#グマイの碁
P.S0期生。
夜斗の言ったその謎の称号を、あのP.Sオタク甘鳥椿すら知らなかった。
それが意味するのは、単純に夜斗が勝手にそう呼んでいるだけ。
実際、P.Sライバーは今所属しているメンバーだけであり、誰かが引退したような過去もないという。
まぁあの厨二病からしたら、強者には二つ名を付けたくなるものなんだろう。
P.S関係者とか悪口以外のなんでもねぇと思うがな。
差し当たっては、あのゲームバカが引き起こしたことをどうにかせにゃならん。
「で〜兄者どうすんの〜?」
「まぁ、ギロチンかアイアンメイデンだろうな」
「えごめん何の話〜?」
「夜斗のヤり方だろ?」
「リカ姉ぇとのコラボの話〜」
「……勝手にやってろ」
「兄者と勝負させろ〜って言ってるんだけど〜」
「しない。しません。俺、平和主義」
「嘘つけ〜ドS兄者〜」
兵法三十六計逃げるにしかず。
どこかの偉い人はそんなことを言っていた。
戦いは戦う前から勝敗は決しており、負けるくらいなら逃げるべし。
負けて死ぬくらいなら、逃げて生き延びればいい。
そんな武士道ガン無視の戦法こそ、この状況を打開するに相応しい。
負けるリスクどころか戦う理由すらないのだ。
わざわざ敵地まで赴いて、背負ったネギと一緒に自ら用意した鍋に入るようなことはしない。
鴨はもっと丁重に扱え。昨今じゃ鴨鍋食う機会こそ貴重だろ。
「絶対に勝負しねぇって伝えとけ」
「は〜い。話変わるけどさ〜」
「んー?」
「兄者土曜日ひま〜?」
「配信予定すらないが」
「じゃあシェフやって〜!女子会する〜!」
「やらん」
「じゃあアタシがシェフだよ?」
「銃口より怖い脅しを突き付けんなよ」
「やってくれる〜?」
「まぁその銃口、向いてんのはパーティーメンバーなんだがな」
「ちょ、兄者〜!やるんだよね〜!どこ行くの〜!帰ってこ〜い!アイルビーバック〜!」
それはお前が帰る時に言うセリフだ。
愚妹が溶鉱炉に沈んでいくシーンは笑い無しには見れませんでしたね。
【リベンジ】リバーシ修行の成果を見せる【春風桜、兄者】
コメント:不穏
コメント:あ……(察し)
コメント:修行?
コメント:無茶すんなよ姫
コメント:これは質のいい姫虐が見れる予感
コメント:骨は拾ってやる
コメント:姫ドンマイ
「開始前から負け扱いされてんぞお前」
「むか〜!今日はマジで勝つし〜!」
「また変なこと企んでねぇだろうな」
「コメント欄は兄者にも見えてるでしょ〜」
「だとして、お前がリバーシやろうはもう既になんかあるだろ」
「だから練習したの〜!もう絶対勝てる〜!」
コメント:練習?
コメント:コソ練したのか
コメント:姫がリバーシ練習?
コメント:という夢を見ました
コメント:実は裏で頑張ってたのかな
リスナーからしたら明らかにそんな素振りはなかったようだ。
少なくとも配信ではやっていないという事だろう。
そして裏、つまりはプライベートの方でもやっていた様子はない。
まぁ四六時中一緒という訳じゃないし、出社中の時間は完全に何してるか分からんからな。
それに今は調べれば何でも知れる情報社会だ。
いわゆる定石みたいなのを覚えるだけでそれなりに戦えるこのリバーシというゲームは、確か理論値が引き分けらしい。
俺はそこまで極めていない以上、負ける可能性は大いにある。
「んじゃ早速やるか」
「おっけ〜兄者どうぞ〜」
「先手くれるのな」
わざわざ設定を変えて、黒の番を俺に寄越した。
髪をかき上げたり、両腕をブンブンと左右に振ったりと謎の準備体操をしている。
気合い入れてるところ悪いが、このゲームにフィジカルは関係ないと思うぞ。
まぁやる気が満ちてるってことにしてやるか。
「実は後手が有利だったりするのか?」
「そうなんじゃない〜?」
「知らねぇのかよ」
「あんま関係ない〜みたいな話聞いた〜」
「じゃあなんでわざわざ俺に先手譲ったんだよ」
「ん〜黒って縁起悪いじゃん〜?」
「お前そういうの気にするタイプだったか?」
「兄者に勝つならそんくらいしないとね〜」
コメント:結構いい勝負じゃね?
