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#ゴールデンサクラ

久しいね

「お前ー!女できたってマジかー!?」

「俺が妊婦に見えるのか?」

「そういう意味じゃねーわー!」


 倉元、うるさい。

 まだ始業前だぞ。

 朝から元気なやつだ。

 同じ会社で同じ期間働いているのに何故ここまでテンションに差ができるのか。

 もしかして労働をエネルギーに変換するタイプの変人か?

 推し事して生きてるからある意味合ってるな。


「後輩ちゃんがさー、女の人と二人で居酒屋入ったのを見たって言ってたんだよなー」

「へぇ、後輩ちゃんと仲良いんだな。付き合ってんの?」

「社内恋愛はしない派ーってか、お前の話だってのー」

「見間違いなんじゃねぇの?」

「お?隠すってことはーマジなんだなー?」

「鬱陶しいなお前」


 結構面倒なことになってんな。

 見られたのはこの前の姉御との飲みだろう。

 別に深い意味もないんだが、こいつ相手ってのが特に面倒。

 下手に誤魔化すと本人に迷惑かけるし、どうするよ。


「まさか全くと言っていいほど浮いた話のなかったお前がなー良かったなっ!」

「そのドヤ顔サムズアップ死ぬほど腹立つわ」

「で、何処で知り合ったんだー?会社の人じゃ無さそうだったって聞いたぞー?」

「だるいウザい近い。お前こそさっさと作れよ。その気になりゃできるだろお前」

「オタ活で浮気しまくってる奴と付き合ってくれる女子なんているわけないだろ」

「たまにテンションを富士急すんのやめい」


 オタクに優しいギャルは悲しいことに存在しない。

 だから勘違いして北海道とか行こうとすんなよ。

 重度のオタクは道産子にも手に負えん。

 のらりくらりと雑談で繋ぎ、始業まで乗り切った。

 なんか紹介して欲しいだの言われた気もするが、やめとけよ。

 下手したらブチ切れの姉御に殺されるぞ。

 俺が。












「ゲーセン行くの久々だわー!学生以来かもしんねー!」

「あぁそうかよ」


 本日一日、バカみたいにしつこく例の件を聞かれ、仕方なく仕事帰りのゲーセンに行くことになった。

 飲みじゃないのは車通勤を考えてのことだろう。

 だる絡みするくせに気は遣えるんだよなこいつ。


「ゲーセンとか行く方だったかー?」

「学生時代はそれなりにな」

「へー、何やってた?」

「クレーンゲームとかだな。景品とりすぎて処理に困ってる」

「それ今でも行ってんじゃんかー。で、本当は?」

「ウソは言ってねぇが」

「でも全部は言ってないだろー」


 社会人になってからの付き合いとはいえ、多分一番仲のいい同期だ。

 それに元から人をよく見てるタイプなんだよな。

 おかげで見透かされた。

 読み負けたみたいで嫌だな。


「格ゲーとか音ゲーも触ったことはある」

「おー、マジ?俺も昔やってたやつあるし、ちょっと対戦しよーぜ!」

「お前、そこそこやってただろ」

「わかる?」

「アケコンに慣れてるか確認するのは一種のマナーだろ」

「お前もかなりやってた口だなー!」


 一対一のアクションゲームは実力差がモロに出る。

 未経験のゲームではそもそも試合にすらならない。

 さらにアーケードゲームはその特殊な操作方法から、家庭用ゲームとの互換性がかなり低い。

 故に、アケコンに馴染みのない相手をいきなり対戦へ誘うのはほぼ暴力宣言だ。

 最近特に感じる敷居の高さはそれもあるだろうな。

 全くのゼロからゲームを始めて、勝てない期間が長いのはあまりにも新規に優しくない。

 頑張れ、業界とプロゲーマー達。


「昔はゲーム会社希望するくらいゲーマーだったからなー!ハンデいるかー?」

「んじゃ親指禁止で」

「めっちゃキツいの指定するじゃん!」

「取り敢えず一戦やってから考えるわ」

「おうー、流石にスティック操作できなかったわ……」

「そりゃそうだ」


 俺がやってこなかったシリーズの筐体に座る。

 倉元が得意なのもそうだが、こいつは俺の出ている配信を見てるからな。

 まさか無いとは思うが、身バレのリスクは極力避けたい。

 軽くボタン配置と技を把握して対戦を始める。

 経験値の差から劣勢だが、どうにかガードを通して食らいついていく。


「うはー!なにそれ知らねー!」

「俺は何もかも知らねぇよ」

「今作は俺も未知だわー!見た事ねー技出るー!」

「長編シリーズあるあるだな」


 倉元は実力差を察してか、色々なコマンドを試している。

 既存のコンボだけで安定して勝てるだろうに、気を遣ってくれる。

 俺もできるだけ善戦したいが、まだこのゲームのテンポに慣れない。

 ストレートで2ストック取られて負けた。


「本当に初めてかよー!ガード上手すぎじゃねー?」

「それしかできてねぇよ。技が当たらん」

