#21世紀少女
代休というものをご存知だろうか。
休日出勤の対価として平日に休みが貰える、いわば労働日の物々交換である。少し前の馬車馬働きのお釣りに、俺もその交換券を渡された。
せっかくの休みだ。ぷよっとしたパズルの如く三つ並べてわくわくしたい。
しかし、俺の予定というのは大概予定通りにいかない。週のど真ん中に休んでいるのも、予定外の予定のせいだ。
その元凶は、P.S事務所にいるらしい。
「ぬおおお!ツバキ離せ!服が伸びる!」
「夜斗っち先輩〜諦めが悪いッスよ〜」
「あ、夜斗さん。兄者さん来ましたよ」
「兄者!待て!話せば分かる!」
「やーとーくーん。あーそびーましょー」
「怖ぇよ!てかなんでウ〇トラマンのお面被ってんだよ!超怖ぇよ!」
「ヒーローらしさ皆無ッスね」
「ダークヒーロー通り越してラスボスですし」
「夜斗、おままごとしようぜ。お風呂にする?ごはんにする?それとも俺?」
「溺死と毒殺と殴打を選ばされてる気がする!」
「このセリフってこんなに物騒でしたっけ?」
「ある意味心臓がバクバクするッスね」
事務所の一室には、甘鳥から逃げようとする夜斗と、それを傍観する八重咲がいた。インドア派のくせに元気な奴らだな。
わざわざ休みを取ってまで夜斗をシバきに来た。
いや、まだシバくとは決まっていない。まずは聞くべきことがある。
昨日愚妹が零した爆弾発言の詳細だ。
曰く、夜斗が俺を天下一V闘会に出そうとしている。
その蛮行について話させる必要がある。その為に甘鳥を使って夜斗を確保した。
「それはそうと、ど平日の昼間から兄者さんはどうしたんですか?」
「ほれ、聞かれてんぞ夜斗」
「いやあの、兄者さんに聞いたつもりなんですが」
「用件は分かってんだろ?」
「話すから!まずお面外せ!すげぇ不気味だから!」
「なんでこんな不審者全開の格好で事務所入れたんッスかね」
「兄者さんなら顔パスだと思いますよ」
「お面被ってるッスよ?」
どうやらこの件を八重咲と甘鳥は知らないようだ。逆になぜ愚妹は知っていたのか。
メンバーでも一部しか把握していない裏話の発端は、前回の天下一V闘会らしい。
あのかみ合いにかみ合ってしまった放送事故レベルのエキシビションマッチ。
俺は悪くないと思いたい。
天Vは有志の配信者達によって開催されている。当然、有志メンバーは実況解説や運営側に回ることが多い。
その一方で、プレイヤーとして試合に出るメンバーもいるらしい。大会を盛り上げるという役割分担としては理解できる。
「で?」
「あの兄者が出たエキシビションマッチの中にも有志メンバーがいたんだよ」
「それは流れで分かってる。どう転んだらそっから俺が天Vに出ることになるんだよ」
「……兄者の活躍ぶりを見て、大会に呼びたいって言い出した奴がいる」
「断る」
「そこは誰か聞く流れじゃねぇのか!?」
いや興味ないし。
そもそも出る気もない。誰がVTuber募集の張り紙握って会いに行くか。
もとより話題になった以上、運営側に存在を知られている事は覚悟していた。
当然、いや当然ではないが、こういう話が出るかもしれないという予想もあった。自意識過剰な妄想じゃなく、俺が運営側だったらそうするってだけだが。
いや、流石にしないか。
価値観がバグり散らかしているが、俺ってあくまで一VTuberの身内でしかないからな。
それを配信の、しかも大会に誘うのは普通にイカれてる。
頭P.Sライバーじゃないんだから。
「まー兄者さんなら即断即決で拒否しますよね」
「オレだってな!兄者が断るだろってのは分かってんだよ!」
「誘う理由があるって事ッスか?」
「相手が相手なんだ」
「兄者さんを大会に出そうとしてる人、誰なんです?」
「……蛇王エリカ、P.S0期生みてぇなもんだ」
0期生?
