


 日本は長年、不況が続いている。ネットでしか発散できない人も多いのかもしれない。ネットの炎上はいわゆるエリートが多く参加しているというデータもあるらしく、人間の心の闇深さにゾッとしてくる。


 修司はこの話題はスルーすることにした。確かに隼人の発言も悪いが、修司が言え事は何もない。自分だってウッカリと失言する事もあるだろうし、人の失敗には寛容でいたいものだ。


 そんな事を考えていたら、余ったガパオライスを食べる方法を思いつく。卵を入れて、チャーハンにしたら食べられるんのではないか。今日のお昼は、これで決定だ。もう隼人の事は全部忘れ、お昼に食べるチャーハンの事ばかり考えていた。頭が食べ物でいっぱいなんて恥ずかしいが、隼人の事を考えてイライラするよりよっぽど良いだろう。


 そして昼。今日は晴れていたので近所を散歩し、スーパーで玉子を入手し、ガパオチャーハンを作る事にした。鳥インフルエンザの影響で卵は値上がりしていたが、まだなだ買えない値段ではない。こうして毎日食材が手に入る事は、恵まれていると思ったりした。


 家に帰ると、手洗いうがいをする。先日は風邪も引いてしまった事もあり、うがいもちゃんとする事にした。マスクは個人的に効果はないと思うのでつけないが、うがいはやった方は良いだろう。


 その後、 エプロンをつけ、さっそくガパオチャーハンを作る事にした。まずフライパンを温め、炒り卵をつくる。その後にガパオライスをフライパンに入れ、ナンプラーで味付け、レタスをちょびっと入れる。レタスも昨日にサラダの余り物だが、チャーハンに合うだろう。しばらく中火で炒め、ぱらっとしてきたら完成だ。キッチンにナンプラーの香りが広がり、食欲が刺激されるが我慢だ。


 チャーハン用の角張った器に丸く盛り付ける。これだけだと物足りないので、インスタントのワカメスープも作ると完成だ。


「お、これは美味しそうだ」


 見た目だけ見れば、とても残り物で作った感じがしない。ご飯は少々茶色っぽいが、卵はフワフワ、ホロホロの肉、アクセントとなっているレタスも問題ない。むしろ美味しそうだった。


「よし、よし」


 さっそく食卓に並べ食べる事にした。


「いただきます」


 スプーンですくい、ガパオチャーハンを食べる。熱々で最初は口が来るしい。しかし甘辛いスパイシーな味が広がり、口の中は幸福感でいっぱいになる。


「美味しい!」


 出来立てのチャーハンは、何か別の食べ物のようだ。コンビニやスーパのお惣菜では決して味わえないような幸福感が口に残る。


 途中で少し味も飽きてきたのでわかめスープを飲み、口をリセットさせる。再び食べたガパオチャーハンは、さらに美味しく感じた。


 これは本当に余り物か?


 食べ終えた皿を見ながら、修司は首を傾げる。どう考えてもご馳走。特に熱々出来立ては、あまり物感は全くない。しかも調理は簡単。片付けはフライパンを洗うのが面倒だが、それぐらいしか欠点がない。普通のガパオライスを食べるより満足感も高かった。


 チャーハンは、懐が深い料理なのかもしれない。修司は妻のレシピブックをペラペラと捲理、キムチチャーハンや納豆チャーハンのレシピを眺める。


「チャーハンって何でもアリね。これで一括で余り物が処理できるから優秀!」というコメントが書いてある。全くその通りで、修司は深く頷いてしまった。そういえば冷凍庫に余ったご飯や冷凍野菜が余っていた。賞味期限に近い納豆やキムチもある。


「明日の昼は納豆チャーハンにするか」


 もう決定だ。玉子もあるし、明日は納豆チャーハン。


 妻のレシピにると、納豆チャーハンはレンジで出来るらしい。タッパーに胡麻油、卵、タレと混ぜた納豆を入れ、軽くレンチン。その後に温かいご飯や鶏ガラ、ナンプラーを入れ、再びチンして完成。


 驚くほど簡単に完成してしまった。ついでに残り物も処理できたし、フライパンほど後処理は面倒ではなさそうだ。味も問題なく美味しい。昨日のガパオチャーハンは、コッテリとしていたが、納豆チャーハンはあっさり系で飽きずに完食。


 その次もキムチチャーハンを作り、これも美味しく完食。豚バラ肉も入れてちょっと豪華にしたので満足感もある。


 こうして冷凍庫に残った余り物のご飯や野菜も処理していった。本当にチャーハンは懐が深い。余ったカマボコやほうれん草なども入れてみたが、問題なく合った。これだけ何でも合う料理は思いつかない。鍋も何でも合うが、今は夏に近い季節なのがネックだった。


 何でも受け入れ、合うチャーハンを作りながら考える。確かの何でも際限なく許すのは違うが、野口隼人の失言もずっと叩いていい話でもない。


 事務所を通して本人にコメントも出ていたが、反省している事は伝わってくる。キリスト教会に行き、牧師のところにボランティアを体験し、心を入れ替えたのだという。それに仕事もダメになったものがも多く、隼人はちゃんと報いを受けている。外野があれこれ言う問題でもない。


 懐広くなろう。そう、何でも合うチャーハンのように。修司も完璧ではな無いし、人を叩いたり、中傷する権利なんて全くない。


 余計な事かとも思ったが、野口隼人のSNSにコメントを送った。毎日の料理番組が楽しみだった事や励まされていた事など。誹謗中傷のコメントの中で埋もれてしまったようだが、万が一彼の目に留まったら、こんな嬉しい事はなかった。

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