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#Mr.スランプ

 今日も今日とて、俺の同期はVTuberにご執心のようだ。

 何がいいのか未だに分からん。

 イラストの皮を被った狂人変人宇宙人みたいなもんだぞ。

 あぁ、だから面白いのか。

 ちなみに俺はVTuberではないので、さっきのカテゴリーには含まれない。

 正に典型的な一般人の鑑だな。

 なんだそら。

 スマホを眺めながら、缶コーヒーに口をつける。


「なー?兄者ってどうしたら倒せると思うー?」

「知るか。もっと貴重な休憩時間に相応しい話題を振れ」

「めっちゃ議論すべき話題だろー!?」


 議論の余地が皆無だろ。

 いくらでもあるわ。

 あと俺に振るな。

 隣にいるんだからこうなるのは分かるけども。


「別に今まで全戦全勝じゃないんだろ」

「まーなー。この前、格ゲーでパンダに負けてたりするしなー」

「あれは読みが異常だからな」

「お、配信見たのかー?」

「……切り抜きがたまにおすすめされるんだよ。ゲーム関連で」

「あー、そういうやつねー」


 別にそういう事を信じてるタイプじゃないが、倉元はO型だろうな。

 興味があること以外は全く気にしないことが多い。

 俺が身バレしない理由の一つかもな。

 パンダ使いと言えば、あの配信の相手は俺の身内だろう。

 何せメタ読みが尋常じゃなかった。

 マインドスキャンしてるような読みと、手先の器用さから来る正確なコマンド入力には覚えがある。

 俺がガキの頃から散々戦って負け越した相手だ。

 最近やってなかったとかブランクがあるとか言って普通に勝ってくるから腹が立つな。

 次はボコす。


「なんだよ急にー!こえーよ!」

「え?あぁ……」


 右手の中でアルミ缶が潰れていた。




























【ド〇クエ8】パート16:全然進まないので先生を呼びます【吹雪菫、兄者】


 コメント:旦那が来たw

 コメント:怒られるw

 コメント:パイセン終わったな

 コメント:これはまずいw


 過去作の5をクリアした後、モンスターが仲間になるのが面白いという事で始めたのが今作。

 特定のモンスターをスカウトしてチームを組めるシステムが追加されている。

 組んだチームでバトルロードという大会に出して景品を得るサブクエストも今作の魅力の一つだ。

 システム的には他シリーズと大きな変更はない。

 RPGをラスボスまでしっかりとプレイしたスミレさんなら問題なくクリアできるものだと思う。

 しかし、パート15ではストーリーがほとんど進んでいないという。

 行き詰まるポイントはいくつかあるが、レベルと戦略次第で突破できるものがほとんどだ。

 俺が呼ばれるってのはどういう事か。


「とりあえず、何か言うことはあるか?」

「はい……世界を救わなくてごめんなさい」

「謝罪のスケールのデカさについて行けねぇよ」

「私も、最初は呼ぶつもりとかなかったんだよ。でも、ね。リスナーさんが、これは呼べって……」

「まぁ、そうだな。三時間もカジノでスロットを回す配信をされたら、そう言いたくもなるわな」

「うぅ……」


 コメント:旦那の説教

 コメント:どんまいパイセン

 コメント:カジノ狂いw

 コメント:これはただの夫婦

 コメント:春風家の日常で草

 コメント:ガチ説教案件w


 本当に何してんだよこの人。

 カジノで盛り上がるのはエンタメとして使えるのは分かるが、限度があるだろ。

 三時間だぞ。

 一枠分ですら多いのにその三倍。

 近いうちにドでかい船に乗ってじゃんけんTCGでも始めねぇだろうな。


「あれは気の迷いというか、若気の至りというか、魔が差したみたいなもので……」

「一応、弁明があるなら聞くが」

「景品の、よろいが強いから欲しかったんだよ」

「おん。三人分あるな」

「うん。大当たりが三回来てね」

「それは良かったな」

「うん。それでね、結構当たるものなんだって、思ったんだよ」