コメント:ガチで上手くなってる
コメント:普通に姫良くね?
コメント:ちゃんと勝負になっているだと……!?
コメント:ズルしてるだろ
コメント:平安時代の霊とかついてない?
「めちゃくちゃ言われてんぞ」
「兄者隣いるじゃん〜」
「まぁ何か変なことしてたら気付くわな」
「そういう事〜」
「てか俺の素人目にも良い手打ってんだけど、誰がお前の師匠やったんだよ」
「それはね〜兄者よりオセロ上手い人〜」
「そりゃそうなんだろうがな」
「兄者〜?手が止まってるよ〜?」
「いや普通に悩んでる」
「え、これ本当に勝てる!?兄者マジで悩んでるっぽい〜!」
コメント:まじ?
コメント:兄者が姫にリバーシで負ける?
コメント:そんな馬鹿な
コメント:ありえないけど姫有利
コメント:過去一兄者を追い詰めてる説
実際、盤面としては追い詰められている。
お互いに置ける箇所が減って来たことで、数枚の差が、あるいは残した石の一つが命取りになりかねない。
リバーシをここまで本気でやった事も、そしてここまで拮抗した事も俺はない。
経験の浅さというものをヒシヒシと感じる。
だがそれは、相手も同じだろう。
「確認するが、これ別に負けても何もねぇよな」
「お〜?もう負け惜しみ〜?」
「ゲームやる前に変な条件は出してねぇだろって確認だ」
「何も〜うん、言ってないね〜」
「んじゃ、さっさと入って来いよ」
「……兄者〜?どういう意味〜?」
「ドッキリは失敗だつってんだよ。愚妹に指示してる誰かさんよ」
コメント:ドッキリ!?
コメント:えどゆこと?
コメント:ドッキリか〜
コメント:やっぱり裏が?
コメント:入って来いとは?
「え〜っと〜あ!じゃ〜入れるね〜!」
「声も載せるんだろ?」
「載せる〜はい、いいよ〜!」
「呼ばれたからのう、通話で配信に邪魔するぞ、蛇王エリカじゃ」
コメント:なにいいい!?
コメント:突然のコラボ!?
コメント:何この状況!?
コメント:告知すら無しで!?
コメント:姫との初コラボがこれでいいのか!
コメントの反応で分かるが、リスナーすら知らないとか中々に攻めたことをする。
普通、こういう企画は視聴者も含めて仕掛け人であるべきだ。
あくまでも騙されている状況とバラした後のリアクションを楽しむのが本来のドッキリだからな。
しかしそれすらない、完全なサプライズという形で登場した、蛇王エリカというVTuber。
白銀の長い髪はストレートに伸びており、花柄ではなく波模様のような黒ベースの和服は、どちらかと言うと花魁に近い。
服装とは対照的に幼さを感じさせる大きな赤い瞳。ともすれば夜斗と兄妹のようにも見える。
だいぶキャラが立ってるな。
口調といいやってる事といい、こいつはなるほど、夜斗から聞いた通り曲者のようだ。
「直接話すのは初めましてじゃのう、兄者殿?」
「どうも。俺はなんて呼べばいい」
「好き呼んでくれて良いぞ」
「蛇王……ってのは、人名感ねぇな」
「リカ姉ぇ〜?」
「そんな距離感じゃねぇわ」
「じゃ〜名前呼びでいいじゃん〜」
「まぁ向こうがいいならな」
「クキキ、良いぞ」
「どんな笑い方だよ」
コメント:のじゃロリが来た!
