#葬送のアニーレン
「なぁ」
「なんや!」
「やけ酒するとは聞いてたけどよ、程々にしろよ」
「ムリや!今日は止まれんわ!」
個室の居酒屋にて、姉御が一心不乱に飲んでいる。
まさか愚痴に付き合わされるとはな。
まぁ、気持ちは分かる。
本日正午、入籍の報告が知り合いから送られて来た。
おねじさんが法的に家庭を持ったのだ。
それ自体は予定通りのイベントでしかない。
予想外だったのは、一緒に送られて来た写真の内容だ。
「まさか、油取り神さんが相手とはな」
「あんな変人の何がええねん!」
「変人度合いで言ったらおねじさんも負けてねぇけどな」
「えらいダンディなおじ様やったやろ!」
「いや、男装してるだけでデフォルトは性別不詳のゴリラだ」
「男やのに男装ってなんやねん!」
俺が知りてぇよ。
割と知り合ってから長い俺でも持て余すような設定だぞ。
そう思うと、理解を示せる相手は自ずと変人になる訳か。
お似合いのカップル、ではなく夫婦だな。
「あの人、P.Sで慣れてるであろう姉御が変人って言う程なんだな」
「むしろあの人に慣れさせられた気ぃするわ」
「大学の先輩だっけか」
「せや。よう振り回されたわ」
「面倒見の鬼だしな。つか、そんなに酷かったのか?」
「自分勝手で、気分屋で、能天気で、ズボラな人やったわ」
「該当する身内がいるんだが」
「やけど、天才やったわ」
「天才、か。素人には分からんが、そんなに凄い人なのか?」
「あの人の油彩画はとんでもないで?ま、しばらく、筆を握ったとこも見てないんやけど」
「辞めたのか?」
「めんどくさい言うてたわ。あのズボラ先輩」
言い終わると、姉御は一気にジョッキを空にした。
デジタルを覚えると、アナログ方式が手間に感じるのは分かる。
もとよりめんどくさがりな人なら尚更か。
姉御が言うには、あの人は頭の中にある絵を現実にできるなら何でも良かったらしい。
それに一番適していたのが油彩画というだけのこと、だと。
しばらくの間、おめでた絵師さんへの文句が続いた。
けれど、酒を片手に語る彼女の表情は、柔らかく見えた。
素直じゃねぇなこいつ。
【ア○ネーターチャレンジ】今日こそ勝つ【春風桜、八重咲紅葉、甘鳥椿、兄者】
「兄者〜まずア○ネーターって知ってる〜?」
「知ってる知ってる。未来から来たシュワちゃんだろ?」
「「それはタ○ミネーターッス!」」
「ダサ〜!」
「真に受けんな。ドヤ顔質問責め魔人だろ」
「ん〜ま〜それでいいや〜」
コメント:( -`ω-)bアイルビーバック
コメント:台本か?w
コメント:これで勝つとは?
コメント:舐められてるぞ兄者w
コメント:誰だよその不審者www
要は人当てクイズだろ?
ただし解くのは相手。自分はお題を考えるだけでいい。
あとは質問に『はい』か『いいえ』で答えるだけ。
中には『わからない』、『部分的にそう』も入ってくる。
どうでもいいが、これ勝負になんのか?
「ルールはね〜質問20回までに正解すること〜」
「それぞれで出し合うってことか」
「そ〜ゆ〜こと〜。一番質問が少なかった人の勝ちね〜」
「ちなみにジャンルを、人物か動物か食べ物に絞って貰います」
「まぁ無駄に同じ質問してもつまらねぇしな」
「メタいッスよ!」
「順番はそれぞれ右隣に当ててもらいましょう」
「答える人はコメント見るの禁止だからね〜」
「ちなみに、20回で答えられなかった場合、出題者にポイントが入ります」
「ムズい問題を出した方が得ってことか」
「そういうことです!」
コメント:兄者以外はルール知ってる定期
コメント:兄者への説明タイム
コメント:事前準備なしがデフォw
コメント:いつものデバフ
画面上では左から、八重咲、甘鳥、愚妹、俺となっている。
俺が答えるのは後半だとして、愚妹の後ろか。
不安しかねぇ。
最初は八重咲の出題で、甘鳥が当てる。
テーマは人物、答えは『兄者』。
「では、この人は誰でしょう?」
「最初から攻めるッスよ!VTuberですか?」
「部分的にそう」
「……おい」
「あ〜……あ〜あ〜」
「だっははは!これもう勝ったじゃないッスか!」
コメント:部分的にそうwww
コメント:一択で草
コメント:世界に一人しかいねぇわw
コメント:一撃必殺
コメント:初手で勝ちやん
「答えます?」
「いや〜もうちょっと絞りたいッスね〜!」
「なんだこの茶番」
「その人はドSですか?」
「はい」
「魔王に関係しますか?」
「はい」
「よくDVしますか?」
「はい」
「待ておい、応答に主観入り過ぎだろ」
「ウソついてなくない〜?」
「答えは、兄者先輩ッスねぇ!」
「正解です!」
コメント:合ってる
コメント:はいドSです
コメント:DVドS魔王です
コメント:事実では?
