⒋こんにちわ世界 全編
統一歴X年同日――午前九時三十四分――無人島――
地面は砂。砂浜。一粒一粒が細やかに刻まれた、湿り気、粘り気のない、且つ、極度に柔らかく、滑らかで乾いた砂。振り返ればすぐ後ろには小さく波立ハワイアンブルーに透き通った海が広がっている。そう〝透き通った〟海が。海の柔らかな声音に続いて、鳥の鳴き声が響き、美しすぎる自然あまり身震いしそうになる。
木々の葉が心地良い風力に靡かれて、控えめな音色を発する。それがまた清々しい。大変気持ちの良いものであった。
気分はすこぶる好調……の筈だった。あの今は無き、不協和音のアナウンス共に目隠しさえなければ、もしかしなくとも、気分は旅行で来れた筈だ。ビーチへ、大学の友達――それも男女で遊びに来たぜ!的な雰囲気、気分だけでもそうできたはずだ。しかし、道中、不協和音も目隠しも嫌、という程、残念ながら体験した、とするに――お陰様で、水着姿の女の子がより一層輝く砂浜というステージが、なんとも。体内から排出された朝食やらにより、仄かに香る海塩のショッパイ香りが、なんとも形容し難い鼻腔を貫く吐瀉物の香りへと。――植民地支配された。
幸先が悪い、とはまずこのことだろう。キレイな砂浜には多量の吐瀉物。前衛芸術の講演会ではなかった筈だ。よって、自然もろとも空気は汚染され、ある種のバクテリアのデビューステージへと変貌。視界に映る多量の消化が進んだご飯。ポジティブシンキング通用されたし。
暫く……といっても、然程時間はかからないうちにある程度、体は回復し、気力が粗方戻り始めた頃――。
「おい!どういうことだ、なんで誰もいない。さっさと説明しろ!!」
男の一人が、置かれる現状に、居ても立ってもいられずして怒号を嘶かせた。
人を見た目で判断するのはヒトの悪い所であるがゆえ、次のような現象が生じるのだが。赤毛に、耳に数個のピアスと、ラブレット。目付きが悪く、またクマが大変に目立っている――以降、暫定ただの悪ガキだ。
のちにこの男の事は西崎怜猗と分かるのだが、今はそんな事良しとして、問題は、だ。西崎に倣うようにして、他の連中も、耐えに耐え兼ねたのか、怒号を始めた。
すなわち、堪忍袋の緒が切れたのだ。浅はかな堪忍袋にしろ、恐らく、不安や緊張、なにかしらの焦りから始まる精神状態の乱れと崩壊、それがヘバリ、脆くし、結果的に千切れる、という最終結末に追いやったのだろう。
また、半ば強制的につけられた目隠しも、それの副作用による嘔気の疲労困憊、船からの強制退出の際、扱いの悪さも、もはやなにもかもが苛立ちに影響を及ぼしている。言わずもがな、男は永遠の思春期。参加者が徐々に、声量の嵩を増してや罵詈雑言。クレームの殺到を催し、兼ねた。参加者総数凡そ千人弱。但し、現状把握数とする。そんな数の人間全員が全員、キレて、声を張り上げるのだ。下手すればアリーナよりもウルサイ。クレームの殺到。非難囂々――鼓膜の過剰振動。HSPな人にとってもは、もはや地獄の権化でしかない。
そんな中、神羅万象なる〝火に油を注す〟行為が実装され、唯一の救いの手が、ある種の宗教団体の下、勧誘と共に送られた。
『やあやあゲストの諸君。まずは当選おめでとう。そして……残念賞受賞に大いなる祝福を。この島では思う存分彼氏彼女をいっぱい、いーっぱい作ってください』
虚像となりて、参加者の前に姿を現したには一人の人?即ち、ホログラムと言った方が近しいか。英国紳士ならぬ風貌、性別不詳――女か、男か。固定観念に縛られるならば、そいつは男だ。声はしっかり低く、背格好も男のソレに近い。暫定、二十歳後半。ショタ体系ではなく、列記とした大人。ここでは仮に、そいつの事をQと呼んでおこう。特に深い意味はない。