「ほう。それで?」

「……その、沼りました」


 コメント:これで最後って言ったのに

 コメント:エンドレスワルツ

 コメント:欲出すからw

 コメント:完全な沼

 コメント:無限賭博


「まぁ、気持ちは分かるけどな。ビックリするくらい幸運が続いた訳だし」

「最初の一時間で揃ったから、すぐにもう一個だなぁって思ってたよ」

「流石に運が良すぎねぇかそれ」

「そうなんだよ!だから私も勘違いしちゃったところがあったんだけど」


 コメント:あれはバグ

 コメント:リセマラ無しなのヤバい

 コメント:チート疑う当たり方してた

 コメント:あれは脳汁やばい


 RPGのカジノでよくある戦法は勝ったらセーブ負けたら再起動で、減らすことなくコインを稼ぐリセマラだ。

 しかし、スミレさんはそれをしていないという。

 そもそもリセマラ有りでも一時間でこの景品を三つはかなりしんどい。

 となると、アイツか。

 適当にスロット狂いの言い訳を聞き流しながら、愚妹へ連絡を取る。


 LIME


 俺『最近スミレさんにプレゼントとかやった?』

 愚妹『やってないと思う』

 愚妹『多分』

 俺『脳みそ溶けてんの?』

 愚妹『脳みそって溶けんの!?』

 愚妹『そういえばこの前ボイトレの時ジュースあげた』

 俺『わざわざ奢ったのか』

 愚妹『当たったからオレンジのやつあげた〜』

 愚妹『事務所には当たり付きのやつないんだよね〜』

 俺『そりゃそうだろ』

 愚妹『なんかあったの?』

 俺『お前のせいでスロカスが生まれた』

 愚妹『全然分かんないけど絶対それアタシ悪くない』


 悪くはないけど原因ではあるんだよな。

 強すぎる力は身を滅ぼすという。

 愚妹から貰ったジュースをスミレさんは配信中に飲んでいたのだろう。

 その間、運がとち狂ってしまうのは過去の経験から理解できる。

 そして、スミレさんもとち狂ってしまったわけだ。

 とんだ危険物だな。

 宝具になり得るのが余計にタチ悪い。


「まぁ、責める気はねぇからいいけどな」

「本当に?結構圧を感じるよ?」

「とりあえず、今回は何するんだ?」

「モンスターバトルロードを進める!」

「おい」

「兄者くん、ちょっと待って、話し合おう」

「おん」

「今までは出会った子をスカウトして進んでたんだよ」

「まぁそうなるだろうな」

「でも今のチームだとこの先は戦えないなって感じ始めてるんだよ」

「急に勇者みたいなこと言い始めたな」

「なので、仲間を探します」

「で、ついでにバトルロードを攻略しよう、と?」

「うん。ダメかな?」

「いや、否定する気はないが」


 コメント:世界を救ってよ!

 コメント:冒険者ギルドかな?

 コメント:異世界転生の一話

 コメント:紅魔族が来そうw

 コメント:まだ寄り道するのか

 コメント:ストーリー進まねぇw

 コメント:二週連続寄り道www


 何のために俺は呼ばれたのかというツッコミは一度飲み込むとして。

 戦力強化はやっておいた方がいい。

 今いるカジノは今作で後半に開放される街であり、ストーリー進行では三分の二くらいのところまで来ている。

 ここからは特にボスとダンジョンの難易度が上がる。

 配信の関係でレベリングが最低限な以上、仲間のモンスターを強くするにはかなりいいタイミングとも言える。

 ただ、一言もの申すとすれば、何のために俺は呼ばれたのか?


「んじゃぁ、まずはモンスター探しか」

「それなんだけど、どこに行けば会えるかな?」

「これ、俺が教えていいものなのか?」

「兄者くんって、8(エイト)もやった事あるんだ」

「まぁ、ガキの頃にな」

「え、それで場所とか覚えてるの?」

「街の名前とかはうろ覚えだな。攻略に要るものは大体言える気はしてる」

「最初の街の近くにいるモンスターは?」

「バトルレ〇クス」

「ええ!すごい!」


 コメント:歩く攻略本

 コメント:カンペ兄者

 コメント:ズルだよ

 コメント:今日クリアするのでは?

