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思い出レシピ帳〜お父さんの初めての自炊〜  作者: 地野千塩


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第11話 失敗後のポタージュ

塩揉みキャベツ→お好み焼き→サラダ→キャベツの味噌汁→キャベツのシュウマイ。


 美加子に貰ったキャベツを消費し尽くした。塩揉みキャベツは一部冷蔵庫に残っているが、明日の朝に食べたら完食する。


「さて、明日はどうしようかな」


 修司は食卓に座り、家計簿と妻のレシピブックを睨めっこする。美加子からキャベツを貰ったので意外と食費は浮いている。予算はまだ余裕があった。


 後ろのキッチンの隅にある圧力鍋やホームベーカリーを見る。凛子からのいただきものだ。少し使用感はあるが、どれも普通に使えそうだった。


「あぁ、明日のごはんどうしよう」


 朝ご飯は塩揉みキャベツ、鯖缶の味噌汁、白米と決まっていたが、それ以降の計画が思い浮かばない。妻も献立決めるのが苦痛だと愚痴っていたが、今はその気持ちはわかる。


 とりあえず冷蔵庫を覗くと野菜や肉は空だった。冷凍庫にもストックしている野菜は消費しきってしまった。


「そうだ」


 せっかく圧力鍋があるなら、硬い野菜を食べたらいいんじゃないか。例えばブロッコリーとか。


 妻のレシピブックをめくると、ブロッコリーのレシピがあった。鍋で煮て(水は多くはなく、蒸す感じ?)、いろんなソースをつけて食べるものだった。塩、オリーブオイル、しょうゆ、マヨネーズ、タルタルソースなど。そういえば見た目が派手なこんなブロッコリー料理は記憶に残っていた。小皿にいろんなソースがあり、食卓に並ぶと目にも鮮やかだった。


 これにしよう。小皿にソースを盛り付けるのは、面倒そうだが、それ以外は簡単そうだ。何より圧力鍋という大きな武器を得た。


 さっそく買いものメモを取り、翌日スーパーに買い物に行った。ブロッコリーも特番品で安くゲットした。ブロッコリー料理だとご飯の気分ではなく、パンコーナーでバケットも購入。チルドコーナーに行くと、チーズや牛乳が安かった。本来なら買う予定はなかったが、チーズと一緒にバケットを焼いても美味しそう……。


 牛乳もカルシウム不足が気になるお年頃だ。さっそくチーズや牛乳もカゴに入れる。ざっとカゴの中の値段を計算してみたが、特売品のおかげで安く済みそうだった。後は夕食の作るもやし炒めの材料も買う。バケットは明日の朝まで行けそうだ。


 惣菜コーナーでは唐揚げの試食をやっていて、一つもらう。別に試食しただけだったが、ラッキーだ。ブロッコリーも牛乳もチーズも安く買え、ご機嫌な足取りで自宅に戻る。まずは冷蔵庫に買ったものを突っ込み、財布にあるレシートを家計簿に挟み込んだ。


 さっそく手を洗い、エプロンをつけてブロッコリーの下処理だ。凛子に教えて貰った洗い方を試す事にする。まずボウルに水をはり、カサを下にして汚れを水洗いしていく。カサを上にして水をかけると、水が弾いてしまい、汚れが取りにくいのだという。


 ブロッコリーを洗い終えたら、キッチンペーパーで水気を切り、切る事にした。小房ずつ切り分ける。この工程は単純作業で楽ちんだった。次は小房にした茎の部分をピーラー で少し削る。凛子によると、こうする事で食感が良くなるとか。下処理と一言と言っても、凛子に教えて貰った事は細やかだった。男の修司としては手でブロッコリーを雑にちぎりたい衝動に駆られるが、ここは我慢だ。そういえば美加子からブロッコリーの下処理方法を聞いたこともあったが、適当でいいとか言っていたっけ。案外美加子は雑な性格のようだ。


 こうして下処理をしたブロッコリーを圧力鍋で煮る事にしたが、どうも加減がわからない。妻のレシピでは普通の鍋で作っていたので正確な時間が分からず、適当な時間で圧力鍋にかけたら、ブロッコリーはクタクタに柔らかくなってしまった。