Qのあからさまな、その場の全員を……参加者を嘲笑、皆の癇に障る声音。先程の、固定観念に縛られれ〝言うなれば男である〟に伴って、基本的にQの詳細情報が開示提供されない今、明らかに分かっている確実な有力情報は、一言語である〝ニホンゴ〟がやつに通用しそうである、ということ。また、会話可能であるやもしれん、ということだけだった。それ以外はまるで……もはや一種の暗黙の了解でしかない。――というか、お察し致します、の領域だ。
ようやく、と言った調子で会話の成立が叶いそうな者を前にしたのだ。至極、今までの不安と緊張で生じた苛立ちを纏う、参加者ら(主に男性陣)はその感情をスリングショットの如し、ゴム紐にかけて摘まみ、引いて照準を合わせるや否――Qの腑目掛けて撃ち込んだ。さながら、格好の的だ。分かりやすく言いくるめるならば、〝怒号のエレクトリカルパレード〟か。
「どういうことだ残念って!説明しろ」
「あぁ゛?舐めてっと痛い目あうぞ!!」
「そうだそうだ!」
『まぁまぁ、そんなに興奮しないでください』
何時の時代から紳士というものはただの嘲笑芸人へとジョブチェンジしたのだろうか。ジェネレーションギャップにはついていけそうにない。……いや、単にこいつだけか。やたら嘲笑を好むQに発言により、女性陣はとかく、異様に沸点が低く、気象の荒い男共は、一度切れた堪忍袋の緒をさらに切らす、とかいうもはや日本語ではない日本語の――意味の分からない領域へと踏み込んだところで――
「てんめぇ……ざっけんな、ぶっ殺してやる!!」
「誰のせいでこんな目にあってると思ってんだ!!あ゛??」
「ふざけんのも大概にしろ!」
雉も鳴かずば撃たれまいところを……。もはや、と言うべきか否か。言わずとも、彼氏彼女をつくるどうこうの話では既になくなってきている。鬱憤による影響は酷を促し、サイトとしての本来の役目を果たせそうになく、このまま解散、という流れも已む無き事態に至る可能性が……むしろその方がありがたい気もする。
やはり、会場は殺気で満ち満ちていた。怒気が飽和している男共はさも獣の如く、醜悪に声を問い掛け、葛藤に葛藤を続けている事ようやく――。Qは真面な声のトーンで話を始めた。
『ここはご覧の通り無人島。今からゲストの皆様方には――」
――
『――殺し合いをしてもらいます』
当初の予定とは大幅にズレた。
酷な、騒めきが生じるのが痛いほど伝わる。Qのなんとも無責任さを感じられる、驚異的なまでの単語を含んだワン・センテンスは、人々を混乱へと、動揺へと誘う。元はと言えば、道祖神がハナから守ってくれさえすれば、こうはならなかったはずだ。
まさか、生きているうちに「殺し合いをしてもらいます」などという言葉を聞く羽目になるとは思いもよらなかった。どこのマンガだよ。一変して、馬鹿馬鹿しいようにも感じえる。
殺し合いか……それがなにを意味するのか、例によって参加者は勿論のこと、蓮にも当然理解していた。がしかし、瞬時にして理解したわけではない。なんなら、現も、理解し難い既成事実が存在する。
絶海の孤島に縛られて、集まった参加者数総勢凡そ千人弱(現状把握数)。それらが互いに互いを殺傷、主に命を奪っていく行為。まさに人間の倫理もクソも外れた行為そのものだ。
互いに殺傷し合うのに特別な意味はいらないと?いいや、違うか。訂正、意味はあるにはあるのだが、果たしてそれが本当の意味に値するのかどうか。
意味とは、端的に言えば、何の罪なき同じ境遇の生きた、生身の、新鮮な人間を自分が、自分だけが生きて帰りたいが為に殺しに臨む、と。