 コメント:初級問題だよパイセン


 うん、それは大体の人が知ってるやつだわ。

 そんで大体の人が初期に殴りかかってボコボコにされるやつ。

 でも倒したくなるよな。

 スカウトしに行く頃にはちょっと物足りないんだよなアイツ。

 こういうのは隠し要素にも近いため、街や洞窟から離れた場所を探すのが定石だ。

 特に何もないような海岸や、行き止まりになっている森にはよく配置されている。

 これもある種のメタ読みなのかもな。

 強い仲間を求め、世界を旅する勇者スミレとその一行。

 俺はやる事もないので雑談を振る。


「改めて聞きたいんだが」

「うん」

「俺、来た意味ある?」

「兄者くんには、私がちゃんとストーリーを進めるように見張ってもらうって事で呼んだんだよね」

「俺もそう聞いたんだけど。んで、実際今どうよ」

「実は、配信始める直前に思っちゃったんだけど」

「えらく急だが、何だ」

「兄者くんが居ると頼っちゃいそうだなって」

「それはしたくないと?」

「なんと言うか、自分の力でクリアしたい、から?」

「素晴らしい」

「え、拍手!?」

「ついにスミレさんも、ゲーマーの心意気を理解したか」

「そこまで感動的に言われるほどは理解できてないかな?」

「ようこそ、夜斗と同類の世界へ」

「凄く失礼だけど、あんまり嬉しくない」

「喜んだらドン引きしてたわ」

「ひどい罠だ!」


 コメント:ゲーマーデビュー

 コメント:特に理由なくディスられる夜斗w

 コメント:セリフ全部が罠

 コメント:パイセンの成長に涙

 コメント:夜斗涙吹けよ

 コメント:兄者が育てました


「にしても、意外だな。まさかギャンブル好きとは」

「うぅ、それは忘れて欲しいかも……」

「全世界に向けて長時間配信してよく言う」

「あ、でも私、パチンコとかした事ないよ?賭けとかもしないし」

「やったらハマって破産とかしねぇよな」

「しないよ!」

「なら、運ゲーで散財したのはあれが初か」

「…………うん。そうだよ?」

「わっかりやすい間はなんだ」

「昔、ガチャガチャにハマってたことがあったような気がして……」

「へぇ」

「兄者くん!声が低い!なんか怖いよ!?」


 コメント:圧助かる

 コメント:説教パート2

 コメント:旦那が怖い

 コメント:ガチャ?沼?

 コメント:昔っていうほど前?


 キレてないからね。

 俺がどうこう言うのもおかしいし、言う気もないような話だし。

 散財度合いで言うならゲーセンに通っていた俺の方が余程だろう。

 勝ち逃げを許さない奴が二人揃うだけで無限連戦編が始まるのだ。

 なお、勝ち逃げ許さないマンが一方的に負け続けても同じ結果になる。

 現実とはなんと理不尽なことか。

 まぁ、負けてたのはまだまだガキだった幼き頃の俺なわけだが。

 今思うと、年の差が二桁ある子どもをボコボコにするとか、よくできたな。

 置き換えて考えれば、少年相手に忖度無しの全力パンチってことだろ?

