クソ生意気な幼馴染みはイカサマをしてまで王様ゲームに勝ちたいようです
「王様ゲーム、それは男の夢である」
窓の外を向き、妙に勝ち誇った様な表情でグッと拳を握った友人が、ニヤッと俺の方を振り向いた。
「作戦を振り返る。貴殿の使命は?」
「……引いた番号の回数だけ鼻をこする」
「宜しい。では頼んだぞ」
「……」
その王様ゲームにはちょっとした訳があった。ぶっちゃければイカサマだ。
メンバーは四人。俺、アホタレ友人の篤郎、俺とアホンダラ篤郎の共通の幼馴染みである美保。そして本日の犠牲者である美保の友人、和香だ。
「それじゃあ引いて~♪」
俺は篤郎の頼みで仕方なく、仕方なく美保に後方伸身2回宙返り3回ひねり土下座をしてまで合コンをセッティングしてもらい、和香に参加して貰った。
篤郎は和香にゾッコンで、笑顔で殴られても許せると豪語するマゾッコンなのだ。
ある程度酒が入り、お互いの気心が知れ緊張がほぐれた辺りで王様ゲームは始まった。
引く棒は、パッと見全部同じだが……俺達には区別が付く。今日のために僅かな違いを判別する練習をしてきたからだ。
「王様だーれだ!」
俺が王様を引いたら、こっそり篤郎と交換。そして番号については、僅かな違いを一瞬で判別。
そして篤郎が和香にスケベタラシーなお願いをするのが、今日の目的である。
……仕組まれた王様ゲームはある意味犯罪なのではないかと思う気もするが、和香が少しでも拒否反応を示せば止めておくと言うのが、俺が提示した最低条件だ。
俺としても古き友人に彼女が出来たらどれだけ嬉しい事かと思うが、やはり悪いことはあまり気乗りがしない。なるべくはまったりとした、軽いお願いで留めておくのがいいと思う。
「あ! 私王様ー♪」
ずっと篤郎が王様ではあからさまなので、時折引かない事にもしている。なるべくは自然な形がいいだろう。
最初の王様は美保、俺は④番。篤郎は②だ。
「④番が切腹ー!」
「──ブッ!!」
思わずビールを少し吹いてしまった……!!
コイツ王様ゲームが何なのか理解しているのか!?
「おいっ!」
「……もしくは、王様にキスー♡」
「──なっ……!!」
美保がニヤニヤニヤニヤと、酒で赤らめた頬を指差した。コイツ、俺が嫌がるのを見て楽しんでやがる……!!
なんで俺がコイツの汚いほっぺにブッチューをしなければならないのか……!!
「ほれほれ、余が王様ぞ?」
「ググ……!!」
しかし、しかしだ。
ここで王様ゲームをぶち壊しては、全てが台無しだ。
俺はほんの一瞬、触れたか触れないかの所でブッチュラをくれてやった。
「した!? 今触った!?」
「しただろ!! 次行くぞ……!!」
この報酬は高くつく。
篤郎にナイスバディなお姉様でも紹介して貰わないと釣り合わん……!! 餓狼姉妹みたいな人をなッッ!!
クジ棒をクルクルと回す篤郎が、俺を一瞬だけ見た。王様を引くぞ、の合図だ。
俺は素早く手を伸ばし、僅かな違いから王様が書かれた棒を引き抜いて、ビールを飲む手で隠しながらテーブルの下で素早く篤郎の棒と交換。
「王様だーれだ!」
篤郎の期待高まる声はかなり興奮気味であり、いささか鼻の下が伸びて気持ち悪いまであった。
「あ、私ー♪」
「──!?」
篤郎が口を開けて無言の抗議を俺にした。俺は無言で『スマン、ミスった』のテレパシーを送った。
「和香ちゃん何番ー?」
「さーん」
「おい、それ聞いたらダメだろ……!!」
「えーっ、いいじゃん。和香ちゃんに切腹させる訳にもいかないし、ねー?」
「ねー?」
「可愛いから許しちゃう」
「ぐぬぬ……!!」
篤郎がそれで良いならそれで良いのだが……それで良いのか篤郎よ……!?
「今日は②番のおごりー!!」
「おいっ!!」
とんでもない命令にたまらず声を荒げる。
やはりコイツにお願いしたのは間違いだった。
「──もしくは王様と一分間目を合わせる~! 出来なかったらもう一回~♪」
「なんだそのアホくさい命令はっ!!」
「朕は国王ぞ? はよせい」
「……ぐぬぬぬっ!!」
仕方なく、とても仕方なく。極めて致し方なく、美保の目を見る。酒に酔った、極めて悪質な堕天使みたいな顔をして、テーブルに腕を乗せている。
「ふふふ♪」
「……」
スマホのタイマーがとても長く感じる。
まだかまだかと思いながら、無心で美保の目を見る。少しでも意識を逸らしてないと、殴ってしまいそうだ。
「なかやかやるのう」
美保が前のめりになり俺に顔を近づけてきた。かなり酒臭く、至極失礼である。
「──チラッ♡」
「──!?!?!?!?」
何をとち狂ったか、いきなり指を自分の服へ引っかけ、胸元を見せる仕草をしやがった!!