更に言えば、これを自己中心的と捉えるか否か。どっちにしろ意見は分かれるが、しかし。ここでは自己中心的と暫定し、見解を続けるとしよう。言ってしまえば、参加者同士が団結し合い、そもそもの主催者や、関係者……運営を殺すことも不可能ではない筈だ。可能の範疇であろう。換言、皆が生きて帰る為だけに、便宜上の不可侵協定を築き、何とかして終わりにすること、逃れることだって、やろうと思えば無理な話ではない筈だ。
しかしながら、残念にも、もし仮にそれが叶わぬ何かがあるのだとしたら……それはもう、ご愁傷様としかいいようがない。そんなクソったれなエンティティによる設定があるのが殺し合い界隈においてのお約束なのだろう。尤も、殺し合い界隈とはなんぞや。
#殺し合い界隈とは
例として、映画の内ではあるものの、どの殺し合い系統の映画を見たとて、大半がチーミングが許されていない。あるいは、通用しようものなら、最後までは適用されず、結局はどちらかが死ぬ、というのがあるあるの、テッパンなオチだ。結果的になにを行うにしろ、犠牲はつきものである、と。
さて、殺し合いか……。どうしたものかね、これは。蓮自身、極々一般的な部類に入る言わば凡庸な大学生だ。間違えるはずもなく、上流貴族などではない。ありふれた凡人である。むろんとして、人を殺めたことも、そもそも人に傷一つつけたことすらない筈だ(たぶん)。純粋無垢と言ってもいいくらいに、蓮自身、自分の心はキレイな方だと思っている。まあ、果たして女の子の〝おっぱいが揉みたい〟という薄汚れた願望……より欲望がある時点で純粋無垢と言ってもいいものか否か、審議は問われるものの――最終判決で下されるのは、純粋無垢だ。
健全な男の子ならあらまほしい思考だ。少なくとも、蓮は穢れなき、ピュアっピュアな人間である。プリキ〇アの世界観は好きだ。冗談ではない。リアルガチ。まさにピュアである。
これっぽっちも、この十八年という人生の中で悪事を働かせ、自らの手を汚したことは無い。カンニング?んな概念は知らぬ。言うなれば、真と書いて真と詠ませしDTなのである。うん、ちょっと何言ってるかわかんない。
況して、果たして蓮に、人を殺めるだけの技術はあるのだろうか。いいや、断固としてそんなものはない。却りて、返り討ちにされてしまう。
どうあれ、そんな技術は携えていないワケであって、以上に、運動さえもが真面に覚束ないのが哀しい現状だ。
さてと、どうしたものかね、これは。
『とは言っても、それだけでは正直ツマラナイ。そこで!今回出会い系という点に着目して、本ゲーム……お馴染みのデスゲームを導入させて頂きました!』
さも嬉しそうに、とち狂ったように、興奮さえも覚えているようにQは御託を続ける。そんな奴を前に、皆、当然として堪忍袋の緒は疾うのとっくに切らしているとて。こみ上げる怒りは殺意と比例にイコールの関係――声帯の過剰振動。過度のがなりめいた、所謂咽喉にダメージを担わす大変宜しくない声の荒げ方ゆえに、咽喉が傷つき、このままでは本格的に声帯を殺し兼ねない。しかし至極、だれも止めには入らない。……というより、入れなかった。
声を荒げるのは八割型男性陣であり、取り残されつつある控えめな女性陣には、力の差も歴然の男に止めに入ることはできない。なんなら残りの二割の女性も声を荒げているのが既成事実。控えめ派が止めに入ったところで何になるというのだ。トバッチリが来るのが目に見えている。ゆえ、誰もかれもが止めに入ることができないでいた。
もとい、それどころではなかったのだ。実際に、各々が異なる不安や恐怖、緊張の知覚、筋肉が変に収縮し、強張る。尚も、正気を保つのでいっぱいいっぱい。表情を竦め、顰蹙に嘆く。玉響の臓器の騒めき、筋肉組織同様に、臓器も怯えんばかりに、収縮を始めていた。違和感だけが身体を牛耳り、些少ボヤが始まる視界には、動揺の色が窺える。白く濁った世界。