コメント:このキャラでブレないのすごい
コメント:どこぞの吸血鬼かな?
コメント:コラボ告知すらないの無茶苦茶だなw
コメント:相変わらずの破天荒
コメント:エリカ様すぎるw
すげぇな、このリスナー共、告知無し説明無し容赦無しのドッキリもどきにもう順応してるぞ。
頭に方陣でも付けてんのか。ガコンって音がしたかもしれん。
いや、よく見たからこいつら愚妹の奇想天外チャンネルを追って来た奴らだ。
面構えが違う。
そしてどうやら、向こうさんもそれなりの事をして来た奴らしい。
反応が同じだ。
「それにしても、まさかワンゲームももたずにバレるとは、思っとらんかったのう」
「詰めが甘かったな」
「参考までに、どこで分かったんじゃ?」
「愚妹がゲームやる前、耳元の髪を指で触ったんだよ」
「……へ?」
「……え?兄者?なんでそれで分かんの?」
「俺から見えない側の耳にイヤホンを付けてたんだろ。直接は見てねぇけど」
「えこっわ!ナニ!?怖いこの人〜!」
「ちょうと待て!それだけで分かるわけないじゃろ!」
「普段しない動作だからな。なんかあるって予想はできる」
コメント:怖い
コメント:洞察力が異常
コメント:探偵やれよ
コメント:時計に麻酔銃仕掛けてるだろ
コメント:まだ読心術できるって方が理解できる
コメント:何この人こわい
コメント:台本だと言ってくれ
「そのイヤホンで指示出してたんだろ」
「その通りじゃが……」
「絶対バレてないと思ってたのに〜!」
「聞いてた話と違うぞ……もっとチョロい奴とか言っとったじゃろ……」
「誰だ俺に遠隔で喧嘩売ってるやつ」
「ま、まあ良いわ。それで兄者殿、これからどうするかの?」
「どうって?」
「このゲームの続きじゃ。少々、儂が優勢じゃろうがのう」
「──違うな、間違っているぞ」
「あ〜誰かの真似だ〜」
コメント:兄者の声真似きちゃ!
コメント:兄者テンション高め?
八重咲紅葉:スパチャを投げさせて下さい
コメント:八重咲www
コメント:貢ぎたくなってて草
コメント:やっぱ居たw
「これは、俺と愚妹の勝負だろ」
夜斗から話を聞いた時、エリカはどんな手段を使っても目的を達成しようとするような奴だと言われた。
実際、人のチャンネルになんの説明も告知もなく現れてまで俺に干渉して来ている。チャンネル主であるところの愚妹には許可を貰っているだろうがな。
そしてその目的は、何故かP.S内で恒例になった、ゲームで勝ったら願いを叶えるルールで、天Vへの参加を要求すること。
ここまでは聞くまでもないことだ。
「多分このままエリカの助力ありなら、俺は負けるだろうな」
「マジ〜!?リカ姉ぇつよ〜!」
「ただこれは愚妹とのゲームだし、ここに罰ゲームは設定してない」
「そうじゃのう」
「だから、再戦の流れにしたかったんだろ?」
「クキキ。本当に誰じゃ、この男をチョロいとか言っとったボケナスは」
「頭のメモリーカードがゲームで埋まってんだろうよ」
「容量が全然ないからのう」
コメント:心理戦?
コメント:何の話?