「はいダメー♪」
「おのれぇぇぇぇ…………!!!!」
自らの不甲斐なさを恥じ、唇を噛み締める。
事もあろう事か奴の胸元に反応してしまい目を逸らしてしまったとは一生の不覚……!! 切腹あるのみ!!
般若の如き気迫で、次のクジ棒を引く。
今度は間違いない。篤郎が自分で引いた。
俺は自分の番号を確認し、一度だけ鼻をこすった。
「王様だーれだ! ……っと、俺だ」
和香の持つ棒の形から、すぐに番号は分かる。後は篤郎次第だ。
俺はビールを飲み干し、呼び鈴を押した。
「王様とぉぉぉぉ~……②番がハッッッッグッ……!!」
いきなりハグとかハードルが高いだろうが、フレンチなハグなら大丈夫だろう。ディープなハグはもっと親密になってから勝手にしろ。
「ゲッ!! 私だぁ……」
「あ、ビール一つと、軟骨の唐揚げをナニィィィィ!?!?!?!?」
何かの聞き間違いか見間違いかと思ったが、美保の持つ棒は②番だし、篤郎も何故かやる気満々で腕まくりをしている!!!!
「へへ、和香ちゃんも良いけれど、前から美保も良いなって思ってたりんだよね、へへへ」
「なっ! おまっ!!」
よく見れば篤郎の顔は真っ赤も真っ赤。天狗みたいな事になっており、既に酔っ払いの域を超えて煩悩のみで行動する変態野郎と化していた。
さては緊張して喉が渇いて酒を飲み過ぎたな!?
篤郎、お前それでいいのか……!?
「うわ、なんかやる気満々なんだけどこの人……」
嫌そうな美保。まあ、今まで俺に散々やりやがったんだ。報いを受けよ。
「うへへへへ、美保とぅわぁぁぁぁん……♪」
「な、なんか酔ってない篤郎? ちょっとヤバいよ目が」
確かに篤郎の目は、控えめに言ってヤバかった。
「直哉、止めてよ…………」
「いやぁ、王様の命令は絶対ですから」
「そんな。直哉お願い……!!」
悲しげな顔を見せる美保。イカサマ王様ゲームを仕組んだ罪悪感がチクリと胸を刺す。
「……」
仕方なく、俺は後方伸身2回宙返り3回ひねり割り込みで、篤郎がハグをしようとした瞬間に美保と篤郎の間に割って入った。
「おほっ! 美保ちゃん意外とガタイがいいじゃない……!!」
激しくハグをかましてくる篤郎。目を閉じているせいか、俺だと気が付かない。
やがて満足したのか、篤郎はその場でいきなり寝てしまった。
「……寝ちゃったし、今日は終わりにしようか」
「……うん」
「あ、お手洗い行きますね。あとタクシー呼んでおきます」
「ありがとう」
美保も席を立ち二人ともトイレへと向かった。
俺は篤郎を席に寝かせた時、ふと女子二人が座っていた席の間にクジ棒が落ちているのが見えた。
「……王様だ」
テーブルにクジ棒を置くと、何故かすぐ傍にも王様の棒があった。
「……?」
篤郎の奴、二本準備して……いや、それなら何故女子の席に……?
「お待たせ。タクシーすぐ近くに居たから、もう行けるよ」
「ありがとう。おーい、篤郎帰るぞー」
「う、うぅん……ぁ」
篤郎を揺さぶるが、返事は鈍い。
「おい篤郎。王様の棒が二本あったがこれはなんだ? 聞いてないぞおい」
耳元で小さく問いかけると、篤郎は急に飛び起き、そのまま足早に出口の方へと歩き出した。
「和香ちゃん帰ろう……!!」
「あら? バレちゃった? フフフ、美保ちゃん私達帰るね~。後は頑張って~♪ あ、支払いは済ませたからね」
「おいっ! 篤郎待て!!」
篤郎と和香は、俺の呼びかけにも応じず、すたこらさっさと店を出てしまった。
「おい美保、何が何だか何なんだ、これは……」
「……ッ!!」
──ダダダッ!!
美保までもが走り出し、俺も慌てて後を追いかけた。何なんだ一体……!!
「待てよっ! 美保! 説明をくれ!!」
「ばーか!!」
「なにをっ!?」
「ばーか!!」
「待てこらっ!!」
本気で走り出した美保を、俺も本気で追いかける。
「次の店まで追い付かなかったら、直哉のおごりだからなっ!!」
「くそぼけ勝手に抜かせ!!」
「あと、ほっぺに本気でチューな!!」
「ハゲたわけ!! 誰がするかっ!!」
「一生私を見続けろ!!」
「やなこった!!」
「そしてハグをしろ!! ディープなやつをな!!」
「ディープ言うな! 恥ずかしい……!」
酒が回り走るのがしんどいが、何とか美保の手を掴み、走るのを止めた。
「残念。私の勝ち♪」
既に反対の手で店の扉を開けていた美保は、意地悪そうに俺に笑いかけた。
「走ったから疲れた」
「……誰のせいだ、誰の」
「おごり。おごり」
美保はそう言って俺の腕にしがみつき、肩に頭を乗せてきた。