#企業戦士アニジャム
ノベル4巻&コミック1巻発売中
「きぃやあああああああああああああああああああああああああああ!」
平和なはずの平日早朝。
近所も近所な俺が一番に迷惑を覚える絶叫が鳴り響いた。
「朝からうるせぇよ、どんな目覚ましコールだ」
「かっ……くっかっ……」
ノックもせず愚妹の部屋に入り、絶句した。
そこには、ベッドの上で両手両足を空へと伸ばし、額にスマホを乗せたまま悶絶している変人がいた。
「いや、何その体勢。新手のヨガ?」
「たす……けて……うご、けない……」
「え、金縛り?俺幽霊とかダメなんだけど」
「嘘つけ〜!ってがっ!?」
「あー、お前もしかして限りなくつりかけ?」
「そう〜!少しでも動いたらつるの〜!」
つるって現象は、運動や睡眠によって起きた水分不足が原因、って話を学生時代に聞いた気がする。
徹夜でアドフィットした後に室内ボウリングを片付けまでやり切ったのがつい昨日。普段そこまで運動をしてないやつが二食分もスキップして寝たらそりゃそうなるか。
更に言うなら、こいつは現在進行形で筋肉痛のはずだ。つりかけ、という回避できなくはない状態なのに動けないのはそのせいだろう。
おかげで、類まれなる滑稽なポーズを晒している。
「ふむ」
「……兄者?なんでスマホで撮ってんの?」
「いや別に。てかなんでお前はスマホを頭に乗せてんの?」
「スマホ落としたの〜!なんか開いたら怖い画像出て来た〜!」
「へー。んじゃ、会社行ってくらぁー」
「兄者〜!見捨てるな〜!」
見捨てるもなにも、全部自業自得だろ。
スマホの壁紙変えたのは俺だけども。
【オーバードール】操作が分かりゃ後はノリでイケるだろ!【サイサリス・夜斗・グランツ、兄者】
コメント:最強コンビw
コメント:魔王タッグ熱い
コメント:夜斗&兄者きちゃ
コメント:これは絶対強いw
コメント:武装さえ分かればあとは何とかなるってなぁ!
コメント:アリー・夜斗・サーシェスw
「オレは完全に初心者だがまぁ?兄者もいるし勝てるだろ!」
「俺だって別にこのゲームに詳しい訳じゃねぇんだが」
「めちゃくちゃ動けてたじゃねぇかよ!」
「あれはまぁ、本家のセーブデータがあるだけというか」
「本家とか言うな!こっちのゲームも本家だわ!」
コメント:本家は草
コメント:似すぎてるのはある
コメント:ほぼエクバw
コメント:なぜメカ美少女なのか
新作配信ゲーム『オーバードール』は、メカで武装された少女達【ドールズ】を操作して戦う 2on2のハイスピード3Dアクションゲームだ。
その最たる特徴はまさしく、2on2のチーム戦というところだろう。
各キャラ体力とは別に、チームでのコストゲージが存在する。キャラが倒されるごとにチームコストが消費され、コストゲージが0になった方が負けになる。
キャラによって消費されるコストが違い、このコストが大きいほどキャラ性能も高い。強キャラは倒された時のリスクが上がる訳だ。
そして、この特徴は某機動戦士のエクストリームなバーサスゲームが既に生み出している。つまるところ、酷似したゲームが既にある。
本家との相違点も多々あるが、根本的な戦術は変わらない。その辺がセーブデータというわけだ。
「まぁ似てるゲームだから同じセオリーが通じるってだけだな」
「そういう意味か。とりあえずチーム戦だしキャラ決めようぜ!」
「夜斗、お前は高コスト乗れ」
「理由があんのか?」
「高コストは性能もいいし、基本的に前衛だから押し引きが分かりやすい」
「初心者にオススメって訳だな!」
「勝てるかは別問題だけどな」
コメント:夜斗はゴリゴリの格闘キャラか
コメント:兄者が狙撃機なの解釈一致
コメント:低コストって立ち回りムズいよな
コメント:高コスト責任重くて苦手
コメント:兄者の後衛キャラは体力減らなそう
「戦術的な指示は任せるぜ!」
「コスト調整はしてやるよ。暴れて来い」
「マッチングしたな!」
「相手も似たような編成だな。取り敢えず相手の低コストを潰して来い」
「おっけぇ突っ込むぜ!」
コメント:夜斗の動きハチャメチャで草
コメント:全然攻撃当たってねぇw
コメント:夜斗意外と冷静だな
コメント:兄者弾かわしすぎじゃね?