以上踏まえた心境の取り残された参加者にとって、は至極、赤の他人の事など気にかけているだけの猶予はない。剰えには、本当に――
自分は、自分達はヒトを殺さねばならないのだろうか、と懸念。
自分は、自分達はヒトに殺されねばならないのだろうか、と懊悩。
自分は、自分達は殺し合わなければならないのだろうか、と呻吟。
――痛いのは嫌だ。苦しいのは嫌だ。――ノセボによる些かな呼吸困難と、心臓付近の神経の痛痒感。
これはなにか悪いジョークのはずだ。悪戯のはずだ。テレビのクソほど笑えないクソったれなスタッフが考案したクソドッキリに違いない。質が悪い。
男性陣は未だ懊悩に嘆き、叫びをあげる。正気さえ保てているものの、時がすぐにでも解決しかねない。基本的に控えめ派の女性陣も、大半に至極当然戦慄し、中には膝を落とし兼ねない人の姿まで見受けられる。
「はぁ?んだそれ、聞いて無いぞ!!」
実際問題初めて聞かされた。示唆さえも与えられる猶予はなかった。殺し合う、という単語に対して、動揺を隠すことはできなかった。
無理もない話である。まさか、今までの人生、全うに生きてきた人間が、突如として、本日を以てヒトを殺さねばならないのかもしれないのだ。見ず知らずの人を、意味も分からずして、白羽の矢が立ったというだけで、痛みさえも覚えさせ、殺さねばならない。
そもそも、殺し合い、とはなんだ。言葉自体は聞いた事あるし、実際の理解には至っている。さればとて、皆、そこまで深くは考えたことがなかった。というか、深く考えること自体ありえない話だ。誰が好き好んで日頃より殺し合いについて考えねばならんのか、と。
参加者は殺し合いという単語を単なる単語に過ぎない、と――特に深い意味もなく、単なる言葉遊び、悪戯に過ぎないと勘違い……いいや、信じていた。背きたい現実に、非現実は優しく朗らかに微笑みかける。優艶な眼差しで、微笑みかける。参加者に残されていた猶予はただ、もはや諦観することだけだった。
『でしょうね、だって誰も何もいっていませんもん。ギャハハハハハ』
哄笑の最中の嘲笑。対して、唇を深く、深く、深く、噛みしめる忍耐。痛みはなかった。
もはや正論を突きつけられては、最後には――
「クッソ、てめぇ……ぜってぇ殺す!お前だけは何が何でも絶対に殺してやる!!」
飽和した殺意しか現れはしなかった。
冷静を保てている人間こそ、頭の良い生き物であり、保てない人間はもはやミジンコ以下でしかなく、塵埃が柔らかに微睡んだ微笑を浮かべては、歓迎してくれていた。
怒りの感情そのものがある時点で、暴言は否応なく生まれ、口から飛び出すもの。
『ハッ、人を殺したこともないくせに殺すだのぉ?良いセンスだ。いいか、人を殺す度胸もないヤツに、そんな言葉を使う資格は無いのだよ、少年』
つまりは、嘲笑。滑稽視するQの最終結論はこうである。学び舎で先生と仲良くお勉強をして、資格を取りましょうね、と。
いわく、国家公務員の資格を取るよりも自明の理、簡単であると言う事。はたまたカーテンウォール施工技能士一級を取るより簡単なワケである。
なにせ、Qの言うところの、つまりは、資格を取るのに必要な道具は度胸くらいであるということ、すなわち、度胸さえあれば、その資格は確実に取れるワケであり、ぶっつけ本番の試験――模擬など存在しなく、リアル実践のみ。
狭い器の男性陣に、やや脂汗が見受けられた。対照に、女性陣は、現段階では未だ現れていないものの、近い未來、過呼吸患者が多くなると推定される。現段階では「え、え、え、え、え……」と困惑に身を委ねる――理解には至っていないのが唯一の救いとでも言える。または安堵。眼振の発症は予て慮外。
さてと、そんなQの段落に身を委ね、本サイト、並びにこれから始まるゲームについての詳細情報の開示が発表された。