コメント:なんかライア〇ゲーム始まったぞw
コメント:兄者が呼び捨てなの新鮮
コメント:一体どこの自称魔王なんだ
「まぁ、最初から罰ゲームを設定しなかった理由は分からんがな」
「兄者殿が舐めてかかる可能性があったからのう」
「勝ちは勝ちだろ?」
「勝った後にゴネられたら儂も言い返せんじゃろ」
「一戦目は、愚妹のフリをして勝負してるってことか」
「そういうとこじゃな。元々、二戦目からふっかけるつもりじゃった」
「変なところで律儀だな」
「確実な方法を選んだだけじゃ」
「あ〜兄者が天V出るってやつね〜」
「いや出ねぇっての」
「何で〜?てか前出たじゃん〜」
「あれはエキシビションだろ。それに俺はVTuberじゃねぇ」
コメント:まだ言ってるよ
コメント:いやいやいやいや
コメント:もう無理やって
コメント:そろそろ認めなよ
コメント:P.S2.5期生だろ
コメント:出てくれていいんだぜ?
出ません。あと2.5期生じゃありません。
所属してないやつを何期生とか言うんじゃねぇ。
つーか、夜斗との配信もあるが、もう天V関連の話ってかなり広まってんだな。
話題性ってのは怖いもので、気が付いたら外堀が埋められているなんて事になりかねない。
人気で商売するなら、多少のリスクは背負ってでも欲しいのが話題だからな。
「てかこっからの配信どうすんだよ。まだリバーシ続けんのか?」
「え?やるよ〜リカ姉ぇもいるんだもん〜」
「巻き込むのかよ」
「巻き込んだのは儂の方かもしれんがの」
「愚妹も言ってみれば被害者か。練習はともかく準備はあったろうし」
「練習はのう、したんじゃよ」
「したって、リバーシの?」
「そうじゃよ。練習して、諦めたんじゃ……」
見えてはいないが、きっと遠い目をしている事だろう。
愚妹に物を教えるとか苦行以外の何でもねぇからな。
船の上でドミノするみてぇなもんだ。まだギャングを集めてダンスする方が現実的だ。
エリカが言うには、当初は愚妹を俺が倒せるくらいまで育てる予定だった。
どうやらロデオの上でトランプタワーを作ろうとしていたらしい。
で、正攻法じゃ無理と察して、今回のドッキリの形をした何かになったわけだ。
「少しはマシになったと思うんじゃがな」
「なら試してみるか」
「どういう意味じゃ?」
「愚妹がリスナーに勝つまでこの配信は終わりません」
「お〜いいね〜!やる〜!」
「……さて、儂はそろそろおいとましようかのう」
「人を巻き込んだってことは、巻き込まれる覚悟があるんだよな?」
「お主正気か!?平日じゃぞ!?お主は社会人じゃろ!」
「知らなかったか?社会人には有給休暇があるんだよ」
「そこまでして儂と共倒れする気なのか……」
「今回は痛み分けってことにしようぜ」
「ね〜なんで朝までかかると思ってんの〜?」
朝と言っても、二日目の朝だろ?
引き分け、なんて言い方が合っているかは分からんが、好き放題やったエリカへの対応としてはこんなものだろう。
彼女はああ言っていたが、俺は一戦目から本気で挑んでいるし、その上で試合には負けている。
だからまぁ、ゲームでは負けたが、それ以外の盤外戦では勝ったってことで、今回はドローだ。
ちなみにこの緊急耐久配信は、4時間が経過したところで、愚妹が何も考えずに置ける所へ置くランダムセレクト戦法で勝利し幕を閉じた。
リバーシを教えた側のエリカは、数多の感情を乗せたため息をついていた。
実は最近、仕事帰りにゲーセンに寄ることが増えた。
少し前に同期と遊んでいるところを、ゲーセン仲間がたまたま見ていたらしく、そこから久しぶりに連絡を取り合っている。
昔ほどガッツリはやれないが、アーケード特有の緊張感とやかましさはここでしか味わえない。
そういう人の集まりは人を呼ぶもので、おねじさんも今度顔を出すとか言っていた。
次会えたら倒そう。
一応、師匠みたいなもんだしな。
弟子は師匠を超えるもんだ。
そういや、形式上は俺の弟子ってことになった夜斗の練習配信が今日もある。
ちゃんと言いつけを守ってくれているといいが。
【オーバードール】ソロで負ける度にデカプリンを食う武者修行【サイサリス・夜斗・グランツ】