コメント:相手上手い
コメント:夜斗本当に初心者か?
コメント:自称魔王さんボコボコじゃんw
「くっそ!全然触れねぇ!」
コメントをチラ見したが、夜斗への評価に大きく差がある。
経験者とそれ以外では見え方がかなり違う。その要因は、かなり特殊なゲーム性からだろう。
そもそも、このゲームの攻撃は自動追従で、ロックオンした相手に勝手に向かっていくため、所謂エイムのような要素がない。そして他の格ゲーのような複雑なコマンドがないため、直感的に動かすだけならかなり簡単なのだ。
「まぁ相手はちゃんと経験者だろうからな。そう簡単に弾は当たんねぇわ」
「ロックオンしてんのにか?」
「誘導して弾が飛んでくシステムだからな。躱そうと思えば躱せる設計になってんだよ」
「だとしたら、これどうやって攻撃当てんだ?」
「相手が動けないタイミングを狙うのが基本だな」
コメント:ブースト切れ狙い
コメント:スタミナ切れのタイミングだな
コメント:微妙にさっきからできてる夜斗がこわい
コメント:その辺がムズいのに
ここからが特殊な要素だ。
操作キャラクターにはスタミナという概念がある。このスタミナがある間しか行動が取れず、これがゼロになると動けなくなり大きな隙を晒す。着地をする事でスタミナは即回復するが、ここにも一瞬の硬直がある。
この硬直やスタミナ切れを狙って攻撃をし、逆に自分はスタミナが切れないように着地を挟む。つまるところ、スタミナとタイミングの取り合いが肝なのだ。
そして、それが難しい。
改めて夜斗のゲームセンスの高さには驚かされるな。
このゲームはただ攻撃していれば当たる訳ではなく、むしろ動き過ぎるとスタミナが切れてしまう。初心者ほど行動が多くなってスタミナ切れを起こしやすいのだが、夜斗はその辺の管理がある程度できている。
本当にさっきチュートリアルが終わったプレイヤーか?
「くっそ、めちゃくちゃ迎撃されるわ!」
「いや、むしろ読み合いになってる時点ですげぇよ」
「褒めてんのかそれ?」
「褒めてる。読み合いってのはある程度実力が拮抗しないと起きないもんだろ」
「そうか?ゲームしてたら普通に読み合いはするもんだと思うが」
「スナイパーの距離感でナイフ振り回してる相手とか読み合いしねぇじゃん」
「ゲームすらなってねぇだろそれ!」
「ちなみにそんな感じの奇行を大会でやった奴がいるらしいな」
「……オレのチームにいたな、超遠距離なのに手榴弾で遊んでるチームメイトが」
「ご愁傷さま」
「お前の妹の事だがなぁ!」
コメント:姫ぇ……
コメント:ゲームにすらなってない愚妹さん
コメント:あの試合勝ってなかったか?
コメント:ひでぇチームメイトがいたもんだw
コメント:あれで勝ってんのなんで?
「あれ?なんか勝ったか?」
「ナイス前衛」
「オレほとんどボコられて終わった気がすんだが?」
「お前が動かした相手を狙撃してたからな。ダメージレースは結構有利だった」
「なんか、その戦術に心当たりがあんだが」
「セオリーだ」
「兄者が天Vで暴れ回った戦法だろ!」
「なんで覚えてんだよ」
「ついさっき地獄みてぇな記憶を引きずり出されたからな!」
コメント:前の天下一V闘会か
コメント:あれは忘れられんw
コメント:兄者に大会出て欲しい
コメント:あれがセオリー?