そんな奴がいたのか。
いや、俺が知らんだけでプリズムシフトにはボスや姉御以上の重鎮的な存在が──。
「ちょっと待って下さい」
「0期生ってなんッスか?」
──いなかった。
【オーバードール】コーチングコラボという名のただのガチ戦【サイサリス・夜斗・グランツ、春風桜、八重咲紅葉、兄者】
「お前ら悲報だ!作戦が全部兄者にバレた!」
「夜斗くんドンマイ〜」
「バレた理由が桜ちゃんだったって話でしたよね」
「愚妹に重要情報を渡すバカがまだいる事に驚いてるわ」
「ちゃんと口止めしたはずなんだがな!」
コメント:何やってんだよ夜斗
コメント:兄者天V参加の夢が……
コメント:よりによって姫に話すか
コメント:ポンコツ魔王め
コメント:それはお前が悪い
コメント:自慢してる姿が想像できる
コメント:だから貴様は阿呆なのだ
コメント:そんなんだから弱い方の魔王って呼ばれるんだぞ
「わ〜ボロクソ言われてる〜」
「何が面白いんだよ!てかサクラのせいだろ!」
「そろそろ決まったかな〜って思ったの〜」
「じっくりやるって言っただろ!徐々にその気にさせてくってよ!」
「遅い夜斗くんが悪い〜」
「これ、わたしは詳しく聞いてないんですけど、結局どういう話だったんですか?」
「俺を番組に呼ぶのは楽勝だと、夜斗が豪語したらしい」
俺が配信に混ざるようになってから割とすぐの頃、夜斗の暗躍で夜桜ゲームズに出る羽目になった。
あいつからすればかなり想定通りにことが進んでいたのだろう。
フィクサーってのは厨二病なら一度はやりたがるポジションだしな。
今回はその二回目に当たるが、愚妹の話だと、同じ手は通用しないだろうと、何故か自信満々に夜斗が語っていたという。
そんな訳で策略が得意じゃない黒幕が立てた作戦は、名を北風と太陽戦法。
分かりやすく言えば、俺をその気にさせるってことらしい。
舐めてんのかコイツ。
「俺としばらくこのゲームやって、頃合いを見て大会に誘うつもりだったんだと」
「誘っても普通に断ってそうな未来が見えるんですが」
「その未来視は当たってるぞ」
「わたしの魔眼はかなり先まで見えるみたいですね」
「その上剣術と無詠唱魔術まで使って来そうな勢いだな」
「なんの話だよ!あとな、普通に誘っても断られるが、兄者のテンションが高い時ならノる可能性はあるだろ!」
「ん〜?どうだろ〜?なんか〜出ねぇよ勝手にやってろ、とか言いそう〜」
「ですよね。まったく、兄者さんへの理解度が低いんですから」
「結構いい案のつもりだったんだぜ?」
「分かってないですね夜斗さん。兄者さんはちゃんと騙して呼ばないと」
「お前今すげぇこと言ったぞ。信用に重りつけて海峡に投げ捨ててんぞ」
コメント:無職から転生した?
コメント:兄者は騙して呼ぶもの
コメント:今更w
コメント:兄者なら絶対断るわ
コメント:姫の雑な兄者マネ地味に好き
コメント:八重咲ちゃんの信用が消失しました
開幕に悲報とか言っているあたり、夜斗はリスナーにも自分の作戦を話していたようだ。個人の配信とか見ねぇから知らんことだな。
もっとも、裏事情であるところの蛇王エリカの名前は公に出ていない。
あくまでも、夜斗が個人的に動いていたことになっている。
事務所で聞いた情報に関しては何も言うまい。少し気になる部分はあるが、今はいい。
配信も始まっていることだしゲームをしよう。
「つーわけで、夜斗が大会に出るための相方として八重咲を召喚した」
「兄者さん、期待してもらってるところ悪いですが、わたしこのゲームほぼ初心者ですよ?」
「紅葉は元ネタ経験ありじゃなかったか?」
「少しやりましたけど、挫折してます」
「わかる〜操作超ムズいよね〜これ〜」
「あ、そうじゃなくて、チーム組める──」
「よーしやるぞー夜斗と八重咲がペアなー」
「指名で組まされるペアってこんなに心が軽いんですね!」
「なんで避けたところに地雷が埋まってんだよこいつ」
コメント:地雷原で草
コメント:避けれるような埋め方してない
コメント:友達が……
コメント:スキの生じぬ二段構え
コメント:ボマーに気を付けろ
今回は練習ということで、完全固定の二対二に分かれる。
ある程度の経験値がある八重咲が後衛、前衛を夜斗がやる形で編成が決まった。
基本操作が分かる八重咲がゆっくりと自衛しつつ、夜斗が暴れてダメージを取る。
前に俺と夜斗でプレイしていた型ということもあり、それなりに機能しているように思える。
「八重咲、万能機使えるなら大丈夫だろ」
「射撃特化は慣れないので」
「てか桜が割と動けてんのはなんなんだ?」