 人じゃねぇよ。

 人じゃねぇな、あの変人ゴリラ。


「まぁ、趣味で金額を気にするのは損だしな」

「兄者くんはゲームとかフィギュアとか、漫画とかもいっぱい持ってるもんね」

「漫画はともかく、フィギュアも景品って意味ではゲームの一環だな」

「そっか。私、趣味は?って聞かれると、結構悩んじゃうんだよね」

「今やってるのも趣味じゃねぇのかよ」

「配信するのも楽しいけど、こう、料理好きとか、アニメ好き、みたいなものって私無くて」

「酒」

「好きだけど!趣味じゃないでしょ!」

「鶏軟骨の塩焼き」

「最近よく食べてるけど!そうじゃなくて!」

「スロット」

「怒るよ!?」


 コメント:ただのイチャつき

 コメント:幸せの具現化

 コメント:はよ籍入れろ

 コメント:もうカップルchだろこれ

 コメント:てぇてぇ……

 コメント:糖分過多なる

 コメント:やっぱり兄スミなんだよなぁ


 スミレさんの趣味なんて知らんしな。

 割とマジで毎日酒飲んで寝てるイメージしかない。

 失礼過ぎて言えねぇ。

 ピアノ弾けるとか聞いたけど、それも趣味と言うよりは特技が隠し芸の部類か。

 本人が好きでやっているなら何でもいいし、どんなに小さくても趣味だと思うんだがな。

 バトルロードに挑戦してはモンスターを集める。

 Aランクなら苦労して仲間にした奴らがゴリ押してくれる事だろう。

 むしろそうしてもらわんと勝てん。

 メンバーはご存知、せきぞう、四本腕、タコ。

 合体技が出ないパーティーの方が攻略は楽なんだよな。


 コメント:ガチ編成で草

 コメント:兄者攻略ガイド強い

 コメント:兄者ヘルプはズルでは

 コメント:これはSSまでいくか?

 コメント:回復役がやや不安


「頑張れ!みんな!」

「うちのブ〇リーがどこまでタンクできるかだな」

「アポ〇ンくんのことだよね?」

「──息子です。何なりとお殴り下さい」

「アポ〇ンくんってお父さんいるんだ。あと何の声真似か分からないよ」

「──スロットが当たると思っていたお前の姿はお笑いだったぜ」

「どうしよう、話を聞いてくれない……」

「──いいぞぉ、今のお前の力でAランクを消し去ってしまえぇ!」

「兄者くんが壊れた!」

「ん、負けたな。やっぱ回復コマンドの出る出ないがでけぇな」

「急に冷静になった!」


 コメント:兄者テンション高えw

 コメント:声真似たすかる

 コメント:ブロリストで草

 コメント:また懐かしいネタをwww

 コメント:声真似祭りいいぞぉ!


 愚妹が迷惑かけたし、多少のエンタメ要素は補填しよう。

 むしろ過多だったのが前回の気もするが、まぁいいや。

 そういやスミレさん、劇場版は未履修だったか。

 今度八重咲に教えて貰ってくれ。

 Sランクは今のパーティーでクリアは難しいため、今回は見送りとなった。

 これはこれで運ゲーだし、また沼らねぇだろうな。

 この人、純粋過ぎて心配なところあるんだよな。

 とりあえず、八重咲には賭博系の作品を見せないように言っておこう。

 酒飲みながらキンキンに冷えてやがる!とか悪魔的だぁ!とか言ってるスミレさんはあまり見たくない。

 見たら笑う自信あるけども。



























 三時間スロット配信の反響は大きく、一応清楚担当のスミレさんが沼る光景は数多くの登録者を呼び込んだ。

 本人は望まぬ形だろうが、配信者にとって視聴者が増えることは間違いなくプラスだろう。

 これも愚妹のジュースが要因か?

 本当にイカれた運だな。


「兄者〜これあげる〜」

「飲みかけのコーヒーなんざ要らんが。てか、お前ブラック飲めたっけ?」

「間違って買っちゃったの〜。カフェオレの隣に置かないで欲しかった〜」

「ドジっ子属性は過ぎるとウザイ奴になるぞ」

「誰にでもミスはあるんだぞ〜」

「ミスがデフォルトだろお前」

「で〜、飲む〜?」

「……捨てるよりはマシか」


 ログボの単発無料ガチャが確定演出になった。

 これはもう劇薬では?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 兄スミがすーっと効いてこれはありがたい…
[一言] やっと続きはじまったー。ありがたいっ!
[一言] 久しぶりの兄者ドーン!
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