「あー、失敗じゃん!」


 頭を抱えそうになる。ここ最近の自炊では失敗していなかったので、ショックが大きかった。それでもいつまでも頭を抱えているわけにはいかない。


 SNSで質問を書き込むと、すぐに主婦らしき人からアドバイスをくれた。このままバターで炒め、コンソメ、牛乳とチーズを入れてポタージュにすると良いらしい。こういう失敗はあるあるなので、ポタージュにする人が多いという話だった。


 その発想はなかった。気持ちを切り替えてブロッコリーのポタージュを作る事にした。まだ圧力鍋を使いこなすのは早かったかもしれない。普通の鍋に移してポタージュにしてみた。ちょうど牛乳やチーズも買っておいて良かった。若干、乳臭いが、見た目はトロトロのポタージュが完成した。量はちょっと多いので、冷蔵庫で冷やして食べても美味しそうだ。


 バケットを切り分け、チーズをトッピングしてトーストする。トーストとポタージュの香ばしい香りがキッチンに広がる。さほど広いキッチンでもなく、おしゃれでもないが、ポタージュにバケットを作っている自分っておしゃれ?


 そんな事を考えていたら、失敗してしまった気分の悪さはすっかりなくなっていた。ポタージュの見た目も綺麗なグリーンで、悪くない。思わず写真を撮り、SNSに載せた。さっそく質問に答えてくれた主婦らしき人からコメントが届き、悪い気分では無い。他にもかぼちゃ、にんじん、豆のポタージュのレシピも教えてもらい、修司はすっかり失敗を忘れていた。むしろ失敗したからこそ、ポタージュに出会えたようなものだ。失敗は成功の元というには、本当かもしれない。


 すっかり立ち直った修司は、食卓にポタージュとバケットを持っていき、食べる事にした。


「うま!」


 熱々できたてのポタージュは、想像以上に美味しかった。ミルクの味が甘く、ブロッコリーも野菜ではなく、果実ではないかと思うほどだった。舌触りも滑らかで、いくらでも飲めそうだった。


 バケットとの相性もピッタリだ。さっそくバケットをポタージュに浸してみた。大変行儀が悪いが、一人なので良いだろう。妻や娘の咲子がいたら、さすがにこんな事はできないが。粉チーズもふりかけて味を変えると、全く飽きずに最後まで完食してしまった。


 元々は失敗だったポタージュだが、今後も作りたくなった。次の日はかぼちゃ、じゃがいも、にんじんなども購入し、毎日のようにポタージュを作っていた。不慣れだった圧力鍋の扱いもすっかり慣れてしまった。意外と冷蔵庫で冷やして飲むのも美味しく、朝食にもピッタリだった。味噌汁も良いが、ポタージュも悪くない。満腹感もあるので、ポタージュとパンだけでもお腹いっぱいになった。


 ポタージュを作りながら失敗も悪くないかもしれないと思う。人間どう頑張っても失敗はするのだ。問題は、失敗した後の対応だ。いつまでも失敗にクヨクヨしていたら、何にもならないのかもしれない。


 大学教授としてずっとプライドが高かった。失敗は悪とすら思っていたが、ポタージュを作りながら、そんな気持ちは溶けて消えてしまった。まるでポタージュのように滑らかな気持ちになっていた。


 そんなある日の事。


「申し訳ありません!」


 スーパーで買い物していたら、レジの女性に謝られた。お釣りを間違えたという。レジの女性を見ると、研修中という名札をしていた。まだ若い女性のようだ。還暦過ぎた修司からすると、若い女性はみんな同じに見えてしまうが。


「いいよ、いいよ。失敗は誰にでもあるから」


 修司はニコニコ笑うながら、レジの女性に笑いかけた。自分だって完璧に自炊はできない。成功する事も多いが、最初は盛大に失敗していた。自分だって失敗しているのに他人の失敗など責める権利はない。


「あ、ありがとうございます!」


 レジの女性は、ホッとしたような表情を見せていた。


 SNSを見ると、芸能人やインフルエンサーの揚げ足を取り、叩いているものが多い。不倫などのスキャンダルはもちろん、ちょっとした失言でも鬼の首をとったかのように誹謗中傷がはじまる。


 誰だって失敗はあるのに。


 修司はそう思う。もう少し他人の失敗にゆるーい気持ちを持てれば、今の日本も良くなりそうな気もしてきたが、今は目の前の自炊が大事だ。


 今日もブロッコリーが安かった。丁寧に下処理をし、ポタージュにしよう。滑らかで優しい味のポタージュを思い出しながら、失敗するのも悪くない。改めてそう思った。

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