コメント:圧倒的事実の列挙
コメント:不正はなかった
異議しかねぇよ。
一問目から既に答えがおかしいじゃねぇか。
後半は勝ち確大喜利になってるし、何これ出来レース?
これでポイント換算だと16点なのバグだろ。
「文句は山ほどあるが、確認するけど八百長はないよな?」
「ないです!それだけはマジです!」
「それ以外の何かが故意なのは認めたな」
「あれはツバキのスーパープレイが出ちゃったッスわ」
「これは勝ったね〜。兄者どうする〜?」
「どうするも何もねぇよ。もう3セットくらいねぇと無理だわ」
コメント:つばきちがやらかした
コメント:兄者のこと好きすぎだろ
コメント:裏を感じる
コメント:まさかそういう?
コメント:イカサマか?
疑う気持ちはわかる。
事前準備で口裏を合わせている可能性は十分にある。
だが、それならそれでドッキリ大成功とか言ってくるはずだ。
ネタばらしが来ない以上、俺は真面目に勝ちを取りにいくべきだろう。
次の出題者は甘鳥。
テーマは食べ物で、『アップルパイ』か。
理由は知らんが、ピンポイントで当てるのは難しいだろう。
「はい!これは何でしょう!」
「つばきちは〜これ最近食べた〜?」
「はい!食べたッス」
「じゃあ〜アップルパイ!」
「「「は?」」」
コメント:おいおいおい
コメント:これはやってるw
コメント:ドッキリだろ?
コメント:いやいやマジ?
うん、そりゃもう、ドッキリだと思いたい。
思いたいんだが、あまりにも二人のリアクションがマジ過ぎる。
え、本当に一発で当てたん?
お前何してんの?
「当たった〜?」
「当たりッス……」
「やった〜!アタシ強〜!」
「お前ら、そういうのは良くないと思うぞ」
「兄者さん!誤解しないで欲しいんですが、コレ、本当に仕込んでないです!」
「あの、シンプルに怖いんッスけど……桜先輩?なんで分かったんッスか?」
「売店の新作だったから食べたのかな〜って思った〜」
「兄者先輩!この人何なんッスか!」
「知らん。得体の知れない生物だ」
「バケモノみたいに言うな〜!」
コメント:ヤバすぎw
コメント:運いいな
コメント:千年アイテム持ってる?
コメント:思考を読むスタンドか
普段アホすぎて忘れがちだけど、コミュ力おばけなんだよな。
空気は読めないくせに、たまに他人の心の芯を突いたようなことを言ったりする。
それも深層心理レベルの感情に効くやつを。
直感で分かるものなのか。
それとも、実はとんでもなく頭が良くて計算尽くでバカのフリをしているのか?
無いな。
無い。
もう皆無。
意味わからんが、こいつイカサマ無しでワンパンクリアしやがった。
そして一つ、分かったことがある。
このゲームはお題を当てるゲームじゃない。
相手がどんなお題を選ぶかを読み解くゲームだ。
愚妹の思考を読むとか、無理難題でしかないんだがな。
「じゃあ〜兄者いくよ〜一発で当てないと勝てないよ〜」
「これがラストじゃねぇし、トータルで勝てばいいんだよ」
「テーマは〜生き物〜はい、兄者はもうコメント見ないでね〜」
「ハナから見てねぇよ」
「それじゃあ〜これは何でしょ〜か?」
コメント:アノマロカリスwww
コメント:これはひどいw
コメント:当てさせる気ねぇw
「実在する生き物か?」
「え〜?」
「悩むようなやつなのかよ」
「部分的にそう〜?」
「どういうことだよ」
部分的に実在するってなんだよ。
鵺とかキマイラとかタ○ラントの類か?