「昔似たやつ〜ちょっとだけやった事あるんだよね〜」
「兄者さん……」
「本当にちょっとだからな。こいつも弾当たらんとか言ってやんなくなったし」
「兄者全部避けるんだもん〜」
「まさかのタイマンですか」
「兄者に弾当てんのとか普通に無理ゲーだろ!」
「今もほぼ無傷ですもんね!」
コメント:思ったより試合になってる
コメント:兄者硬ぇw
コメント:兄者とタイマンしてた姫が可哀想
コメント:こんなのとタイマンは心折れるわw
コメント:初心者が実質夜斗だけw
コメント:今回は兄者も万能機なのね
『オーバードール』には三種類のキャラタイプが存在する。
火力が高い代わりに射程の狭い格闘型。格闘コンボでのリターンが大きく、一気に試合を動かすのが特徴だな。
対して、広い射程で離れた位置からダメージが狙える射撃型。俺が前回使っていたスナイパーキャラ等が該当する。
それらの間をとったような性能で、格闘も射撃戦もこなせる万能型がある。バランス型故に扱いやすい分、専門職にはそれぞれの分野でやや劣る。
この三タイプに明確な相性は無く、戦う距離で優劣が決まる。
当たり前だが、射程外から撃たれ続ければ格闘型は仕事ができないし、接近戦になったら射撃型は最弱だ。
ちなみに、俺はクセで万能機とか言っているが、正式には万能型と表記されている。
一応、武装しているとはいえキャラは女の子だからね。
機械扱いは人権問題になりかねない。
……ドールって人権あんのか?
「万能機は如何に相手の得意距離に行かないかが大事だからな」
「ってさっきから近距離で捌かれてんだがな!」
「いや、これに関しては割とギリギリだぞ。そもそも近付かれてる時点でかなりキツい」
「夜斗さんって、最近始めたんですよね?」
「ん?ああ、マジでやったのは兄者とのやつが初だぜ」
「初心者の動きじゃないですよね」
「兄者が必死だもんね〜」
「それはお前も理由の一つだがな」
コメント:兄者に触れる時点で上手い
コメント:これ優勝狙える?
コメント:ゲームセンスやばい
コメント:なんでブースト管理できてんだ
コメント:姫守りながら戦ってる兄者すげぇ
センスがいいってのはこういうことを言うのだろう。
本来は何百と繰り返すことで覚える行動回数やリズムを、夜斗はほとんど掴んでいる。ことゲームにおいては間違いなく天才の部類だ。
その上でしんどいのは、愚妹が八重咲とタイマンになったら基本的に落とされる点。
できるだけ2on2を徹底して、孤立しないように立ち回る必要がある。
愚妹の位置と体力を見ながら、夜斗から逃げつつ、八重咲に弾を当てる。
やることが、やることが多い……。
「まぁ?コントローラーの扱いは慣れてるからな!ボタンとコンボが分かればイケるぜ」
「あ〜!それで思い出した〜!兄者〜このミサイル?ってどうやって撃つの〜?」
「そりゃホールドだが、まぁキーコンいじった方が楽だな」
「兄者やって〜」
「後でな。俺と同じ設定にすんぞ」
「あい〜」
「兄者さん、普通にコントローラーでやってるんですね」
「まぁ初期設定が楽だったからな」
「夜斗くん〜優勝できそう〜?」
「いや、正直かなり厳しいな」
「そうなのか」
「色んなゲームで負け越してるヤツがいんだよ」
「あ〜リカ姉ぇね〜」
「なに、特級過呪怨霊みてぇなやついんの」
コメント:リカ姉ぇ呼びやばいw
コメント:怖いもん知らず過ぎるw
コメント:蛇王様か
コメント:リカ様は確かにやばい
コメント:夜斗そんな負けてたっけ?
コメント:魔王より強い蛇王様
様付けで呼ばれてんのかよ。本当に何者だ。
しかし、夜斗が負け越す相手というのは少し気になる。
現状、このゲームでは俺がまだ優勢だろうが、それは歴の違いでしかない。
もし俺達が同じゲームを同じタイミングで始めたとして、夜斗以上に上手くできるかと言えば、無理と断言できてしまう。
夜斗が複数タイトルで勝てないなんてあるのか。
そんな雑念を抱いたせいか夜斗に格闘コンボを決められ、こちらの敗北となる。
ちゃんと最大火力のコンボしやがったな。
「わ〜!兄者が死んだ〜!」
「よっしゃあ!最大火力コンだけは調べてるぜ!」
「ロマン特化かよ」
「ここまで長いコンボだと、普通の試合じゃ中々出せないですよね」
「そうなの〜?」
「2on2だからな。長ぇコンボは敵の相方に邪魔させる」
「そっか〜」
「桜ちゃんがカットしてれば、兄者さん落ちなかったですね」
「え〜?これアタシ悪いの〜!?」
「まぁ遠かったし無理だろうな」
「だ、だよね〜」
「その時点で相手の術中って訳なんだが」
コメント:この人でなし!