「距離感ムズいよなー!逆に意味分からねー判定あったりするしよー」

「エフェクトは全部当たるって思った方がいいのか」

「かもなー。よし、もう一戦やろー!」

「次は一スト取るぞ」

「やってみろー!」


 それから一時間ほど対戦を繰り返した。

 ゲームの話以外は取り上げる価値もない雑談ばかりだったが、まぁ悪くない時間だった。

 後半は慣れもあって一ストック取れる試合もあったが総合で負け越した。

 結局、解散間際になっても、朝の話を掘り返すことはしなかった。


「てっきり、あの話の続きかと思ったけどな」

「あー、聞かれたく無さそーだったしなー」

「なら朝の時点で諦めてくれよ」

「ゴリ押したら行けるかなーって」

「じゃあ何で誘ったんだよ」

「いやー、ほらー、この前後輩くんが会社辞めたじゃん?」

「あー、部署変わったあいつな」

「そーそー。結構仲良かったから、ちょっと寂しくてさー」

「だから彼女作れっての」

「それとはまた違うだろー」


 まぁ、友人と恋人は色々と違うわな。

 今に始まった事では無いが、転職や退職の話は少なくない。

 ホワイト企業でも、人や職種の合う合わないはどうしても起こるからな。

 あと優秀な人ほど独立して居なくなるというのもある。

 仕事を変えるのは悪いことではないから、新しい門出を応援はしたい。

 でも引き継ぎはちゃんとしてくれ。

 残されたのがゲーム機のセーブデータとカセットテープだけとかやめろよ。

 探し出してありったけのグーで殴りたくなる。


「あと、最近付き合い悪かったしーたまには遊びたかったんだよー」

「そりゃ悪かったな。暇な時は付き合う」

「言ったなー?あ、あと彼女できたら報告な」

「それ、お前の方が先にできるやつだろ」

「じゃあ勝負なー!先に彼女できた方がー焼肉奢る!」

「普通、逆じゃね?」

























【緊急】オムライスになります【春風桜、兄者】


「やばい〜!ね〜今緊急で配信してるんだけどさ〜!」

「それ言いたかっただけだろ」

「アタシ〜オムライスになるんだって〜!」

「えー、ご唱和ください。……は?」


 コメント:は?

 コメント:は?

 コメント:は?

 コメント:は?

 コメント:はぁ?

 コメント:はあああ?

 コメント:は?


「コメント操作すんな〜!」

「しなくてもこうなるわ。タイトルすら適当だし」

「しょ〜がないじゃん!マジで緊急だったんだもん〜!」

「の、割にわざわざ呼び付けたよな」

「はい〜兄者説明して〜」

「てめぇオムライスにしてやろうか」


 コメント:普段通り

 コメント:オムライスになる←決定事項

 コメント:スクランブルエッグでは?

 コメント:姫……引退か

 コメント:転職かな?

 コメント:オッムオムにしてあげる?


 説明と言われても、俺もさっきボスに聞かされたから詳しくは知らん。

 ただ事実を並べるだけでもかなりぶっ飛んでいる。

 遡ること約一ヶ月前。

 ファミリーレストラン『ゴスト』がテイクアウト用の新商品を売り出した。

 その宣伝のためにインフルエンサーを探していたところ、広報担当がたまたま愚妹の料理配信を見つけたという。

 食に対する冒涜としか思えない映像を見て、何故かその担当はすぐさまP.S本社へ連絡。

 そのまま案件の受諾が決まったのだが、愚妹の豪運はここで終わらない。

 ボスの交渉も後押しとなり、春風桜のコラボ商品が期間限定メニューとして制作が決定した。


「と、まぁ、ざっくり話すとこんな感じなんだが……」

「ごくろ〜」

「いや、説明しといてなんだが、何だこれ」

「ね〜ビックリだよね〜」

「だよねーじゃねぇわ。びっくりじゃ済まねぇよ」


 コメント:は?

 コメント:説明されてもわからんw

 コメント:アレ見て広告に……?

 コメント:宣伝効果無いのでは

 コメント:姫、降りろ

 コメント:むしろ兄者が出よう


「出ねぇよアホか」

「さっきサンプルの画像もらったんだけどさ〜ヤバかった〜」

「完成度がおかしいよなあれ。どう考えても一ヶ月そこそこで作れるもんじゃねぇぞ」


 内容はオムライスに春風桜のイラストが刻印されているだけだ。

 だけ、なんだが、だけで済む内容じゃない。

 商品を作る過程で、イラストを刻印する道具を用意しているという事になる。

 それも複数店舗における量を、だ。

 どんなツテと運営能力があったらこの短期間で揃えられるんだよ。

 怖ぇよP.Sのお(かしら)


「めっちゃ上手かったよね〜アレ誰かが描いてるってこと〜?」

「まぁ最初に描いたやつはいるだろうな」

「すごいね〜店員さん〜そういうのもできるんだ〜」

「描いたのはお前のママさんだろうけどな」

「え、ママってゴストで働いてたの〜?」

「バイト経験くらいはあるんじゃね。知らんけど」


 コメント:描いた?