合体怪獣を動物で出すのは反則にならないのかねぇ。
「んじゃ、四足歩行か?」
「いいえ〜」
「今のところ大丈夫です」
「その確認、割と重要だな」
「ヤバそうならツバキ達も言うんで安心して欲しいッス」
「ね〜アタシ、ウソはつかないよ〜?」
「ヒントの信憑性に関わるんだよ」
そもそもウソをつくのはルール違反じゃねぇのかよ。
偽りなく応えるなんて文章は無かったかもしれんが、それやり始めたらゲームならねぇぞ。
四足歩行じゃないってことは、二足歩行か。
あるいは、歩かないかだな。
「羽はあるか?」
「これ〜羽じゃないよね?」
「羽ではないですね」
「じゃあ〜いいえ〜」
「羽に近い部位はあるってことか?」
「兄者先輩、それは質問ッスか?」
「独り言だ。わざとだろ」
「兄者〜次は〜?」
「手の平に乗るサイズか?」
「えっとね〜いいえだね〜」
「明らかにググッたぞ」
これ愚妹自身はよく知らんやつ出してるな。
八重咲と甘鳥がバックにいるし、全然仕込みはありえる。
となると、まず当てさせる気のないお題だろうな。
「絶滅してるか?」
「え、はい〜」
「恐竜か?」
「いいえ〜」
「魚みたいな形をしているか?」
「いいえ〜」
「八重咲か甘鳥に教えてもらったやつか?」
「あ〜うん、そ〜」
「んじゃ、アノマロカリス?」
「うそだ〜!なんで分かんの〜!」
「この兄妹どうなってんッスか」
「なんで今の質問で絞れるんですか!」
コメント:いやいやいやw
コメント:なぜ分かるw
コメント:グルを疑ってしまうレベル
コメント:リスナーへのドッキリだろ!
マジでアノマロカリスだとは思わなかった。
なんつーもんお題にしてくれてんだよ。
後半は知ってる古代生物で難そうなのを列挙するつもりだった。
正直、運だったわ。
次は俺が八重咲に出題することになる。
あいつならやってくれる事を信じて、人物の『甘鳥椿』に設定する。
VTuber、P.Sメンバー、女性ライバーで取り敢えずの範囲まで絞られた。
「なるほど……兄者さん」
「おん」
「これに乗ったら、わたしの身の安全は保証されますか?」
「サキサキ先輩?どういう質問ッスかそれ」
「はいだな」
「うわ〜なんか〜兄者がヤな顔してる〜」
コメント:あ
コメント:嫌な予感w
コメント:契約?
コメント:兄者の逆襲か?
コメント:つば虐か?
「分かりました。実はめっちゃ良い子ですか?」
「はい」
「あの、兄者先輩?」
「箸の持ち方が綺麗ですか!」
「はい」
「魚の食べ方が上手いですか!」
「多分はい」
「多分はダメじゃないッスか!?」
「おばあちゃん子ですか!」
「多分はい」
「普段は滅茶苦茶なことを言うけど根は真面目ですか!」
「あぁ、はい」
「ちょっと!これはおかしいッスって!」
「声はかわいいですか?」
「いいえ」
「うぉい!そこはかわいいって言え!」
「つばきち〜可愛くない声出てるよ〜」
コメント:こいつら天才だろw
コメント:つば虐たすかる
コメント:倍返しされてて草
コメント:これだから兄者は魔王なんだ
コメント:ドS魔王じゃねぇか
コメント:つばきちはおばあちゃん子
流石、八重咲だぜ。
俺にできないことを平然とやってのける。
しびあこだな。
なんか知らんエピソードまで出て来たもんな。
八重咲が正解したところでネタばらしがあった。
案の定、『兄者』と『アノマロカリス』は仕込みだった。
当然、一周目のポイントはノーカン。
愚妹の意味不明ラッキーパンチも記録から抹消された。
そのせいか知らんが、今回は愚妹が負けた。
罰ゲームとしてホラゲ実況をさせようとしたが、現在進行形で拒否っている。
俺は別にいいが、リスナーが許すかな?
LIME
八重咲『姉御とデートした件について詳しく』
スミレ『桃ちゃんと晩酌したの?』
甘鳥『姉御とデートってマジすか?』
確認したところ、発信元は愚妹のようだ。
取り敢えず、怖さに定評のあるホラゲーを三作購入した。