コメント:自害せよランサー
コメント:夜斗うめぇじゃん
コメント:流石に近距離タイマンはこうなるか
コメント:ここまで耐えてた兄者がおかしい
愚妹のボタン設定を変更して再戦。
相も変わらず何も考えずに突っ込む愚妹と、戦略的に突っ込んでくる夜斗。
夜桜ゲームズのMC共は揃って前衛向きのようだ。
八重咲が思ったよりも後衛として仕事をしているからか、夜斗の攻撃のキレがいい。
相方を気にしながら戦うのはいくらゲームが上手くても難しいものだ。
それが一瞬のスキを狙い合う近距離なら尚更。
これ不利過ぎるな。
「兄者!そういやこれコーチングだ!なんかねぇか!?」
「いやそんな教えるほど上手くねぇんだわ」
「兄者なりでいいぜ?」
「んじゃあ──その格闘は当たんねぇよ。正面突破過ぎだな。んじゃ着地するわ。お前もうスタミナねぇだろ」
「めちゃくちゃ煽ってねぇか!?」
「──みたいな挑発に乗るとこういう被弾をするから気を付けろよ」
「ぬぅァ!コイツ腹立つな!」
「わかる〜性格悪いよね〜」
「やってることエグいですね……」
「夜斗がやれって言ったのに、なんで俺が引かれてんの」
「盤外戦術を教えてくれとは言ってねぇ!」
コメント:盤外戦術w
コメント:煽り性能高ぇ
コメント:コーチングとは
コメント:なんてモン教えてんだw
コメント:戦法が汚ぇw
コメント:勝てばよかろうなのだ
コメント:ほぼク〇タ族
コメント:煽り性能がク〇ピカ
だからなんでそんなボロクソに言われなきゃならんの。
濡れ衣よ?
もうビッショビショに濡れきった衣よ?
風邪ひいちゃうぜ。
実際問題、こいつらに教えられることがほぼない。
強いて言うなら戦略の話になるんだろうが、俺もそこは詳しくないしな。
作戦なし作戦ってことで当たって盛大に砕けて来いとか言っとくか?
「つーか、このゲームって新作だろ?これで大会とか成り立つのか?」
「他のチームもコーチングコラボしてるから大丈夫だぜ?」
「誰に教わってんだよ」
「そりゃこのゲームが上手いプレイヤーだろ」
「まぁそうだよな。で、お前らのコラボはいつやんだ?」
「今やってるだろ」
「こいつマジか」
「そういうコラボって〜自分達でやるの〜?」
「本来は大会運営がセッティングしてくれるらしいんですけど」
「オレが言っといたぜ!兄者がいるから問題ねぇってな!」
「だからお前はアホなのだ」
「師匠!ってそこまで言うなら声真似してくれてもいいんじゃないですかね!」
コメント:東〇不敗w
コメント:マスタ〇アジア
コメント:コーチングってタイトルにあるな!よし!
コメント:これがP.Sクオリティ
コメント:兄者の責任が増えたw
コメント:マジでコーチングコラボだったw
「そうか。もうお前らに教えることはない」
「おい待て!このまま帰るとか言わねぇよな!」
「あ、兄者〜?どこいくの〜?」
「……え?本当にどっか行きました!?」
「ちょっと火鼠の衣?買って来るって〜」
「なんだそれ?」
「いつの間にかぐや姫に求婚したんですか!」
コメント:マジで帰ったwww
自宅のソファに寝転がり、検索欄に名前を入れようとして、やめた。
昼に夜斗から聞いた話が頭から離れない。
P.S0期生。
もう不穏過ぎて嫌だ。いっそ忘れてしまいたい。
「兄者〜!」
「ん?」
「リカ姉ぇから返事来たって〜!」
「なんて?」
「その挑発、受けてやろうかのう、だって〜」
「いや、待て、何の話だよ」
「夜斗くんがリカ姉ぇに言ったらしいよ〜」
「何を」
「兄者はゲームで倒したら何でも言う事聞くって〜」
オデ、夜斗、コロス。