 コメント:気になりすぎる!

 コメント:私、気になります!

 コメント:早く公式出てくれ

 コメント:まさかのイラスト配布!?

 コメント:これ話していい内容か?


 許可に関してはボスが直々に出しているので問題ない。

 本来は、情報統制の後に正式な形で動画化するもんだとは思う。

 それを個人配信で先に言ってしまうというのは、かなり変則ムーブだろうな。

 許可が出ているということは、今回のプロモーションもどこかのソシャゲ案件並に頭がおかしい。

 それは愚妹の調理を見て案件出してる時点で察するべきか。


「詳しくは公式発表を待て」

「きっかけがアタシの料理配信なんだって〜」

「あれは料理配信じゃねぇ」

「え、じゃあ何〜?」

「珍獣の観察」

「料理したんだけど〜!?兄者だって食べたじゃん〜!」

「食えたことが奇跡だ。お前、運いいな」

「運で作ったみたいに言うな〜」

「そうだな。お前は運で生きてるんだもんな」

「そんなやついるか〜」


 コメント:珍獣www

 コメント:言い得て妙

 コメント:一応食べ物だったし……

 コメント:鏡見て

 コメント:目の前にいる

 コメント:もはや運が生きてる


「料理ヘタなのはさ〜兄者がさせてくれないからじゃん〜」

「ほう?俺が悪いと?」

「キッチン入るなとか言うからじゃん〜!」

「一応言っておくが、たこパの片付け放ったらかしたの許してねぇからな」

「たこパ……?」

「八重咲と甘鳥に食わせたことあっただろ」

「あ〜アレ超前じゃん〜!細か〜めんどくさ〜」

「空き巣にでもあったのかってレベルの散らかり様だったんだが?」

「兄者さ〜昔のことでグチグチ言うのは性格悪いよ〜」

「お前は昔のことをすぐ忘れるだけだろ」

「は〜?覚えてるし〜すぐ思い出せるし〜」

「三日前の朝飯は?」

「…………パン?」

「いや、カツ丼」

「うそ〜!?」

「うん嘘」

「こっの……」


 コメント:たこパ……うっ頭が……

 コメント:なぜ散らかるのか

 コメント:それ本当にたこ入ってた?

 コメント:闇焼きパーティーかな

 コメント:喧嘩コントすこ

 コメント:こいつら仲良いな

 コメント:春風家の日常助かる


 違反時はホラゲー配信ってことにして、片付けの契約書でも作ろうか。

 まだやってないタイトルが既に二つあるしな。

 愚妹の豪運は今更だが、なんかここ最近で出力が増してる気がする。

 今回の案件もだいぶ奇跡が重なってそうだしな。

 個性伸ばしみたいに使えば使うほど伸びるとか言わねぇよな。

 こいつはヒーローにでもなる気か。


「言っていい範囲の説明だと、テイクアウト用の商品が出るらしいな」

「だね〜それもオムライスなんだっけ〜?」

「結構種類あるらしいぞ。詳しくは知らんが」

「兄者〜全然知らないことばっかじゃ〜ん」

「俺が貰った案件じゃねぇし、お前も大して変わんねぇだろ」

「アタシは知ってるよ〜。ハンバーグと〜ドリアと〜あ、オムライスもある〜」

「公式サイトのページ閉じろ。それを知ってるとは言わん」

「今知ったから知ってるんです〜」

「ゴストさん。今からでも考え直しましょう。まだ間に合います」

「真面目トーンで言うのやめろ〜!」


 コメント:案件を断る配信w

 コメント:兄者マネージャーで草

 コメント:さすがP.Sの裏ボス

 コメント:責任者の仕事

 コメント:もう兄者が運営しろよ

 コメント:P.S名誉社長


 不名誉極まりない称号を寄越すな。

 そういうコメントのせいで要らない二つ名が山ほど付いてんだよ。

 あだ名まとめみたいな動画出てたし。

 地獄への道をチャット感覚で舗装すんじゃねぇ。

 商品内容で思ったが、もしかして愚妹の料理がヤバすぎたから依頼が来たのではないだろうか。

 家でも簡単に食べれるということを売り出すために。

 ……だとしても愚妹を選ぶかよ。

 まだ甘鳥の方が良かったんじゃねぇか?

 インスタント系めっちゃくちゃ食ってそうだし。

 やっぱP.Sに案件を出す会社は気が狂ってるな。






















 配信からしばらく経ち、コラボ商品が発売された日。

 Twitterでは頂きましたのツイートが多く見られた。

 その中で、一際話題を呼んだ付き人の投稿はたった一言だった。


『皮だけ持ち帰りたい』


 お前は不死身の杉本かよ。









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― 新着の感想 ―
[気になる点] ふと思ったことなのですが、登場しているキャラクター達は普段からVTuberとしての名前で呼び合っていますが、本名が出ることはあるのでしょうか?
[一言] おかわり(次話)楽しみに待っとります
[一言] 機密保持契約があるから伝えられんって仄めかせばええんやね
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