コメント:兄者無双だったやつ
コメント:バケモン戦歴
ははーそんな事もあったなー。
それなりに前の話なのに、リスナーはよく覚えてんな。いや、むしろリスナーこそ詳しいかもしれん。俺の事を俺があまり覚えてない。
天下一V闘会という大会は公式のものではなく、何人かのVTuberやストリーマーが運営している有志のもので、やるゲームも固定ではないらしい。俺が関わる前にはマ〇カ杯や麻雀戦なんかもあったとか。
スケジューリングや呼び込み等の苦労が耐えないはずのイベントをよくやるもんだ。スポンサーとかもついてるんだっけか。にしてもよくやる。
一方こっちの対戦はというと、よく分からんが五連勝してる。
なぜ?夜斗も上手いとはいえまだまだ初心者だ。俺もキャラ対策は全然なのにな。
「マジで勝てるじゃねぇか!オレ最強か!」
「ダメージのほとんどが俺だけどな」
「そこはチームプレーだな!」
「まぁ確かに、夜斗がかなり相手からロックオンされてるからな。おかげで俺がフリーだ」
「才能ありってか?」
「的の才能があるな」
「もっと言い方ねぇか!?」
「囮の才能」
「嬉しくねぇ!」
「ちなみに愚妹と同じタイプの才能だ」
「悪口のつもりで言ってんだろ!」
「褒めてる褒めてる」
「半笑いじゃねぇか!」
コメント:矢受けの加護
コメント:歩くサンドバッグ
コメント:自走式の的
コメント:夜ッ斗・シールド・ガードナー
コメント:あれだけバカにした姫と同じか
コメント:なんで勝ってんだよw
コメント:夜斗普通にうまいけどな
コメント:天Vで見た展開
まぁ夜斗が上手いのは否定しない。
しかし、流石に限界はある。
徐々にだが、マッチングする相手も強い奴らが増えてきた。このゲームは新作だが、類似作品の経験者は、強くてニューゲーム状態で始められる。
残念ながらサ〇ド7の住人には、そう簡単に勝たせては貰えない。
すごいぞ、夜斗の五倍以上のエネルギーゲインがある。
夜斗がそんなに安い人間ですか。
まぁ、はい?
「全然勝てなくなってきやがった。相手強すぎるわ!」
「まぁ初回にしては勝てたと思うぞ。もっとボロ負けの予定だったし」
「兄者と組んでてここまで負けるとは思ってなかったぜ」
このゲームは他の格ゲーと違って操作の互換性がほぼないからな。夜斗でも慣れるのには時間がかかるだろう。
それにセーブデータとはいったが、それはあくまで戦術の話だ。
キャラ性能や細かい仕様にはまだまだ理解が追い付いていない。ポジティブに言えば、伸び代ですねぇ。
「言っちゃあれだが、俺もチーム組んだ経験はほぼ無かったからな」
「そうなのか?」
「アーケードの家庭版が出てから始めてたからな、一緒にやる奴がいなかった」
「紅葉みてぇなオチを出すなよツッコミずれぇわ」
コメント:兄者ェ……
コメント:それは八重咲の芸風w
コメント:兄者もぼっちだったか
コメント:俺の引退理由だ
コメント:これ私だ
コメント:ほら今ほどオンライン普及してなかったし
「まぁ?これからしばらく兄者と組んでやってく予定だ!」
「マジでやんの?他にいなかった?」
「経験者が兄者しかいねぇんだよ!」
「俺もこのゲームやんのは初だぞ」
「元ネタの方は経験者だろ!」
「元ネタって言っちゃったよ」
「兄者〜……」
「ん?」
「謝るから、スマホ開いて〜……」
「何を謝んの?」
「兄者に配信丸投げしてごめんなさい。あとパイセンにも迷惑かけました」
「まぁ、反省してんならいいが。ほれ」
「兄者ありがと〜!」
愚妹からスマホを受け取り、ロック解除のパスを入れる。
ロック画面をピエロにしただけなんだけどな。解除しようとして、無理だった跡が窺える。
果たして次ミスってたら何時間後の再戦権だったのだろうか。
ホーム画面が表示されたところで、愚妹へ返そうと手を伸ばした。
「そういえば兄者〜」
「ん?」
「兄者が天V出るってマジ〜?」
「………………は?」
動揺のあまり、スマホの電源ボタンを押していた。




